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リアクション
○第七試合
ディアナ 対 セレアナ・ミアキス
「ね、次の相手だけど」
次の試合に集中していると、セレンフィリティ・シャーレットが、話しかけてきた。
「……なんか、ものすごく怪しくない?」
セレアナは、少し離れたところでやはり精神集中しているらしいディアナをちらりと見た。仮面の女性。なるほど、確かに怪しい。
「どこかの組織の戦闘員?」
「どこかのお嬢様かもしれないわ」
「身分を隠して試合に?」
「自分より強い結婚相手を探しているのかも」
言ってから、さすがに妄想が過ぎるかとセレアナは肩を竦めたが、セレンフィリティは面白がって続けている。試合が始まる五分前には、ディアナなる対戦相手は、某国のお姫様で、政略結婚を嫌がり、理想の男子を探すために御前試合に参加している、という話になっていた。
試合開始と同時に、ディアナが距離を縮めてきた。セレアナは彼女の足を止めようと、引き金を引く。――と、ディアナの姿が消える。
一瞬のち、すぐ傍に気配を感じ、セレアナは知らずそちらに銃口を向けた。ディアナの拳はセレアナの髪を掠った。ディアナの髪も、セレアナの弾で弾け飛ぶ。
「一気に片を付けるわ!」
素早く距離を取ったディアナに、セレアナは銃を向けた。銃口に冷気が集中していく。――が、再びディアナは間合いを詰めてきた。滑るような動きだ。
セレアナが銃を構えるより速く、ディアナの拳が鳩尾へと大きくめり込んだ。
「がっ……!」
体をくの字に曲げ、セレアナは地面に膝を突いた。息が出来ない。これは――。
――気が付くと、唯斗が顔を覗き込んでいた。
「大丈夫みたいだな?」
「……ええ」
唯斗の手を借りて、上半身を起こす。「まだまだ未熟ね……」
「慰めにはならないかもしれないけどな」
「え?」
「勝ち抜き戦だからな。ほとんどの奴は、負けるんだぜ?」
至極当たり前のことを言われ、セレアナはきょとんとなった。それから、噴き出す。
「そうね。慰めにはならないわ。でも……お気遣いありがとう」
唯斗は殊更生真面目な顔で、どういたしましてと応える。勝てはしなかったがいい勝負だった。それを今回の収穫にしようと、セレアナは思った。
勝者:ディアナ
○第八試合
麻篭 由紀也 対 緋柱 陽子
「それにしても、暮流は出なくてもよかったんですの?」
瀬田沙耶は、隣に座る和泉 暮流(いずみ・くれる)に尋ねた。顔は真正面の会場と、更に向こう側に座るハイナの方を向いている。
「私? 出ませんよもう……。大衆の面前で病院送りとかいい恥晒しです……。腕試しをしたいのは山々でしたが、すぐ応急手当できる程度ならともかく病院送りは後々面倒な事が多いと分かったので……」
「病院送り……わたくしはとっても面白かったのでまたやって欲しかったのですけど、残念ですわね」
面白いなんてそんな理由でもう一度やらされて溜まるか!
と思ったが、口にはしないでおく。
「由紀也も残念がってましたわ」
「ああ、そういえば『勝ち進んで決勝で会おうぜ!』とか言うつもりだったとか」
「それはあれですわね、盛大な負けふらぐ、というものですわね」
沙耶の不吉な言葉に、暮流は思い切り顔を顰めた。
ここしばらく、御前試合は賞品として“風靡”が用意されたり、妖怪の山探索の特権がついていたりと、純粋な大会ではなかった。
そういったことのない御前試合は平和でいい、と由紀也は思った。これが本来の「普通」の葦原島なら、しっかり堪能しなければなるまい。
そんなわけで由紀也は、意気揚々と御前試合に臨んだのであるが、いかんせん、二回戦は強敵だった。
試合開始と同時に、由紀也は己の間合いに持っていこうと、距離を取った。しかし、陽子の武器――錘代わりのゴムがついた縄――が銃身に絡みつき、身動きが取れなくなった。押しても引いてもびくともしない。
「くそっ!」
とにかく武器を取り返そうと引っ張ると、不意に縄が緩んだ。勢いで、後ろによろめく。今度は錘が首に向かってくるのを、銃で弾き返す。
「何をしてるんですの!?」
沙耶の怒声が飛ぶが、由紀也自身、銃を銃として使えずにいることに焦っていた。どうにか構えようとした瞬間、今度は足元を取られ、由紀也は盛大に転んだ。
「ッテ!」
気付いたとき、陽子が馬乗りになり、由紀也の首を絞めていた。無表情なまま。
ぐいぐいと首が締まっていき、目の前が暗くなっていく。由紀也は両手で地面を叩いた。それをギブアップと判断し、唯斗は陽子の勝利を宣言した。
勝者:緋柱 陽子
○第九試合
葛城 吹雪 対 カタル
「続いてはぁ! 【非リア充エターナル解放同盟公認テロリスト】葛城吹雪ぃ! そして【葦原島の救世主】カタルぅぅぅ!」
気恥ずかしい紹介に、カタルが緊張した面持ちで現れると、会場が湧いた。そのせいか、吹雪が不機嫌な顔になっている。
「あんたには女がいるでありますか?」
「女?」
「彼女、恋人、ガールフレンド、婚約者」
「そんなもの、いませんが」
「あんたもこちら側ですか。しかし、この人気っぷり。さてはさしづめ、リア充でありますね!?」
リア充の意味が分からずぽかんとしていると、吹雪の周囲に黒い炎のようなものが集まり始めた。これはまずい、とカタルは急ぎ、吹雪の足を棒で払った。
「何するでありますか!?」
吹雪が怒りながら、狙撃銃を構える。それを棒で弾き、カタルは吹雪の顔面を狙った。しかし吹雪はそれを紙一重で躱すと、銃身を前に突き出した。銃身がカタルの頬を強く打った。
そこからは膠着状態となり、またもやこの試合は引き分けとなったのだった。
引き分け
○第十試合
北門 平太(宮本武蔵) 不戦勝
なお、昨年に引き続き平太に憑依した武蔵は今すぐ試合させろぉぉぉ! と喚いたが、高峰結和から平太の身体を大事にするよう警告を受け、諦めたとのことである。
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