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夜更けのゴーストバスターズ

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夜更けのゴーストバスターズ

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4.図書室

 その頃――。
 図書室でも同様に調査が進んでいた。
 【図書室担当者】は休むことなく手を進める。
 その多くは真面目に「幽霊」の情報を集めるべく奮闘していたが、中にはそうでない者もいるようで。
 
 例えば後者の1人――神和 綺人(かんなぎ・あやと)は光術で周囲を照らしながら、怖がるクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)と共に本を探していた。
「夜の学校探検なんてワクワクするよねー」 
「そうですねー、アヤ」
 そこへ、ナナがひょっこりと首を出す。
「今晩はー、お邪魔でしたか?」
「あれ? ナナさん、どうしてここに?」
「僕がメールで来てもらったんだよ」
「え? アヤが?」
「そう、人数の多い方が、クリスも怖くないんじゃないかと思って」
「は? ……ああ、そうですね。あはははー、と。」
 クリスは笑ってごまかした。
(「幽霊怖くない!」なんて言ったら、アヤはガッカリしてしますよね? きっと)
 という訳で、クリスは綺人にしがみつきながら、急きょ怖がりな振りを演じることとなった。
「えーん、何だか怖いですねー。ナナさんは大丈夫なんですか?」
 棒読みの台詞で、ガタガタと震えて見せるクリス。
「はい、わたしは大丈夫です!」
「え? 大丈夫なんですか!?」
 ちょっと残念気味の綺人。
(よ、よかった! 怖がっといて)
 クリスは自分の判断に間違いが無かったことに、安堵する。
「はい。3日に1度は忘れ物を取りに、夜お伺いするものですから」
「なるほど」
 呆れ気味に2人が頷いた、その時だ。

 辞典が1冊、辞典が3冊……

 目の前に、怪しげに辞典を数える女の姿。
 ツインテールを不気味にたらし、おぼろげな光の中で彼女は数え続ける。

 3冊……4……数えるんシンドイっちゅうね〜ん……

 ひゅーどろどろ、と効果音を自分で言いつつ振り向き、雪華は八重歯をニカッと見せる。
 驚き呆れる3人の注意を、半ば強引に、
「ああああああああっ! 幽霊があっ!」
 ヘルゲイトが、めちゃくちゃな棒読みでまたもや叫ぶ。
 彼女が注意をそらしている隙をついて、雪華はさっと抜け出す。
 そしてゆうゆうと次の目的地学食へと向かうのだった。
「大変、幽霊! 追いかけなくっちゃ! 綺人、クリスさん、すみません。失礼します」
 ナナは雪華の後を追いかけるべく、シイナ達【護衛隊】へ戻って行く。
 クリスは綺人にしがみつくのも忘れて、ぼそっと呟いた。
「幽霊さんって、八重歯なんですね……」

 が、雪華達は気付かなかったのだが。
 その時、ことの一部始終を見つめていた者がいる。
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)である。
 彼はやや離れた位置から光術で3人のライト役を果たしていたが、その際雪華らの行動に気付いた。
「……さて、どうしたものか……」
 だが自分が綺人達に渡していた「禁猟区」が発動しなかったので、そのまま捨て置くことに決めた。
 こうして、彼らの幽霊捜索……ではなくて「学校探検」はゆるゆると続くのである。
 
 ちょうどその頃。
 同じように偽幽霊として脅かしていた終夏は、ディエーツ・トヴァ(でぃえーつ・とう゛ぁ) と遭遇していた。
 終夏は図書室前の廊下の角に身を隠す。
 たまたま通りかかった者があると、光術を使って照らし

 う〜ら〜め〜し〜や〜〜〜……

 と驚かして喜んでいたのだった。
 驚いて逃げて行く生徒達。
「くうーっ、くっくっくっ! ベタな反応だわあ。快感だねっ!」
 その時、たまたまディエーツが通りかかったのだ。
 ヒタヒタヒタ……という足音で、闇に透けるような白い少女がふわりと現れる。
 その様は、まさに「幽霊」そのもので。
「え? 本物の幽霊!? 初めてだねえっ!」
 で、好奇心が高じて捕まえようとしたところ、ディエーツが剣でいきなり斬りつけてきたのだ。
「おわっ! ちょっ、何すんだよ! 君。幽霊だったら、私と一緒に人驚かすのが仕事だよねえ?」
 その大声が仇となり、終夏は「人騒がせな偽幽霊」として【護衛隊】によって「楽器倉庫」へ拉致されてしまった。
 一方のディエーツの行方は知れない。
 影の薄さゆえに捕まりはしなかったが、特に気にかけられもしなかったようだ。
 
 宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)は友人のアルカリリィ・クリムゾンスピカ(あるかりりぃ・くりむぞんすぴか)と共に本を調べている。
 みらびは魔道書を捜す……というよりも、他校の図書館が物珍しいようで。
「リリィ先輩、新しい本なんか一冊も見当たらないですね」
 本棚の前でキョロキョロとしている。
「蒼空学園は、魔道書になんて興味無んですかねえー」
「いや、単なる経営難のようじゃ。どこも厳しいからのう」
 ふむ、と隣からアルカリリィが答えた。
 彼女は先程から様々な蔵書に手を伸ばしている。
 宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)は、特技「資料検索 」を使用して本探しに参加する。
 が、自分の興味を誘う魔道書以外に興味はないようだ。
「みらび、魔道書なんか無いみたいだけど? ボク、何だか眠くなってきちゃったよー」
 セイ・グランドル(せい・ぐらんどる)はみらび達を幽霊の攻撃から守るべく、少し離れた位置から警戒していた。
「本なんざ、興味ねえけど。幽霊が襲ってきたらマズイしな。でいうか、相手は本当に幽霊なのか?」
 その脇を、やはり本探しに来た空、レティス、シリウスの3名が通り過ぎる。
 レティスは特技「誘惑」を使って、女共の視線を一人占めにしている。
 
