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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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 『岩場の山羊は気が荒い上に集団で襲って来るから、じゅうぶん気をつけるように』
 実習の説明の時に、陳はそう生徒たちに注意をしたが、集団で居ることを逆に狩りやすいと考えたり、あえて危険な獲物に挑もうとする生徒たちも少なくなかった。

 5班のルカルカ・ルー(るかるか・るー)と薔薇の学舎のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、肉が柔らかくて臭みの少ない仔山羊を狙っていた。エースが空飛ぶ箒に乗って空から羊の群れを誘導し、上手く仔山羊だけをルカルカの居る場所に連れて来ようという作戦だ。
 エースが群れの上空へ行くと、山羊たちは一斉に不審そうな様子でエースを見上げた。エースが仔山羊を探して旋回を始めると、じりじりと後ずさる。
 「あれ……襲って来ないな……。空に居ると届かないって、最初から判ってるからか?」
 例えば空から猛禽が襲って来るような場合だとどうだろう、とエースはしばし考える。
 「エサで釣ってみるか。ほら、こっちだぞ」
 エースは仔山羊の鼻先に、紐でくくった干草をぶら下げた。仔山羊は興味を示すそぶりをしたが、母親らしき山羊が間に割り込んで、エースを威嚇しながら仔山羊をぐいぐい押し下げてしまう。
 「うーん、困ったなあ。何とか、仔山羊だけを群れから引き離したいんだが……」
 今度は、エースは光術で山羊を脅してみた。しかし、パニックを起こした山羊たちは、一目散に逃げてしまった。
 「光術を使えば、逃げる方向の制御は出来そうだけど、一匹だけ別の方向へ向かわせるっていうのは難しそうだなぁ。どうしたもんか……」
 エースは首をひねって悩む。その時、ポケットの中で携帯が鳴った。
 『あまり時間もかけてられないから、とにかく群れごとこっちへ誘導してよ』
 エースはルカルカが隠れている、岩が積み上がって塚のようになっている場所を見た。ルカルカはこちらを見て、大きく手を振る。
 「了解」
 エースは再び光術で山羊を脅し、ルカルカの隠れている方へ追い込んだ。
 「斜面を下って走って来たら、こっちの姿が見えてても、そんなに急には逃げられないよね?」
 ルカルカは塚の上によじのぼると、上から山羊の群れに狙いをつけた。
 「……よしっ」
 仔山羊を狙って、細いワイヤーをつけた銛を投げる。そこですかさずエースがもう一度光術を使って、山羊の群れを追い散らした。ルカルカは素早く塚から滑り降り、倒れた仔山羊を確保した。
 「このまま箒にぶら下げて、本校へ戻ろう」
 戻って来たエースを手招きし、ルカルカは言った。二人は空飛ぶ箒に仔山羊をくくりつけ、本校へ戻って行った。

 「ちょっと、緊張しますわね……」
 6班の守護天使リース・バーロット(りーす・ばーろっと)は、遠くに見える山羊の群れにじりじりと近付きながら呟いた。
 パートナーの戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、少し離れた岩陰に隠れている。そこまで山羊をおびき出すのがリースの役目だ。おびき出した後、逃げる算段をしてはあるが、タイミングを誤れば山羊に轢かれかねない、なかなかに危険な任務である。
 数頭の山羊が首を上げ、周囲を見た。リースは意を決して、わざと目立つように足音を立てながら、小走りに群れに近付いた。
 警告のつもりなのだろう、高い声で鳴きながら、山羊たちがリースに向かって突進する。リースはきびすを返し、小次郎が隠れている場所目掛けて一目散に逃げ出した。
 「追いつかれないで下さいよ、リース……」
 岩陰で、群れの先頭付近を走る山羊に狙いをつけながら、小次郎は呟く。充分引きつけたと思う所で、山羊の眉間を狙ってスナイパーライフルの引金を引いた。ちらりと後ろを振り返り、山羊が倒れたことを確認したリースは、光術を使って山羊たちの目をくらませるのと同時に、翼を広げて空へ舞い上がった。その足元を、パニックに陥った山羊が鳴きわめきながら駆け抜けて行く。そのうちの一部が、小次郎が隠れている岩の方へ向かった。
 「おっと!」
 小次郎はとっさに、岩の陰に実を伏せた。その上を、山羊たちが地響きを立てて飛び越えて行く。
 「もう、大丈夫ですわ」
 おおかた騒ぎが収まり、山羊たちが再び群れになって去って行くのを見て、リースは小次郎に声をかけた。
 「どうにか、上手く行きましたね」
 倒れたまま残された山羊を見て、小次郎はほっと息をつく。


