校長室
マホロバで迎える大晦日・謹賀新年!明けましておめでとう!
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第五章 初日の出2 「う……ん」 御子神 鈴音(みこがみ・すずね)は鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)を目の前にして悩んでいた。 貞継は最近ぼーっとしたまま動かない。 これまで何度も話しかけたり、微笑んだり、つねったりしたのに何の反応もない。 「アル、どうしよう?」 鈴音はパートナーの機晶姫サンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)に意見を求める。 「何かにとり憑かれてるかもしれないよ。鈴音のお札でも貼ってみたら?」 「うん」 ……ぺたり。 貞継のおでこに貼ってみた。 「何ともないよ……」 「そっか。じゃあ、くすぐっちゃう?」 「うん」 こしょこしょ……。 「だめみたい」 「うーん」 その後も外的刺激を与え続け、実験を繰り返したが、何の反応も見られなかった。 鈴音はそのうち、今がお正月であることに気付き、貞継の頭の上にみかんを置いてみた。 「あれ……? 動いた?」 わずかな反応を見逃さなかった鈴音は行動をエスカレートさせ、ついには貞継を正月風に飾り付けていた。 「貞継……鏡餅、みたい」 魔道書作曲者不明 『名もなき独奏曲』(さっきょくしゃふめい・なもなきどくそうきょく)を伴って、貞継のもとへ挨拶に来たスウェル・アルト(すうぇる・あると)は、じっとそれを見ていた。 「ムメイ、貞継と一緒にお酒、飲みたい。でも……動かない」 スウェルが『名もなき独奏曲』を見上げると、ムメイはひょいと頭の上のみかんを取ってみた。 「美味しい」 すると突然スイッチが入ったかのように、貞継が動き出した。 「あ、将軍様動いた」 鈴音の言葉に貞継は「ううーん」とうなっていた。 「何だこれは?」 「将軍様、どうした……の?」 鈴音は率直に尋ねたが、貞継自身も良く分からないようだ。 首をひねって考え込んでいる。 「さっきまで扶桑の下で酒を飲んでいた気がするのだが……」 「お酒、ある。ムメイ、もってきた」 スウェルは貞継を友達だと紹介し、ムメイは「嬢ちゃんの友達に会いに来た」と言った。 そして二人はあらためて新年の挨拶をする。 「あけましておめでとう、ございます」 スウェルは重そうに着てきた振袖の袖を払う。 鈴音とサンクもそれにならった。 そして歌留多遊びでもしようと準備をしている。 「実は大奥にも来たかったんだが、俺様はこういう機会でもないと入れないしなー」 と、貞継と酒を酌み交わしながら、大奥の女性に付いてムメイは語った。 「どう思った?」と、貞継。 「綺麗なお嬢様方ばかりだったなー。でも、こうして飲む相手が居るのが嬉しいよ」 「模範解答だな」 「はは……いきなり手打ちはやーよ?」 そうしてる間に、スウェルは貞継の猫と遊んでいる。 貞継たちが飲み過ぎないように注意しながら様子をみている。 「飲みすぎ、ダメ……無礼講でも、倒れるの。ダメ」 「わかってるよ、嬢ちゃん。ところで将軍の兄さん、あの猫の名前は何?」 自分が聞く前にムメイが聞いたので、スウェルはきゅうと『名もなき独奏曲』とつねった。 スウェルが聞きなおす。 「貞継、猫の名……は?」 再度聞くと、貞継はすかさず「猫は猫だ」と答えた。 「何なら、スウェルが名前をつけてやれ」 「私……が?」 スウェルも今まで貞継同様、猫とだけ呼んでいた。 「猫……名前……名前」 彼女は考え込んでしまった。 「将軍様、遊ぼう」 鈴音が歌留多を並べる。 ムメイがそれをみて感心したように言った。 「へー、マホロバの絵柄は独特で面白いねえ。魔道書じゃないけど、それとは違ってまた神秘的なものを感じるねー」 貞継が札をとって読み上げる。 「『い』犬も歩けば猫も歩く〜」 「ハイッ」 「は……い」 「はい……」 「はいよ!」 間も無く、彼ら五人で歌留多遊びが始まった。 わずかばかりの、正月らしい楽しいひとときである。