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優しい誘拐犯達と寂しい女の子

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優しい誘拐犯達と寂しい女の子

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 安宿。
 真っ青な叫びが聞こえる左隣の部屋から二人の人物が出て来た。

「騒々しいですね。ん?? メールがきましたか。なになに? 誘拐事件発生、被害者はこの写真にそっくりの女の子。名前は絵音」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)はドアの閉まった真ん中の部屋を鋭い眼光で見ていた。その時、携帯電話がメールを知らせた。急いで確認すると陽一からの絵音捜索のメールだった。

「……洋様」
 メールの内容を聞いた乃木坂 みと(のぎさか・みと)はもしかしたらと思いつつ叫び声が聞こえた部屋の方を見た。
「あぁ。そう言えば、この部屋から子供の声も聞こえていましたね。念のため確認しておきましょう」
 メールの確認を終え、注意は叫び声が聞こえた怪しい部屋に向けられた。
 二人は真ん中の部屋の前に移動した。

「杞憂であればよろしいのですが」
「杞憂でなければ容赦なく」
 みとは心配の顔をし、洋は腰のマシンピストルに触れた。相手が凶悪犯であれば、容赦なく撃つしかない。

 この場にいたのはこの二人だけではなく、事情を知る者達がいた。

「んにゃ? 銃? 和輝、危ないよ」
 『殺気看破』で強い気配を察したアニスが側にいる和輝に言った。
「……そこの二人」
 アニスと同じように危険を感じた和輝は二人の前に姿を現した。側には同じように姿を現したアニスがいた。

「何かご用でしょうか?」
 洋に代わってみとが用件を聞いた。
「この中にはね、スノハのお友達の絵音がいるんだよ。危ないことしちゃだめだよ〜」
 アニスが不安そうに洋のマシンピストルを見つめながら答えた。

「……絵音。誘拐された子供の名前だな」
「……洋様」
 アニスの言葉で二人の予想の答え合わせが出来た。となれば、ここは部屋に入るしかない。

「確かにこの部屋に犯人はいるが、彼らは悪い者ではない。子供達が自分で行動するまで見守っていてくれないだろうか」
「お願いだよ〜」
 和輝とアニスは二人に即時行動の自重を願い出た。

「どうしますか?」
「相手が抵抗しなければ、こちらは何もしない」
 自分達よりずっと事情を知っていると思われる二人の言葉。信じてもいいのではないかとみとは思っている。中にいるのは悪者ではないと。
 洋も二人の話を念頭に入れつつも万が一のことは隅に置く。
 洋がドアノブに手を触れると同時にアニスが人の気配を感じ取った。

「……誰か来たよ、和輝」
「あぁ」
 二人は再び『迷彩塗装』で見守りを開始した。

 右端の部屋のドアが開いて美形な女性が二人出て来た。

「何かすごい叫び声がしたから注意しに行って来るよ」
「セレン、暴走しないでよ」

 あまりの騒がしさに隣室に注意しに行こうとセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とそんな彼女の暴走にすぐにツッコミを入れられるようにセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も一緒に出て来た。
 彼女達は旅費を浮かすためにこの安宿に宿泊していたのだ。

「あれ、何かあるの?」
 部屋を出てみると目的の部屋に先客がいる。それもただ事ではない様子にセレンフィリティは思わず訊ねた。

「この部屋に誘拐犯がいる。今、摘発するところだ」
 洋が簡潔に新しい登場人物達に状況を伝えた。

「誘拐犯? セレアナ、そう言えば子供の声もしたよね」
「女の子の声だったわね。その子が誘拐された子供ということかしら」
 自分の耳にした声を再生し、確認のためセレアナに聞いた。

