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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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《4班》

 「くぅううう……無念っ」
 4班班長のセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は絶望していた。
 食料庫に実習に回せるサツマイモはない、と聞いたセオボルトは、仕方なく本校の外に野生のサツマイモを探しに出た。しかし、時期的・場所的な問題もあり、芋ケンピをこよなく愛するセオボルトをもってしても、やせた芋がほんの少し見つかっただけだった。予定していたもののうち、芋ご飯は何とか作れそうだが、芋ケンピと両方作るだけの量はない。
 「嘆くのもほどほどにして、調理にかからぬか! 制限時間が来てしまうではないか!」
 がっくり肩を落としてなかなか働こうとしないセオボルトを、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のパートナーの英霊、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が叱咤する。少々気が立っているのは、主菜の材料を調達に行った上杉 菊(うえすぎ・きく)ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)のうち、菊がまだ戻って来ていないからだ。
 「ぎりぎりまで粘ってみると言ってはいたのですが……」
 イノシシを担いで先に戻って来たザカコも心配そうだ。
 「とにかく、作れるものから作って行くしかないであろ」
 楽しそうに串揚げ用のジャガイモに串を刺しながら、ヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)が言った。
 「私も手伝うから、一緒にご飯炊きましょう?」
 ローザマリアになだめすかされて、セオボルトもやっと重い腰を上げる。

 「すみません、遅くなりました!」
 結局、菊が戻って来たのは、調理終了の時間の一時間ほど前だった。
 「待ちかねたぞ!」
 天ぷら鍋の前に陣取っていたグロリアーナが叫ぶ。
 「数が集まらなくて……結局、エサをまいて集まった魚にサンダーブラストを使って捕まえて来たのですが、あまり型が良くないんですよ……」
 菊は申し訳なさそうに言った。
 「仕方があるまい。とにかく、ザカコと共に下ごしらえを急ぐのだ!」
 ジャガイモとイノシシ肉の串を先に揚げ始めながら、グロリアーナは菊とザカコに指示をする。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《5班》

 主食はパン、主菜はヤギロース肉のポアレ・フルーツソース、副菜はカルパッチョ風ヤギフィレ肉のサラダ仕立て、汁物はヤギのスープ、と凝ったメニューにした5班の調理台では、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のパートナーの剣の花嫁ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)朝霧 垂(あさぎり・しづり)のパートナー剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)のパートナーの剣の花嫁エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の三人が中心になって、慌しく調理が進められていた。
 「マエストロ、ちょっと作業を急がないと、日没に間に合いません」
 エースがさばいた山羊の肉のうち、フィレ肉の部分を薄切りにしながら、エオリアがダリルに言う。ルカルカとエースが山羊を捕まえるのに少々手こずったため、予定より調理にかけられる時間が少なくなってしまったのだ。
 「次、何を手伝おうか?」
 自分が取って来たスカイレタスを洗って千切り終えた垂が、ライゼに尋ねる。
 「えーっと……あ、ベリー潰して、ベリー!」
 髪が出ないようにきちんと三角巾をかぶり、割烹着をつけたライゼは、きょろきょろと調理台の上を見回して叫んだ。
 「ああ、種が入るとまずいから、こいつを使ってくれないかな」
 ダリルが垂に裏ごし器を渡す。
 「いい、垂、潰すだけだからね。絶対に調味料入れちゃダメだよ!」
 両手を使って、あっという間に終わりそうな勢いでパラミタオレンジベリーを潰し始めた垂に、ライゼは怖い顔を作ってみせた。皆で楽しく料理が出来ればいい、と思っていたが、時間が押していることもあって、表情が厳しくなっている。
 「う、わ、わかってる……」
 ライゼの迫力に押されて、垂はぼそぼそと答えた。
 「それが終わったら、パンの焼き具合を見てくれ。OKだと思ったら、オーブンを火から下ろしていいから」
 パラミタ大王葱を中心とする各種香草を入れたスープの様子を見ながら、ダリルが指示する。
 「了解!」
 さっさとベリーをつぶし終わり、垂はかまどの様子を見に行く。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《6班》

