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夜更けのゴーストバスターズ

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夜更けのゴーストバスターズ

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2.ツッコミ隊が行く

 シイナは簡単な注意事項と宿直の2名が眠っていることを告げると、堂々と昇降口から校内へと侵入した。
 中は暗い。
 主電源が夜間は安全のため切られており、明かりが使えないためだ。
 月は別の方角にあるため、真っ暗ではないが前後の距離感はつかめない。

 しかし、こんな時とばかりに準備をはじめる者達の姿もある。
 
「さて、幽霊はどこにいるのかな?」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は「ちぎのたくらみ」で5歳の女の子に化けた。
 ついでに狼化したスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)と協力し、超感覚で幽霊がいないかどうかを探る。
「これでほんとうにゆうれいがいれば、よってくるはずだよね?」

 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は物珍しそうに田舎校舎の中を見回していた。
「どーせ、誰かのイタズラだろ?」
 彼は「イタズラ」と決め付けている。
「セキュリティスキル……『幽霊じゃない何かが幽霊と言われている』ていう観点でいいかな?」
 パートナーのクリュティにも指示を出す。
「不自然な機材の配置がないかどうか、注意していてくれ」

 日比谷 皐月(ひびや・さつき)はディフェンスシフトとファイアプロテクトで、全体の守りを固めておく。
「兎にも角にも、守る事が重要。それがオレの役目さ」

 だが、中にはベタな方もいるようで。
 
「わきゃああああ!?」
 突然、悲鳴が上がった。
 甲高い声だ。
 何事かと、一同が振り返る。
「ゆ、ゆゆゆ、幽霊があ! い、今そこにっ!」
「幽霊?」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)の言葉に一同はハッとする。
 だが彼女が「光精の指輪」で指差す先にいたのは、椿 薫(つばき・かおる)だった。
 薫は必死で首を振り、弁解する。
「拙者、違うでござる。誤解でござるよ」
 弁解しようと、錯乱したアリアの耳には届かない。
「セッシャ? セッセ? セッセッセ?」
 しまいには、『切腹』と聞き間違え。
「お、おおおおおお『落武者の霊』とか?」
「拙者、『落ち武者』殿ではござらんぞ! どちらかというと『忍者』の方が……」
「何!? 何なの!? いやあ、来ないでええええええーっ!」
 アリアは蠢く影に、「武器の聖化」を利き手にかける。
 輝く手で、必殺の「シャイニングびんた」!
 あまりに有り得ない展開と馬鹿さ加減に、一同は声をかける気力もない。
 
 そんなことが続くと、常識人は心を痛めてしまうようで。

「仕方がない……」
 急に周囲がポウッと明るくなった。
 デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)が光術で明りを作り出した。
「これで、カンテラ代わりくらいにはなるであろう」
「すまない、助かる」
 先頭のシイナは、この日初めて人に頭を下げた。
 この後、カンテラ代わりを果たした彼は一行から深く感謝される事となる。
 だが、1人では足りない。
 彼を見習い、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)神和 綺人(かんなぎ・あやと)松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は「光精の指輪」で。
 サラ・アーネスト(さら・あーねすと)甲斐 英虎(かい・ひでとら)は「光条兵器」で。
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)雨宮 七日(あめみや・なのか)は「光術」で、明りを作る。
 エル・ウィンド(える・うぃんど)は光術とヒロイックアサルトのスキルを使い、ナナとシイナの行く手を照らす。

 一方で、明るさは別の効果をも生み出すらしい。

「今をおいて、他に勝機はないわっ!」
 拳をグッと握り、中原 鞆絵(なかはら・ともえ)の「至れり尽くせり」で御神楽 環菜(みかぐら・かんな)に化けたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、力強く頷くと一行の前に現れた。
 驚き、立ち止まる一行。
 体形が似ているせいもあって、それは本物そっくりの「偽カンナ」である。
「あなた達、こんな時間にゾロゾロと集まって何をしているのかしら?
 ……そう、何にせよこのまま帰るつもりじゃないでしょうね。
 きちんと後片付けをしていくように。
 もし、していなかったらどうなるか……」
 恐怖にひきつる蒼空学園の面々。
 と、その時である。
「ありがとうございます、ありがとうございます! 理事長様!」
 最後尾に控えていたナナが、急に出てきてリカインを連れ去った。
 あっという間の出来事だった。
「幽霊騒ぎを聞きつけて、心配のあまりお越し下さるとは!
 あ、ありがとうございます!
 では、まずは『音楽室から』」
 そのまま、廊下の果てへと消えてゆく。
「いやー、私、暗いの嫌なのおおおおおおおおおおっ!」
 リカインの絶叫が轟く。
 
 鞆絵は追いかけて行くべきかどうか、しばらく真剣に悩んだとか。

 ◆ ◆ ◆

 リカインがナナに拉致された、ちょうどその頃――。
 
 最初の目的地「音楽室」では、彼らと正対する目的の者達がやはり同じ熱心さで準備を行っていた。
 【GHP】の鬼崎 朔(きざき・さく)ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)エリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)である。
 4人は「幽霊擁護」ため、トラッパーで罠を仕掛けようとしていたのだが……。

