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リアクション
同時刻。
種子島の海岸線に急増された滑走路から、LLサイズの飛行型イコンウィスタリアは、支給されたロケットブースターを装着し終えて空の彼方へと飛び去って行った。
「日本政府の思惑はどうあれ、ロケットブースターを貸してもらえるのは、悪くないよな」
天御柱学院生の柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は、整備役として動力の装填も終え、上空へと急上昇するイコンの中から外を見る。ロケット基地は瞬く間に見えなくなっていた。
元々、ウィスタリアは単独で大気圏を突破することができた。わざわざ種子島へと立ち寄ったのは、燃料経費節約のためロケットブースターを借りに来たためだった。それも、装備し終えてしまえば種子島に長居する理由もない。
他の契約者たちが続々と目的地へと向かう中、ウィスタリアも危険な人工衛星へ向けて発進していた。
操縦するのは桂輔のパートナーでウィスタリアのメインパイロットのアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)だ。桂輔はこのイコンを動かせないため、道中は整備班と一緒に同行しているイコンやシャトルの整備をすることになる。全長300mもある巨大な飛行型イコンのウィスタリアには、他にもパラミタからの志願者が同乗していた。
「人工衛星の所に到着するまでに、参加者たちと顔合わせができるのは有難い」
パラ実出身だが正規志願者の酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、今のうちにと、他の参加者たちと打ち合わせをしていた。作戦が始まる前にテレパシーによる会話と意思疎通の統一をしておく必要があった。
「コミュニケーションについては任せるよ。俺は、イコンは万全の態勢で現場に送り出すのが仕事だから」
桂輔たちは、機内でもくつろいでいる暇はなかった。
事前に借りてきた地図を元に航路を定めなければならないし、目的地に到着してからの手順も統一しておかなければならない。あらゆる事態を想定して予行演習が始まった。
そのウィスタリアを追うように、パラミタからはリネンたちの超特大イコンガーディアンヴァルキリーが浮上していくのが見えた。どちらも存在感は抜群だ。
ここからしばらくの間、両機は並行して飛ぶことになる。
「おいおい、あんなデカブツが出てくるなんて聞いてないぞ。向こうはどうなっているんだ?」
ウィスタリアの艦内からガーディアンヴァルキリーを見た陽一は、驚きの声を上げた。
彼は、パラミタから直接宇宙へ向かうことはなく、他の志願者たちと種子島で合流し、集団行動第一にこのウィスタリアに乗り込んでいた。その他の大勢の契約者や志願者たちも同乗しており、作戦行動を共にするのだ。
聞くところによると、ガーディアンヴァルキリーは大気圏脱出後、衛星軌道上に静止し宇宙基地としての役目も果たす予定だという。
「あの大きいのと連携したいんだが、連絡取れるのか?」
陽一がコックピットを訪ねると、操縦を続けていたアルマが答えた。
「通信関係はクルーたちに任せてありますから、彼らと打ち合わせしてください」
アルマは、ウィスタリアの通信や策敵を【精鋭クルー】に手伝わせていた。本来なら彼女一人でこの機体を全て操れるのだが、万全を期すために操船に専念していた。作戦行動に積極的に関わることはなく、安全輸送を第一とするようだ。
「あちら側も、単独で指揮権を有しており単独行動をする旨が伝えられていますけど」
ガーディアンヴァルキリーと通信していたクルーの一人が、どうします? と確認する。
「うーん? というか、そもそもこの作戦の総指揮官は誰だっけ?」
陽一は、思い出したように言った。事件を聞きつけるなり、志願者たちは我先にと飛び出していたのだ。その勇気と熱意は素晴らしいが、何も決められていないというのも彼ららしい。契約者たちは皆独立心が旺盛で個性的なのだ。
