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マホロバで迎える大晦日・謹賀新年!明けましておめでとう!

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第四章 初詣6

「はあ、皆さんお餅を食べて楽しそうですね。それに引きかえ私は、お正月から巫女さんバイトですよ、バイト。いえ、別に巫女がイヤというわけではないですよ?」
 インスミール魔法学校鬼崎 朔(きざき・さく)は、鬼鎧の餅つき大会初詣を尻目におみくじを売ったり、参拝者に境内の案内をしたり、とにかく忙しい。
「バイトして少しでも家計の足しにしないと……あの大所帯を支えられないしな」
 休憩時間を見つけ、とりあえず賽銭箱に金を投げ入れ、手を叩いた。
「……理不尽で不条理でクソったれな神様。居るとは思わんが一応願っとく。今年こそ、我が復讐の成就を!塵殺寺院撲滅!!」
 彼女は視線を落とし、小さな声で言った。
「……ふん、こんな事願っても、この世界の神がきいてくれるとは思わんがな
 朔はこの世界や塵殺寺院に恨みを持つ復讐鬼であり、第七龍騎士団団員でもある。
 今回のバイトはマホロバ偵察の意味もあった。
「あの、あなたはここの巫女さん? 何を祈ってたのかな?」
 ふいに声をかけられて驚く朔に大奥取締役代理七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が笑顔で話しかける。
「え……?」
「だって、巫女さんが個人的に祈るのってどんなことなのか、ちょっと興味があって」
「そういうあなたは何を願ったんですか」
「あたしは『良い出会いがありますように!』って。大奥は競争率高くて……」
「ボクは野球がもっとパラミタに広まってくれればいいなって。あ、ボクはアリスでまだ生まれて間もないけどね」
 歩のパートナー七瀬 巡(ななせ・めぐる)
 朔にとって、大奥も野球も自分とは遠い出来事のように思えたが、目の前の少女たちはおかまいなしだった。
「そうだ、あなたも今度大奥に来てみると良いわ。貞継様も美形だから」
「……考えとく」
 朔はそれだけいうと、仕事に戻ろうとした。
 が、歩が急に声を上げ、新しいマホロバ将軍に挨拶をしているのをみて気が変わった。 新しい将軍は名を白継といい、まだ小さな子供だ。
 しかし、なぜか歩は側にいた銀髪の眼帯をした侍ばかり見ている。
 彼女の目がハートマークになっていた。
「あ……あの、この子たちのお知り合いでしょか。え、えーと、子供たちのお相手をしてくださったんでしたら、お礼に……その、お茶でもどうでしょうか」
 歩に誘われて侍の男――日数谷 現示(ひかずや・げんじ)は、きょとんとしている。
「俺?」
「はい。あなたです」
 歩ビジョンでは、現示のまわりがキラキラ輝いている。
 ついでに百合園補正も入っている。
 彼女は白馬の王子様に憧れており、例えば薔薇の学舎にはそういう人が集まってると思いこむ気質があった。(現実はお察しのとおりである)
 現示が白馬の王子様に見えるのは……大いなる謎であるが。

「あの現示が女の子に誘われている――!?」
 突如沸いたミラクルに周囲が騒然としていた。
 嵐か、天変地異の前触れか。
 上空から威圧的な声が聞こえてきた。
「日数谷、そいつは罠だ。絵や壺を買わされるぞ!」
 エリュシオン帰りの龍騎士漆刃羅 シオメン(うるしばら・しおめん)(故人)が、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)たちと真下を見下ろしている。
「歩ちゃんみっけ!ふふ……イケメンと一緒だなんて、ほんと男好きなんだからあ。でもそこも好き!ひゃぁあ、イケメンを殺せー!」
 アルコリアは鬱オーラを放つ魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を纏うと、突進してきた。
「……男好きが好きでイケメン殺せとか……鬱だしのう」
 ラズンの後ろ向き発言をもろともせず、アルコリアのスイーツ(笑)爆弾が投下される。

