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リアクション
学食は広いが、窓も多いために、月明かりで明るい。
明りをつけていたデーゲンハルトらは、明りを消して室内に入って行った。
「これで最後の部屋だ、何があってもおかしくはないのだが……」
だが。
ここでも「幽霊」は見つからず、代わりに厨房で【GHP】の面々が見つかるだけにとどまった。
美央と紗月とアヤメの3名である。
「えーん、幽霊、怖い怖い怖い怖い怖いっ!」
と錯乱する美央の傍で。
「お岩メイク」の取れてしまった紗月と、トラップどころではなくなったアヤメが彼女を持て余していたのだ。
「8枚……9枚……て。皿数えてるだけだよ、ほら! 美央ちゃん」
「そうだ、赤羽。俺達なら大丈夫だろう?」
だが美央は2人を泣きそうな目で見て、皿を数えつつ。
「1枚、2枚……お岩さん、怖い怖い怖い怖い怖い〜〜〜〜〜〜っ!! えーん、怖いよおーっ! あっ、お皿、もうない……」
紗月とアヤメは疲れきった顔で、岩造に言った。
「まっ、こんなもんさ」
「サッサと連れて行け。赤羽がこのままでは哀れだ」
「…………」
と言う訳で、3人はあっけなく【龍雷連隊】フェイトとミランダにより楽器倉庫へと連行された。
だが他のメンバー同様、彼女達に真の結果が下されるのはまだ先のことである。
かくして「脅威」は「幽霊」のみとなった。
そうした次第で、他の部屋同様担当者数名を残し、シイナは各自の様子を見るために別行動を取ろうとする。
その際学食の指揮を、この部屋の調査担当者でもある岩造に任せることにした。
今までの誠実な行動により、彼が信頼を勝ち得た結果だ。
シイナとナナは要請に応じて仕事を手伝うべく、【護衛隊】と共に廊下へ出て行った。
そのナナを。
「ナナさん、ちょっと……」
遠慮がちに手招きをして、サラ・アーストが引き止める――。
◆ ◆ ◆
一方――。
静麻、レイナ、魅音、クリュティの4名は、廊下で調査の結果を話し合っていた。
静麻とクリュティの結果は、どちらも白だった。
機材に至っては、この校舎にはそもそも無駄な機材がなかったので。
「スキルを使ってさえ異常が無いってことは、『枯れ尾花』かもな」
静麻が断定する。
他の3人も頷いた。
「これほど何もない学校では、細工をしてもかえって目立ってしまいますし……」
クリュティが静麻の説を補強する。
「本物の幽霊さん、てことはないの?」
「本物だったら、別の奴が『ちぎのたくらみ』で寄せてた時に、とっくに出てきたさ」
「ふーん、ボク楽しみにしてたのにな。幽霊さんに会えるの」
魅音はとても残念そうだ。
レイナが尋ねる。
「これから、どうされるおつもりで?」
「決まってる。シイナ譲の件が残ってるだろう? 【護衛隊】と合流する」
静麻に指摘された、「ちぎのたくらみ」のリアトリスは元の姿に戻っていた。
その姿はオレンジのチャイナドレスで、スリットは深く、明らかに人目をひく。
しまったかなあ、と裾を恥ずかしそうに押さえて彼は呟いた。
「廊下を総て歩いても、何も出てこないということは……やはりイタズラだったのかな?」
「リアトリス・ウィリアムズ、これからどうするのだ?」
スプリングロンドが尋ねた。
エミィーリア・シュトラウス(えみぃーりあ・しゅとらうす)は彼の傍らに控えてひっそりと佇んでいる。
「そうだね。折角だからこのままシイナさん達についていくよ。万一、ということもあることだし」
「無茶はしないことですよ、リアトリス」
リアトリスは、柔らかな笑みで彼女に大丈夫だよ、と答えた。
そしてサラ・アーネスト(さら・あーねすと)はナナと廊下で密談していた。
ナナがいなければ移動出来ないシイナは、【護衛隊】を待機させて彼女達を待っている。
「分かりました。わたしの友達としてシイナさんに紹介すれば良いのですね?」
サラの申し出をナナは快諾した。
サラはシイナの手榴弾を何とかしようとするためにここへ来ていた。
そこでナナを呼びとめて、彼女の協力を仰いでいたのだ。
「爆弾談義で盛り上げて、シイナの歓心を買った後、『お手製手榴弾』を手に入れて処分したい」
そういう申し出だった。
「シイナさんも爆弾の話を語れる方のこと、きっと気に入られると思うし……」
オロオロとしながらも、ナナはシイナにサラを紹介する。
「あのね、シイナさん。こちらは友達の、サラ・アーネストさん」
「今晩はー」
サラは陽気に挨拶する。
「鹿島さん、手榴弾をお持ちなんですって? 実は私も教導団で習って……」
「教導団……そうか! では専門家なんだな? 君は」
シイナは目を輝かせて、あれこれと「濃い話」をする。
すっかり打ち解けたシイナは、「自分の方が武器を扱い慣れているので効果的に使える」というサラの話を頭から信じてしまった。
「そうだな、君は信用出来そうだし。ナナの友人でもあることだし。これは、いざという時のために預けておくとするか……」
「そうですよ、シイナさん。サラさんは信用出来る方ですから」
ナナの後押しもあって、シイナは自分の手榴弾をサラに預けることにする。
意外なことの成り行きにサラは驚いたが、取りあえずこれで回収には成功したようだ。
以後彼女はシイナの信用を得て、【護衛隊】と共に行動することとなる。
「ありがとうございます! ありがとうございます! これで爆破の危険もなくなって、安心しました」
ナナはサラに囁いて、シイナ以外の全員にメールで知らせた。
◆ ◆ ◆
ちょうどその頃――。
問題の白い物体――つまり「幽霊」は、静かな教室でセッセとチョークを全身に塗りつけていた。
「まったく、幽霊が『白い』なんて誰が決めたかなあー」
声にならない溜め息をつく。
彼は本来透明なのだ。
だが「目的」のためには、時に「アピール」も必要だ。
「おまけに変な奴らが、我が家を横取りしてやがるし!」
ふうと息を吐く。
用心深い彼は、「音楽室」、「図書室」、「学食」の3部屋以外移動したことはない。
だがこの日は違った。
自分が行く前に、なんと! 各部屋に先客がいたのだ。
深夜の田舎学校の中で、怪しげな罠を作って。
「でも『幽霊』のためだと言われたら、仕方が無いよなー」
皆いい人そうだったし、と思う。
「後で、挨拶にでも行っちゃおうかな?」
音楽室の楽器倉庫までの道のりを考えて。
「ヒイ、フウ、ミ……腕の立ちそうな奴は、5人以上か……」
やりにくいいなあ、と愚痴をこぼす。
「だが、見かけ倒し、てこともあるよな?」
まあ脅かしてやれ! と彼はフンッと鼻先で笑った。
◆ ◆ ◆
同刻。
【のぞき部】部長・弥涼 総司(いすず・そうじ)は窓から外へ飛び降り、離れの「宿直室」を目指していた。
「さて、女教師の寝姿でものぞいてくるか」
クールに呟いて、果てを見据える。
だがここツァンダの草原は広大だ。
おまけに月光が雲に隠れ、真っ暗闇である。
そうして迷子になり、「宿直室」へはたどり着けず……彼は草原の風となる。
意外な展開の結末に、こうご期待!
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