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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐ 真実の館

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セルマ・アリス(せるま・ありす) 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ) オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)  ヴィランビット・ロア(う゛ぃらんびっと・ろあ)



真実の館へとむかう馬車の中で、オリバーへの説明を終えたセルマ・アリスは、客車の小さな窓から深夜のマジェスティックの街並みを眺めていた。
セルマが話をしている間もそうだったが、向かい合わせの席にいるオリバーは、生気のない瞳を宙に泳がせて、こちらから声をかけても時たま、面倒そうに、わかった、とつぶやくだけだ。

これから行く真実の館で、この人は失ったものを取り戻すことができるのだろうか。
それについては、オリバーさんには、話していないけれど、高崎さんが言っていたように、キャロルさんが生きていればいいな。
館で二人が再会できればいいけど。

アーヴィンが殺害されたまさにその日、死体発見現場となったハーブ園で、キャロルをみかけたのが、セルマが今回の事件にかかわることになった発端だった。

俺の奥さん(旦那さんと呼ぶ人もいる)のオルフェの誕生日に、料理用のハーブをプレゼントしようと思ってマジェのハーブ園にいったんだ。
ネットで調べてみたら、あそこは、他にはないめずらしいガーブがたくさん栽培されていて、しかも、来園者の持ち帰りも一定量まで認めているって紹介されてて。
けど、実際にいってみたら、ハーブ園は開園してない時期で、しかたないから外の道路から園内の様子を眺めて、帰ろうとしたら、彼女をみかけたんだ。
閉園中の園内にいたから、はじめはスタッフかと思った。
でも、彼女が普通の出入り口を使わず、鉄柵をのりこえて外へでるのをみて、わけありだって気づいたよ。
俺はそのままにしておいてもよかったんだけど、あの日、一緒にいたパートナーのヴィランビット・ロアが、勝手に彼女を追いかけて走りだして、しょうがなく、俺もヴィーを追って走ったんだ。

結局、ヴィランビットは途中で乗合馬車にまで乗って、キャロルを彼女の家まで追い続けた。
いやいやながらセルマもヴィランビットとともにキャロルの住む館へ。

それで終わればまだよかったんだけど、ヴィーのあの日の格好が誤解されて。
マジェに行くからって女装して、英国風のゴシックドレスと地毛と同じ赤いロングウェーヴのカツラまでつけてたから、いつの間にか俺がマジェで英国美人を追いかけていたって話になっちゃったんだよな。
まったく、人の目ってどこにあるかわからない。
問題は、俺の奥さんのオルフェが、誰かから聞いたその話を信じて、俺が浮気をしていると、疑ってることなんだ。

セルマの妻のオルフェリア・アリスは、アンベール男爵からセルマに届いた真実の館への招待状を、浮気相手からセルマへの密会の誘いと誤解して、セルマになにも言わずに真実の館へ行ってしまった。
館に入る直前に、オルフェからきた

オルフェはこれからアンベール男爵のお宅で真実をみつけてくるです。

のメールにセルマは、本当に驚いた。

男爵が俺に招待状を送ってきたのは、たぶん、あの後、あの日のハーブ園での事件のことを知ったヴィーが、何回かキャロルさんの家を訪ねたのに、俺も付き合っていたからだ。
ヴィーは、探偵みたいに一人でキャロルさんと事件の関係を調べようとしていたんだけど、俺はヴィーがキャロルさんや他の人に迷惑をかけないかが、心配だったんだ。

俺はその時に、元気だった頃のオリバーさんとも会っている。

俺とヴィーがキャロルさんの屋敷から帰る時に、偶然、玄関口ですれちがったくらいだけどね。
高崎さんが俺に連絡してきたのもその頃で、俺に、キャロルと話す機会があるのなら、バカなことを考えずに、マジェを出るように伝えてくれ、とお願いされた。
いちおう、伝えてはみたけど、意味はなかったみたい。
キャロルさんは、あの日、ハーブ園にいた理由も他のことも一切、俺に教えてくれなかった。
彼女なりに俺たちを巻き込みたくない、と思ってくれたんだろうな。
奥さんの誕生日プレゼントを取りにきただけなのに、結局、行く気のなかった真実の館までこうして行くことになってしまったけど、正直言って、俺は事件のなにがどうなっているのか、よくわかってないんだ。

やがて馬車はノッティング・ヒルの真実の館に到着した。
車中でセルマが頼むと、オリバーはいやがりもせず、ヴィーのドレスとカツラをつけ、女装してくれた。

「男爵に招待されているのは、俺とパートナーのヴィーなんだ。
こんな服を着てもらって、すまない」

「気にするな。セルマ。
難しい話はわからないが、ようするに、アンベールが黒幕なんだな。
キャロルが死んだのも、やつのせいなんだな」

「たぶん。
館の中に入ったら、高崎さんが連絡をとってくれてある仲間の人たちと合流しよう。
探偵さんたちが、オリバーさんのためにいろいろ準備してくれているらしい」

俺は玄関で出迎えてくれたメイドさんに招待状を渡した。

「くるのが遅れてすまない。セルマ・アリスとヴィランビット・ロアだ。
あと1日もないけど、真実を語りにきた」

「ようこそ、いらっしゃいましたセルマ様。ヴィランビット様」

ボディチェックもなく、二人は館内へ通される。

「ところで、俺がくるよりも先に、妻のオルフェリア・アリスがお邪魔してると思うんだけど、どこにいるか知らないかな。
騒ぎを起こしていないといいんだが」

「オルフェリア・アリス様ですか、少々、お待ちください」

メイドが、名簿を開く。

俺は浮気なんかしてないし、オリバーさんをみんなのところへ届けたら、オルフェを連れて、失礼するとしよう。
オルフェへの気持ちの証明ってわけでもないけど、俺はいつでもこの指輪を持っているんだから。
誠意を持って話せば、きっとわかってもらえるさ。

失くすのがこわくて、いつもは外したまま箱に入れて持ち歩いている誓いの指輪をだすと、セルマは手袋をはずして、それを左手の薬指にはめた。

「オルフェリア様なら、お連れの夕夜御影様とご一緒にご宿泊されておられます」

「ありがとう。行ってみるよ。
あ、オリバーさん。どこ。
オリバーさん」

セルマは、ついいままで隣にいたオリバーがいないことに気づいたが、あたりを見まわしても、もはや彼の姿はどこにもなかった。