「くきゃははははっ!!
モテカワ体質(笑)【叫び】で攻撃、人も壊すよ!
愛されガール(笑)【崩落する空】でお空も壊すよ!
自分へのご褒美(笑)【神速】でバンバン攻撃するよ!」


 場が一気に『カワイイ』空気に飲み込まれた。
 『カワイイ』は世界の事象あらゆるものをこの一言で済ますことのできるスイーツ(笑)最強の言語魔法である。
「さすがですわ! マイロードの予想だにしない攻撃に、マホロバの民が慌てふためいておりますわ! 無様ですこと!」
 魔道書 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)は高笑いしながら、『愉しい破壊活動』に参加している。
「昔の偉い人もいってましたものね。『このまま毎日国を焼こうぜ』と。マイロードと龍騎士の力にひれ伏すがいいですわ!」
 ナコトが『凍てつく炎』を唱えた!

「おモチ食べた? モチろん!
おモチは腹モチがいいね!
うん、おモチおモチ帰りしようよ!」


 極寒の駄洒落がリフレインし、氷点下の凍てついた空気を作り出す。
 ラズンの体感温度がマイナス二度下がった。
「これは寒すぎる……鬱だしのう」

「アルコリアさん、もうやめて! マホロバ(の世界観)が壊れちゃう!」
 歩は泣きながら攻撃をやめるよう、懇願した。
 しかしアルコリアは薄笑いを浮かべて、シオメン(故人)に問う。
「んー、どうしよっか、しおちゃん?」
「フン、龍騎士の恐ろしさはこんなものではない。味覚も私好みに変えてやろう!」
 シオメン(故人)は特製お餅を取り出した。
 餅には大きく『塩』と書かれてある。
「中には、塩味の麺が入っている。餅と塩ラーメンを同時に食せるという画期的な新商品だ! 未来永劫ハマルがいい!」
 シオメン(故人)の合図により、凡骨(ぽんこつ)ハイパーロボ子シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が塩麺餅をバラまく。

「ガガピー、ガガピー。
エリュシオンノエイコウノタメニ、
カイシュウシナイモノヲ……マッサツ!マッサツ!」


 空から降ってくる得体の知れぬ脅威の物体に、人々は恐怖した。
「歩ねーちゃんをいじめたな〜!野球してる場合じゃないよ! みんなは安全なところへ逃げてね!」
 巡は、貞継チルドレンを庇いながら歩を助けに向かうが、塩麺の餅爆弾の威力はすさまじい。
 興味本位で食べた者の死屍累々の山が連なった。
「あれが龍騎士とか、龍騎士そのものが誤解されちまうだろーが!」
 武装巫女の朔が、ばばーんと登場する!
 光条兵器『無光剣』で塩麺爆弾を粉砕しながら突き進んでいく。
 が、朔は加勢に向かう途中で、塩麺爆弾を受けてひっくり返って伸びている北郷 鬱姫(きたごう・うつき)を発見した。
 彼女の周りには今までもらったお年玉やお餅がばらまかれており、他の人に拾われている。
 朔も何気なくお餅を手に取ったところ、中から御弾 知恵子(みたま・ちえこ)がしこんだ日本の五円玉がぽろりと出てきた。
「おめでとう〜! キミ今年きっといいことあるよ!」
「え? 何?」
 状況が飲み込めないまま、朔は人々に勝手に祝われている。
 次々と手が伸び、朔を持ち上げる。
 リーグ優勝で胴上げされるプロ野球監督のように、朔は青空の下で舞っていた。

卍卍卍


 東光大寺院の騒ぎはしばらく続いたが、そう長くはなかった。
 塩麺爆弾の餅が時間が経つにつれ固くなり、調理しなくては食べられなくなったからだ。
 シオメン(故人)は「盲点だった」と反省しつつ、次なる強襲に意欲を燃やしたが、次回作に彼の出番は……ない。
「駄目だ、欝だ……しのう」
「もう死んでるのよ、しおちゃん」
 アルコリアは塩麺餅を前歯でガリガリかじり、感想を漏らす。
「スイーツ(笑)」