 「なーんだ、襲われてたわけじゃなかったのか」
 山羊に追いかけられるリースの様子を遠目に見ていた8班の波羅蜜多実業高等学校の小林 翔太(こばやし・しょうた)は、リースが上空へ逃げたのを見て胸を撫で下ろした。
 「腐っても教導団ですからね。このところ戦闘続きで実戦経験も豊富でしょうし、そうそう下手は踏まないでしょう」
 薔薇の学舎の佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)のパートナー、守護天使仁科 響(にしな・ひびき)が、岩の間に生える『ンベナ』という野生の香草を摘みながら言った。
 「栄養豊富で薬草になるらしいんだけど、甘みと苦味を持ち合わせているって、どんな味なのかな……」
 銃型HCに、生えている場所のデータを入力する。何株かは根をつけたまま薔薇学に持ち帰って、育ててみるつもりなのだ。
 「他には……『ヒラニプラ地方の山地に生息する山羊が好んで食べる。また、山羊料理に良く使われる』……か。と言うことは、このあたりにも……」
 響がはっと顔を上げたその時、
 「そこの二人、何をまったりしておるかぁッ!! 手伝え、ってか助けろ!!」
 同じ班の百合園女学院の毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の、悲鳴に近い声が聞こえた。
 「は? え?」
 翔太は周囲を見回した。斜面の上の方から、山羊の群れと一緒に大佐がこちらに向かって駆け下りて来る。
 「……うわあああっ、何やってんだよ!」
 雪崩れのように迫ってくる山羊の群れを見て、翔太は思わずわめいた。
 「その岩の先に落とし穴を仕掛けてある、何とかしてそこへ誘導するのだ!」
 「う、うん!」
 大佐に怒鳴られて、翔太はもたもたと巨獣狩り用ライフルを構えた。
 「行けーっ!」
 『クロスファイア』の技能を使って乱射された弾丸は、炎をまとって山羊と、その後ろを走る大佐に向かって降り注ぐ。
 「馬鹿者ーっ、これでは調理する前に丸焼きになってしまうではないか!!」
 弾丸を避けながら大佐は叫んだ。しかし、弾丸を避けた山羊は進む方向を変え、数頭が大佐が落とし穴を掘ったほうへ向かった。そして、ぼすっ、どすっという音がして、山羊と大佐の姿が翔太の視界から消えた。
 「あ、あれ?」
 翔太はライフルを捨て、慌てて山羊と大佐の姿が消えたあたりに駆け寄った。
 「こ、ここなのである……」
 呻くような声が、足元から聞こえる。下を見ると、罠にはまった山羊の上に落ちた大佐が、顔をしかめて唸っていた。
 「だ、大丈夫かい!?」
 「今助けますから!」
 翔太と響は慌てて大佐を穴から引っ張り上げた。
 「うう、ひどい目に遭った……。数頭だけを落とし穴に追い込むつもりだったのに、群れの他の山羊が後ろから追って来て、集団デッドヒート状態になってしまった……」
 あちこちにすり傷、ひっかき傷、打撲、おまけに『クロスファイア』による火傷を負った大佐は、地面にへたり込んだ。
 「でも、山羊は上手く捕まえられたよ!」
 穴に落ちて気絶している山羊を見下ろして、翔太が言った。
 「……一頭では足らんだろう。後は佐々木に任せるのである。我は手当てをして休ませてもらうよ」
 ポケットからコンパクトを取り出し、顔の傷を確認しながら、大佐は息をついた。


 「うわっ、危ないなあ……」
 穴に落ちた大佐を見て、兎などの小動物を狩っていた、11班の曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)は呟いた。
 「他の班の罠に引っかからないように、やっぱり気をつけなくちゃいけないんだねぇ。マティエ、ちょっと場所を変えた方がいいかも知れないよ」
 「そうですね。怪我はしたくないですよ」
 光学迷彩で姿を隠していたパートナーのゆる族マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が、シートの下から首だけ出してうなずく。
 「山羊は岩場を縄張りにしてるって言ってたから、もうちょっと下の方へ行ってみようか」
 瑠樹とマティエは斜面を下り、山羊狩りをしている生徒たちから離れた。かなり傾斜がゆるやかになり、森林地帯が近くなったところで立ち止まる。
 「お、イワゴボウを発見しましたよー!」
 石の隙間に根を下ろしている、手のひらほどの大きさの丸い葉を持つ植物を見て、マティエは声を上げた。
 「狩りの前に、これも掘って行きましょう」
 ザックに下げていたスコップを外して、石をどけながら長さ20cmほどの根を途中で折らないように掘る。何本か掘ってザックに収めると、瑠樹とマティエは光学迷彩を使って隠れ直し、獲物を待った。息を殺してしばらく隠れていると、ウサギがひょこひょこと少し離れた場所に現れた。
 瑠樹はウサギの頭に狙いをつけ、引金を引いた。ウサギは倒れて動かなくなる。
 「ごめんなー…ちゃんと食べるからなー」
 獲物を回収しながら、瑠樹は済まなそうに言った。
 「他の命をもらわないと、私たちは生きて行けませんからねー」
 マティエは案外さばさばした様子で、次の獲物を待つ。


