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リアクション
第4章 そして、そこも戦場だった
正午を過ぎると、材料を集めに郊外へ出た生徒たちが三々五々本校に戻り始めた。
調理が行われるのは校内ではなく、隣の演習場だ。馬術教練や障害競走の水濠作り、可燃物を使った大規模な演習の際の消火などに水を使用するため、大きな水場がしつらえてあるのだが、その周囲に班ごとにかまどを作ったり、キャンプ用の折り畳み式のテーブルを出したりして調理が進められて行く。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《1班》
1班のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)、シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)、ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)、月島 悠(つきしま・ゆう)、麻上 翼(まがみ・つばさ)、ネル・ライト(ねる・らいと)らが作るのは、「ノボリゴイの香草あんかけ」、「兎肉のコーンクリームシチュー」「フルーツポンチ」だ。主食は炊き込みご飯だ。
「あ、後は任せたからな……」
特大のノボリゴイを死闘の末に釣り上げて来た悠はすっかりヘトヘトになっており、調理を担当するシルヴァに獲物を渡すと、地面に座り込んで見学モードに突入してしまった。
「うん、任せてください。さ、味覚のジェットコースターの始まりです♪」
シルヴァは手際よくノボリゴイをさばき始めた。三枚におろして大きな骨を抜き、食べやすい大きさに切ってパン粉などをまぶし、揚げて行く。
一方、シチュー担当のルインは、レオンハルトがウサギをさばくのを待ちながら、パラミタトウモロコシの下ごしらえをしていた。
「う、ちょっと量が少ない、かなぁ……」
芯から外した実を一カ所にまとめてみて、眉を寄せる。
「済まんな。どうも、野生のパラミタトウモロコシはあまり多くないらしいのだ」
さばいたウサギを持って来たレオンハルトが目を伏せて言う。
「これ、お使いになります?」
ネルが、取ってきたゴビタケをルインに差し出した。
「うん、このままじゃちょっと寂しいことになりそうだし、使わせてもらうね」
ルインはゴビタケを受け取って汚れを落とし、サクサクと刻み始める。予定を変更して、ウサギの肉とゴビタケを炒め、すりつぶしたトウモロコシとあわせて煮込むことにした。
「ネルくん、頼んでおいた果物は?」
翼がネルに声をかけた。
「はいはい、取って参りましたよ。ただちょっと、種類が少ないのですが……」
ネルはゴビタケとは別の袋を持って来て、翼に渡す。
「うーん、……まあ、しょうがないかぁ。何とかしてみるよ」
とりあえず洗って来なくっちゃ、と翼は袋を持って水場に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《2班》
「ご飯は大丈夫なのです、ご飯は。問題はおかずなのであります!」
2班の調理担当、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)はテンパっていた。ぶつぶつと呟きながら、まな板に横たえられた、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)が調達して来たノボリゴイとの睨めっこに突入してしまっている。
「大丈夫です、想う方がいれば料理はうまくなりますわ。イリーナですら上達したのですから。それに、ちゃんと下調べをして来られたのでしょう? 団長が来て下さらなかったのはちょっと残念ですが、落ち着いて頑張りましょう?」
主食のお粥の鍋を火にかけて来たイリーナのパートナー、剣の花嫁エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が雲雀を励ます。
「う……うん。イリーナさんやトゥルペさんが食材を集めて来てくれたのに、不可になったりしたら申し訳が立たないでありますよね!」
雲雀は意を決して、ノボリゴイをさばき始めた。適当な大きさに切り身にし、大半は野菜と一緒にピリ辛の煮込み鍋風の料理に、残りは素揚げにして汁の具に使う。煮込みも汁も、出汁はノボリゴイの骨を使って取る予定だ。
「手を切ったり火傷したらすぐに言ってねー、手当てするから」
別のテーブルではぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)が獲って来たカエルをさばきながら、イリーナのパートナー、守護天使フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)が言う。
「本当にそのカエルがデザートになるのか?」
キノコの試食で笑い疲れてうつらうつらとしているトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)に膝枕をしてやっているイリーナが首を傾げる。
「うーん、地上の料理に関する文献で読んだことはあるけど、パラミタのカエルで作れるかどうかはわからないんだよね。ちょっとチャレンジャーかなあ?」
フェリックスはえへへ、と笑う。
「おいおい……」
お気楽極楽なパートナーの態度を見て、イリーナはため息をついた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《3班》
「日奈々様、水場はこちらです。濡れて滑りやすくなっているので足元に気をつけて下さいね」
ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)は、百合園女学院の如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)をエスコートして、一緒に山菜のおひたしを作っていた。
「教導団って……こんなことも、するんですねぇ……。勉強に、なります……」
白い杖に頼って歩く日奈々は、周囲の喧騒に少ししりごみした様子で、細い声で言う。
「給養部隊って言う、お料理だけする部隊もあるんですけど、作戦によっては同行しないこともあるので、一応それなりにお料理が出来たほうがいい、ということらしいのですが……恥ずかしながら、あまり自信がないんですよねぇ」
ナナはため息をつく。
「大丈夫ですよ……仄水ちゃんがついててくれてますもの……」
日奈々は微笑んだ。
その葦原明倫館の詩刻 仄水(しこく・ほのみ)は、野菜や山菜の下ごしらえをしながら、メインの食材が到着するのを待っていた。そこへ、トロ箱を担いだルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)と音羽 逢(おとわ・あい)が戻って来た。
「待ってたんだよ。首尾は?」
仄水に尋ねられて、ルースはトロ箱の蓋を開けた。
「ちゃんと釣って来られたのですね! すごいです!」
トロ箱におさまっている、少々小振りのノボリゴイ二匹を見て、ナナは思わずルースに駆け寄り、頬にキスをした。
「おっとっと、せっかく獲って来たノボリゴイが……」
トロ箱をひっくり返しそうになったルースが慌てる。
「はっ、そうでした!」
ナナは仄水を振り返った。
「ご指導よろしくお願いいたしますね、ほのみん様」
「うん。まず、内臓を取らないとね」
仄水はトロ箱をルースから受け取りながらうなずいた。
「えっと、口から割り箸を入れるんでしたっけ?」
調理道具の中から割り箸を探すナナを、仄水は慌てて止めた。
「なななな、ごめん! それはもっと小さな川魚の時にやる方法で、鯉みたいな大きな魚だと通用しないんだ! 普通にうろこを取って、3枚におろすの。私がやるから、ななななはアルミホイルの用意をして?」
「あ、そうだったのですか……。では、魚の下ごしらえはほのみん様にお任せいたします」
ナナは包み焼きを作るためのアルミホイルの準備を始めた。仄水はノボリゴイを手際よく3枚におろし、大きな骨を抜いて切り身にした。
「はい、後は香草や野菜とアルミホイルで包んで焼いてね。私はアラ汁を作るから」
「仄水ちゃん、ご飯はどうするのですか……? お米は、研いでありますけれども……」
日奈々が仄水に声をかける。
「あ、そうだった! 飯ごうかけなきゃ。なななな、火の端の方借りるね」
「はい、どうぞお使いください」
せっせとアルミホイルの包みを作りながら、ナナは答えた。仄水はかまどの隅に飯ごうをかけ、アラ汁の調理に戻る。
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