 6班のメニューは、ご飯、山羊肉のステーキ、つみれ汁、デザートのパンケーキだった。
 「山羊の肉は臭いがあるから、こうやって良く洗って血を抜かないとっ……」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)は、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が獲って来た山羊の肉をざぶざぶと洗って血抜きをしていた。その隣では、山羊の解体を終えた小次郎とリースが飯ごうで米を研いでいる。
 「御茶ノ水さんは、こちらを手伝ってください!」
 鳳明のパートナーの剣の花嫁セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)は、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)に手伝ってもらいながら山菜の下ごしらえだ。
 「根を取って、根元の薄皮をむくんですけど……」
 「はいはい。山菜って食べられるようになるまでに手間がかかるのが多いですよねぇ」
 顔や手にニワトリによるひっかき傷をつけた千代は、ざるに山盛りの山菜に手を伸ばす。
 「すみません、面倒なことを頼んでしまって」
 セラフィーナはぺこりと頭を下げる。
 「いいえ。私も一応実習の受講者ですし。それに、こうやって皆と一緒に一つの目標に向かって何かするのって、いいじゃありませんか」
 ペティナイフで山菜の根をそぎ取りながら、千代は微笑む。
 「はーいっ、血抜き終わりっ!」
 洗い場から戻って来た鳳明は、肉が入ったボウルを調理台の上にどんっ、と置いた。
 「鳳明、肉を焼くのは最後でいいですよね。だったら、先に御茶ノ水さんを手伝ってもらえますか? そうしたら、私はつみれ汁の魚の下ごしらえが出来ますから」
 「うん!」
 鳳明はうなずいて、千代の隣で山菜の下ごしらえを始めた。入れ替わりに、セラフィーナは鳳明が午前中のうちに釣ってきた魚をさばき始める。
 「時間、足りそうですか」
 米を研ぎ終わった小次郎が、調理台の所へやって来て尋ねた。
 「大丈夫だと思うよ。あ、でも、手際も評価されるから、手があいたなら何か作業してた方がいいのかも。そうだなぁ……御茶ノ水さんが集めてくれた果物を洗って、あとパンケーキの卵を割っておいてくれる?」
 「了解です」
 小次郎とリースは、果物の籠を持って、洗い場へ戻って行った。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

《7班》

 「……言われた通りに獲っては来ましたが、本当に食べられるものが出来上がるのでしょうな?」
 野猫を捕まえに行って、ひどい目に遭って帰って来たマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は、手際よく調理を進めて行くハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)を疑いのまなざしで見ながら念を押した。
 「『龍虎鳳大菜』は、ちゃんとした中華料理の一品料理でございます。試食の後での苦情なら幾らでも承りますが、食べる前からそのようなことを言われるとは心外でございますな」
 ふつふつと沸騰する鍋を軽くかき混ぜながら、ハインリヒはふっと笑った。
 「しかし、君が料理が得意だったという話は、『新星』の誰も、今まで聞いたことがないのですが?」
 しかし、マーゼンはまだハインリヒを疑っているようだ。
 「わざわざ喧伝するのもどうかと思っただけでございますよ。能ある鷹は何とやら、と申しますし」
 「教官や仲間に対して、わざと食べられない料理を出すなんてことはしないよね。……失敗することはないとは言えないけど」
 菊に似た野草の花の花びらを千切って大皿に敷きながら、ハインリヒのパートナーの剣の花嫁天津 亜衣(あまつ・あい)が言った。
 「既存のレシピだろうが、名前を口に出すのもおぞましい『あれ』が入っている時点で、私にとっては嫌がらせも同然ですよ……」
 まだ真っ白な顔色で、心配そうなパートナーのレナ・ブランド(れな・ぶらんど)にタオルでぱたぱたと扇いでもらっているゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が、うなされたような口調で言った。
 「しかし、作戦中の極限状態となれば、蛇だろうがネズミだろうが、その時手に入るものを口にしなくてはいけないこともあるだろう。この調理実習は、そういった状況を考えた訓練も兼ねているんじゃないのか?」
 班長のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が厳しい表情で言う。そこへ、10班の蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)がやって来た。
 「うちの班のメニューのテーマが、『残り食材で作る料理』なんだけど、残ってる食材ってないかな?」
 7班のメンバーは顔を見合わせた。
 「調理くずのたぐいは、さっき全部埋めて来てしまいましたわ」
 ハインリヒと亜衣のサポートをしているクレーメックのパートナーの守護天使桐島 麗子(きりしま・れいこ)が言う。
 「野戦の場合、調理くずをそのままにしておくと、それを狙った野鳥や獣が集まって来て、それによって自分たちの存在が敵にばれてしまうことがあります。なので、出た端から処理するように心がけておりますの」
 「そう……」
 美沙はがっくりと肩を落とす。
 「自分たちの必要な分だけ食材を集めて来たっていう班が多くて、困ってるのよね……。交換ならいいって班もあるんだけど、交換するための食材が手元にないし」
 「これならば、余っておりますが」
 と、ハインリヒが脇に置いてあった籠に手を突っ込み、中のものを美沙の目の前にぶら下げた。
 「いっ」
 目の前でぶらぶら揺れる蛇を見て、美沙の表情が引きつる。
 「酒に漬け込んでみようと思ったのですが、一匹だけでよろしければ差し上げても……」
 「ご、ごめんなさい、さすがにこれはちょっと無理。遠慮しますっ!」
 美沙はあとずさりながら首を左右に振ると、脱兎のごとく逃げ出した。
 「……ふむ。それでは、当初の予定通りこれは蛇酒の材料にいたしましょうか」
 ハインリヒは蛇を籠に戻す。