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一会→十会――絆を断たれた契約者――

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一会→十会――絆を断たれた契約者――

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【ヒラニプラ採石場: 大乱闘】


 契約者と異世界の亜人の軍団との交戦は唐突であったが、各人は全体を見ている軍隊の誘導や陽動の声を聞きよく対応した。斬り合いを得意とする者たちは前に出て、援護を得意とする者たちは彼らの突撃に守られる形で後方に下がり、得意とする方法でサポートを始める。

「こういう乱戦ってのは得意なんだ。とりあえずあのボスっぽい奴までの道開けばいいんだよねえ?」
 誰に聞くでもなくそう口にした東條 カガチ(とうじょう・かがち)を狙い、複数の亜人が槍を構え突っ込んで来る。両手に刀と物騒なものの、見た目には鎧も着けていない彼は容易に仕留められると思っての行動だったが、一瞬の後にそれは思い違いだったことを知る。――尤も、それを知った所でとうに手遅れだったが。
「うーん、ちょっと脂肪分多めかな。もっと引き締まってるといい感じすると思うんだけど」
 一振りで一人の首を切り落としながら、カガチが自分が切った肉の評価を口にする。指令を下す部位を失い彷徨った後倒れ伏す亜人の身体、そして転がる首に他の亜人達は恐れをなし、ある者は逃げ出しある者は雄叫びをあげて無謀な突撃を行う。カガチはとりあえず逃げ出した者については深追いせず、自分に向かってきた者だけを切り伏せていった。
(椎名くんはこの先で捕まってるんだって? そいつぁ助けてやらなくちゃね。
 ……アレク? あぁ、アレは別にいいや。俺が助けるまでもなく脱出するだろうし。ま、ついでついで)
 そこまで思った所で、カガチはあれ? と疑問を一つ抱く。
(そういやあもう一人、誰か居たような……うーん、でも何故か思い出さなくてもいいやって気にも……)
 はたと動きを止めたカガチへ、遠方から弓の雨が射掛けられる。無数の穴を開けんと迫った弓は、冷気を含んだ片方ずつの一振りで全て薙ぎ払われた。
(……ま、その内分かんだろ。まずはこの臭い肉を斬って斬って斬りまくるとしますか)
 もはや亜人を“肉”としか認識していないカガチは、まるで加工場の裁断機の如く亜人達を切り刻んでいった。


「汚らわしい亜人め! ジゼル様には指一本触れさせませんよ!」
 カガチ同様、亜人を汚らわしいモノと評した歌菜の双槍は、群がってやって来る亜人をまとめて吹き飛ばしていく。刃の部分で切り裂かれた者はもちろん、柄の部分で叩かれただけでも下手すれば首の骨を折り、そうでなくとも強く頭を叩かれて昏倒、一番軽くて後方に突き飛ばされてしばらく動けなくなる程度の被害を被っていた。
(ジゼル様は……大丈夫そうですね。アレが傍に居るのは腹立たしいですが、役に立つ以上は仕方ないです)
 後方をちら、と覗き見、馬宿に護られているジゼルを確認して歌菜は歩を進める。突き出される槍も、射掛けられる弓も彼女の足を止めることは出来ない。それ以上に、彼女の中から呼び起こされつつある思いが、先へ、先へと身体を急かす。
(胸が痛い……私の中の何かが、行かないと! って叫んでる。
 ……私はこの先に、何を置いてきてしまったの? 私は何を忘れてしまったの?)
 手近な亜人の腹に槍を突き刺し、そのまま振るうことで多数の亜人をなぎ倒しながら進む歌菜の頬には、悲しみなのか分からない涙が伝っていた。


「やれやれ、この唐突さは契約者らしいと評するべきか。……だが敵も慌てふためいているのは事実、ならば利用するまで」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)の召喚術により呼び出された鎧を纏った兵士の軍団が、見た目には同じ格好をした亜人の軍勢と交戦する。だがその力の差は歴然であり、まったく歩みを止めない不滅兵団に対し、亜人の軍団は弾け飛ぶように霧散していった。もしも敵が万全の準備を整えたとしても、もしかしたら優勢以上の結果となったかもしれない。
「ふむ……グロック君が色々と思い出したということは、これは期末試験は期待できそうだな。うむ、生徒が成長するのを見られるのはいい事だ」
 それもあってか、アルツールの興味はアッシュへと向いていた。教師として、生徒としてのアッシュを見てきたアルツールは彼の成績がどうだったかを克明に覚えている。
「記憶を取り戻したということは、もう以前のグロック君はいないということね。補講の時、口に言語の教科書丸めてねじ込んでやろうかとか思ったりしたときもあったけど、もうそんな苦労はしなくてもいいのよね。
 でもそう思うとなんだか、嬉しくもあるけど寂しくもあるわね……」
 アルツールのサポートに付きながら、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)も過去講師としてアッシュを受け持った時の事を思い出す。
「その分、これからが楽しみではあるがな。さあ、さっさと事を済ませてグロック君には『今までの分を取り戻すために』勉学に励んでもらうとしようか」
 そう告げたアルツールの表情は、彼にとっては珍しく人の悪い笑みとなっていた。


