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リアクション
〜 二日目・午前11時 学園内カフェテリア 〜
装いも新たにしたヤクモが
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)や小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)たちと共に部屋を出発し
【学生寮内】を一通り案内されてカフェテリアに辿り着いた頃には、時計は11時を廻っていた
早めの昼食をとりつつ、学園周辺の街並みを案内する為に新たな面々と合流するのが目的で
その件のバトンタッチ組の一部が、すでに窓際のテーブルにいるのを発見したのだが……なにやら剣呑とした様子である
遠巻きにトラブルかと警戒した雅羅だったが、なにやらひたすら恐縮している人物の後姿を確認すると
溜息込みでつかつかと歩み寄り、呆れたような声を出す
「真昼間から、な〜に家族談義してるのよ【林田家】の皆々様は?」
その声に、変な汗をだらだらと流しながら眼前の人物が顔を上げる
それは【新婚】以来、徐々に権威が薄れているという噂と共に
【純正ツンデレ化】もカウントダウンかと噂される林田 樹(はやしだ・いつき)であった
「ウエディングドレスだったらワタシの出番でございやがったですのに〜!
せっかくプロポーズが通ったって話も聞いてたから、いろんなデザイン考えていた…
あ、このメニューのここからここまで1つずつお願い致しますです☆」
目の前に並べられたデザート満貫全席を前に、憮然と文句を言っているのはジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)
どうやら例の【サプライズウェディング】に置いてきぼりを食らった事への報復を決行中らしい
実際のところテーブル添え付けのメニューパネルで遠隔オーダーできるのだが
わざわざウェイターを呼び止めるあたり、相当根に持っているらしい
目下クレームを一身に受け止めている樹は、ブラックコーヒーを目の前にさっきから財布を凝視している
「……だからジーナ、私も分からなかったんだ、当日突然の事だったんだよ
…コタローが色々と準備をしていたらしくてだな……」
「ねーたん、とってもきれーらったれすお、おしめしゃまみたいれしたお」
「あの……コタロー、そういうことは言うな、頼む、顔が」
この前の【恥ずかしくて自滅】顔もかくやという勢いで林田 コタロー(はやしだ・こたろう)の言葉に赤面する樹女史
ダリルから引き継いだ作業を処理すべく、PCをぽちぽちと可愛らしい容姿で打ちながら話す
そんなコタローの方が威厳が感じられるのは何故だろう
一方のジーナはというと、そんな恥らう我らが中尉殿の姿にけ〜っと毒づき、目の前のアイスフロートを飲み干した
そんな傍らで黙ってコーラを飲んでいた新谷 衛(しんたに・まもる)がようやく口を開く
「しゃーねーじゃんじなぽん、オレ達訓練だったしよぉ……っていうか、それ以上喰うと太る」
禁句ワードを言い終わらないうちに衛の顔に神速の拳が炸裂する、誰のものかはあえて言うまい
「黙れバカマモ!余計なことゆーなです!
訓練だからどうとかこうとかのレベルじゃありやがりませんです!樹様一世一代のイベントだったのに〜!」
「殴んなよじなぽん!!あーあー、怒ってフォーク刺すなよ、タルトが木っ端微塵……」
たった一言の結果から、飛び散ったタルトの惨状を眺め、とほほ〜と欠片集めながら衛が呟く
賑やかである、まったくもって戦場がごとき賑やかさである
何も口を挟むことが出来ず、雅羅が傍らのヤクモを見ると、完全に顔面蒼白でガタガタと美羽の影で震えていた
(多分、ジーナが連中のマスターだって思ってるだろうなぁ……)
もうちょっと面白半分で見てやろうと思ったのだが、流石に彼女の怯えっぷりが気の毒に思い
何度目かの溜息と共に仲裁に入ろうと雅羅が動き出したとき
それより先に新たな声が修羅場に沈下の風をたなびかせた
「そろそろ終わりにしませんか?そこで僕らのお客様が怖がってるじゃないですか」
優雅な声色に、息巻いていたジーナを筆頭とした【林田家】の全員が声の主の方を見る
そこには困り顔の中にも優雅さを損なわない佇まいで清泉 北都(いずみ・ほくと)が立っていた
その傍らでパートナーのリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が優しくヤクモを宥めている
「大丈夫ですか?驚いたようですけど、こう見えてちゃんと皆さん仲良しですから、喧嘩じゃないんですよ」
「は、はい……あの?」
優しく気遣われ、落ち着きを取り戻したヤクモがリオンを見る
対するリオンも優しげな顔をいっそう柔和に微笑ませ、ヤクモの手を握った
「はじめまして、リオン・ヴォルカンと言います。こちらはマスターの清泉北都です
本当は明日、あなたのエスコートを頼まれていたのですが、どんな方か気になってしまって
北都にお願いして、ちょこっとお顔を拝見するつもりだったのですが……来て良かったです」
「北都です、よろしくヤクモさん」
昨日今日と元気な面々が多かった中、うって変わっての優雅な佇まいの二人組と遭遇し、思わずぼ〜っと眺めるヤクモ
そして北都から出た彼女の名前に、コタローがあ〜!と叫びを上げた
「にゃくもしゃん!?じにゃみたいな『きしょーき』しゃんって、おね〜しゃんだったんれすか!?
