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ノスタルジア・ランプ

リアクション公開中!

ノスタルジア・ランプ

リアクション

 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)を川岸まで引きずってきた。
「川遊びなんて、子供がするものじゃないのか?」
「そんなことないよ! 結構奥が深いものなんだよ」
 そしてあたりから、何かを探しはじめた。
「…楽しそうだし、まあいいか…」
 よしこれ! と何かを見つけたらしい歌菜は手のひらにそれを乗せて戻ってきた。
「石?」
「まずは水切りね! 川の水面にうまく石を滑らせる遊び。私、これは大得意♪」
 サイドスローで低く投げられた石は、穏やかな川面をジャンプしながら、意外なほど遠くまで飛んでいった。
「…おお…」
「ね? 対岸まで石が跳ねて向こうへ行ったでしょ? これはかなり凄い技なんだからっ」
 見よう見まねで羽純も石を投げてみるが、石の形が悪いのか、投げ方がダメなのか、うまくいかず、一度も水面を跳ねなかった。
 静かな渓谷の間を、石が水面をたたく微かな音や、ぼちゃんと沈む音が響き、歌菜の笑い声とうまくいかない羽純の悔しげな声がそれに混ざっていく。
「うまいものだな…コツはあるのか?」
 とうとう、羽純は教えを請うてしまった。
「うふふ、侮れないでしょう、平たい石のほうがいいんだよ、こう指をかけて、投げるの」
 薄い辺に指をかけ、円盤を回すように投げる。すると今度は羽純の石もうまく水の上を跳ねた。
「次は葉っぱで船を作ってみよ!」
「葉っぱの船…ね。情緒はあるな」
 笹舟やススキ舟、帆かけ舟まで作って川岸の石に並べ、一斉に川下に流されていくのを、二人で眺めていた。
「あー、遠くまで行っちゃったなあ」
 サンダルを脱ぎ、水面に踏み入って歌菜は流れていく舟を見送る。
「おい、濡れるぞ」
「足首までの浅さだもん、水に入ると涼しくて気持ちいいよ!」
「確かに涼しくはなるか…何をしている…?」
 自分も靴を脱いで水に足を踏み入れ、歌菜といえば身体を折って水中で何かを探していた。
「石を探してるの! 羽純くんもお気に入りの石を探そうよ、交換しようね!」
 苦笑しつつ、同じように水をかき分けて石を探してみた。
「…これなんかどうだ?」
 羽純は水の流れに洗われ、角が全て削り落とされて、つるりとまるい石を探り当てた。コケのぬるつきを擦って落とせば、黒っぽい表面には白く層になった模様が見える。
「これは、今日の記念のお土産ね。ふふっ、安上がりでいいでしょ?」
 歌菜は青みがかった表面に、白く稲妻のようなかすれた模様の入る石を拾い上げ、交換した。
「昔、言葉がなかった頃、こんな風に石を渡しあって会話していたんだって。自分の気持ちに似た形の石を探して、手紙みたいにやりとりしたそうなの。これはどんな気持ちなんだろう」
「…さあな」
 川面が光を反射して、ただ、まぶしいと思った。

「んー…空気が気持ちいいですねえ…」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は背伸びをし、深呼吸して山の息吹を味わった。
「兄様と一緒♪ いっしょ♪」
 うさぎのように跳ね回りながら、紫桜 瑠璃(しざくら・るり)はあちこち見回し、ちょっとした藪に顔までつっこんで興味津々のぞき込んでいる。日本は初めてなのでなおさら好奇心が刺激されるらしい。
「転ばないようにね、あんまり遠くに行っちゃいけませんよ」
「兄様、見てみてこっちー! 早くー!」
「はいはい」
 気が付いたらものすごく遠くから声が飛んでくる、目を離してはいられない。
「この実、食べられるかなあ?」
「まだ青いみたいですよ、こっちの野いちごなら大丈夫かな、ちょっと酸っぱいけど、いけそうです」
 川を見つけては足をつっこみ、水中の生き物に足裏をくすぐられて瑠璃は笑う。
「うひゃっ、つっつかれました…。痛たたた! …カニです!」
 遙遠も結局は同じようにして、自然を満喫しているのだった。
「ねえ兄様、地球にも地祇っているかなあ?」
「天神地祇とか、八百万の神々ともいいますからね、元々あちこちにいると信じられていたもののようですから、もしかしたら出会えるかもしれませんよ」
「うわぁ、会ってみたいなあ!」
 見渡す山の中は、静かではあるのにほんとうに何かがいるかもしれなくて、思わずあたりを眺めて期待に胸を膨らませる。
 しかし、そうしているといつのまにか、小さな彼の地祇の姿が見えなくなっていた。
「はっ…瑠璃? どこへ行ったんですか!?」
 地獄の天使のスキルで羽根を生やし、あたりの光景を空から見下ろして、彼は山にくらべればほんとうに小さな妹分を探し始めた。