「吾輩の姿は、お前達如きに捉えられぬのだ!」
 そう口にしたかと思うと、亜人の目の前から瑠璃の姿が消える。次の瞬間には目前に現れ、顔面を籠手で殴られ意識を奪われる。他の亜人が反撃を繰りだそうとした時には既に姿が消え、背後に回られ頭を叩き付けられて地に伏せた。
「邪魔する人は誰であろうと……容赦はしない、叩き斬るっ!」
 フィアナの振るった剣は、亜人を鎧ごと真っ二つに切り裂いて沈黙させてしまう。
 瑠璃はスピードを追求し、フィアナはパワーに訴える。性格と見た目からすると逆に見えるが、実際はこうであった。


 シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)はここに来て、目の前のぶよぶよとした亜人がイライラの原因だと思い至る。どことなく見た目が似ている――と言ったらムーンに電撃を浴びせられるかもしれないが――その生物を、ムーンは切り裂いてやろうと決心する。
 ムーンの見た目は傍から見たらよく分からないモノだったから、あれが敵なのかと懐疑的になりつつも、雄叫びをあげながら数十体の亜人の軍勢が突撃してきた。
 しかし突っ切ろうとすれば勿論攻撃はくる。13体の大型の亜人は、長いレンジから何処に居るとも分からないトリグラフ・ペルーンの強化硝子や壁をも貫く弾丸に、身体を上半身と下半身バラバラに分断させられた。
 また壁のように進んできた横並びの亜人達は、宙空に無数に浮かぶトリグラフ・ダジボーグの横殴りの雨のような銃弾に、蜂の巣にされる。
 素早い動きの出来る小さな亜人は、散弾銃と化したトリグラフ・ヴォロスにより次々粉砕させられる。
 この恐るべき死の路に最終的に残ったのは剛胆で、優れた戦闘技術を持つ亜人達だった。
 くる。と、シーサイド・ムーンは思う。
「…………」
 ムーンの髪の毛が集合したような――端的に言えばカツラのような――ぷよぷよとした身体には異質の、硬質のブレードが装着される。
「…………!!」
「ウギャアアアアア!!」
 威勢のいい雄叫びは、すぐに悲痛な叫びへと変わる。無数の触手から放たれた電撃が亜人たちを痺れさせ、カタカタと自由の利かない身体を震わせた彼らに、次の攻撃を受け止める術はなかった。
「!! !!」
 亜人の懐に滑り込んで、その場で逆上がりをするように回転。二刀一対で装備されたブレードの連撃は、亜人の肉を裂き血液を迸らせ、生命の火を刈り取っていく。


「見るからに屑……汚らわしい、悍ましいお前達に、存在する価値なんてございませんわ」
 アデリーヌの繰り出した剣が亜人の首をはね飛ばし、転がった首が他の亜人たちの目に留まる。
「ヒ、ヒイッ!」
 怯えた表情を――感情をそのまま表した顔も同じだった――浮かべる亜人の眉間を剣で刺し、鼻先を蹴り飛ばしながら引き抜く。周りから亜人の群れが彼女を仕留めるべく飛びかかるが、見えない壁に阻まれそれ以上進むことが出来ない。
「勝手に立ち入らないで」
 拒絶の意思をむき出しにして、アデリーヌは逃げ出そうとする亜人の背中を切りつけ、倒れた所へ首元を断って沈黙させる。


「豊美ちゃんがピンチなら、助けないとね! そこのよく分かんないナニカ! 退きなさいっ!」
 プレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)が手に光条兵器を握り締め、亜人の群れに突っ込む。手近に居た亜人の頭を殴りつけ、地面に倒れたそれを踏みつけて次の亜人を光条兵器を横に振るうことで撃退する。
(あれ? 私ってこんなんだったっけ?
 ……まぁいっか。覚えてないこと考えても仕方ないもんね!)
 一瞬、自分の振る舞いに疑問を覚えるがすぐに打ち消し、本来は杖として用いるべき光条兵器――尤も、プレシアは元から光条兵器を鈍器として扱っていたが――で亜人を打ちのめしていく。その内光条兵器もプレシア自身も亜人が撒き散らした脳漿体液血液その他もろもろに塗りつぶされていくが、戦闘の興奮か、気にする素振りもない。
「退きなさいって言ってるでしょ!」
 首の辺りを殴られた亜人が首をあらぬ方向に曲げながら倒れ、振り向きざまに向かってきた亜人の顔を杖で突く。
 ギャッ、と短い悲鳴をあげて倒れた亜人に目もくれず、プレシアは次の相手を探し求めた。


