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リアクション
「…では、そのように」
ヴァイシャリー近郊の施設を借り受け、仮の拠点と定めて、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)はまたオンラインの話し合いをひとつ終わらせて息をついた。これでひとつ設備を借り受けて、用意を整えることができる。
時々携帯だけでは回線が足りないために、増設されたネット電話用のPCモニターの照り返しがサングラスの奥の表情を判りにくくしていた。
以前なら何かしようとすれば、電話一本で大半の用が済み、その経済力で大抵のことをねじ伏せてきたものだが、現在はそうもいかなかった。
何せかつての実績があるといえ、今は資産などないただの小娘がシャンバラを、ひいてはパラミタを股に掛けようというのだから、その準備もかかる時間も、用意すべき人員も何もかもが足りない。
「それでも私はやるわ」
―今までのような力はないのだから。
以前の彼女からは想像しえないほどの謙虚さで、カンナは己を弁えていた。
その自覚がある分、より慎重に、より確実に歩みをすすめる落ち着きを獲得してもいたが、抱く思いは変わらず不遜といえる。
そして、まぶたを閉じれば、今もなおナラカエクスプレスのあの威容が彼女の琴線を掻き毟るのだ。
そんなふうに自分の想像を確かめているカンナの前に、静かに御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はそっとアイスティーを置いた。
「あら、ありがとう。ちょうど欲しいなと思っていたの」
「いえ、先程は沢山喋っていましたもんね。あの件の契約書と書類は作っておきますから」
軽い打ち合わせをしていると、コンコンとノックが響き、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が執務室に顔を出した。
「わたくしたちはこれからアダマンタイトの方へ向かいますわ」
「それじゃーいってくるねー!」
挨拶をして出ていったエリシアたちが、ひょいと顔を戻したかと思うと、
「環菜の鉄道事業は、わたくしたちの「カゲノ鉄道会社」が全面的に、特に公私ともに! バックアップいたしますわ!」
「あ、あたりまえですっ!」
カンナはくすくす笑った、にっこりとエリシアたちは笑い返し、陽太のさっきまでは平静にしていたはずの赤い顔をたっぷりからかって、今度こそ頭を引っ込めた。
「わたしたちが採掘しにいく”あだまんたいと”ってどんなのかな?」
そんなノーンのはしゃいだ声を残して、彼女らはヴァイシャリー湖へ出かけていった。
「とはいえ、鉄道会社は私だけのものじゃないわ、体裁もまだ整っていないし、あなたはそれでもいいの?」
「ええ、カンナが突き進む道を支えていくことが、僕の願いです」
カンナの問いに、陽太はきっぱりと答えた。
所用を済ませるために陽太が出ていき、それからアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が執務室をカンナを尋ね、必要なもののリストを差し出した。
「ボクのほうも用意はだいぶ出来てきたよ、資料も運んできたからね」
彼女は賢者の石に近づくための手段のひとつ、ビリジアン・アルジーの場所を突き止めたものの、サラマンダーの妨害をうけてしまい、仕方なく生徒たちに応援を頼もうとした矢先にカンナに出会った。
折よくはとこのエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)からも連絡があり、ここにさまざまな要素をからめた鉄道計画が動き出したのだ。
「近くに機晶石のある場所もあるから、鉄道の当座の燃料はこれで賄えるでしょう、先に用意しておくに越したことはないわね」
「空京の魔列車とほぼ構造は同じはずだし、多分、そんなにぽんぽんと動力や燃料形態の異なるものがあるはずはないからね」
手元の資料を一瞥して、アゾートは見解を述べた。今回ヴァイシャリー湖で発見された列車に関するのものではなく、過去に空京で発掘された魔列車の資料だが、既に共通項がいくつもある。
「今頃は、皆やってくれているはずだね」
シャンバラ大荒野にいる皆に思いを馳せて、アゾートはアルジーの到着を、カンナは機晶石の入手を待ち望んでいた。
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