葦原明倫館

リアクション

　ワイバーンの騒ぎの中、逃げ出した猫達はすぐに見つかった。
　それはなぜかと言うと……

　空京の一角、一人の人物の元に動物達が集まっていた。

「おいしいにゃー、もっと食べたいにゃー」
「いくらでも食べていいわよー、でもその首輪は外そうね」
　高級ペットフード100個に釣られて集まった動物達から『喋るんデス！』を取り外しているのは多比良　幽那（たひら・ゆうな）だ。

　彼女の元には欲望の虜となった動物はもちろん、野良の生活で飢えていた動物達が全て集まってきていた。
　その中には白猫の姿もあった……薄汚れた首輪に「くれあ」と書かれている。
「あ、この子がくれあね……よしよし」
　しっかりとくれあを確保する幽那。
「アコニトム、ちょっとの間、この子達をお願いね」
　愛娘―アルラウネ達に動物達を預けると、くれあを抱えてエリザベートの元へ向かう。
　どうやらエリザベートからのご褒美は彼女のものになりそうだ。
「何をお願いしようかしら……」
　くれあを撫でながらご褒美のことを考える幽那、心が躍った。




　その後の出来事――


　保護された動物達は約束どおり一旦、イルミンスールで預かることになった。

　ちょうどイルミンには改築中（修繕中？）の大教室があったので、そこの改装作業を中断し、動物達の収容場所として提供されたのだ。
　毎日動物達の世話に通うミーミルの姿が生徒達の間で話題となり、動物達の世話を手伝う人間には事欠かなかったようだ。
　せっかくの機会だからと一部の教師達が動物と触れ合う特別授業も行われたらしい。

　くれあをはじめ、多数の動物を保護に成功した多比良　幽那は最功労者として校長エリザベートに表彰された。
　その際、本人の希望が受け入れられ、教員職として採用されることになった。

　御手洗博士の陰謀は悪質な詐欺として空京テレビによって報道され、『喋るんデス！』は全品回収となった。
　それらは警察に押収された『-Gire-』共々、病院に運ばれ、患者の治療に役立てられたようだ。
　治療によって回復した飼い主達は皆、愛するペットと再会すべくイルミンスールを訊ねているらしい。
　くれあの飼い主、早坂　弘幸も回復しイルミンスールを訪れたが、その際エリザベート校長が「くれあは返さないですぅ」と散々駄々をこねた、との噂が流れているが、その真偽は不明。

　御剣　紫音、綾小路　風花らが中心になり、里親探しも進められた。
　集められた動物の中には元々野良だったり、本当に心ない飼い主に捨てられた動物達も少なからずいたのだが、彼らの活動によって、飼い主を得ることが出来たようだ。
　
　最大の問題となっていたワイバーンだったが、さる富豪が匿名で捜索願を出していた事が後に発覚。
　内容が内容だけに、誰からも相手にされていなかったという。
　富豪からの礼金によって、残された動物達に充分な環境を与えられることが出来そうだった。

　研究所の近くでガス欠によって動かなくなっている所を発見されたハーリー・デビットソンだったが、心ある人に拾われ、無事に持ち主である南　鮪の元に届けられた。
　だが鮪本人は盗難届けも出しておらず、届けられた時に初めて盗まれていた事に気付いたという。





　そして……


　――地球上、某所――


『ペットグッズ詐欺にご用心！　飼い主とペットの絆が狙われていた？！』

　そこでは本来放送されていないはずの空京の報道番組を見ながら、その女性は受話器越しに呟いた。

「『-Gire-』……基礎研究をあと１年も続けていれば、使い物になったかも知れないのに……馬鹿な男……」
　その女性の言葉には、御手洗博士個人に対してだけではなく、自分以外の全てを見下すニュアンスが感じ取れた。
「……それとも、御手洗博士自身も欲に取り憑かれたのかしら？　難儀な研究材料ね」

　ここで会話の相手が何事か喋ったようだ……女性の目が鋭く光る。

「ええ、御手洗博士にもう用はない……処理方法？　任せるわ……もしも研究を引き継ぎたい者がいるのなら、勝手になさい」
　そう締めくくり、女性は右手で受話器を下ろした……その反対側……左の手には、『-Gire-』が赤く輝いていた。