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リアクション
2.迎えよう鍋作ろう
「さあー、来たわよ来たわよ鍋会よっ!」
「いらっしゃーい! わあ、大勢の団体さんね、ようこそ!」
片手を目の上に当ててきょろきょろと周囲を見渡しているのは、ミリアム。
彼女の後ろから、異世界からやって来た特異者と呼ばれる者達がぞろぞろと続いていた。
しかしそれとは気付かず、彼らを出迎えるサニー。
「楽しそう!」
「楽しいわよ!」
初対面のミリアムとサニーは、どこか通じる所があるのかがっちりと握手を交わす。
「んー、はじめてさんがいっぱいだね。まあ、これでも食べて楽しんでってよ」
サニーと共に出迎えていたルカルカが、棒に刺さったフルーツや菓子を渡していく。
「これは?」
「ふっふっふ、ルカルカと言えばチョコレート、チョコレートと言えばルカルカ! ということで、ルカの鍋はチョコフォンデュ!」
ダリルが温度を管理している鍋の中には、ルカルカが厳選したチョコレートがなみなみと入っていた。
「それじゃあ、ダリル、後はお願い!」
「おい、後はって……今までもずっと俺が見ていたんだが?」
「他の人の鍋を見て来るねー!」
ダリルの言葉も聞かず、片手を挙げて礼をすると早速他の鍋の味見へとダッシュするルカルカだった。
「まあまあ、鍋と言えば交流だからね」
イタリアンテイストのトマト鍋を作っているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、鍋をかき混ぜながら微笑む。
コンソメとホールトマトをベースに味は調えた。
具材も色々取り揃え、下ごしらえはOK。あとは煮込むだけ。
「そうそう、ほうれん草は軽く熱を通すだけ……っと」
「そうそう。エースは美味しく料理をするだけ」
「……何をしてるんだい、メシエ?」
エースは自分の横から口を出しているメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)をやや恨みがましそうに眺める。
メシエはパラソルで作った日影の下、椅子まで持ち出して寛いでいる。
「何を言っているんだい。具材は運んであげたじゃないか」
「それは感謝してるけど……」
「こうして温度を調整するのも、鍋を美味しく食べるテクニックのひとつだよ」
「それはそうかもしれないけど……」
「さあ、私がここまでやってあげたんだから、エースは美味しい鍋を作って、美味しく野菜や肉を焼いてくれたまえ」
「俺調理に忙しくて食べる暇ないよ!」
「それがエースの役目だろう?」
食べるのは自分の役目とばかりに椅子にふんぞり返るメシエ。
エースははあとため息をつくと、すぐまた鍋の様子を見ることに専念する。
※※※
「皆さんの鍋も、美味しそうですね」
「柚ちゃんのお鍋は何なのかな?」
「あっ、サニーさん、まだ早いですよ」
サニーの手を慌てて押し留めるのは、柚。
彼女が作っているのは、冷しゃぶ鍋だ。
引き上げたお肉を氷にくぐらせ、ピリっと辛いたれにつける。
「さあ、サニーさんどうぞ。これから後も、運営で大変なんだよね? 今くらいは落ち着いて食べてよ」
三月はサニーの分を確保すると、他の所から貰ってきた鍋のお椀と一緒にテーブルに並べる。
「……ありがとう」
サニーは若干元気のない様子で三月に答える。
その様子が気になって、三月はサニーを覗き込む。
「――どうかした?」
「う、ううん、なんでもない! なんでもな……ひゃあっ!?」
慌てて手を振った拍子に、サニーの手がお椀に当たった。
汁が手にかかる。
「大丈夫!? とりあえず冷やしてこなきゃ!」
「三月ちゃん、付いていってあげて!」
三月はサニーを抱えるようにして、事務所代わりの小屋へと運び込む。
「ご、ごめんなさい……」
「気にしないで。それより、早く冷やそう!」
手早く火傷を冷やす三月の背中に温かい物が触れた。
「ごめんなさい……」
「サニーさん?」
「クリスマスも、バレンタインも、お店が忙しくって全然一緒にいられなくって……こんな、彼女でごめんなさい……」
「そんな、全然気にしてないよ!」
「ちょっとは気にしてくれると嬉しいんだけど……」
「あ、うん、寂しかったよ」
「ごめんなさいぃ……」
再び沈み込むサニーの声に、三月は慌てて振り返る。
「で、でもほら、今はこうして一緒なんだしさ」
「うん……」
そっとサニーの肩を抱いた三月は、サニーの水着に茶色い斑点があるのに気づいた。
「……ねえ、サニーさん。水着も、鍋で汚れてるよ」
「え、あ……」
「……着替え、手伝ってあげようか?」
「……ん」
