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第一次蒼空学園宿題戦争

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第一次蒼空学園宿題戦争

リアクション

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 教師軍と反乱軍の戦いは、時間が経つごとに激しさを増していく。校舎の外では、あちこちで生徒たちが戦い合っていた。
 そして現在、優勢なのは、教師軍である。
「はぁはぁ……こ、ここまで逃げれば教師軍もいないだろ」
 教師軍から逃げる生徒のひとりが、裏庭の一角で息を整えている。
 だが突如、彼の体が沈む。
 なんだと生徒が足元を見ると、土の中から生えた何かが自分の足を掴んでいた。
 それは……銀色に光る機械の腕だった。
『――捕まえた』
「ひぃっ!」
 くぐもった声と同時に、土が爆ぜ、地中から銀色のボディ……コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が飛び出してきた。そのまま、生徒を押さえつけ、身動きを封じる。
「ふはははっ! どうだ! これぞ、蒼空戦士ハーティオンの自由研究の成果! 『ニンポー土遁の術』だ!」
 土の中に自身を埋め、気配を殺し、敵が真上にきた瞬間、スキル「破壊工作」で地面を粉砕、その勢いを殺さずに登場する。それが、コアの自由研究「自作のスキル作り」の成果だった。
「よいかね、キミ。このスキルを見ればわかるように、宿題とは楽しいのだ。新しい事を学べると言うのはとても楽しい。現に私は毎日がとても楽しく、『幸せ』なのだ」
 捕まえられた生徒は、コアの言葉に必死に頷いている。言葉に感動していると言うよりは、突如、地中から出てきたロボットにビビっている様子だ。
「よし。それではラブよ。彼を補習室に運ぶのだ。捕まえた反乱軍の生徒は、そこで補習をさせられているらしいのでな」
「はいはーい♪」
 満足そうに頷くコアの呼びかけで、近くに待機していたラブ・リトル(らぶ・りとる)が姿を現す。捕まえた生徒の手を縛り、コアから生徒を受け取った。
「うむ。それでは、私はふたたび獲物がくるのを土の中で待つとする。さらばだ!」
 そう言うとコアは土の中へと戻っていった。コアが完全に土に埋まるのを確認すると、ラブはフゥと息をついた。
「……さてと。もういいわね」
 そう呟き、縛った生徒の手を解放する。
「え……あ、あの、これ?」
「いいから逃げなさい。実はあたしも宿題してないのよ。このまま、反乱軍に頑張ってもらって宿題の件をうやむやにしてもらいたいの。わかった?」
 そう言って、ラブは生徒を逃がした。生徒も半信半疑といった様子のまま、その場を後にしようとする。
 だがそこで、「あ!」とラブが何か思い出して声をあげた。
 フワフワと飛びながら、生徒の耳元に囁く。
「ついでに教えておいてあげる。補習室の辺りにはいっちゃダメよ? あの辺りは捕まった生徒たちが大勢いるから」


 そんな噂の補習室。
 そこは阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「も、もうだめだ……」
「オレたち、一生ここから出れないんじゃないか」
「外に……外に行かせてくれぇ……」
 ぐったりした生徒たちは皆、机に額を押し付け、そんな悲鳴を上げている。
「ほらー! サボっちゃダメだよー!」
 そんな生徒たちに、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が声をかけた。ニコニコと笑みを浮かべている反面、その手には、左右に魔銃モービッド・エンジェルが握られていた。
「宿題をしてこないで暴れた君たちには、宿題の二倍の量をやってもらうからねー! 終わるまで今日は帰してあげないよー」
「あ、あはは……ちょっと、可哀想な気もしますね」
 美羽の言葉に、彼女を補佐するベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が苦笑いを浮かべていた。だが、ブンブンと美羽は首を横に振る。
「そんなことないよ。やっぱり宿題はちゃんとやらなきゃ。蒼空学園の生徒会副会長として、無視するわけにはいかないんだよ」
 うんうんと美羽は何度も頷く。
 だがそれを、バンッという机をたたいた音が打ち消した。
「も、もう嫌だ! いつまでも、こんな部屋にいられるかぁーっ!」
 限界に達した生徒が叫ぶ。美羽たちに背を向け、補習室の出口に向かって走り出した。
「あっ! 美羽さん!」
「うん! 逃げちゃダメだよっ!」
 二人は叫び、同時にスキルを発動させる。相手を眠らせるスキル「ヒプノシス」だ。
 二人による同時攻撃を受け、逃走しようとした生徒はその場で眠りこけ、床に倒れた。
「もう! だめだよ、逃げようとなんてしちゃ」
「ふぅ。怪我なく、捕まえられてよかったです」
 頬を膨らませて美羽は逃げようとした生徒を見つめ、ベアトリーチェは穏便にすんだと胸をなでおろしている。
 倒れた生徒の首根っこを掴み、美羽は元の席へと引きずっていく。それから、顔をあげ、残った生徒たちに笑みを見せ、
「みんなもだよー。逃げようとしても、この子みたいにみんな捕まえちゃうからねー」
「「「ひ、ひぃいいいーっ!!」」」
 笑顔の美羽の言葉に、残った生徒たち全員が震えた。