「このイコンの指揮官はアルマだけど、作戦行動全体の総指揮官は少佐じゃね? 階級的に一番上だよな?」
航路の策定をしていた桂輔は、志願者たちの顔を見回した。
さすがに危険な任務に就こうというだけあって、皆歴戦のつわものだ。その中でも、やはり軍事行動に準ずる活動はシャンバラ教導団が中心になることが多い。代表者会議でも、金鋭峰が議長役を務めていたようだし、重い責任を負うのは軍人と相場が決まっている。
「だそうだけど、どうするんだ、少佐?」
陽一は尋ねた。
志願者の中で教導団少佐と言えばご存じのとおりルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
彼女らは、専用機で種子島へと到着した後は、単独行動をすることなく他校生たちと合流していた。
普段はフットワークの良いルカルカたちだが、今回は金団長直々の指示で、作戦全体を見渡しながらの行動が求められていた。いつものように、真っ先に自分たちだけで先行するわけにはいかなかったのだ。志願者たちが集合するのを待ち、点呼を取って手続きを終え出発の号令を下した。この間、無駄なようで無駄ではない数時間が過ぎていた。
「団長の苦労がわかるわ」
ルカルカが思わず苦笑を漏らすほど、集団をまとめ上げるのは難しい。しかし、彼女は教導旗に誓ったのだ。金団長の側近に等しい働きをすると。それはすなわち、団長不在の場合は彼に匹敵する役柄が求められる。ルカルカは自分を殺し、集団行動を第一に選んだ。
自分たちだけではなく、志願者全員が。安全で確実な任務を遂行できるように全力を尽くす。
そしてルカルカは教導団の機体を使わず自分のイコンで一人飛び出すこともなく、全体が見渡しやすいこのウィスタリアを旗艦に指定して、パートナーたちとともに乗り込んでいたのだった。この艦船には他校の生徒たちも同乗している。即興メンバーで息を合わせるのが大変だが、教導団のスタッフだけを使うよりも多様な部隊運用が期待できた。
ルカルカは、一時的に設けられた司令ブースで全面いっぱいに広がる作戦スクリーンを見つめている。運行責任者はアルマなので、航行については彼女は極力口を挟まないでいようと考えていた。
未確認飛行物体がパラミタから突然出撃してきたので警戒していたのだが、ガーディアンヴァルキリーの正体がわかって唖然としたようだった。
「初めて見る巨大イコンね。……って、あの新造艦、未登録の空賊母艦じゃないの。何を考えているのよ? 停船を呼びかけて」
ルカルカが飛行ルールに則って運行を中止させようかと考えていたところ、やっとガーディアンヴァルキリーとの通信がつながった。
「ごめんなさぁ〜い。他の機体と通信するのは初めてでしてぇ……」
ガーディアンヴァルキリーを操っているミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)が話しかけてきた。ミュートは、スキルの【特殊機体知識】と【機晶脳化】で艦と直結して操作していた。ウィスタリアからは見えないが、四肢を外して操縦装置に埋め込まれるように接続されている。精神そのものがリンクしていた。
「初フライトで慣れないところもあるかもしれませんけどぉ、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いしますぅ〜」
「あなたたち、飛行計画書と各種申請書が提出されていないけどどういうことなの?」
データベースを調べていたルカルカは、軍人として当然の質問をした。普段は明るく大らかに見える彼女も、作戦行動まで大ざっぱというわけではない。規則は規則として重要なのだ。
「え〜っと……。よくわかりませんですぅ。なにぶん初めてなものでして〜」
ミュートはちょっと困った口調で答えた。
手続きなどはすでに済ませてあるのだろうと当然のように考えていたのだが、彼女は操縦するためだけに呼ばれたので本当にどうなっているのか把握していなかった。
「はぁ? 申請とか、何を言ってるの? 空賊にルールなんて必要ないことくらいわかってるでしょ」