「あぁ、捜索関係者からのメールだ」
 洋はここで陽一からの写真が送付されたメールを二人に見せた。

 その写真を見た途端、

「セレアナ、ナコ先生の幼稚園の子供ね」
「そうね。確か、絵音だったかしら」

 写真の女の子にはとても見覚えがあった。雪だるまを作りに遊びに行った幼稚園にいた子供だ。

「……知り合いか?」
「そうよ。だから、あたし達も行くわよ」
 洋の言葉にセレンフィリティが力強く答えた。その気持ちはセレアナも同じらしく反対はしなかった。

「おい、何か大きな声がしたと思ったら何か人がいるぜ」
「……人?」
「うわぁ、本当だ。何かの事件かな」

 ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)を先頭にルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)イリア・ヘラー(いりあ・へらー)がやって来た。

「ルファンにイリアじゃない。どうしてここに?」
 見覚えのある二人を発見し、セレンフィリティが訊ねた。
「俺が、こいつらとパートナーになる前の放浪していた時にこの宿に忘れ物をしたことを思い出してな」
「それで何かあったの?」
 ウォーレンがこの宿に来た理由を説明し、終わるとイリアが騒ぎの理由を訊ねた。
「この部屋に絵音がいるのよ」
 セレアナが部屋に顔を向けながら集まっている理由を簡潔に答えた。

「……絵音」
 イリアは聞き覚えのある名前の行方を思い出そうと眉を寄せる横で真っ先に思い当たったルファンが答えた。
「ナコ先生の幼稚園の子供じゃな」
 雪だるまで賑やかに過ごした幼稚園での出来事をすっかり思い出していた。

「そうそう。その子供が誘拐されてここにいるそうよ」
 セレンフィリティが絵音について思い出した二人に頷き、もう一度現在の状況を話した。
「悪い人ではないそうなんですけど」
 みとが『迷彩塗装』の二人から聞いたことも付け足した。

「まぁ、何にせよ楽しそうじゃねーか。な?」
 盛り上がる予感を感じたウォーレンは加わりたそうに相棒の二人に同意を求めた。すっかり忘れ物のことは頭の外に放浪してしまっている。

「……レオの気持ちはともかく、このまま放っておくわけにはいかないよ」
「そうじゃな」
 知っている子供が誘拐されてるのなら助けないわけにはいかない。三人は、誘拐事件に関わることにした。

 結局、七人という大人数で誘拐犯がいる部屋に乗り込むことになった。先陣を切ってノックをしたのは洋だった。

「……な、何でしょうか?」
 ノック後、しばらくして18歳の青年が出てきた。何か見せたくないものがあるか開けた隙間はほんの少しだ。

「……よろしいでしょうか、大きな声がしましたがどうかしましたか?」

 とりあえず、洋は何も知らない風を装って言葉をかけてみることにした。
「あ、あなた達は?」
 洋の言葉が耳に入らず、青年は人数の多さの方に目がいっていた。

「偶然、隣の部屋に泊まっている教団の者ですが」
 洋が教団の制服と身分証明書で身分を明かすと

「あたし達も隣に泊まっていて声がして」
「廊下で大きな声を耳にしてのう」
 セレンフィリティ、ルファンも続いてそれぞれの事情を話した。

「……そ、そうですか。す、すみません。大丈夫ですから。本当に何もありませんから」
 事情を知るもあまりの人数の多さに青年は怯え、ドアを閉めようとする。

「本当ですか? この写真に心当たりは?」

 洋は閉めようとするドアをがっつり掴み、決定打となる送付された写真を突きつけた。

「……あっ、あ、ありません。何で……無い」
 写真を見た青年は明らかに動揺を見せ、懐を探ったかと思ったら一気に青い顔になった。

「怪しいな。本当にねぇの?」
 ウォーレンは泳ぎまくる青年の目をじっと見ながら念を押した。

「本当にありませんよ。ちょ、もういいですか」
 額から冷や汗が吹き出て動揺が激しくなっていく。ドアを何とか閉めようにもびくとも動かない。

「あれって」
 セレンフィリティが青年の背後の隙間から青年と違って高価そうな服を着た子供を発見。しかも、青年とはあまりに似ていない。
「奥にいる女の子に似てますね。ちょっと事情を聞かせてもらいましょうか」
 洋はセレンフィリティの視線の先を追い、確認後、無理矢理青年を押しのけて部屋の中へ入り込んだ。