 どこかで地元の人が見ていたのか、鴉天狗が出ただのとうわさになったのは、みんながパラミタに戻った後のお話だ。

「それでは、山菜を採ってまいりますね」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は女将に紹介されて、厨房の板長直々に食べられる山菜を教わり、採れるポイントも教わって山に分けいった。
 採って帰ったらもう一度チェックはしてもらうけれど、どれだけ見つかるものか楽しみだった。
 咲夜 瑠璃(さくや・るり)は見るものすべてにはしゃいでいる。本や写真などの知識はあるのだが、実際に目にするのは初めてのものばかりなのだ。
「山だわ、山に入るのだわ! 妖怪は? だいだらぼっちはどこにいのだわ!? 山神様は!?」
「さっきはニンジャサムライゲイシャでしたねぇ、いませんでしたけど」
「でもオカミはさすがオカミだったのだわ!」
 女将の物腰、所作、言葉遣いなどなど、すべてが感嘆の対象になっているらしい。
 知識だけなら、山菜の植生などは瑠璃のほうが詳しい。実際目にして「山菜の王様のタラノメだわ!」とか「これが百合の根よ!」と大騒ぎすることを除けば、優秀なナビゲーターである。
 タラノメも百合根も心ない乱獲がひどく、保護のため手をつけないように言われているので、二人はそれら以外を採取していく。
「このあたりは一通り摘みましたねぇ、採り尽くさないよう移動しましょう」
 自然を楽しみ、守るためにはマナーも必要なのだ。
「わぁ…」
 山菜かごをかつぎ、山道をのんびり歩いている時、ふと振り向くと眼前には山陵の広がりが木々の隙間から見えた。はるか下には旅館がどっしりと構え、屋根が光を跳ね返している。
「ちょっと一休みしましょう」
 ここで一息入れたい、手頃な石に腰掛けて、吹き過ぎる山の風のなかに、瑞々しいにおいを感じる。どこかで花が咲いている、みどりのにおいだ。木々の濃い影の中をわたる風は、驚くほど涼しい。
「気持ちがいいですね…」
「さすが、田舎なのだわ…」
 木漏れ日と緑のそよぐ音にふわふわと眠気を誘われて、ついつい二人は木にもたれかかって昼寝をはじめた。

「これが日本の宿場、“旅館”というものか…」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)はオリエンタル、むしろ超ローカルな光景の珍しさに、常にはできない体験ができると意気込んでいた。
「ふむ、中々に赴きのある家屋よの…。よし、ローザよ。妾はこの旅館を手伝う事にするぞ!」
 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)と道案内も兼ねた山葉聡を引き連れて、ライザは近隣の農家を尋ねた。
「ほうほう、ようおいでなすった、話は聞いとるよォ」
「婆様、すまぬが野菜をいただけまいか」
 すっかり腰の曲がった老婆が彼女らを出迎える。老婆の家では長年野菜を育て、旅館に卸しているのだ。
「ばあちゃん、久しぶりだなぁ!」
「おお、山葉んところの子か。あの悪ガキがでっかくなったもんだなあ、…はてどっちだったかの…?」
「オレは聡だよ、また今度涼司も顔出すからな」
「ほうほう、ワシがくたばらんうちに顔を見せろのぅ」
 そのやりとりを見て、翔一朗は聡に耳打ちした。
「俺があんたの分までやっといてやるから、ばあさま孝行しとけや」
「いやあ、ボケ防止だっつって自分でなんでもやるばあさんだからなあ、でもサンキュ」
 聡の以外に優しい視線の先には、ライザに興味津々話しかけに行くばあさまの姿がある。
「外人さん、遠い所からよく来なすったねぇ、このトマトなんかようできとるよ」
「こ…これは誠大きなトマトよの…」
 見事に赤く熟れ、つややかなトマトは、店ではものすごく高値がつけられるだろう大きさである。自然の空気と、山からの水や土が、この実りをはぐくむのだ。
 ライザが教わってトマトをもぐと、ばあさまはそれを食べなっせとすすめる。
「なぬ? 食しても構わぬと申すか? しかも丸かじりせよと…では遠慮なく…」
「俺らももらおうぜ」
「俺も頂いていいんじゃろか」
「ほうほう、もちろんおまんらも食べなっせ」
 聡と翔一朗も手近で熟れたトマトをもぎ、かぶりつく。
「――美味い。甘さと酸味が絶妙の割合で口に広がっていく。このように美味なトマトがあるとはの」
「うまいのう…うまいのう! 俺はこんな美味いトマトははじめてじゃのう!」
 しわくちゃの顔をさらにくしゃくしゃにして、ばあさまは笑う。
 ライザは野菜かごに沢山きゅうりやナスなどの地面の上に生る野菜を収穫し、聡と翔一朗は芋掘りなどの力仕事を手伝った。
「こいつをあのばあさまは、ひとりでやっとったのか…」
「だなあ…」
 すでに収穫してあったトウモロコシの山も持たされて、これで旅館に訪れた人々の口をまかなえそうである。
「ふふ、大量だの。さあ、旅館に持って帰るとしよう」
 男二人はごきげんなライザのあとについて、山のような荷物をかつぎ、年季の入った荷車を押して旅館へと戻った。
「これ置いたら、次は別のじいさまの果物畑なんだけど、ついてきてくれる…?」
「乗りかかった舟じゃ、しょうがないけん…」
 野菜はライザに頼み、今度は翔一朗達は別の農家へと赴いた。

