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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

リアクション


・シスター・エルザ


「確認致しました。どうぞこちらへ」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、ロンドンの社交界への潜入を果たしていた。
(思っていたより、すんなり入れたな)
 それなりにフォーマルで高価な服を纏い、司城に書いてもらった紹介状の通り、将来有望な研究者として振舞う。
 やはり、「見掛けない顔だ」とは何度も言われた。そういうときは、司城の名前と『新世紀の六人』の肩書き、それと飛行機の中で頑張って丸暗記した論文の内容を話すことで対応する。
 すると、それだけで「いやあ、その若さですごいね」と感心された。よく理解してはいないが、論文の内容はそれだけ大層なものらしい。もっとも、なんとなく学者っぽく堂々と振舞っていたから、疑われなくなっただけかもしれないが。
(あれは……)
 一際目立つブロンド髪の美女の姿が目に入った。メアリー・フリージアである。
「あら、ここに来るのは初めてですの?」
 先日空京に来た際はかなりの騒ぎになっていたため、正悟も彼女の顔くらいは知っていた。
「緊張しなくて大丈夫ですわよ。確かに、皆さん各界では名の知れた方々ですが、ここでは普通にお話しながら楽しく過ごす場ですので」
 PASD情報管理部によれば、彼女は十人評議会のメンバーかもしれないとされているが、そんな風には見えない。
「メーアリー!」
 そこへ、このパーティには似つかわしくない、十二歳くらいの少女が寄ってきた。
「紹介しますわ。こちらはシスター・エルザ。こう見えても、『聖カテリーナアカデミー』の校長ですのよ」
「校長先生やってるわ。えっと、あなたは?」
 紹介状は本名で用意してもらってしまったため、素直に名乗る。
「如月 正悟です。えーっと、校長先生?」
 まあ、シャンバラには八歳の校長や五千歳のロリババアがいるので、別に驚くほどではないが。
 シスターってことは、F.R.A.Gの設立宣言をした『教会』のマヌエル枢機卿、あるいはヴァチカンと関係があるのだろうか。
「そうよ。イタリアにある契約者育成のための学校。それが『聖カテリーナアカデミー』よ。メアリーには今年度からの新制服のデザインをしてもらったの」
 見た目の割りに落ち着いた話し方であることから、見かけ通りの年齢ではないのだろう。とはいえ、ここにいることも考えれば、地球人ではあるはずだが。
「あ、少し失礼」
 一旦会場を出て、化粧室へ行く。
(やっぱり、そう簡単に敵の尻尾は掴めないか)
 半ば諦めたような調子で、戻ろうとする。

「さて、遠路はるばる何をしに来たのかしら? シャンバラの契約者さん?」

 化粧室を出たところで、幼女――シスター・エルザから声を掛けられた。
「訂正。どうやってここの存在を知ったのかしら? 『新世紀の六人』には、もう招待状は送られてないはずだから、今日だってことは分からないはずよ」
 ニヤニヤと嫌らしく目を細めながら正悟を見やる。
「何者だ?」
「さっき言ったでしょ? しがない校長よ。F.R.A.Gと提携してクルキアータのパイロット養成を始めた学校の、ね」
「なるほど、反シャンバラ筆頭というわけか」
 十人評議会かは別として、対立勢力の主要人物であることに変わりはない。
「現状は戦うつもりも敵対するつもりもない。ただ、知りたかっただけだ」
「何を?」
「あんた達のトップの意思……それが俺の目的に合致するかどうかだけだ。お互いに協力出来るかどうか……俺にはそこそこ利用価値はあると思うが?」
「ふうん。その言い草だと校長である私の上に、まだ何かがいると思ってるようだけど?」
 正悟を試すような口調だ。
「F.R.A.Gの名前が出たからな。マヌエル枢機卿も、色々噂が流れている人物だ。あんたとその枢機卿、二人で地球の反シャンバラ勢力を一つにまとめ上げようとしているようには思えなくてな」
「あなた……面白いわね。そうだ、ちょっと、学校見学に来ない?」
「学校見学?」
「あなたは利用し、利用されるという駆け引きを楽しもうとしているように見えるわ。ならば、私達の『利用価値』も見極めないと、条件に合わないでしょう? 別に、あなたの目的はどうでもいいわ。単に、ゲームをしましょう、という誘いよ」
 それは、まるで面白い玩具を見つけたときの子供のような笑顔だった。
「ダリアちゃんが、天御柱学院の生徒を『事情聴取』って名目でウクライナから連れてきたみたいだし、あたしのところにも連れてきてくれるみたいだから、きっと楽しい話も聞けるわよ」
「少し考える時間をくれ」
「いいわよ。別に強制じゃない。あなたの意思で選べばいいわ」