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夜更けのゴーストバスターズ

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夜更けのゴーストバスターズ

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5.学食

 その頃――。
 学生食堂、つまり「学食」でも同様に調査が進んでいた。
 【学食担当者】は休むことなく手を進める。
 その多くは真面目に「幽霊」の情報を集めるべく奮闘していたが、中にはそうでない者もいるようで。
 
 例えば後者の1人――雪華は真っ先に厨房に忍び込み、蛇口から水滴がポタポタ落ちるように緩めておいていた。
 彼女が到着したとき、担当者達はまだ食堂の調査に夢中だったから。
「この薄暗がりやで。驚くでえー、きっと」
 クククッと笑う。
 だがその体はさすがに疲れ果てている。
「初めての校舎で教室探すの、しんどいわあー」
 そこへ、ようやく食堂から解放された何者かが入口付近に近づいた……かに思われた。
「何や、ヘルガ。どうしたん?」
 ガックリとして、雪華は相棒を見る。
 ヘルゲイトは両手を交差させて「バツ」を作り、入口から食堂へ来るよう呼んでいる。
「何や、誰も来いへんのかいな」
 作戦失敗。
 雪華は面倒臭そうに蛇口を止め、厨房から引き上げようとする。
 と、その時。
「ひゃああああああっ!」
 悲鳴を上げたのは雪華の方だった。
 厨房のドアを開けたとたん、コンニャクが降ってきたのだ。
 コンニャクに、『STAR PALACE参上(キスマーク)』サインマークが刺さっている。
「これ、星宮 梓のやないか! もう!」
 怒れど、もはや後の祭り
 しかも誰もいないはずの厨房のドアが開いたことで、雪華は怪しまれることとなる。
「他の部屋の担当者達からメールが届いているぞ! 偽幽霊で調査妨害してるのは、お前だな?」
 ……と言う訳で、雪華はあっけなく【護衛隊】の連中につかまり、楽器倉庫に連行されてしまったとさ。
 しかし今後数奇な運命をたどることを、この時彼女は知らない。

 差し当たって「光学迷彩」と「隠れ身」に身を隠した星宮 梓(ほしみや・あずさ)が、天井から面白そうに眺めていたのだった。
 彼女は捕り物を尻目に、夜の校舎へと消えて行く。

 騒動が治まって、安全が確認された厨房を【龍雷連隊】のフェイトとミランダが入って行った。
 フェイトは厨房をぐるりと見回す。
「うーん、普通の厨房でございますねえ。強いてあげるとすれば、一般家庭のキッチンに毛が生えた程度といったものでございましょうか?」
 きれいに手入れされているが、素朴な厨房を眺めてふうっと息を吐く。
「チー、イビ、幽霊の匂いを探って」
 目視では限界がある、そう察した彼女はゆるスターとデビルゆるスターを放した。
「キッチン、まさか幽霊はゆるスターの唐揚げなんて食べるなんてあり得ませんよね?」
 されど、フェイトの心配は空振りに終わる。
 チーとイビはその場で小首を傾げ、異常はないことを告げた。
「幽霊は『神出鬼没』という話でございましたか」
 フェイトはうーんと首をひねる。
「瞬間移動でもしているので臭いも宙で消えてしまう、ということでございましょうか?」

 ミランダは迎撃姿勢を保ちつつ、冷蔵庫のありかを捜していた。
「暗いところの怖いわ、でも幽霊も気になっちゃうんだから!」
 とか何とか言いながら、彼女は何だか嬉しそうだ。及び腰だが。
「だって! 幽霊が何食べているのかって、気になるじゃない?」
 しかし彼女のもくろみは、失敗した。
 業務用の大型冷蔵庫は無い。
 ……と思ったら、家庭用冷蔵庫の姿が! しかも相当年代物で怪しげだ。
「この冷蔵庫に……まさか! い、いるわけないでしょ……」
 怖々開けて、そして絶句する。
「これが幽……て、あ、あれ?」
 中には何も入ってない。
 と言うより、使ってないようだ。
 ミランダは絶叫する。
「何て貧乏学校なのよ! もー!」

 けれど彼女は気を取り直し、フェイトと共に武装して一行の護衛に戻った。
 2人には調査のほかに、【龍雷連隊】としての務めがある。
 
 彼女達が去って、すぐにスルスルと入っていく2つの影。
 バラ実の仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)とパートナーの平 清景(たいらの・きよかげ)である。
「俺は腹減ってんだ! お前はしっかり見張ってろっ!」
 サンダー明彦は清景を厨房のカウンター近くに配置し、自分は奥へと侵入して行く。
「何たって三日ぶりのご飯だからなぁ!! ファァァーーーク!」
 彼らの姿は厨房の闇に紛れる。
 
