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ぶーとれぐ 真実の館

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大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)  セルマ・アリス(せるま・ありす)  レン・オズワルド(れん・おずわるど) 遠野 歌菜(とおの・かな) 月崎 羽純(つきざき・はすみ) 御空 天泣(みそら・てんきゅう)  



屋根裏部屋で天泣たちの話をきいて、キャロルの死をまた確認したような感じになって、緊張の糸がゆるんじまったのか。
この館についてすぐに大石とかいう日本刀を持ったサムライに斬られた傷が、いまになってひどく痛んできた。
大石は、セルマから逃げて、アンベール男爵を探していた俺に近づいてきて、横から俺の顔をのぞきこんだ。

「怪しい女がいると思ったら、おまえは。
家具職人の息子だな。よかったな。俺の、殺すリストにはいってるぜ」

やつのみえない一撃で、俺が着ていたドレスは切り裂かれて、胸のつめものが廊下に舞い散る。
俺は赤毛のカツラと、破れたドレスを脱いでやつに投げつけた。

「誰だ。おまえは。男爵の部下か」

「クククッ。大石とだけおぼえて、イキナ」

二撃めがくる。反射的に俺は体を屈めた。俺は衝撃を予想しながら、目を閉じる。
いくら待っても攻撃はこなかった。
まぶたを開くと大石は俺の前からいなくなっている。
少し先の廊下をこちらに背中をむけ、走ってゆく大石と、やつを追っているらしい赤いコートの男と、白衣の女の姿がみえた。
立ち上がろうとして、俺は胸の傷が意外に深いのと、自分の足元に血だまりができているのを知ったんだ。
天泣たちの話を聞いているうちに、ふさがりかけた傷が開いたか。
クソ。ちくしょうめ。
キャロルが待っているなら、死ぬのはこわくはない。でも、アンベール男爵になにもできないまま、死ぬわけには行かない。

「こんなこともあろうかと救急箱をもってきて正解だったな。
さっきも天泣の治療に役に立ったし。
天使の救急箱で傷はすぐによくなる」

もうろうとしてきた意識の中、俺は側にきた男の手当てを受けた。
男が言う通り、すぐに痛みは消えて、知らないうちに、目の前にいた男と女がやさしげな笑顔で俺をみている。

「助かった。あんたらは」

「私は遠野歌菜。こっちは私の主人の月崎 羽純くんよ」

「きみが家具職人のオリバーか、会いたかったよ。
会えるかどうか自信はなかったけど、会えてよかったな」

俺は、俺の手をじっと見つめている羽純の目線を追って、羽純が俺の左手の指輪を眺めているのに気づいた。

「指輪がどうかしたのか」

「間違いないな。これだ」

「こいつは、俺がある人に贈るためにつくったもので、その人とお揃いなんだ。
本職の家具と違って、指輪は見ようみまねだったが、それなりのものができたと思ってるよ」

それで、キャロルと最後にあった夜に渡したんだ。
俺はこれから一生、この指輪を外さない。だから、おまえもそうしてくれって言ってな。
あいつは、俺の前で、左手の薬指に指輪をはめてくれた。
金持ちの娘のあいつなら、もっと高いアクセサリーをいっぱい持ってただろうに。

羽純と歌菜は二人で顔を見合わせ、頷きあった。
歌菜が自分の左手の甲をうえにして、俺のほうへ差しだす。

「うん、どうかしたのか」

「私の指をみて」

言われるままに俺に歌菜の指をみた。
しろくて細い指だ。爪もきれいに手入れされている。
そして、俺は歌菜の薬指の指輪が、俺の指にあるのと同じものなのに気づいた。
同じというか、これは、俺がキャロルにプレゼントした指輪だ。

「おまえ、これをどうしたっ」

歌菜の指を握って、俺は、強引に指輪を抜き取った。
羽純が歌菜を守るように、俺と歌菜の間に割って入ってくる。

「待て。話を聞いてくれ」

「どういうつもりだ。俺になんの話がある」

「ごめんなさい。もっと、あなたの気持ちを考えた渡しかたをすれば、よかったわ」

深々と頭をさげ、歌菜は俺にあやまった。

「私たち、事件が起きた日のあとに動物園へ行って、見ていたポニーがこれを吐きだしたの。
はじめは、石でも吐いたのかと思ったのだけど、よくみたら指輪で。
他にもネックレスやピアスなんかをもどして、とても苦しそうだった」

「動物園の事件は、俺たちが最初の発見者なんだ。
スタッフにポニーの様子を報告したことから、調査がはじまって、いろいろなことがあきらかになった」

「他のものは、スタッフさんに渡したのだけど、その指輪は、裏にメッセージが彫ってあるし、石をはずすとそこにも折りたたんだ紙が入ってて、私は、これをあなたに直接、渡そうと思ったの」

俺は、指輪の裏側をのぞいて、プアラチナに自分で彫った文字を確認した。

キャロルへ オリバー

慣れない作業を何時間も続けて、ようやく彫れた不格好な字だ。
そして、アーヴィンが隠し持っていた石を加工して、指輪につけた、青いルビーを外し、小さく、小さく、折られた紙をみつけた。

「私はみつけただけで、読んでないわ。
読む権利があるのは、あなたとキャロルだけよ」

「俺はこんな紙は知らない。おまえら、指輪を頼りにここまできたのか。すまなかったな」

礼を言いながら、俺は紙を開く。
キャロルから俺へのメッセージだった。
キャロルがしたのをマネして紙を小さく折って、指輪を元に戻す。

キャロルは許しても、俺は許さない。

アンベール男爵と仲間たちを残らず地獄におくるために、俺は隠し戸を開けて、屋根裏から館の中で飛び降りようとした。