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リアクション
春美とディオネアは連れ立って実験室へ入った。実験室は校舎から少し離れた位置に立てられており、教室の倍の大きさの平屋の建物だ。後方と、左横手はそう密ではないが木立があり、正面側は校舎に面しており右側が渡り廊下になっている。
教室の真ん中あたりの床板が30センチ四方ほど丸く焦げて破損しており、床下に補強のために張ってある金属板が見えてしまっている。また、天井にも破損箇所があり、雨漏り跡が出来ていた。
「うーん、さすがにもう、件の爆発あとは2か月も経っているから、においや薬品は残ってないね。持ち出されたらまずいから、薬品も片付けられちゃってるみたいだし」
春美が言った。薬品棚は全て空になっており、余分な実験器具だけが少し残されているだけで、多少とはいえ雨漏りのするようになった建物には、たいしたものは残されていない。ロッカーや、空の棚類、箱などがあるくらいだ。
「ねえ春美ちゃん、これなんだろうね?」
ディオネアが言って、窓に近い床を指した。1メートル四方ほどの範囲で、チョークのようなもので何か床に書き、それを消したような痕跡がある。さらに壁に近い箇所に、からからに乾燥した葉のようなものがが一枚落ちていた。触れてみるとかすかな芳香が漂った。何かの薬草のようだ。
「何かの証拠だよきっと!アッシュワースさんのところへ行こう」
二人は出て行った。
入れ違いにリンダと三船がやってきた。二人は警戒しつつ、実験室へ入った。がらんとした部屋には誰もいない。午後の陽光に埃が渦巻いているだけだ。
「ありゃー、本当に何もないな。俺はじゃあ、ロッカーに隠れることにするよ」
「ボクは光学迷彩使って、隅の方におるけん、深夜のメンバーとはあとで交代だな」
三船はロッカーに姿を消し、リンダの姿は空気に溶け込むように消えた。
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は銀色の頭を振った。彼はたまたま第4理科実験室付近を散策していたのだが、こそこそした様子の生徒2人を見かけ、好奇心からつけてみたのだが、彼らを実験室あたりで見失ってしまったのだった。そのとき、かすかに人声が聞こえた。
「……深夜の」
そしてそのあとはまた静まりかえってしまった。
「これはやはりせっかくだし、深夜に来てみねば」
書類調査メインの御凪と白き詩篇も、借りてきた書類を図書館で照合していたが、第4実験室が他の実験室と比べて備品の破損が多かったり、薬品の減りが早いという事実は見当たらなかった。
「やはりこれは、根も葉もない噂を、誰かが何らかの理由でばら撒いている、そういう感じを受けるな」
御凪が言い、白き詩篇が応えた。
「そうじゃな。医務室で、実験で事故があれば怪我もするじゃろうし、たずねてもみたが、特にそういう話はなかったようで、わらわも医務室の書類を調べたが、例の実験室での怪我や気分が悪くなったことが多かったという事実はないようじゃ」
図書室へやってきたマクシベリスとフラメルが、二人を見つけて同じテーブルに座った。マクシベリスが口火を切った。
「いくつか情報が入ったよ。まず、炎のような明かり、叫び声のようなもの。これは2人が少なくとも見聞きしてた。それから、実際は行方不明者はいない」
「ほほう」
白き詩篇が身を乗り出す。フラメルが続けていった。
「事故を起こした生徒はアレーナ・ヴェルデ。停学処分になっていたようじゃが、行方不明ではないの」
「さらに、行方不明者が出たって話はアレーナが言ったらしい」
マクシベリスの言葉に、御凪は言った。
「と、いうことはアレーナ・ヴェルデを探し出して話を聞く必要がありますね」
「そうなんじゃが……今日は誰も彼女を見ておらんようなのだ」
フラメルが静かに言った。
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