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仁義なき場所取り・二回戦

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仁義なき場所取り・二回戦

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■中央エリア場所取り合戦■


 空京、桜の森公園。
 桜の名所として知られるこの公園は、今まさにお花見シーズン真っ盛り。
 七時の開門時間を目前にして、多くの花見客達が門の前に集まりつつあった。
 空中から偵察を行っている者、互いにスキルを掛け合って決戦に備える者、真剣なまなざしで打ち合わせを行っている者、それぞれやっていることは様々だが、しかし目的はただ一つ――お花見スポットの確保だ。

 そんな中に、小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)の姿もあった。
 一応、「演習」の名が付いて居るので制服姿。人手も集めてきた。が、やはりどうにも納得がいかないというような顔をしている。
「納得がいかない、って顔だなー」
 そんな小暮に、朝霧 垂(あさぎり・しづり)が声を掛ける。
「まあ、一般人相手に演習というのは、どうなんだろうな、って」
 そういう小暮の口調も、煮え切らない態度を反映するかのように、任務の時の丁寧語と普段の調子がごちゃ混ぜになっている。
「そんな中途半端な態度じゃ、遅れを取るぜー?」
 ふふん、と笑って、垂は小暮に手を振った。
「小暮」
 残された小暮の方を、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が軽く叩く。
「クローラ殿」
「確かに変な指令だが、命令は命令、従うだけだ。違うか?」
 クローラ自身、花見という行事が身近な訳ではない。だから小暮以上に演習内容に対して納得がいかない、というか、趣旨を図りかねているのだが、だからといってどうなるものでもあるまい。上官の命令は絶対だ。
「ああ、そうだな」
 小暮も渋面ながら頷いて返す。そう、任務は任務だ。
「そうそう、毎年恒例なのよ。細かいことは気にしない」
 その隣から声を掛けるのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)。ぽん、と軽く小暮の肩を叩いて、力を抜くよう促す。
「さ、そろそろ時間だな」
 クローラが時計を見る。と、パートナーのセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)がゴッドスピードをクローラと、ついでに小暮にも掛けてやる。
 そのほかの面々も、黒檀の砂時計をひっくり返す者あり、スキルを発動させる者あり、各々準備に余念がない。
 そして。

 ピィイイイイイイイーーーーーーーーーーー

 朝の空気を切り裂くように、開門を告げる笛の音が響き渡った。
 仕掛けのされた扉が軋んだ音を立てながらゆっくり開く。と同時、門の前に待機していた人々は、団子になって雪崩れ込んだ。
 その中でも頭ひとつふたつ、いや群を抜いて早いのは芦原 郁乃(あはら・いくの)だ。
「なんだあいつ……ついて行けねぇ……!」
 郁乃のパートナーのアンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)でさえ、呆然と見送るしか出来ない。いや、すかさずバーストダッシュで後に続くが、郁乃の背中は見る見る遠ざかり、アンタル自身は見る見る団子状の人々に埋もれてしまう。
「おっ先ー!」
 その横を軽々すり抜けていくのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。それから、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)大岡 永谷(おおおか・とと)が遅れず続く。三人とも、小暮の演習への協力者だ。
 はるか先を行く郁乃には少し遅れを取っているものの、三人もまた郡を抜いて早い。
 中央エリアに向かって伸びる散歩道を、まさに目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく。
 そして、その四人の後ろからは、ごっちゃりと団子になった、七、八人ほどの集団が追いかけていく。
 それぞれに、飛んだり跳ねたりスキルを使ったり、より早く行動できるよう工夫を凝らしてはいるものの、今ひとつ決め手に欠けて横並びだ。
 さらにそれに後れを取っている影が三つ。黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)、それから久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)の三人だ。
 三人とも身のこなしは軽く、障害物などはすばやく避けることが出来ているのだが、絶対的な速度が足りない。団子集団からは、大きく引き離されてしまっている。
 しかしそれでも、他人を妨害するような行為に出るものは居ない。
 この三人だけではない、先頭集団をはじめとした、中央エリア狙いと思われる全員が、他人への妨害活動を行おうというそぶりさえ見せない。
 どうやら、去年のさくらの横暴……もとい、厳しすぎる取締りが、功を奏したというか、知れ渡ったというか……
 今年は全員一心不乱に、目的地だけを見据えてひたすらに走っている。

「今年は平和ね」

 今年も鉢巻を締める勢いで気合十分、取締りの準備をしていたさくらとしては、少々拍子抜けである。
 しかし、仕事が減るのはいいことだ。桜の木たちも安らいでいるようだし。
 それよりも問題は、宴会が始まってからだ。今は体力を温存しなくては。さくらは中央エリア狙いの一行を離れ、見回りに向かう。