 そこへ、何も知らない【百合園女学院推理研究会蒼空学園支部(仮名)】の橘 舞(たちばな・まい)ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)イルマ・レスト(いるま・れすと)がやってきた。
 ブリジットの手には携帯コンロと材料を入れた大きな紙袋がある。
「幽霊? そんなもの偽者に決まっているじゃない」
 ドンッと調理台に荷物を置いて、彼女はおーほほほっ、と高笑い。
「推理研代表の私の推理によればね。
 犯人は夜の校舎でピアノの練習をしている生徒ね。
 図書館で楽譜を探して音楽室で練習。
 で、お腹が空けば食堂で夜食を食べているのよ。
 夜に練習するくらいだか人前では演奏出来ないぐらい凄い下手糞なのね。
 だから人が来ると見られたくなくて、すぐにどっかに隠れるのよ」
「それでそれで、どうするの? ブリジット」
 興味津々なのは、舞。
 側から、千歳がひょいっとのぞき込む。
 ブリジットはエッヘンと胸を張って。
「厨房で、食べ物を作るの。カレーでも作れば、匂いに釣られて現われるはずよ。と言う訳で、イルマ、作ってね」
「え、ええっ! 私でございますか!? ブリジットお譲様あ〜〜〜〜〜」
 その声は恐怖で震えている。
 彼女は怖がりで、終始千歳の腕にすがり、ようやくここまでたどり着けたくらいなのだ。
 が、ブリジットの命令には逆らえない。
「え、ええ、カレーでございますね」
 表向きはにっこり笑うが、内心は穏やかではない。
(カレー、しかも短時間に……カレーなんて、奥が深い料理でございますのに。
 それも、それも幽霊に食わせるためだけに作るのでございますか!
 ブリジットの馬鹿騒ぎに付き合わされるのは久しぶりですけど……)
「あー、もう幽霊なんかどうでもよくなってきた」
 イルマは鍋とまな板、包丁を捜しあてて調理台に置く。
 そして、数分後――イルマはキレた勢いで、様々な時短テクニックを駆使し、超高級欧風カレーを仕上げた。
 フウッと大きく息を吐くイルマ。
 その隣で、ブリジットは腰に両手をあてて、得意げに呟く。
 
 ……数分後、何も起こらない。
 しかも、臭いまで消えつつある。
 ん? と彼女達が調理台を見下ろすと、先程まであったカレーの入った鍋は消えてしまっている。
 ハッとして振り返る。
 そこにはカレールーを飯抜きで食うサンダー明彦の姿がある。
「くっくっくっ……久しぶりのカレーだぁ、うめえうめえ!」
「……て。あんた、何してんのよおおおおおおおっ!」
 キレたブリジットが鍋を取り上げ、まな板でブッ飛ばす。
 そして、サンダー明彦は夜空の星となってしまった。
 
 一方、清景はカウンターの物陰から事の顛末をオロオロと見守っていた。
「明彦殿、明彦殿! ああ、だからそれがし、あれほどお櫃を持って逃げようと申し上げたでござる!」
 呟きは、ブリジット達に聞こえていたようで。
 ハッと気付いた時には、清景は彼女達の後期の目に晒されていた。
「見つけたわ! 幽霊!」
 ブリジットが嬉々として清景を指さす。
 そんな清景の姿は、「見た目ゾンビの落ち武者」である。
「見なさい! 私が言った通りでしょう? 舞」
「凄いわ凄いわ! ブリジット。では、私は早速交渉に入らなくっちゃ!」
「違うでござる。誤解でござる。それがしは……」
 その様子を、もはや呆けてどうでもよくなったイルマが冷ややかに眺めている――。
 
 ブリジット達が、迷推理に浮かれている頃。 
 【龍雷連隊】隊長・岩造は、1人丁寧に食器を調べていた。
「テーブルと食器が怪しいな……だがまずは食器か」
 んー、と大きく伸びをして、ふと壁に張られた献立表を見上げる。
「『いわなみはるお定食』? 名前のようだが……」
 何だか気になる、と、これは兵士としての勘。
 シイナに尋ねてみようかと思ったのだが、間もなく声が「降ってきた」。
「ここの学生が考案したものだよ。戦死しちゃったけどね」
「ほお。それで、なぜ貴様はこんな紙切れを狙うのだ?」
 ゆっくりと天井を見上げる。
 そこには、凶悪そうに歯を見せて笑う幽霊の姿があった。