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リアクション
○第十試合
エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)(イルミンスール魔法学校) 対 ラルウァ 朱鷺(らるうぁ・とき)(波羅蜜多実業高等学校)
試合前、ラルウァ朱鷺は久方ぶりの母校を見て回った。何も懐かしさに駆られてのことではない。朱鷺にはどうしても会いたい、いや、会わなければならない相手がいた。そのために彼女は御前試合に参加したのだ。
「うん、いや、僕だって出たくはないんだけどねえ……」
校舎にもどこにもおらず、庭に出たところで少年の声が聞こえていて朱鷺は身を隠した。
「心配、です」
少女の声――聞き覚えがある。これは。
「嫌がっても武蔵さんのことだから、なんかやって、結局出ると思うんだ」
「なら、縛り上げましょう」
「“ベル”」
――ああ、と思った。武蔵、そしてベル。この名前が出たからには間違いない。二人は北門平太とベルナデット・オッド(べるなでっと・おっど)に違いない。――だが、朱鷺の本当に探している人物ではない。
「大丈夫だよ。あれから僕もちょっとは鍛えたからね、ちょっとはカッコいいところ――僕じゃなくて武蔵さんだけど、見せてあげる。それなら安心でしょ?」
「でも……」
「客席で見ててよ!」
ね? と念を押し、平太の足音が遠ざかった。朱鷺はそれを確認し、ベルナデットの前に姿を現した。黒髪、緑の瞳、セーラー服。
「漁火さん……」
小さく、朱鷺は呼びかけた。
「――あの、もしかして、私のお知り合い、ですか?」
「――!」
「すみません。私、夏ぐらいから前の記憶がなくって。色んな人に色々言われるんですが――その名前も時々」
「朱鷺のことも、覚えていませんか?」
「……すみません」
申し訳なさそうに、ベルナデットは目を伏せた。
「――いえ。一つ、お尋ねしても?」
「はい」
「あなたは今、幸せですか?」
ベルナデットはきょとんとし、それから「はい」と無邪気ともいえる満面の笑みで答えた。
ベルナデットには会えた。だが、漁火はもういないのだ――。
彼女に会うまでは負けまいと考えていた朱鷺だが、試合場に出たときにはもはやその気は失せていた。唯斗が構えるよう注意しても、木刀をただ握ったままだった。エメリヤンの攻撃にも無防備で、試合は、あっさりと終わった。
勝者:エメリヤ・ロッソー
○第十一試合
ディアナ(一般参加) 対 ジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)(葦原明倫館)
「おーい、ジブリール」
客席の一番前から、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が声をかけた。ジブリールがぱっと顔を輝かせる。
「まぁまさか、何事もないと思うが、気を付けろよ。対戦相手、相当怪しい感じだからな」
反対側から出てきたディアナは、仮面で顔を隠している。過去、そういった人間は大抵、何かを企んでいる。ディアナというのも、本名であるかどうか。
「うん、それは多分大丈夫」
「ああ、そういうのは得意か」
「だけど、オレは正々堂々とやってみたい」
暗殺者の息子だったジブリールは、不意打ち、騙し討ちを得意とする。こうして明倫館の生徒になった今、真っ正直に正面から戦いたいと考えていた。
「――そうか。そうだな」
「うん」
「ジブリール」
「うん?」
「頑張れ」
「――うん」
「男らしいじゃないの」
普段は飄々とした態度のジブリールに、ベルクは頬を緩ませた。
「それじゃ始めよっか? お手柔らかに、かな」
ジブリールの軽い挨拶にも、ディアナは何も応えない。無口なのか、声を聞かせたくないのか、どちらかだろうとジブリールは思った。自分と同じ臭いがする――。確かに注意した方がいいだろう。
だが予想に反し、試合開始と同時に、ディアナは足払いをかけてきた。ジブリールはひらりと避け、ディアナの胸を狙う。ディアナはそれを左手で捌き、鋭い突きを繰り出した。
ジブリールもまたそれを避けたが、次の瞬間、目の前に拳があった。
「速い――!」
額を突かれ、唯斗が有効を取る。試合は無論、続く。
「これで決めるよ!」
ジブリールは地面を蹴り、ディアナの死角に回ろうとした。が、ディアナはそれより速くジブリールに接近し、大きく腕を振るった。
「!?」
鳩尾の痛みと衝撃に、ジブリールは目を見開いた。胃の中のものを吐き出しそうになったが、それはどうにか堪える。
「大丈夫か?」
唯斗が声をかけてくれた。大丈夫の意で頷く。まだ声は出せない。何とか立ち上がり、「ディアナに近づくと「対戦ありがとね」と右手を差し出した。
しかし、ディアナは応えない。仕方がないと思い、ジブリールは差し出した右手をまじまじと見つめた。
「正統に戦えるようになるには、まだまだ……かな?」
そんなことはないぞ、とベルクは思った。お前はよくやった、と。
だが声はかけなかった。いずれ自分で気づくだろう。それもまた、成長の一環なのだ。
勝者:ディアナ
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