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リアクション
第3章 どつきあい・山
メインの食材には魚より肉を、と考えた生徒が多く、本校周辺の岩場一帯はそんな生徒たちの狩り場になっていた。
4班のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のパートナーの英霊上杉 菊(うえすぎ・きく)と、イルミンスール魔法学校のザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、森の比較的浅い場所でイノシシを探していた。
「さすがに、飼ってる豚を貰ってくるというのはだめでしたね」
「放し飼いではありますが、野生化しているわけではありませんし、秘術科はここ最近色々ありましたし……」
ため息をつくザカコを、菊が慰める。ザカコは教導団の秘術科が魔法実験のために放し飼いにしている豚を入手するつもりだったのだが、そんなことをしたら、ただでさえ本校防衛戦で研究棟を囮扱いされて色々と打撃を受け、ぴりぴりしている真っ最中の秘術科が黙ってはいないと、同じ班のセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)に泣いて止められてしまい、仕方なく野生のイノシシに標的を変更したのである。
「一応、ディテクトエビルで、害意のあるものを感知はしているのですが、こちらを攻撃するつもりがなければ引っかかりませんし……どのあたりに居るのかしら……」
呟きながら、菊は周囲を見回す。
その頃、9班のロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)も、森の中でイノシシを探していた。
「猪突猛進て言うくらいだから、絶対に向こうから襲って来るはずだ。返り討ちにして、スキヤキの具にしてやる」
ルミナスライフルでイノシシを狙撃する気まんまんのロイだったが、獲物はなかなか見つからない。
実は、イノシシというのは案外臆病な上に鼻が効く動物なのだ。猪突猛進という言葉のせいで獰猛と思われがちだし、実際、突撃をまともに食らえば命に関わる怪我をする危険もあるのだが、それはイノシシを怒らせたり、戦わなければいけない気にさせた時であって、普段は人間が近寄ればさっさと逃げてしまうのだ。
と言うわけで、菊とザカコも、ロイも、ようやくイノシシを発見したのはかなり時間が遅くなってからだった。
菊とザカコは、イノシシをおびき寄せるためにエサをまいた。そしてようやく、一頭の、まだ若いイノシシがエサに興味を示した。
「来た!」
菊とザカコは色めき立った。だが、イノシシはその気配を感じたのか、回れ右をして逃げ出した。
「待ちなさい!」
「逃がしませんよ!」
菊は『ブリザード』を、ザカコは氷術を使ってイノシシの動きを鈍らせ、足を止める。そして、菊が矢を放った。きーと悲鳴を上げて、豚が倒れる。
「やっと捕まえました……これは、魚釣りをしている時間があるかどうか……」
時計を見て、ザカコがため息をつく。
「わたくしはギリギリまで粘ってみますので、ザカコさんはこのイノシシをお願いします」
「わかりました」
ザカコはイノシシを担ぎ上げた。成人男性の体重くらいはあると思われる獲物を背負って、心なしかよろよろとした足取りで戻って行く。
「さあ、もうひと頑張りしましょうか」
それを見送って、菊は呟いた。
ロイも、イノシシと出会えたのは、本校を出発してだいぶ時間が経ってからだった。行く手の藪の中に、自分から逃げようと走り出すイノシシが居たのだ。
「さあ、かかって来い肉野郎!」
ロイは挑発したが、イノシシは聞く耳を持たずにすたこらと逃げて行く。
「待てッ!」
ロイは精密射撃で、藪がガサガサ動いている場所を狙い撃った。悲鳴と共に、藪が動かなくなる。
「パラミタイノシシ、ゲットだぜ!」
ロイは思わずガッツポーズをして、獲物に近付いた。
「……でか……」
自分より明らかに重たそうな、大きなイノシシを見て、しばし呆然とする。だが、悩んでいる時間はもうなかった。
「ここで解体して、持てるだけ持って行くしかないか……」
ロイはナイフを取り出し、イノシシを解体し始めた。
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