First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
第一章:白砂 司&サクラコ・カーディ
12月5日 某時刻 海京某所
「さあ、行きますよっ!」
迫り来る触手、もとい、人間の腕ほどの太さもあるラーメンの麺を、卓越した身体能力で左右に跳んで避けながら、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は両手の爪を振りかざした。
自分に巻きつこうと襲いかかるも、それを避けられて麺が伸びきった瞬間を彼女は見逃さず、鋭利な爪で麺を豪快に叩き斬る。そして、彼女は叩き斬ったばかりの麺を一瞬見つめた後、豪快にかぶりついた。
「司君、やっぱりカレーを取り込んだだけあって、カレーの味がします」
サクラコがすぐ近くで戦っているパートナーである白砂 司(しらすな・つかさ)に声をかけると、間髪入れずに返事が聞こえる。
「やはりそうか。で、味はまともなのか?」
迫り来るキメラーメンの群れを愛用の打ち、払い、或いは貫きながら司はサクラコの方に目をやった。既に彼の周囲には倒されたキメラーメンの残骸が無数に転がっており、戦いの激しさを物語っている。
「はい。ちょっと動いてますけど、それを気にしなければそこそこいけますよ。もっとも、ここまでカレーの味にそっくりだと、もはやカレー味のラーメンというよりは、カレーそのもののような気がしますが」
「やはりな。俺もまさしくそう思っていたところだ」
彼女の言葉に返事をしてから、司は再び槍を縦に振るって、頭上から襲い掛かってくるキメラーメンを叩き落す。
二人がキメラーメンの群れと相対しているのは、魚屋の前だ。
「海京の魚は私が守りますっ。むしろ私のものです! 司君は猫が魚を食べる必然性はないと言ってましたけど、それでもやっぱり私は魚がラブいってもんですよ」
二人のディフェンスをかいくぐり、背後の魚屋へと突入しようとするキメラーメンを、横凪に振るった爪で引き裂きながら、サクラコは司へと言う。
「確かに必然性はないかもしれないがな、だが……四方を海に囲まれた島国・日本は魚と付き合いの多い地。猫のエサとして魚を想起するのも、それだけ魚が身近な動物性たんぱく質だったからだ」
そこで一旦言葉を切ると、司は槍を握る手に力を込める。
「そんな歴史ある魚をラーメンで駆逐しようなどとは傲慢はなはだしい!」
そして、気合の入った声で叫ぶとともに、渾身の力を込めた刺突を正面へと繰り出す。その一撃は、前方から突っ込んできたキメラーメンの一体を見事に刺し貫いた。
「どうやら、ここを襲ってきた連中はこれで最後のようだな」
刺し貫いたキメラーメン――最後の一体を倒したのを確かめて呟くと、司は槍の穂先に刺さったキメラーメンの触手、もとい麺の一部を引きちぎる。まだ微かに動いている麺を見ながら、彼はおもむろにそれを口に運ぼうとする。
「どれ、俺も一つ食べてみるか」
キメラーメンを味見する司を一瞥すると、サクラコは自分たちの背後に建つ魚屋を見やる。無事に守りきった魚屋には傷一つなく、中の魚にも損害は一つたりとも無い。
「魚介スープのラーメンなら私も大好きですけど、魚介練りこみ麺とかもうラーメンじゃありませんよね!」
魚屋から司に目を戻して言うサクラコ。司もキメラーメンを嚥下し終えると、それに応える。
「ああ。そうだな。それに、食品はいろいろあってこそ。毎日毎食ラーメンでは胃もたれがするだろ」
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last