 依然、反乱軍は劣勢だった。
 教師たちの実力もさることながら、協力する生徒たちもかなりの戦力だった。
「もう駄目だ。所詮、俺たちで教師たちを倒そうってのが無理だったんだよ」
「そうだぜ。ここは大人しく、降伏して謝るべきなんじゃねえか?」
 あちこちで反乱軍の生徒たちはそんな言葉を漏らしている。弱気になり、完全に心で負けてしまっている状態だった。
 しかし、そこへ、
「何を弱気になっているのですか、諸君っ!」
 黒マントに仮面という前世紀の怪盗のような格好をしたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が叫ぶ。立っているのは校庭に設置された昇降台の上だ。
「キミらは間違ってなどいません。この学園の校則を読みなさい。どこかに『宿題をやってこなければいけない』と書いてありますか? いいえ、そんな言葉はありません」
 クロセルは昇降台の上に立ち、高らかに叫ぶ。その自信に満ちた姿に、反乱軍の生徒たちの視線は釘付けとなっていた。
「貴方たちが今すべきことは、諸君らの夏休みを謳歌する権利を妨げ、義務なき事を強制する教師軍に、『自由を求める心』という正義の鉄槌を振り落とすことではありませんか!」
「お、おう! そうだ! 何を弱気になってたんだ、オレたち!」
「ホントだ! オレは目が覚めたぜ!」
「やってやる! やってやるぞ!」
「クロセル! クロセル!」
 クロセルの演説を聞き、反乱軍の生徒たちに活気が戻る。その場にいる全員が、一斉にクロセルの名を叫び出した。


「……ねぇ。何アレ?」
「わたくしに聞かないでくれます」
 叫んでいる生徒たちを見つめ、五十嵐 理沙(いがらし・りさ)セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)は冷めた視線で見つめていた。
「あんな見るからにバカそうな連中を相手にしなきゃいけないなんて……」
 こめかみを手で押さえながら、理沙は盛大にため息をついた。
「ですけど、放っておくわけにもいかないでしょう」
 そう言うのは、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)だ。正面を見つめながら、視線の先を指さす。
 その先からは、先程まで叫んでいた生徒たちが駆け出してきていた。
「……はぁー。まったく、面倒な連中ね」
「本当にそうですね。そんなに悪さをしたいならパラ実に来るべきでしょうに」
「いや、別に私はそういうつもりで言ったわけじゃ」
 どこかズレているガートルードの言葉に、理沙は疲れた表情で答えた。
「まあいいわ。セレス」
「はい。まかせてください」
 理沙の言葉に応じ、セレスは手に持っていた諸葛弩を構える。そこから一気に上空に向かい、弓を連射した。発射された矢は弧を描き、向かってくる集団の足元へ見事に突き刺さる。
 矢が命中した生徒たちは一斉にその場に倒れ、先陣を切った者たちの動きを封じた。それでも、生徒たちは向かってくる。
 しかし、
「はい。御苦労さま」
 ボソリと理沙が告げる。すると、生徒たちの数人が突如、姿を消した。
 それは落とし穴だった。事前に理沙が用意していた落とし穴。それに見事ハマり、また反乱軍の生徒たちは、その数を減らした。
「さて、そろそろですわね」
 そう告げ、ガートルードが後ろを振り返る。そこには、いつの間にか味方の教師たちが集まっていた。彼女のスキル「根回し」によって集められた教師軍の精鋭教師たちだ。
「それではみなさん行きますよ。敵はひとり残らず、倒すのです!」
 ガートルードの言葉に、『オォー!』と雄叫びをあげ、教師軍の精鋭たちは一斉に残った反乱軍に向かっていった。