 「深山さん、まだ戻ってないのか。残念だなぁ」
 16班に入れられた波羅蜜多実業高等学校の酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、斜面を登りながら小さくため息をついた。
 「……お、お兄ちゃん、またそんなことを……」
 パートナーのアリス酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が、眉を吊り上げて陽一を睨む。
 「まさか、あんな胸の乏しい地味な小娘に恋なんかしちゃってるんじゃないでしょうね!? いかんいかーん! 私は、お兄ちゃんをそんな風に育てた覚えはないぞおおお!! あの小娘め、いつかヤキを入れてやるわ〜!!」
 「ち、違うって!」
 一人勝手に盛り上がって……もとい激昂している美由子に、陽一は慌てて手を振った。
 「ただ、一緒に本校防衛で戦ったのに、風紀委員長や『白騎士』のシュミットは試食に招待されて、深山さんとネージュさんが招待されてないのが残念なだけだって。第一、俺はお前に育てられた覚えなんかな……」
 「そうやって、ムキになって否定するところが怪しいのよッ!」
 「……お静かに」
 叫ぶ美由子を、同じ班の英霊ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)がたしなめる。
 「そのように騒ぎ立てては、獲物が逃げてしまいます。せっかく仲間が危険な役目を引き受けると申し出ているのに、失敗させるおつもりですか」
 言われて、陽一と美由子は慌てて口を塞ぐ。
 「よし、準備が出来ましたぞ」
 少し前方で、魔道書イル・プリンチペ(いる・ぷりんちぺ)と罠を仕掛けていたミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が振り向いた。
 「二人とも、仲が良いのはいいことだが、やるべきことはちゃんとやってくれたまえ」
 陽一のパートナーの魔女フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)はそう言うと、山羊の群れに近付いて行く。陽一と美由子は慌てて、罠の左右に展開した。
 山羊たちがフリーレに気付いて、斜面を駆け下りて来た。フリーレはくるりと回れ右をして、ミヒャエルとイルが罠を仕掛けた方向へ逃げる。
 「それっ!」
 ミヒャエルとイルは、タイミングをあわせて手に持っていたロープを左右に引いた。地面に敷かれていたネットが広がり、山羊たちの行く手を塞ぐ。ネットがあることを知っているフリーレはそれを避ける方向に走った。山羊もフリーレを追おうとしたが、左右から陽一と美由子が威嚇射撃をして、山羊をネットの方に追い込んで行く。
 山羊たちがネットに突っ込んで来た。ネットを張るロープは一応地面に杭を打ち込んで固定してあるが、何匹もの山羊が斜面を駆け下りる勢いのまま突っ込んで来たため、ぎしぎしと音を立ててきしむ。
 「聖下!」
 「フリーレ!」
 ミヒャエルと陽一が叫ぶ。ロドリーゴがアシッドミストを、そしてネットの手前側に逃げ込んだフリーレがサンダーブラストを放つ。アシッドミストで弱ったネットが、絶えかねてバチバチと音を立てながら切れ始めた。
 「うわーっ!」
 イルが悲鳴を上げる。だが、サンダーブラストが効いて山羊たちが気絶したため、逃げられずに済んだ。群れの後ろの方の山羊たちは、酸や雷で毛皮が焦げる臭いを嫌って逃げ出す。
 「何とか逃げられずに済みましたな」
 ミヒャエルがほっと胸を撫で下ろした。
 「たくさん取れたね! 他の班に分けてもいいくらい」
 イルが手を打つ。
 「これから、獲物をきれいに洗浄して解体して持ち帰ります。洗浄は私がしますが、解体や運搬は皆さんも手伝ってくださいね?」
 吸血鬼アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)が、折り重なって倒れている獲物の様子を覗き込みながら言った。


 7班のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)とパートナーの剣の花嫁麻生 優子(あそう・ゆうこ)は、材料調達に行った他のメンバーの帰りを待ちながら、本校に近い場所で野草や山菜を集めていた。念のためにクレーメックが周囲の警戒を行っているが、普段から危険な動物はあまり近寄らない場所で、特に問題が起きることもなく、材料を集めることができた。
 「さすがに、畑で作る野菜とまったく同じものを揃えるのは難しいわね……」
 額の汗をぬぐって優子は言った。野生種だということもあるが、本校の周囲の地面はやせた岩場が主で、植物、特に根や地下茎を食用にするような類の植物の生育にはあまり適さないのだ。
 「致し方ないだろう。……戻って来たようだぞ」
 クレーメックは麓から本校まで続く道を目で示した。同じ班のマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)らが獲物を手に坂道を登って来る。
 「……もう少し集めたかったんだけど、獲物をさばく時間も必要だし、しょうがないかしらね」
 優子は立ち上がり、腰を伸ばした。
 「うむ。校内へ戻って、調理に取り掛かるか」
 マーゼンはそう言うと、仲間たちに向かって手を挙げた。