「おっちゃーん、来たよー」
「おお、山葉の悪ガキどもか。聡のほうじゃな、涼司はどうした」
 どこまで彼らの悪行が伝わっているのか、あーもう、と聡はうなる。
「さて、これをもっていけ」
 すでに用意されていたものは、でかいスイカである。ほかにハウスで栽培していたメロンも詰まれている。
 井戸水で冷やされているのを、何個も引き上げさせられる。
「…井戸水とは、つめたいもんなんじゃのう…」
 翔一朗は井戸が天然の冷蔵庫になっていることに関心した。井戸水の温度は平均15度ぐらい、ちなみにこの温度は、スイカがもっともおいしく感じる温度なのである。
「こっちでちょうど切ったところじゃ、ほれついでに食ってけ」
 出されたスイカは、とても皮が薄く、赤味が強い。
「うおっ、甘ぇ…!」
「おっちゃんとこのスイカ食うと、ここに来たって感じするなー」
 聡はため息をつく。
「お前ら、悪さして怒られては二人してめそめそして、そのくせスイカ食ったらケロっとしとったのう」
「お…おっちゃん…!」
 真っ黒な顔にしわを刻んだじいさまの暴露話に聡はあせり、翔一朗は笑った。

 上杉 菊(うえすぎ・きく)は、忙しく立ち働く女将にかわり、遅れて旅館に到着した契約者達を迎えた。
「こちらへおいで下さい、ご案内いたします」
 優しい笑顔と気品溢れる物腰、どれだけ忙しく立ち働こうとも、着こなされた着物の背縫いは一筋の乱れもなく沿うていて、完全に若女将の風情である。
「菊さんは素敵ですわぁ、ここまで古式ゆかしく、品格を持ち合わせた方は今時おりませんもの…」
「夫に尽くすと同様の真心を以って持て成さば、お客様は心を開いて下さいますから」
 ほう、と菊の働きに感嘆する女将は、菊の求めに応じてこの辺りの歴史などを伝えている。
「なるほど…わたくしの育った所―父の居館の裏手はこのように自然が豊かでした。そして輿入れした先に広がっていた地の大自然。時が経っても変わらず美しきものはあるのですね…」
「昔はもっと自然が濃かったものですけれど、時代は過ぎていくものよ、仕方がありません…。さて、ひととおりは歴史をご理解いただけたかしら?」
「はい。父や夫の制した縁の地の歴史であれば、暗唱出来る程なのですけどね」
 親類の涼司達が渡ったパラミタの地のことを勉強していた女将は、英霊とは過去の偉人が現代に転生してこの世に現れた存在であることを知っていた。
「あなたも、さぞや名のある方なのでしょうね…」
「そう思っていただけるとは、まこと面映いことでございます」