「うおおおおおおお!! 何処におられるのですか、あるじいいいいい!!」
 涙すら流しながら、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が相棒のガディと、戦場を席巻する。あちこちで数名の亜人が宙に放り投げられていくのが忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の目にも映った。
(アウレウスさんはさておき、ご主人様まで記憶操作をされているなんて……)
 横目で見た先、彼の主人であるフレンディスは戸惑いの表情を終始浮かべていた。ベルクの事を忘れてはいないようだが思い出すことも出来ない、そんな風にポチの目には見えた。
(やはりここは、超優秀なハイテク忍犬の僕がアレクさんやグラキエスさん……………………仕方がないからエロ吸血鬼達も助けてやりましょう)
 記憶喪失にでもなったくらいの間を空け、ベルクも救出対象に含めてやったポチは、段々と部下が削り取られていった事で見えつつあるひときわ大きな亜人を視界に収める。
(皆さんの記憶操作の原因……あの下等生物を倒せばいいのですね)
 標的を見定めたポチは駆け出すと、あまり見せない獣人の姿を取る。これは彼にとって、フレンディスへ一人前の雄になったのだと見せつけるためのもの。
(ご主人、これが成長した僕の姿です!)
 繰り出した衝撃波は、布陣した亜人をあらかた吹き飛ばし、ゴズへの道をさらに近付けていった。


「唐突な戦闘開始には戸惑いましたが、それでもどうにかしてしまう辺り、皆さんの力量を思い知りますね」
 あちこちで優勢を築いていく契約者に、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が感嘆の声をあげる。だからといって自分もただ留まっているつもりはない。採石場を早期に制圧することで、異世界に囚われたという仲間を救出する可能性が高まると結論付けた舞花は、同行するノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と敵の制圧に向かった。まずは挨拶代わりにと、手近な亜人へ無数の弾丸を浴びせ抵抗力を奪い取る。
「コノヤロウ!!」
 別方向から突っ込んできた亜人に対しても慌てず、突き出された槍を盾で受け止め、その間に剣形態へ変化させて斬りつける。正面から斬り合っては勝ち目がないと判断した亜人は頷き合い、不幸な仲間をよそに背後へ回り込もうとするが、そこに飛んできた花の形をした氷が、彼らを押し潰すと同時に進軍を阻む。
「舞花ちゃんをこっそりやっつけちゃおうなんて、わたしが許さないよっ!」
 氷を投げつけたノーンがそう告げ、それでもなお突破しようとする亜人へ掌を突き出す。そこから放たれた七色の矢は亜人を射抜き、身体を痙攣させながら炎と氷にまみれるという不思議な状態を経て地面に倒れ伏す。脅威を退かせ、投げた氷――元々盾だったものを強化して投げつけた――を回収した所で舞花と合流した。
「助かりました、ノーン」
「えへへ、どういたしましてっ」
 舞花の感謝にノーンが花咲く笑顔で応え、そして二人は敵の中枢へ向けて前進を続けた。