「ん? 何じゃ? これは」
 本を手に取ったアルカリリィは、本の装丁に眉をひそめた。
 その本だけがひどく新しいうえに、透明なブックカバーで覆われていたから。
 「聖櫃の十三階段」という題名が見える。
「冒険小説かのう? 随分と丁寧に扱われている様じゃが……」
「ここの卒業生が書いたのさ。冒険好きでさ、体験談なんで冒険野郎共のバイブルになってるんだ」
「ほうー……ところで、おぬしは何者じゃな?」
 嫌な視線に気がついて、アルカリリィは天井を見上げる。
 そう、声は確かに……上方から降ってくるのだ。
 そろそろと……そして、彼女は凝視する。
 そこには、何と! 真っ白なのっぺらぼう――「幽霊」の姿があったのだ。

「ぴょっ? 幽霊なのーっ!?」
 真っ先に反応したのは、みらび。
 彼女は好奇心旺盛で、幽霊なんか怖くないので、野次馬根性を丸出しにして見上げる。
「やだ、本物っ!? あーん、デジカメ持ってくれば良かったですぅ」
 て、そういう問題ではないと思うのだが。
「おぬし、どうやらこの本が気になるようじゃのう」
 ジリジリと距離を取りながらアルカリリィが幽霊に尋ねる。
「そうだよ、だからここに置いていきな」
「嫌じゃ、と申したら?」
「そんなことおー、決まってるじゃない!」
 幽霊は天井につかまりながら、両腕の筋肉を盛り上げて凶悪そうに歯を見せる。
「みらび、キミ! こっち!」
 煌星の書はみらびとアルカリリィの腕を弾いて、距離を取ると、攻撃の姿勢に入ろうとする。
「ちょっと待て! お前ら! 忘れたのか?」
 セイが彼女達を制して、3人庇うように前にでてグレートソードを構えた。
「幽霊が出たら、まずは説得する、て話だろ?」
「セイくんの言う通りだよ!」
 トコトコと現れたのは、白いロングウェーブの髪が印象的な少女、松永 亜夢(まつなが・あむ)だ。
 両手を腰に当てて、高飛車に。
「そうだよ! まずは【交渉役】の、このあたしに任せてってば!」
 言って、幽霊を見上げて腰を抜かした。
「えーん、やっぱり無理いー。パスパスッ! セイくん、パスッ!」

 ……と言う訳で、結局交渉役にはセイ1人で立ち向かうこととなった。
 だが、セイは自他共に認めるぶっきらぼうな男である。
 単刀直入に用件から入ってみた。
「ええーと、取りあえず学校から出てってくんない? 皆迷惑してるしさ」
「嫌だねっ!」
 幽霊は尻ペンペンしてみせる。
 つくづく可愛くない性格である。
「俺様はね、その本が欲しいの。だからあ、その子を血祭りにあげちゃうんだからね。OK?」
「何だとっ! 宇佐木達には指一本……」
「交渉決裂うっ!」
 幽霊は歌うように叫んで、強引に交渉を打ち切ると。
「いざ、テイク・オフッ!」
 音楽室と同じく、天井から腕を広げて滑空し始める。

 ブウンッ!

 しかし今度は攻撃要員がいる。
「みらび、技の併せを行うのじゃ!」
「はわわわわ、はい! リリィ先輩!」
 アルカリリィの呼び掛けに、みらびはとまどいながらも答える。
 彼女はアルカリリィの声に合わせ、特技「東洋魔術」で「祝詞」を上げる。
「みらび、キミ、加勢するよ!」
 煌星の書は火術で応戦する。
 だが「祝詞」は効かず、火術の1人では擦り傷程度にしかならないようだ。
 そのままみらび達を襲い、アルカリリィの手から本を奪い去ると、そのままいずこかへ消え去った。
 次に狙われるのは学食だみょーん、というノー天気な伝言だけを残して。
 異変を察したシイナ達【護衛隊】が駆けつけた頃には、あとのまつり。
 みらび、アルカリリィ、煌星の書が、ようやくショックから解放されて立ちあがったところだった。
 セイが悔しそうに唇を噛んで。
「やっぱり、幽霊に説得なんて無駄だったのか?」
「でもでも、あれだけ襲われたのに、擦り傷程度なんだよね。あたし達……」
 座り込んだまま、涙目の亜夢が呟く。
 ただこの光景を目撃していた図書室の大かたは、当然「幽霊討伐」へ傾く。
 そう言った次第で全員【護衛隊】と合流し、幽霊を追って学食へ向かうことになった。
 ナナに手をひかれた、シイナが先導する。
「そうだな。手掛かりを奪われた以上、ここには何もないだろう。学食へ急ぐぞ!」