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喋るんデス!

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喋るんデス!

リアクション

「あのワイバーンが見えないのかよ! 今俺達がこんなことをしている場合じゃないだろ!」
「ならば完全に手を引いて、イルミンスールにお帰りください、あれは私達だけでも対処可能です、あなた方はむしろ邪魔」
「この、わからずや!」
 暴れるワイバーンを尻目に、綾乃と紫音は戦い続けていた。
 2人の実力は拮抗し、決着はなかなかつきそうにない。
 しかし2人のそのスタンスは真逆。
 紫音はなんとか戦いを辞めようとしているのに対し、綾乃は戦いにのめりこんでいるように見えた。
(主よ、このままでは共倒れになってしまうぞ)
 アストレイアが警告する。
「わかってる、でも相手が辞めてくれないんだからしょうがないだろ!」
「そう、決着がつくまで戦うのは、いた志方ないのです」
 綾乃の繰り出す斬撃を紙一重でかわし、二刀でなぎ払う、だがそれも綾乃に通じない。

 まさに泥沼の戦いだったが、その状況は不意に破られた。

「そこまで、です!」
 朱宮 満夜(あけみや・まよ)が必死に叫んだ。
「これは公務です、止めたければ実力行使でどうぞ」
 冷たく言い放つ綾乃、だが……
「その公務に関わる話だ、まずは我々の話を聞いてもらおうか」
 ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)
「?」
 公務に関わる話と聞いて、ようやく綾乃が動きを止めた。

「たしか……『動物達の解放を求めるならば、しかるべき手続きを踏んだ上で』と言っていたな?」
「その通りです、社会には守るべきルールがありますので」
 ミハエルが綾乃に確認を取る。
「その手続きなんですが……先程、終えました」
「はい?」
 満夜のその言葉に綾乃の表情が崩れた。

「一時的にですが、動物達をイルミンスールで引き取ることになりました、これがその許可証です」
 そう言って満夜が書類を取り出す、役所の認印が押してあった、間違いない。
「処分対象の動物達全てを、ですか?」
「はい、全てです」
「まさかそんな無茶な要望が通るなんて……信じられない」
 唖然とする綾乃。

「その件につきましては、エリザベート師にペット用の施設を用意していただけたのが大きいですね」
 納得のいかない風の綾乃に博季が説明する。
 多くの動物達を収容可能な建物と、世話をする為の人員。
 それらを自費で用意するという条件でようやく許可が下りたのだ。
 もちろんそれには膨大な出費が予想されたが、博季達の説得と、何より『自分が世話をするから』と言ってきかないミーミルにエリザベートが折れたのだった。
「そうですか……あのおちびちゃんが……」
 そういえばエリザベート達の姿が見えない、イルミンに戻って用意しているのだろう。
 少しは、エリザベートを見直してもいいかな、と思う綾乃だった。

「もうじき我々に協力するようにとの命令が来るでしょう、ご協力お願いできますか?」
「わかりました、彼との決着がつかなかったのは残念ですが、そういうことなら志方ない」
 紫音とのバトルに未練を感じながらも、了承する綾乃だった。

「それで、あれにはどう対処するつもりですか?」
 綾乃の視線の先にはワイバーン、そして未だに追われている透乃達がいた。
「ハァハァ、そろそろ、ダイエット効果があらわれてくれないかな……」
 もう自分達は美味しそうじゃないんじゃないかと期待する透乃、だが……
「余分ナアブラガ落チテ、塩味モキイテ、モットウマソウ」
「えぇぇぇぇぇ」
 ……どこまでもグルメなワイバーンだった。

「そのワイバーンだが、お前達は『喋るんデス!』というペットグッズを知っているか?」
 アルツールが綾乃に問いかける。
「は? なんです、それ……」
「ペットが人間と会話出来るようになる、という触れ込みの装置で、ここ最近、空京で流行しているらしい」
「そうでしたか、世間の流行に疎くてすいません……確かにあのワイバーンは人間の言葉で喋っていました、その理由の説明ですか?」
「まぁそれもあるが……これを見てくれ」
 そう言ってアルツールは資料を見せる。

 それは沢渡真言たちによって作られたレポートだった。
 科学と魔術双方の視点による『喋るんデス!』の解析結果が書かれている。

「これは……欲望の結晶……そんなものが……」
「この『喋るんデス!』を付けられたペットは欲の塊になる、持て余して捨てる飼い主が増えるのも……」
「……いた志方ない、そういうことでしたか……」
 これには納得せざるを得ない。

「そしてこの情報を元に我々は、あのワイバーンの首輪の破壊を狙うべき、と考えるが……どうだろうか?」
「わかりました……透乃、聞こえますか? 首輪です、ワイバーンの首輪を狙ってください」
 状況を把握した綾乃、さっそく無線で透乃に連絡する。
「おい、ここは我々と共同で作戦行動を行うべきでは……」
「問題ありません、先程も言いましたが、あれは私達だけでも対処可能です……」
「あんた、そんなに俺達と協力するのが嫌なのかよ!」
 綾乃のこの対応に紫音がカッとなる。
 だが綾乃は動じず「それに……」と言葉を続ける。

「私達のせいで、あなた方をかなり消耗させてしまいました……これくらいの罪滅ぼしは、志方ない」



『ザザ……透乃、聞こえますか? 首輪です、ワイバーンの首輪を狙ってくださ……』
 無線機から綾乃の声が聞こえた。

「首輪って言われても……わわっ! 危ない危ない」
 ワイバーンの執拗な攻撃が透乃達を襲っていた。
 首輪……確かにワイバーンは首輪をつけていた……『喋るんデス!』が怪しく光る。
「あれね……確認しました」
 ワイバーンを見上げ、首輪を発見する陽子。
 問題はこの攻撃の中であれをどうやって破壊するかだ。

「透乃ちゃん……ここはどちらかが囮になるべきだと思うの……」
「陽子ちゃん? まさか?!」
 透乃が気付いた時にはすでに遅かった。
 陽子は逃げるのをやめ、その場に立ち止まっていた……

「陽子ちゃぁぁぁん!!」
 陽子の自己犠牲に悲痛な声を上げる透乃。


 ―― だ が し か し ――


「ウーン、アッチノホウガ、肉イッパイデ、ウマソウ」

 ワイバーンは陽子を素通りした。

「へ?」
 まっすぐ、透乃に向かってくる。

「な、なんでー!」
 必死に逃げる透乃。

「……透乃ちゃん、ダイエット、がんばろうね」
 透乃が一人で逃げている間に陽子は首輪に狙いをつける……今だ!
 透乃を狙って急降下するワイバーン……その軌道を読んだ陽子が鎖を放つ。
 その鎖は狙いを違えず、ワイバーンの首輪に絡みついた。
「グァァ!」
 絡みついた鎖を引きちぎろうと暴れるワイバーン。
 だが、鎖よりも先に首輪の方が、引きちぎられた。
「!!」
 その瞬間、ワイバーンの様子が急変する。
「や、やったの?」
 動きの止まったワイバーンに、透乃が慎重に近づく。
 するとワイバーンは透乃の顔をぺろり、と舐めた。

「あれは愛情表現です、あのワイバーン、元々は人懐っこい子だったようですね」
 博季がペットとしてのワイバーンの習性を解説する。
 正気を取り戻したワイバーンは、透乃をすっかり気に入ったようだ、透乃の顔をペロペロと舐めている。
「ふふ、よかったですね、透乃ちゃん」
 透乃達を笑顔で見守る陽子。
「よくない! この子絶対味見してるよー!」
 透乃の叫びが夕焼け空に響いた。