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リアクション
「しかし、張り込みって案外退屈なもんだなあ。テレビドラマみたいにすぐ犯人が!みたいにはなかなか行かないものなんだな」
滝川がそう言って、持参の牛乳を一口飲んだ。
静が巨体をかわいらしくよじって言う。
「それはそうよ〜。長時間何も起こらないまま、時間が過ぎていくのを耐えなきゃいけないって……ああ、でもそんなだ〜りんもス・テ・キ」
思わず滝川がむせ返った。静はあわてて滝川の背中を優しくとんとんと叩いた。
「あ、あらぁだ〜りん、大丈夫? 気をつけないと〜」
「ごほっ、ごほっ……だい……じょう……ごほげほっ!」
「ん〜、あらぁ、無理しちゃあダメよ〜」
低いバリトンで、静は優しく言い、直後どすの利いた低い声で続けた。
それを見ていた男が一人。ぼんやりと宵闇に浮かび上がる銀髪の、目つきの悪い少年。オールドワンドだ。
「遊びに来たものの、暇だと思ってたら……丁度いいや。ちょっと遊んでもらおうっと」
ゆっくり音もなく、滝川と静かの方へと歩を進め、むせ返る滝川に後ろから声をかけた。
「やあ、こんばんは〜」
さっ! と静が振り返った。
「……! あなた誰?」
「誰だろうね〜……くふふふ」
ようやくむせから復活した滝川が叫ぶ。
「誰だ!」
「ええ〜、僕はここの幽霊と友達になろうと思って来ただけだよ」
「お前か?この騒ぎの犯人は!」
「だーりん。どう見てもこいつ怪しいわ!」
「おう。逮捕だーーー!!」
「ええ〜、それほどでも……くふふ」
不気味に笑って、オールドワンドはふわりと避けた。
静がたくましい腕を屈伸しつつ叫んだ。
「かかってきてごらんなさい! 愛のダブルパンチをお見舞いよ!」
「……えーそれは勘弁してよぉ」
オールドワンドはそういって、闇に人を惑わす鬼火のごとく、林の中へと遠ざかっていく。
「待てー!」
「待ちなさーーーい!」
ファーニナルは、歩哨任務よろしく、理科実験室の入り口付近で警戒に当たっていた。
「もし不審者が人間なら、案外出入り口から来たりしそうかなと思ってさ。案外窓から出入りとかって、目立つだろう?」
応えて子敬が、
「そうですねえ。窓は校舎に面していますから、見られる危険が最も高いでしょう」
「そりゃ幽霊だったらあれだけどさ」
「人知が及ばないものについてはいくら予想して考えても判らないですからね。まあ、判らないものに振り回されるより、まず自分の考られる範囲から考えていこうと、孔子も論語の中で言っておりますしね」
ミカエラが頷いた。
「そうですね。あ、でも、幽霊だったらかかって来られても、叩きのめす……というわけには行きませんね」
「向こうも触れないんなら、そういう意味では怪我しないんじゃね?」
トマスが言った。
「それもそうですね……」
ミカエラは納得がいったような、いかないような表情を浮かべた。
「あ……アッシュワースさんから通信が入りました。渡り廊下から不審な人影が接近中とのことです」
「お、いよいよ出番か! 犯人が入ってきたらすぐ突入だ! メイベアと挟み撃ちにしてやる!」
勢い込むトマスに子敬が言った。
「いきなり暴力は振るわないよう気をつけてくださいね。とはいえ、聞き入れる風がなければ……そのときは」
そういって穏やかな笑顔を浮かべた。
「……その方が何倍の恐い気がするんだけど」
ミカエラがつぶやいた。
実験室の中で、メイベアがチムチムに言った。
「……なあ、起きてるか?」
「……起きてるアルヨ」
「不審者が接近中という通信が入ったぞ」
「……おお、目が覚めたアル」
「……やっぱ寝てたんじゃねえか」
リーブラが言った。
「シリウス、レキさん、不審者接近中ですって」
「おお〜!! いよいよ出番か! ぶっ飛ばしてやるぜ」
シリウスの勢いに気おされつつ、レキはいさめた。
「あ、まだ危険人物と決まったわけではありませんし、穏便に……」
「あ、そうか……そうだな、うん。突入して、動くな!でいいね」
緋柱が静かに言った。
「透乃ちゃん、来たようです。どういう傾向の人物かはまだ不明ですので、待機、ですね」
霧雨は頷いた。
「そうだね。でも、もう少し現場に接近しておこう。実験室に不審者が入り次第、まずは警告、捕捉ってことで」
「はい」
北条は配電盤の前で日が落ちきって以降じっと待機していた。そしてついに、ヴィンバルトから連絡が入った。
「あ……はい、了解です。では侵入者が室内に入り次第、連絡をください。タイミングが勝負ですから」
しばしの間。いやおうなしに緊迫感が漲る。
「いまだ!」
漆黒の闇の中。鞭のようにヴィンバルトの声が響いた。
その瞬間に北条の指が踊るように動いて元電源をオンにし、一斉に建物中の明かりが点灯した。闇に慣れた目には少々きついほどの明るさが、第4理科実験室を照らし出した。
その瞬間。
第4理科実験室内部では、アタマに鳥の羽を飾り、顔に妙なペイントを施し、蒼空学園の女子制服に奇妙な飾りを多数ぶら下げた小柄な女子生徒が、部屋の真ん中に突っ立って、目をぱちくりさせていた。
「えーと……なにか?」
照明の点灯直前に飛び込んできた張り込み担当メンバーが一斉にが声を上げる。
「「あなた、誰?」
「何者だ?」
十数人に取り巻かれ、女生徒はおずおずと言った。
「アレーナ・ヴェルデです……」
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