ミュートに代わってヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)がガーディアンヴァルキリーの通信システムから答えてくる。
ヘリワードは【優れた指揮官】を始めとして艦載機含めた全体の指揮をする能力を持っていた。そもそも、空賊である彼女らは誰に指図される覚えもなかった。
「少なくとも、そちらに迷惑をかけるつもりはないわ。作戦行動にも協力するから、一緒に目的を達成しましょう」
ヘリワードは、ウィスタリアのメンバーとは対抗する理由も特になかったので作戦行動では歩調を合わせるつもりだった。彼女らにとって重要なことは主導権争いではなく、大気圏外を漂う危険な人工衛星を解体することであることくらいは言われなくても分かっている。即興部隊なので、大切なところ以外は大らかにさせておくつもりだ。
「この作戦は、公式には準軍事的行動とみなされているの。あなたたちの活動は聞いているけど、一応電子申請書にサインしておいて」
ルカルカは、やんわりとガーディアンヴァルキリーに必要な手続きを促した。スタッフを通じて指示書と契約書が電送される。
「面倒ね。そっちで勝手にサインしておいてくれていいわよ。あたしたちには軍だの学校だの司令なんか関係ないの。純粋な善意の下、伊達と酔狂でボランティア活動しているんだから。万一、事故が起こっても保障なんか求めてないわよ」
これだから軍人は……、とヘリワードは肩をすくめる仕草をした。
「そちらがガーディアンヴァルキリーに合流したほうが話は早いわよ。そちらのイコンも収容できる大きさだから、空の向こうまで連れて行ってあげる」
「せっかくですがお断りします」
空賊母艦からの提案に、アルマが答えた。
「こちらも旗艦でありそれなりの装備と命令系統を持っていますので」
「指揮命令系統を争っても仕方ないと思うけど?」
ヘリワードは言う。彼女らは、輸送機として参加したのだ。解体作業にまで口を出そうとは考えていなかった。
「それ以前の問題ですよ。あなたたち、空賊じゃないですか?」
アルマは言いづらいことをズバリと言った。
二人のやり取りを見ていた艦内のメンバーがざわり、とざわめく。
「これまで、どれほどの実績を挙げてきたかは知りませんが、世間一般的観点から言うと、あなたたちはならず者。まさしく、“賊”なのですよ」
「……喧嘩売ってんの?」
ヘリワードもピクリと反応する。
要するに、「お前ら胡散臭いから、組むわけねーだろ!」と正面から言われてしまったのだ。黙って引き下がるほどヘリワードは腑抜けてはいない。
「本来、空はあたしたちの領域なのよ。今回は、優しくエスコートしてあげようと思っているだけじゃない。あたしたちの縄張りに入ってきておいて、無事に通れるだけでもありがたいと思ったほうがいいんじゃないかしら」
「はっ、縄張りとか……!? ヤクザの言い分ですね」
アルマは鼻で笑った。
意識して挑発しているわけではないのだが、冷徹で合理的な彼女にとってアウトローを名乗るチームと共同作業するのはメリットよりもデメリットのほうが大きいように思えた。相手を信用できない、ということは最も危険で効率の悪いことだ。
「あなたたちこそ自覚したほうがいいですよ。ルカルカは、メンバーのためにそしてあなたたちの身の安全のために自我を抑えて、『お前ら未確認艦船だけど、書類にサインしてルール守るなら、作戦行動中は攻撃しないでおいてやる』って穏やかに警告してくれているのです。その隙に付けこむつもりなら、私は威嚇射撃も辞さないつもりですよ。航行中は、私が指揮官ですから」
「いや、私は別にそこまで言ってないわよ。準軍事行動として連携と協調を保とうとしているだけで」
ルカルカは言う。とはいえ、あまり自由奔放に振る舞われても困るのだが。
「あたしたち、何か悪いことをしたかしら? まさか、いわれもなく偏見を抱いているわけじゃないわよね。ただ空賊というネーミングの響きだけで排除しようというなら、あなたたち軽蔑の対象だわ。人間性を疑うわよ」
ヘリワードも嫌味っぽく笑みを浮かべた。穏便に済ませるのだけが良いことだとは、彼女は思ってはいない。
「……」
「……」