三月の手が水着に伸びる。
二人が柚の元に戻るのは、少しだけ遅くなった。
※※※
「食べるのもいいが、作るのも面白いかもしれん。一緒にどうだ?」
「……ああ」
「そうですね。よろしければお手伝いさせてください」
清泉 北都(いずみ・ほくと)が作っているのは、きのこ鍋。
それを見に来たムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)と『弟』のムシミス・ジャウ(むしみす・じゃう)に、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)は声をかけた。
ムティルはやや心配そうに、ムシミスはどこか挑むように答える。
「そうだねー。それじゃあ、きのこの下処理をやってもらおうかな」
根菜と鳥団子の準備をしている北都は、ざるの上に山のように積まれたきのこを差し出した。
「大丈夫。根本の要らない部分を切るのはモーちゃんにやってもらうから。包丁は使わないで、手で小分けしてくれればいいよ」
「あ、ああ。それくらいなら……」
「そうですね。僕が包丁を持ったら危ないかもしれませんね」
やや洒落にならないムシミスの笑顔と台詞に一瞬その場の温度が下がるが、モーベットは気にせずムティルの手を取る。
「こうして、こう……裂けばいい」
「……ああ」
モーベットに言われた通りにきのこに手を伸ばすムティル。
ムシミスも黙ってそれに倣う。
しばらく無言のまま、作業が続いた。
「……なかなか扱いが上手いな」
ムティルの手元を覗き込んだモーベットが小さく囁く。
「きのこなだけに、か?」
ぐ、とムティルの手が止まる。
(……最近は、お前以外に触れてはいないことくらい、お前が一番よく知っているだろう)
「我はただきのこの話をしただけだが?」
「……後で覚えていろ」
しれっと返すモーベットに僅かに恨みがましげな視線を送るムティル。
その仕返しは、後に温泉の岩場の影で果たされることとなる。
※※※
「雅羅、まずはこれを飲んで!」
「これは?」
想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が鍋作りの前に雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)に渡したのは、胃腸薬とミネラルウォーター。
「だって、ウェザーのイベントだよ。食べ過ぎとか、変な物を食べる前に用心しておくに越したことないじゃないか」
「そうね……ありがとう」
夢悠の言葉に素直に頷くと薬を飲む雅羅。
「よし、それじゃあ……ってわけじゃないけど、オレの鍋も味見してみてよ」
夢悠が作っているのはじゅんさい鍋。
初夏が旬のじゅんさいをメインに、長ネギ、椎茸、ごぼう、にんじん、鶏肉などが入った和風鶏がら鍋だ。
「ありがとう」
はむ……と、雅羅が箸を運ぶ。
「どうかな、口に合えば良いんだけど……」
口調は軽いが、内心はかなり緊張気味に夢悠は問う。
何しろ、この瞬間のために数日前から鍋の練習をしてきたのだから。
「ん……美味しいわ。さっぱりしてるけど、コクがあって。これは鳥の旨みかしら」
「本当!?」
やったあとガッツポーズをとる夢悠。
鍋を無事食べ終わり、何事もなく済んだとほっと肩の荷を下ろす。
そう、鍋だけは、無事に終わったのだが……
※※※
「るーんるるーんるーん」
上機嫌で歌を口ずさみながら鍋を料理しているのは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)。
今日も今日とて愛する妻子の元にいる御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に代って、ノーンはイベントに参加していた。
「わたし暑いのは苦手だけど、熱いのは平気だよ!」
そう呟きながら、額に汗して作っているのは夏野菜と豚肉のしゃぶしゃぶ鍋。
ナスにカボチャ、レタスにトウモロコシ、そして豚肉。
しゃぶしゃぶしたら、ゴマダレでどうぞ!
「大丈夫?」
「ひゃっ!?」
そんなノーンのほっぺに冷たい物が当たった。
ウェザーの店員で鍋会の見回りをしていたレインが、飲み物を持ってやって来たのだ。
「すごい汗かいてるじゃないか。ちゃんと水分は取れよ」
「うーん、ありがとう! 皆にいっぱい食べて欲しくって、つい張りきっちゃった!」
「本当だ、すごい量だね」
苦笑するレインに、ノーンはめいっぱいの笑顔を向ける。
「いっぱい来てくれるといいね。楽しみだねー」
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