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リアクション
第六章
実験室周辺。
ブリジットがぶつぶつとこぼす。
「なによ、23時になったけど、何もないじゃないの」
舞が苦笑を浮かべて言う。
「そりゃあ、ブリジッと、今日おきるとも限らないわけだし」
「この私が来たのに、来ないだなんて許せないわ! しかも時間にも遅れているし」
「だから、ブリジット、張り込みって言うのはそういうものなのよ」
「退屈だわ……」
ブリジットは来てから10分も経っていないというのにそう言って地面を蹴った。そこへベアトリーチェがそっとコーヒーを配りに来た。
「はい、どうぞ。眠気覚ましのコーヒー、おかわりもありますよ」
「あら、気が利くわね、ありがとう」
「ありがとうございます〜」
舞がにっこり微笑んだ。
「いえいえ、冷めないうちにどうぞ」
カナとアリアは、実験室横手に佇んでいた。
「誰も来ないですねえ」
「時間的にも、まだ早いのかもしれないですね」
そこをフェリクスと咲夜が通りかかった。咲夜が言う。
「あれ、見張りの人かしら」
「ほほーう。女の子2人か。ちょっと脅かしちゃえ」
「あちょっとアレンくん、それはまずいよ、ちょっと……」
アリアの肩に、すっと何者かの手が置かれた。
「フフフ……」
低い、男の不気味な含み笑いが背後から聞こえた。
「いやああああああ」
アリアは叫んで、木立の方へと駆け出していった。アリアは逃げるときに派手に転び、枝に引っ掛け、上衣が裂けた。
「ちょっと、きゃあああ! なに!!」
カナもアリアを追いかけて走り出した。
「あ……もしもーし……ちょっとやりすぎたかな」
シェイドは頭をかいた。
「……アレンくん。早く寮へ行きましょ」
2人は寮の方へ立ち去って行った。
木立の辺りで張り込んでいた火村と小鳥遊、九条は、アリアらの悲鳴を聞きつけた。九条が言った。
「何かあったのかしら。寮で生徒を脅すという話は聞いていたけど、こっちではそういう話、なかったわよね?」
問われた火村が応えた。
「今アッシュワースさんに確認を取ったけど、脅かすのは寮だけだって言う話だわ。こっちはそういう話、ないって」
小鳥遊が言った。
「何かあったのかも、追ってみましょ!」
「真っ暗な木立は、つまずく危険があるから、足元には十分気をつけて」
九条が言った。
「そうだね、向こうだってそうすばやくは動けないはず」
小鳥遊が言う。
3人は木立の奥に駆けつけてみた。
上着が裂け、背中がむき出しになったアリアと、メイド姿のカナが、抱き合って木立の奥で震えていた。驚いた火村が声をかけた。
「大丈夫? どうしたの?!」
「誰か、男が……」
「わかんない。急にアリアさんが悲鳴を上げて駆け出したから、あたしも恐くて追いかけたの」
カナは言っておびえたように身をすくめた。
アッシュワースは、ヴィンバルトとともに、実験室近くの木の上に陣取っていた。何かあるとすれば、おそらくやはり夜間だろうということで、昼間は交代で軽く仮眠を取っておいたのだった。暗視双眼鏡を覗いていたヴィンバルトが、アッシュワースに声をかけた。
「アレン、誰か張り込み要員じゃないやつが近づいてきてる」
「ほう。不審なそぶりは?」
「そういう感じはないな……2人いるんだが、一人は何か探している風だが、こそこそはしてない。もう一人は全く無雑作かつ無頓着に接近中だ」
「……とすると探している人物じゃないかもしれんが……一応要警戒って言うことで連絡だけしておこうか」
「だな。頼んだぜ、アレン」
アッシュワースからの連絡を受けた杵島とユーストは、程なく張り込み場所からそう遠くないところに、何かを探して歩くような姿を見つけた。
「ねえ、一哉」
「うん、アッシュワースさんが言ってたように、生徒さんっぽいし、探し物してるみたいだね」
「一応声をかけてみようか」
「そうだね」
杵島は言って、ユーストと静かに生徒らしき人影に近寄り、声をかけた。
「君、何をしてるんだ?」
「いやー、昼間ここに来たとき、生徒手帳を落としたようで……」
そこに天空寺が姿を現した。
「お、犯人か?」
「いやいやいや、俺はエヴァルト・マルトリッツ。ここの生徒ですよ」
「何でこんな時間に探しに?」
杵島が当たり前のことを聞いた。
「いや、昼間この辺で、深夜に……ってしゃべってるのを聞いたもんで、何かあるのかなーと。生徒手帳探すついでに」
「こんな真っ暗な中で探すの??」
ユーストがあきれたように言う。
「そうだな、足元も見えないだろう。よし、オレが手伝ってやるよ」
天空寺が言った。
「そりゃ有り難いけど」
マルトリッツが言って、今までいなかった顔に目を丸くした。。
杵島とユースとがあっけに取られたような顔で天空寺を見る。
「あんた、誰?」
「というか、あなた何しにここへ?」
「……あなた、誰?」
「オレか? オレは天空寺 鬼羅だ。なんか楽しそうなんで来てみただけだ」
「え?」
「わはは。まあ、そういうことだ。気にすんな。……で、落し物探すのか?」
「……お願いできますか?」
「おーし、わかった。探してやろうじゃねえか」
2人は地面を探しつつ、立ち去って行った。
「……なんだったんだ?」
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