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リアクション
第2章 野に恵みを求めて
川に向かった生徒たちがノボリゴイとの格闘を始めた頃。本校の周囲の岩山や、少し低い場所に広がる森の中では、山羊をはじめとする野生の獣を狙ったり、山菜を集める生徒たちが、少しでも良い食材、多くの食材を集めようと努力を重ねていた。
1班のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)と月島 悠(つきしま・ゆう)のパートナーの獣人ネル・ライト(ねる・らいと)は、森で食材を探していた。
「このあたりには、山羊は居ませんのね。安心いたしましたわ」
時折小鳥の声が聞こえるだけで、危険なものの気配のない森に、ネルはほっと安堵の息をつく。
「一応、殺気には気を配っているが、今のところは大丈夫そうだな」
レオンハルトは油断なく周囲を見回した後、兎を獲るための罠を仕掛け始めた。
「あ、このキノコはゴビダケですわね。食べると語尾に何かしらの言葉が入る副作用を持つキノコですわ。副作用以外に害は無く、味はそれなりですので、持って帰りますわね」
罠の邪魔にならないよう、少し離れて食材を探し始めたネルは、朽ち木に生えたキノコを見つけて布袋に入れる。罠を仕掛け終えたレオンハルトもその場を離れて、下草の中を探し始めた。
「む……パラミタトウモロコシが見当たらんな」
パートナーの剣の花嫁ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)に頼まれた材料のうち、香草はぽつぽつと見つかるのだが、パラミタトウモロコシがない。
「場所が悪いのか、それとも地上の大多数の野菜や穀物と同じで、栽培種としてはありふれているが野生種は珍しいのか……」
とりあえず香草を集めながら、レオンハルトはパラミタトウモロコシを探す。
パラミタトウモロコシ探して苦戦している班は他にもあった。15班の青 野武(せい・やぶ)、守護天使黒 金烏(こく・きんう)、英霊シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)、機晶姫青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)である。
「トウモロコシ類は痩せ地でも育つ作物であるからして、ヒラニプラ周辺でも自生のものを発見できると期待していたのに、なぜ見つからんのだ!」
こちらは森の中ではなく、森の周囲の低木や草の生えた地帯を探しているのだが、レオンハルト達同様、パラミタトウモロコシは見当たらない。
「元々は野生種だったのだから、ある場所にはあると思うのだが……」
「それは、ない場所にはない、そしてこの場所は『ない場所』だということでは?」
金烏が冷静にツッコミ、もとい指摘する。
「見つかれば、色々と活用する方法はあると思うのですが。私は、アルコールの製造にも挑戦してみたいです」
丈の高い草が密集して生えている藪をかき分けながら、シラノが言う。
「うーん、無いですね……困りましたね」
ノニ・十八号が腕を組んで首を傾げる。その後頭部に、野武の張り手が炸裂した。
「そもそも、お前が『ここはパラミタトウモロコシですよ!』などと激しく主張したから悪いのだ!」
「痛いですよぅ、お父さん」
ノニ・十八号は首筋をさすって顔をしかめる。
「ロボットに痛覚などあるわけなかろう!」
「お父さん、ロボットじゃなくて機・晶・姫!ですよ」
断言する野武に、ノニ・十八号は大真面目に答えた。
「貴様などロボットで充分……」
野武が今度は拳骨を振り上げたその時、
「こちらに少し見つけたであります!」
金烏が二人を呼んだ。地上で言うヨシやススキに似た背の高い草の中に、ぽつりぽつりと、実をつけたパラミタトウモロコシが見える。
「む、思っていたより大分少ないが……ともかく、あれを採取するぞ!」
野武は先頭を切って、ざっくざっくと草むらの中へ入って行く。
野武たちがパラミタトウモロコシを見つけたのより少し森に入ったあたりで、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)のパートナーのゆる族トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)と、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)のパートナーの魔道書はぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)は、山菜とパラミタカエルを探していた。
「きのこ〜、きのこ〜、これは食べられるでありましょうか〜?」
トゥルペはチューリップの花びらのような着ぐるみに包まれたお尻ををふりふりと振りながら、ポケット図鑑と首っ引きで地面を覗き込んでいる。
一方、カグラこと『不滅の雷』は、カエルを見つけると弱い雷術で気絶させては、蓋つきの採集カゴに放り込んでいた。
「にしても、ヒバリが料理してるとこなんて見たこともないけどなぁ、大丈夫なんかなぁ」
屈めていた腰を伸ばして、本校の方角に振り向き、『不滅の雷』は呟いた。
「結構しっかりしてる子ぉやから、大丈夫だと思うんやけど……陳せんせに団長さん来るか聞いたら『来ない』言うし、がっかりしてうっかり手ぇ滑って大変なことになったりせぇへんとええんやけど……心配なような楽しみなような、いや、やっぱり心配や」
「…ふふ」
その時、トゥルペが小さく笑った。
「ん、どうしたん?」
『不滅の雷』が振り向くと、そこにはふふふふくすくすと肩を揺らして笑っているトゥルペの姿があった。
「念のために、ふふ、きのこを一つ一つかじって安全か、くす、どうか、うふふ、確認していたんでありますがふふ、何だかとっても、へへ、いい気持ちになってきたでありますようふふ」
「……間違えたんやな。まぁ、料理になってからわかるより、今わかった方が良かったとは言えるけど」
『不滅の雷』は盛大にため息をつくと、トゥルペの肩を無理やり掴んで倒木に座らせた。
「ちょっと、ここで休んどき。キノコもオレが探すさかいに」
「はーい!」
幼稚園児のような『いいお返事』をして、トゥルペは倒木に座って足をぶらぶらさせ始めた。
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