はからずしも通信画面越しに睨み合うアルマとヘリワード。
誰もが割って入りがたい緊迫感が一瞬にして両者の間に充満する。対決ムードになっていた。
様子を見ていた桂輔は、黙って後ろに下がった。立場上止めたほうがいいのだろうが、アルマがこれだけ機嫌を損ねるのは、よほどあの空賊たちと相性が悪いのだろう。彼女らに責任があるわけではない。本当に合わない性格というのはあるものだ。そしてそれは一目でわかる。無理して仲良くしてもしこりが残るだけなのでは、と思った。やるならパーッとやったほうがいい。
「……」
ルカルカも制止しなかった。タシガンの空賊団の噂は彼女も聞いている。義賊と呼ばれるだけあって人物的には悪人ではない娘たちばかりだ。だが、そもそも軍人はアウトローと正反対の存在なのだ。価値観が全く違うし、相性も良くない。ルカルカの正義とヘリワードの正義はベクトルの向きが違う。強いて友好的になる必要性も感じないし、敵意を向けてくるなら相手になることやぶさかではない。ルカルカは、「避けておいたほうがいいんじゃないかな?」という視線を向けるだけにとどめておいた。彼女のパートナーたちも黙って様子を見ている。
ヘリワードの背後で、「おい、やめとけ」などと諌めるフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の声が聞こえるが、効果はなかった。
険悪な沈黙ののち。
「ねえ、澄ました顔して気取ってないではっきりと言ったらどうなの? 『てめー、なんか初見でムカつくんだよ!』ってことよね? いいわよ。あたしも、そういうの嫌いじゃないから。一目で、相性が合わない相手だってわかることもあるし。そういう場合は、無理に仲良くする必要はないと思うわ。すっきりと決着をつけたほうがいいわよね」
ヘリワードは、通信モニターの向こうで「ちょっと表でようか?」と指差した。顔は笑っているが、全身のオーラは笑っていない。
「ならず者らしく野蛮ですね。お外に出たいのでしたら、お一人でどうぞ。寒いので風邪をひかないでくださいね」
アルマは取り合わなかった。
「あれれ? もしかして、怖気づいたの? お友達に護られながらお外に出てきてもいいのよ? それとも、お友達もいないのかしら?」
ヘリワードは嘲笑を交えながら返す。
「そのデカブツ、装備している武装に自信がないから個人の腕力で勝負したいんでしょう? あいにく私は文明の中で生きていますのでイコンの力を信じていますけど」
相対するガーディアンヴァルキリーが有効的な武装をしていないのを見て取ったアルマは、ウィスタリアの主装備を相手に向けた。やるなら、イコン同士の戦いで、とアルマは言う。
「図体の大きさだけが取り柄なら、逃げていいのですよ? 無事に逃げ切れたら見逃してあげないでもありません」
アルマはウィスタリアで、全長1.6キロにも及ぶ機動要塞に挑むつもりだった。イコンの強さは大きさでは決まらない。彼女も負けるつもりはなかった。
一触即発!
個人戦か、ともにLLサイズの飛行型イコン同士のドッグファイトか……!?
同乗している契約者やスタッフたちも、二人の怒気に押されて息をのむ。
どうしてこうなったのか? 目的を同じくするはずの二組が修復不能と思えるほど敵対するとは。
それぞれの陣営が航行指揮官を羽交い絞めにしてでも強引に止めようとする。頭に血がの上りつつある彼女らも抵抗するだろうし、内部で乱闘になるかもしれない。
これは、仲間割れ必至か。最悪の戦闘になる、と誰もが思った時。
突然、作戦パネルの映像が変わった。
【極秘任務】例のアレをあそこに行ってナニするスレ【志願者募集中】
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214 名前: 天空騎士 2023/10/30 (土) 16:42:03
電子文書にサインした ....φ( ̄ー ̄)v
215 名前: 機械神 2023/10/30 (土) 16:43:29
確かに受理した( ・∀・)つ◇ ←
216 名前: 天空騎士 2023/10/30 (土) 16:44:30
(・∀・)人(・∀・)ナカーマ!
