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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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 あの人の墓
 
 
 
 都会から遠く隔たった田舎の田舎。
 そこにある山道を、比賀 一(ひが・はじめ)ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)はもう、1時間近く登り続けていた。
 山道、といっても歩く人の無い道はほとんど草木に埋もれかけている。
 殆ど道として機能していないような道を行くハーヴェインの息はぜぇぜぇと上がっていた。
「……あのなぁ、何でこの俺が墓石を担ぐ羽目になってんだ?」
 荒い息の大きな原因は、ハーヴェインが背に担いだ墓石にある。
 山道を歩くには全くふさわしくない荷物だが、これが一がこの山に来た目的の為に不可欠な物なのだった。
 
 細くうねうねとした山道を登って行くと、少し開けた場所に出た。
「此処だ」
 一が示した所には、長い間雨ざらしになっていた為に苔が生え、黒ずみ朽ちかけた木ぎれがあった。
「何だこれは?」
「俺が作った墓だ。といっても、そこらへんの木材を拝借して作っただけのものだけど」
 その時はこれが精一杯だった。けれど今は違う。
 恩人である『あの人』の墓を新しく作る為に、一はこの山に戻ってきたのだった。
 
 
「ほお、一の育ての親か。よく過去なんて覚えてない、なんて言ってるから過去を棄て去ったもんだと思っていたんだがな」
 カップ酒をぐびりとやりながら言うハーヴェインに、
「実際、あんまり覚えていないんだ」
 と一は答えた。
 そう……あの人と過ごした日々は、実はあんまり覚えていない。
 申し訳ないくらいにうっすらとしか。
 あの人との暮らしは楽しかったはずなのに。
 身寄りもなく彷徨っていた一を拾ってくれた恩人だというのに。
 顔すらもぼんやりとしか浮かんでこない。ただ、そのぼんやりした霞の向こうには優しい笑顔があったような気がする。
「結局俺、あの人には何も恩返しが出来なかった。こうやって墓を作ってやることしか」
 ぽつり、ぽつり、と一は覚えている限りのことを噛みしめるように話した。
「ここ、あの人が好きな場所だったんだよな……」
 一は空を見上げた。
 ちょうど山の木々が途切れているここからは、空が一際青く見渡せる。
 休みの日にはいつもここに連れてきてもらって、2人で空を見上げた。
 だからあの人が死んだとき、一は此処に葬ろうと決めたのだ。ここならばずっと心ゆくまで空を見られるだろうからと。
 そして……1人であの人を担いで山道を登り、1人で穴を掘って、1人であの人を埋めて、1人であの人の……そこまで考えて、もう止そうと一は首を振った。
 目の奥に蘇る、あの人をたった1人で埋葬しようとしている自分の姿を振り切ると、一は朽ちかけた木の墓を取り払い、ハーヴェインが運んできた墓石を据えた。
 ついでに、周りに生えた丈の高い草も刈ってこざっぱりとさせると、軽く柏手を打って目を閉じた。
 あの人に言いたいことはいっぱいあった。あるはずだった。
 でも、色々なことがごちゃ混ぜになって、結局何も言葉は浮かんで来なかった。
 
「また、此処に来られるのかな……」
 呟く一の横で、ハーヴェインは墓石に話しかける。
「なぁ親御さんよ、心配なさんな。一はこの通り元気だ。こいつのことは俺がしっかりと見守る。それからこれ、俺からのお供えな。飲みかけだけど」
 こつん、とハーヴェインは半分以上飲んだカップ酒を墓に供えた。それに気づいた一が、むっとした顔でハーヴェインを睨む。
「おい、人が珍しくしんみりしてるってのに、横で何をのんきに酒なんて飲んでんだよこの飲んだくれヒゲ天使が!」
「んだと、人をこき使いやがってこの野郎。酒でも飲まなきゃやってられねぇってんだ」
 たちまちいつもの調子に戻った2人の声が、しんみりとしかかった山の空気をかき回していった――。