 ハアハアと荒い息を吐いて、朔、ブラッドクロス、エリヌース、スカサハは音楽室に入ってくる。
「夜中の校内で音楽室にたどり着くことが、こんなに大変なこととは思わなかったですね」
 朔は素直に感想を述べて、その場にへたり込んだ。
 初めてのキャンパスなのだ。勝手がわからない。
 他のメンバーも無事に着けたことだろうかと、朔は心配する。
「おまけにシイナ達からも見つからないように、動かなくちゃいけないしね」
 ブラッドクロスは疲れ果てて答える。
「とにかく準備しよー。どうすればいい? エリヌース」
 彼女は袋からバラバラと材料を取り出す。
 コンニャク、ペンライト、糸等々……。
 エリヌースはまずコンニャクと糸を手に取ると。
「こうするんだよー」
 見本を作って見せる。
 そればかりではない。
 道具を使い、次々とトラップを考案する。
「死者を敬ない愚かな生者どもよ!
 この復讐の代行者たるあたしが、お前らを死なない程度に成敗してくれる!」
 朔達は見本を基にトラッパーで黙々と仕上げて行く。
 その時。
「出来たであります! 朔様」
 ピアノの影から顔を出したのはスカサハだった。
 背後では、メモリープロジェクトで作りだした「自動演奏ピアノ」が怪しく曲を奏でている。
「爆弾なんて甘いのであります!
 使うならミサイルなのであります!
 それをシイナに身をもって教えてやるのが、スカサハの使命であります!」
 どこかピントがずれていると思うのだが。
 彼女は至って真面目に宣言して、朔に合図を送る。
「とにかくこれで準備が整ましたね」
 朔は1つ頷くと、煙幕ファンデーションを施す。
 そしてブラッドクロスと共に光条兵器の赤い鬼火を作ると、不敵な笑みを浮かべるのだった。
「さあ、来るのだ! 鹿島 シイナ。ファイファーッ!」
 
 その様子を物陰から盗み見て、遅れて到着した雪華は腕組みして考える。
「一足違いやったか、残念」
 と言う訳で、ヘルゲイト・ダストライフ(へるげいと・だすとらいふ)に作戦変更のメールを入れた。
「【護衛隊】の後について、機会をうかがうことにするで! あ、うちは疲れたんで、ここで待っとるわ」

 図書室でも【GHP】のメンバー――四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)がせっせと罠を張っていた。
 だが朔と同じく、2人とも既に疲れ果てている。
「校内で迷ってしまったですー……」
 エラノールが呟く。
 2人は初めて来たキャンパスに、まごついてしまったようだ。
「エル、しっかり! もう少しだから」
 唯乃はエラノールを励ます。
 だが疲れているのは彼女も同じだ。
(でも私達がやらなくちゃ! 誰が可哀相な幽霊を庇ってあげられるの?)
 そうよ! と彼女は呟いた。
「やるべき時には、やらないとね」
 彼女は金ダライを廊下の水飲み場から持ってくる。
 本やペンは持ってきたので、材料は大丈夫だ。
「さあ、頑張りましょう! エル。あと一息よ」
「はい、頑張ります! 大丈夫ですー」
 エラノールは唯乃に励まされて、最後の力で騒霊トラップ(本やらペンやらを飛ばす)、本雪崩トラップ(本を引き抜くと雪崩れる)、金ダライトラップ(古典的トラップ)をトラッパーを用いて仕掛ける。
 彼女の様子を、本棚の上から満足げにうかがう唯乃は、
「さて、私も頑張らなくっちゃだわ」
 眠たい目をこすりつつ、光術で「偽人魂」を作りはじめるのだった。
 
 廊下の角では、【GHP】とは何の関係もない終夏が控え、光術の光を足元から照らしつつ不気味に笑う。
「ま、備えあれば憂いなしだよね。あっはははーっ」
 だがその顔にはやはり疲れがにじみ出ている。
 
 学食の厨房でも、到着したばかりの【GHP】赤羽 美央(あかばね・みお)椎堂 紗月(しどう・さつき)椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)の3名が罠……というよりも、仮装をしていた。
 そして3人とも他のメンバー同様に疲れた顔で、準備にかかっている。
「美央ちゃん大丈夫! 俺が傍にいてあげるから、幽霊なんて怖くない怖くない」
 疲れ気味に振り返って心配するのは、お岩役の紗月だ。
 その顔は薄化粧を施しているが、見る者を怖がらせるかどうかは別の話。
「だって、美央ちゃんこれ以上化粧したら、怖がっちゃうしなあー」
 その隣で。
「紗月ちゃん、お皿足りないみたいなので持ってきました!!」
 美央は食器棚から皿ばかり持ってきている。
 その顔は既に蒼白で、どちらが「幽霊」役なのかわかったものではない。 
 2人を尻目に、アヤメは1人入口にトラップを仕掛けはじめていた。
 糸を仕掛け、引っ掛かると食器が頭から落ちてくるものだ。
「いつものこととはいえ……紗月も物好きだな」
 トラップを完成させたら、自身は「隠れ身」で「水道から水出したり火を点したり」等々……してみようと考えている。
 だがその手を止める。
 獣人の勘から眉をひそめた。
「何だ? 嫌な予感がする……」
 
 ◆ ◆ ◆

 ……そして、アヤメのこの予感は的中する。
 シイナ達が最初の目的地「音楽室」に到着したのは、1時間後のことだったのだ。