217 名前: 機械神 2023/10/30 (土) 16:45:16!
ナカーマヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノナカーマ!
どどどっ!
緊張感のギャップに全員がずっこけそうになった。一瞬何が起こったかわからなかった。
「見ての通りよ!」
別回線から元気のいい声が割り込んできた。
「ヘリワード、いい加減にして。電子申請書類一式と作戦遂行契約書にサインしたから、そちらの軍人さんたちと協力し合いなさい!」
それは、管制を担当していたリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)だった。二人が争おうとしている間に必要な処理を済ませてしまったらしい。
全く……、ちょっと電子書類にサインするだけなのに、何を意地張ってるんだか。まあ、自由を好むヘリワードのこと。格式ばった儀式は拘束されるように感じるのかもしれないが、簡単な手続きくらいは気負わずやればいいじゃない、とリネンは言う。
「私たちにだって立場があるように、彼女らにだって立場があるんだから。理解して合わせてあげてね」
伴侶ができて性格が幾分丸くなったのか、リネンは物わかりのいいことを言った。彼女らは、ただのアウトローではない。柔軟性にも富んでいるのだ。
「共同作戦を行うに当たって、お互いがもう少し親密になる口実がほしかったんだろ、ルカ。彼女らの必要手続きを意志は受け取った。これで十分だ」
パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がマイクの向こうで言った。双方のぎこちない接触に、何をやっているんだか? と含み笑いを噛み殺した様子。
「そんなつもりはなかったんだけどね。ダリルこそ『乙ちゃんねる』で何やってるのよ?」
ルカルカは呆れた口調で答えた。いずれにしろ、深刻な対立が避けれそうで何よりだ。
わずかの間に張りつめていた空気が弛緩していた。
「……」
桂輔は微苦笑を浮かべながら、アルマの肩に軽く手を乗せる。わかってるよ、どんまい、と無言で告げていた。
「……ごめんなさい。私も言い過ぎたところがありました」
気勢を削がれて脱力していたアルマは、表情の硬さを崩してヘリワードに言う。
「……。ぷぷっ……、くすくす……。……あははははははは」
ヘリワードは思わず噴き出していた。素直な明るい笑いだった。
ってか、リネンがどうして掲示板サイトに書き込みしてるの? その時の様子を想像するだけで、笑いが込み上げてきた。不意打ちが卑怯すぎる。怒気も吹き飛んでいた。
「……別に、仲直りしようなんて思ってないんだからね。ちょっと気合が入っちゃっただけなんだから。勘違いしないでよね!?」
ヘリワードはツンデレ口調で言った。演技ではなく素なのだが。
「ええ、よろしくお願いいたします。一緒に力を合わせて頑張りましょう」
アルマは、これにて手打ち、とすれ違いを長引かせないことを告げた。
「全く、しょうがないわね。手伝ってあげるわよ」
こちらは、元のツンデレに戻ってきたヘリワード。少しファーストコンタクトに齟齬があっただけで、本当はお人よしのいい娘なのだ。
「……」
皆がほっと胸をなでおろす中、しばらくの間黙って成り行きを見守っていた陽一は、こっそりと拳の親指を立てて、グッジョブと合図する。それに反応して、ガーディアンヴァルキリーのミュートからも、彼の個人端末に短い電文が返ってきた。
アルマとヘリワードが睨み合っている間、陽一はひそかに小型端末を通じてガーディアンヴァルキリーと連絡を取り合っていたのだ。意思疎通を図るために、相手側の全容を知っておきたかった。ミュートとの短いやり取りの末、一方で『乙ちゃんねる』で和解していたリネンとダリルの書き込みを見せてやろう、と表示することにしただけだ。
これがよいコミュニケーションなんだろう。志願者全員の意思疎通も上手くいくだろう。
ウィスタリアとガーディアンヴァルキリーは、並んで上昇を続けていた。
間もなく、彼らは大気圏を突破する。
通信ができなくなるのは、その直後の事であった……。