せーふくきてたから、わからなかったれす!」
「え?…こたちゃんそれ本当ですか?」
コタローの言葉に本題を思い出したジーナ達が、わさっとヤクモに寄ってくる
「や〜っ!初めましてジーナです、よろしくお願いしますですヤクモ様!」
「女の子?!…いっちー、その子胸でっか…くない
むしろ側にいる【まさらん】や【あるある】の方がいいおっぱ……がはぁっ!!」
「あ、このしっつれいな奴は気にしないで下さりやがりませ!」
再び禁句ワード発動の衛を拳で黙らせ、がっしがっしと床に踏みつけながらほほほと笑うジーナ嬢
その傍らから小さなかえるがぴょこぴょことヤクモに歩み寄る
「はじめまいて、こたれす、【てくのくらーと】なのれす!
こた、にゃくもしゃんの頭に、ぽちぽちつけれいーれすか?
じにゃと、まもたんとお話ししにゃがら、にゃくもしゃんのきおくさがしするれす」
「?………えーと」
「すまん、皆私の家族なんだ
この子はこう見えて技術職でね、色々調査したがっていたので脳波を測らせて欲しいんだそうだ
会話中の脳波等の動きから、君の記憶等に触れる「きっかけ」を探したいらしくてな
昼食がてら、我々と話しながらの間で……という話だったのだが……」
「うん、完全に止まっちゃってるね……ヤクモ」
ようやくいつもの調子を取り戻し、自分達の目的を話す樹だったが、ヤクモの様子に言葉を止め
傍らの美羽が、返答の無いヤクモの様子を覗き込んで、あらあらと言った体で言葉を漏らす
再開されたヒエラルキーの図式を含む目の前の膨大な情報量に、完全にヤクモは目をぐるぐる回してフリーズ中であり
その姿に、苦笑しながら北都が雅羅に提案をする事にした
「こうなったのも何かの縁かなぁ
当初の予定と変わっちゃうけど、ご一緒してもいい?雅羅さん」
「……悪いわね、お願いしてもいい?」
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「記憶がない…ですか?それ、ワタシと一緒です
「……え、ジーナさんも?」
北都が淹れた【タシガンコーヒー】のアイスフロートを手にヤクモの話を聞いていたジーナの言葉
自分の手を取り屈託なく彼女の口から出たそれに、ヤクモが軽く驚きの声を上げる
……あれから1時間後
北都とリオンの、穏やかかつ力強い仕切り直しにより
昼食(といっても、ラインナップ的に完全にデザートバイキングであったが)は滞りなく済まされ
食後のティータイムも彼の提案で、中庭のテラスに移動して行われる事になり
各々がテーブルや木陰へと移動して談笑している形となった
喧嘩ですら修羅場を具現化する【林田家】を同等の戦力を使わず、優雅に対処するあたり
流石は【優雅なご奉仕術】では折り紙つきな【薔薇の学舎】の生徒の鑑……といった所である
そんな北都が食堂のおばさ…もとい、お姉さんに頼みこみ
借りてきたセット一式を手に、コーヒーの二杯目を淹れている姿を見ながら樹が話を続ける
「【機晶姫】というのは君と同じケースが多いんだよ。初起動ですべてがゼロから目覚める場合もあるからな
そんなわけでジーナも同じで、記憶がなかったんだ。だから私が名前を付けた
封印のタグからな……『GENE−A』で『ジーナ』それが彼女だ」
そんな仲間の説明を受けながら、ジーナは変わらず屈託なくヤクモの目の前で笑顔を向けている
その隣で、先程の喧嘩など無かったかのような仲睦まじき様で衛が話に乗ってきた
「記憶がねえっつーか、過去がねぇならオレ様も一緒だ
まぁ、ちょっとこいつと違って、過去のことを話すと呪いで崩壊しちまうんだけどな」
「え、じゃあ【機しょ……」
「あ、オレ様は【魔鎧】!