「おう、嬢ちゃん、そっち頼むわぁ」
「はい!」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は板長にこき使われていた。割烹着の袖をまくりあげ、忙しくしている。
 作り置きの出汁や調味料、皿の場所を教えられ、次の瞬間にはもうこれを切れ下処理をしろ、という勢いであった。
 しかしローザマリアは怯まなかった。板長は頑固さと大らかさの中にこだわりの潜む、まさに職人といった風情であるからだ。
「なんでもやってみるってのはぁ、ええこったなあ」
 そういって、見ず知らずの彼女達に包丁を持たせてくれるあたり、板前というか孫を見守るじいさんという風情でもあるのだが。
 どうやら、『悪ガキどもの友達なら、フォローはしてやるから好きにやんな』というスタンスであるらしい。
 さっき教えてもらった卵焼きなど、卵本来の味がしておいしかった。どんな出汁を使っているのかと聞けば、出汁は使わず。味付けは塩のみだという。
「大体卵一個に大さじ一杯の水ぐらいの分量で、あとは塩を適当に、だな。卵3、4個で一つまみくらいか。物足りなきゃそれから出汁を入れるのさ」
「それだけ、なんですか?」
「おうよ、そんだけよ!」
 地元で育った食材に誇りをもち、愛していることが伺えた。
「ところでお嬢ちゃん、やってみたい料理ってのは、あるのかい?」
「よろしければ、以前実習で作った炊き込みご飯を作りたいのです」
「そうか、多分同じ素材はあるかはわからねぇが、ここにある素材でよければやってみな」
 ライザが持ってきてくれた野菜や、届けられた山菜、魚などが積まれていて、とても迷ってしまいそうだ。
「なぁに、ちゃんとうまいもんができるさ」
 見守る板長に応えようと、ローザは材料を選び始めた。
 平行して板長は魚の腹に包丁をいれ、串を刺して準備する、そこに涼司が裏の鶏小屋から卵を集めて持ってきた。
「おうぼっちゃん、いい所に」
「板長のじっちゃん、なんだよ」
「裏の倉庫いって、炭と七輪出してきな」
「うぇー…はいはい」
 裏に行くついでに、傍においてあった卵焼きをひとつつまんでいく。
「いつもながら、おっちゃんの卵焼きもうめえ」
「そいつぁ、そこのお嬢ちゃんがつくったもんだぞ」
「へぇ、うまかったよ、ありがとさん」
 もう一切れつまんで、ひらりと涼司は外に出て行った。

「やっぱり着物は落ち着きますなぁ…」
 ほう、と息をつく綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は、仲居の着物を借りて身につけ、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)も女将に着物を着せてもらっていた。
「わらわも手伝うのじゃ、何をすればよいのだ?」
「皆様ありがたいことですねえ、それでは…」
「ちょ、ちょっと女将さん…!?」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が抗議のわめきをあげる。
「なんで仲居さんの着物、はいいとして、女物なんですか!?」
「あら? 違ったのかしら、でも似合うわよ」
「お…っ(俺は、男だーーーー!)」
 ぶちきれかけた紫音だが、ぐっとこらえた。招待していただき、手伝うと決めた以上、女将の顔に泥は塗れない。
「はいはい、ではこちらです」
 女装もやむなしか…と肩を落としかけた紫音にも、ちゃんと作務衣が用意してあった。
「男仲居さんて、最近の流行ですものねえ」

「おふとん、しきにきました、なの」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は、だれもいない部屋に律儀に挨拶をして入室した。きちんと教わった作法で、膝をついてふすまを静かに丁寧に開ける。
 彼女は、りょかんのおしごと、というものに興味を感じていた。人を傷つけず、幸せにする裏のお仕事だ、き
っとエリーはやれるのだ。
「ここのへやにおとまりなのは、おふたりさん、なの」
 軽く掃き清め(すぐ裏が山な田舎であるものだから、ほこりや虫などはいくら掃除してもきりがない)押入れから布団や枕などを2セット取り出し、寝間に運び込んで敷いていく。
「うゅっ♪ おふとん、じょうずにしけましたの♪ ふかふかなの♪」
 角をきれいにそろえ、しわも見受けられない、できばえは上々だ。
「つぎは、かや、なの」
 しかし蚊帳は、彼女の小さな身体ではうまく釣ることができなかった、足場を持ってきて、部屋の四隅にフックをかけようとするのだが、釣る位置が高すぎて手が届かない。
 足場の下にさらに台を置き、バランスの悪い不安定な形で手を伸ばそうとしたものだから、エリシュカはそのまま後ろに転げてしまった。
 倒れた先は幸い布団だが、その間に蚊帳を挟んでころりと転がった。勢いよく簀巻きになってしまって、彼女は焦った。抜け出せない。
「はわっ……助けて、なの」

 廊下を掃除していた紫音たちは、かすかな助けを求める声を聞きつけ、その部屋に踏み入った。
「どうした? 何があった?」
「あら、蚊帳に巻かれてはるわぁ…」
「助けて、なの…」
「ひとりでやっておったのか? 大変じゃったろう」
 すっかり巻かれきって体が動かせず、力尽きそうになっている小さなアリスを助け出し、皆で力を合わせて蚊帳を釣り直す。
「これからは、みんなでやろうか」
「はわ…おねがいします、なの…」
「おかしいな、最後にセットしようと思った蚊取り線香がないぞ?」
 蚊取り線香は使ってはならない、この近隣は蛍が出るため、窓を開けていると蛍が迷い込むのがこの旅館の売りなのだが、蛍は蚊取り線香の煙にやられて落ちてしまうのだという。
「あかんぇ、蛍を守らな」
「なの」