(最初こそ危うかったが、ここまでくれば安心か……)
 群れかかる亜人の軍団に対し、抵抗する壁を作って戦う契約者を眼前に、馬宿が安堵の息を吐く。四方八方から攻めかかられては大変だったが、ある程度攻め込まれる方向が決まっていれば、それがたとえ自分から見て真横の位置だったとしても対応は可能だ。
 今も、うまくすり抜けてきたのだろう、軍団の一部が右手方向から迫っている。他から攻め込む気配がないのを確認し、馬宿は最近武器として使うようになった鉄扇を抜くと、普段のどことなくのらりくらりとした雰囲気とは打って変わって機敏とした動きで迎撃に入った。
「怯むな、敵はたった一人だ!」
「……確かに一人、だがただの“一人”ではないぞ?」
 巨大な亜人の放った魔法の光りが閃く間に、馬宿は敵の間合いに飛び込んだ。杖を持つ腕を扇子骨でパンッとかち上げ払うと、正面に進む勢いのまま肘鉄砲を亜人の顎に喰らわせる。
 すると後ろに吹き飛んだ亜人の腹が、横から槍の穂に刺貫かれ、刹那の間も無く首が吹き飛んだ。
「Thanks for waiting!(*お待たせ☆)」
「真打ち登場ですよ!」
 それぞれに槍と刀を持ち制止したまま振り返ったのは、トゥリン・ユンサル(とぅりん・ゆんさる)スヴェトラーナ・ミロシェヴィッチ(すゔぇとらーな・みろしぇゔぃっち)である。
「――用明天皇第二皇子、聖徳太子閣下」
 意外な名で呼ばれ弾かれた様に振り返った馬宿に、ミリツァが優艶さを湛えた表情で膝を折った。
「ミロシェヴィッチ家当主、アレクサンダル四世の妹、ミリツァ・ミロシェヴィッチです。
 このような場で正式な挨拶も出来ず申し訳ないけれど、先に用件を述べても宜しくて?」
「……ああ、許す。その声色から察するに、何か有効な策を持ってきたのだろう?」
 馬宿の反応にミリツァが「流石ね」と応え、ジゼルへ向き直った。
「『断ち切られた絆を元に戻す魔法はないか?』と、イルミンスール魔法学校のエリザベート校長に伺ってきたの」
 兄の居ない状況に良く耐えたと褒めるような調子でジゼルに『遅刻』の理由を説明し、ミリツァはもう一度馬宿の顔を見上げた。
「私の質問にエリザベート校長はこのようにお答えになったのだわ。
 「断ち切ることが出来る魔法があるなら、その逆も在るはずですよぅ。……尤も、そうそう切れるものでもないと思いますけどねぇ」
 ――ふふ、今のはなかなか似ているんじゃなくて?」
 コロコロと微笑いながら姪達を見るミリツァに、馬宿は以前アッシュが「今の皆の状態は、絆を縛り上げられている状態だ」と言っていたことを思い出した。つまり絆は絶たれているわけではなく、縛られ非常に細くなっているだけ。
「失礼、続けるわ。アレクと、あなたの叔母さ――」「豊美ちゃん」
 と、馬宿が何時もの癖で訂正したのに、ミリツァは少し驚きつつまた口を開く。
「では……豊御(とよみ)ちゃんや契約者は、此処から異世界に飛ばされたのだと聞いたわ。
 だったらもしかすれば未だこの地には、その異世界との扉が存在するかもしれない。エリザベート校長はその可能性についても、肯定なさったわ。
 閣下はご存知かしら。私の能力は、人や物体を、気配よりも正確に掴み取る事が出来る。此方側と異世界に分断された侭では難しいけれど」
「魔法の力が弱まりさえすれば――」「どうにかなるんじゃないのッ!?」
 スヴェトラーナとトゥリンが、手薄になったジゼルの護衛を務めながら、ミリツァのしとやかな口調を急かす様に繋げた。
「細くなった絆の糸で手繰り寄せるには、切っ掛けが必要だわ。
 ミリツァはそれがジゼルの歌だと考える」
 兄に似た強い眼差しを受け、馬宿がジゼルを見る。視線を向けられたジゼルは「えと……?」と言葉を詰まらせ、私が何を出来るのかと言いたげな顔をしていた。
「……疑うつもりはないが、出来るのか?」
「ええ、全ては推測に基づくものだけれど、これだけは一族の名にかけ、断言出来る。
 私の兄、アレクサンダルは本物の変態よ!!
 彼が愛するジゼルの歌を聞き逃す筈が無い。
 ジゼルが歌えば、そこが星の裏側であれ異世界であれ、アレクには必ず届くことでしょう!」
「あぁ、その理由は不思議と納得がいくな」
 ミリツァの示した回答に、馬宿が頷く。妹がこうもハッキリと言うのだから間違いない、アレクは変態だ。
(私としてはそのような変態との付き合いを考え直してもらいたいところですが、豊美ちゃん……?)
 心の中で呟いたそれは、概ね冗談である。豊美ちゃんはアレクの事をすっかり信じ切っているし、アレクの方も豊美ちゃんには無体な行為を働く素振りは無い。どう思っているかまでは読み取れないが、おかしな事にはなるまいと馬宿は思っていた。
「ではその策を行うとして、発動までにはどれほど?」
「微笑みデブに聞いてきた!」
 対峙していた亜人の膝を踏みつけ飛び上がり、蹴り上げくるりと後ろに回ったトゥリンが、馬宿とミリツァの間に身軽に着地する。
 スヴェトラーナが敵を引き受けている間、トゥリンはドミトリーが計算した作戦のタイミングを正確に馬宿に伝えた。
「なるほど、把握した。……ではそれまでの間」
 ヒュン、と飛んできた矢を、馬宿は広げた鉄扇で弾く。……今の彼は文官ではなく、一人の武人。
「お二人の事は俺が護らせてもらう。……代わりにアレクと契約者、豊美ちゃんの事、頼んだぞ」
 馬宿の言葉にミリツァの左の瞳が赤紫に染まり輝き出した。
 家族が現れた事に先程まで馬宿に庇われながら戸惑うばかりだったジゼルの表情がぐっと引き締まり、馬宿を見上げて強く頷く。