まぁ【悪魔に作られた人工生命体】…って認識でいんじゃね?ヘンな呪いかけられてよ、女になっちまった」
「本当にみなさん、色々なんですね……」
普段もう少し驚かれるべきポイントをスルーした彼女の言葉に苦笑いしつつ、衛はよっと木陰の芝から立ち上がる
そのタイミングに合わせた様に、PCと向き合っていたコタローが大きくキーを叩いた
「あい、おしまいれす!にゃくもさん、もうぽちぽちはずしていーれすお!」
「あ、ワタシも手伝う!」
自分の頭とコタローの【シャンバラ電機のノートパソコン】を繋げていたセンサー端子
それをジーナに手伝って貰いながらヤクモは外していく
その彼女の様子を見ながら、樹がコタローにそっと話しかけた
「で、何か気づくところはあったのか?」
「のーはとかはかわんなかったれす。あとはでーたをあつめるだけれすから、あとでだりるとかいせきするれす」
「【ユビキタス】を仲介にしてるとはいえ、手持ちのPCでは【R&D】のドライブにも限界はある、か
まぁコタローが問題なければ構わないさ、あとやり残したことはないか?」
「あ、あとひとつらけ!」
びょこんと椅子から飛び降り、コタローは一枚のプリントされた写真を持ってヤクモの傍に歩み寄る
首を傾げる彼女の前で、コタローは持ってきたそれをひょいと差し出した
「にゃくもさん、このしゃしん、みらことないれすか?」
「………?」
言葉のまま、差し出された写真を受け取り見つめる
それには、青い空にまっすぐ突き出された手が写っている
その写真の出所を知る雅羅と美羽、アルセーネの顔に少しだけ緊張が走った
【ロータス・ルイン】の一件
遺跡に祭られた【水晶のスイレンの祭壇】そこに蓄積された【人の心】の記憶から念写されたたった一つの絵
おそらく遺跡の起因に由来するであろう、その記憶の一端を映し出したものを見せるのは、やや直球な行為であり
一件に関わった者が不安になるのも無理はない
実際のところ、それでも僅かな変化を少しでも掴み取ることがコタローと樹の目的だったのだが……
写真を真剣に見つめるヤクモの表情には、微かな揺らぎも感じられなかった
「いえ、初めてです……でも綺麗ですね」
「そうか……」
率直な感想と共に返されたそれを樹は受け取った
大きな変化が無かった事に安堵する一方
唯一の接点でもあるそれが彼女に何も働きかける事ができなかった事実は
ほんの少し雅羅達の心にも微かな失望を与え、僅かな静寂がその場に訪れる
だが、それも本当に僅かな時間で……経緯を話でしか聞いてない北都が、ポットを片付けながら口を開く
「さ、お茶の時間もおしまい! 午後から校外にも出るんですよね?雅羅さん、担当の方は?」
「え、ええ……校門の前で待ってくれてるはずよ
確かルーシェリアと朝斗達だったわね」
「そうか……天学の翠機晶姫もいるんだったな」
「話を聞いてから、ず〜っと会いたい会いたいって言ってたらしいですわよ〜」
担当メンバーを聞くや否や、その一人と思しき人物の事を話し始める樹とジーナ
会話の中に、少し自分との遭遇を楽しみにされている色を感じ取り、湧いた興味とともにヤクモが二人に詰め寄った
「あの……どんな方なんですか?その……あたしに会いたいっていう方って」
「ああ、君と同じ【機晶姫】だ。境遇がジーナに似ていてね、色々と仲良くさせてもらってる
まぁなんだ……ある意味、君にも色々な意味でそっくりでね、何がというのは説明しにくいのだが……」
「びっくりしますですよ〜、お友達になれればいいですわね☆」
微妙に言葉を濁す樹と、楽しみでしょうがないという感じのジーナの言葉に、ますます首を傾けるヤクモであった
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「ヤクモさんでしたね、はじめまして!
あ、私はアイビスといいます! 今回、ヤクモさんの話を聞いて天御柱から来たんですよ」
「……………」
『また改めて明日』という言葉とともにカフェテリアを去った北都とリオンを見送り
樹率いる【林田家】の面々とも別れを告げ、雅羅達と集合場所の校門に辿り着いた時には
すでに担当の次の面子はそろっていたようで、姿を見るなり全員でヤクモの元に集まってきた
当のヤクモはというと
集団の中で一番に彼女の前に辿り着いた【機晶姫】と思しき少女の姿を、言葉もなくただただ見つめていた
そんな彼女の目線が、自分の何を見つめているのかに気が付いたようで、にっこり笑いながら言葉を続ける
「ええ、同じなんです……ヤクモさんと。だから他人とは思えなくて
出来たらヤクモさんとお友達になりたいかな、なんて思ってます。仲良くして下さいね」
そう言って、ヤクモと同じ色の髪と眼を持つ彼女
アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は、一層眩しく笑いながら手をそっと差し出した
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