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リアクション
壱
第一回戦
審判:プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)(葦原明倫館)
○第一試合
一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)(蒼空学園)VS.白砂 司(しらすな・つかさ)(イルミンスール魔法学校)
「お集まりいただいた皆様、お待たせいたしました。これより、第一回葦原明倫館御前試合を開始致します」
菊綴の着物に袴、烏帽子、帯に短刀、そして軍配――おそらくはハイナの指示――どう見ても相撲の行司姿のプラチナムが淡々と述べた。奇抜な衣装に眉一つ動かさぬのは、賞賛に値する。
「では早速第一試合と参りましょう。双方前へ。第一試合、尋常に……始め!」
いきなり言われ、瑞樹は焦った。こういう試合は、もう少し緊張感を伴うものではないだろうか。だが何と言っても機晶姫。元戦闘兵器の名にかけて、マスターのために勝ち抜いてみせる!
――と思ったのも束の間。
司の【シーリングランス】が炸裂した。瑞樹はベレッタPx4“ストーム”を握ったまますっ飛んだ。司は落ちてくる瑞樹の足元へ向け、得物を叩きつける。競技用の槍はその二回で折れたが、瑞樹もまた地面に落ち、そのまま気を失った。
○第二試合
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)(葦原明倫館)VS.ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)(薔薇の学舎)
「――僕はあの黒いドラゴニュートが勝つと思うよ」
天音が言った。
「えー、そうかなー。ウィングさん、強いよー。サバイバル演習やってるしー」
すぐ近くにいた葦原明倫館の鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、反論した。
「はい主様、オレンジジュースです」
氷雨のパートナー、おまけ小冊子 『デローンの秘密』(おまけしょうさっし・でろーんのひみつ)がコップを両手に持って戻ってくる。
「ウィングさんの応援ですか?」
「うーん、別に誰かを応援っていうわけじゃないけど、ウィングさん、同じ学校だしねー」
「主様、興味あるなら参加すればよかったのに」
『デローンの秘密』ことデロちゃんは、りんごジュースをストローで啜りながら言った。
「えー、ボク、試合形式って苦手なんだー。それに色んな人の戦いって見てると面白いよー。さっきの人もすんごい先手必勝。いざっていう時、役に立つんじゃないかな。勉強になるよ、うん」
「……主様、勉強嫌いじゃないですっけ?」
デロちゃんが小声で首を傾げると、天音が言った。
「すると君は、あの見目麗しい若者が勝つというわけだね?」
「っていうんじゃないけどー」
「何なら賭けようか? 僕が負けたら、この栗きんとんをあげよう」
それはそれは美しい色の栗きんとんを見て、氷雨とデロちゃんは目を輝かせた。
「あたしたちが勝ったら?」
「そうだねえ……」
そもそもなぜ自分がここにいるのか、ブルーズ・アッシュワースはよく分かっていなかった。
昨夜、パートナーの天音に梅見に行こうと誘われ、朝早くからせっせと弁当を作って葦原島にやってきた。ところがブルーズがちょっと他を見ている隙に、
「登録しておいたからね」
ときたものだ。当日参加締め切り五分前のことだった。
「第二試合、尋常に……始め!」
プラチナムの掛け声と同時に、ウィングが【乱撃ソニックブレード】を使った。ほとんどの観客の目に見えぬスピードで、両手の竹刀から衝撃波が放たれる。
「私の二つ名を知っていますか」
眉一つ動かさず、ウィングは言った。「『ドラゴンスレイヤー』ですよ」
ブルーズは笑いたくなった。何という皮肉な相手であろう。だが、格好の相手でもある。
【リジェネーション】で今のダメージを回復しつつ、【闇術】を使う。闇が広がり、ウィングを覆う。
「これは……!」
ウィングの涼しい顔が、僅かに歪む。とたん、ドン! と彼の両腕をとてつもない重さが襲った。まるでいきなり、象が乗ったかのようだ。竹刀は腕ごと、地面に縫い付けられてしまった。
「欝技・奈落墜とし。その武器は奈落の鉄鎖で縛られている……ふん、重いか? そうだろうな。その重さは知らぬ内に参加手続きをされ、今この場に立っている我の気の重さそのものだからな」
天音が聞いたら、「酷い言いようだ。まるで僕が鬼みたいじゃないか」とちょっと憤慨しそうなセリフを吐き、ブルーズはS&W M29“44マグナム”を構えた。人であれば両手で握るそれを、このドラゴニュートは軽々と二丁扱う。
だがブルーズが引き金を立て続けに引くより早く、ウィングは竹刀を捨て、ドラゴニュートの足元へ突っ込んだ。ドラゴンアーツを使った特攻は、同じスキルを持つブルーズ相手にも大きなダメージを与え、二人とも地面にもんどりうって倒れた。
プラチナムが冷静にテンカウントをし、「九……」と言ったところでウィングが立ち上がった。
足を引きずりながら控え室へ戻る途中、観客席から天音がため息と共に言った。
「やれやれ。栗きんとんを取られてしまったよ。おまけに梅見の絶景スポットを聞きそびれてしまった」
「……天音、我が戦っている間、おまえは何をしていたのだ?」
「もちろん、ブルーズを応援していたとも。だから大事な栗きんとんを賭けたんだ」
ブルーズが苦虫を噛み潰したような顔をしたのに気づいたのかどうか、天音は続けた。
「負けてしまったものは仕方がない。二人でいい梅を探しに行こう。ああ、でもお弁当は全部食べちゃったけど」
「……」
「美味しかったよ」
文句の一つでも言いたいところだったが、美味いと言われて許す気になるのは、やはり甘やかしすぎだろうか、とブルーズは思った。
○第三試合
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)(薔薇の学舎)VS.アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)(蒼空学園)
「師匠ーっ! 頑張るっスから、応援して下さいーっ!」
観客席に向けてぶんぶんと手を振るアレックスに、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は、にこやかに右手を振り返した。
「……ねえ、どうして参加しなかったの?」
サンドラは元々戦闘系職種と連携しての戦いを得意とするから別だが、リカインはパラディンである。その上、アレックスにとっては剣の師匠にも当たる。試合に出て当然だとサンドラは思っていた。リカインは笑顔のまま、
「やりたくないわけじゃないんだけど……私が出ると、多分アレックスが」
「……ああ」
多分きっと、「師匠には負けないっス!」と大興奮&大暴走の末、無茶苦茶な試合をするのは目に見えていた。双子の兄のことだけに、サンドラにはよく分かる。
「それでアレックスが反則負けでも自業自得だからいいとしても、巻き込まれた相手は気の毒でしょ。ああいうところが落ち着くまでは、残念ながら私は試合の類には参加出来ないわね」
そう言ってリカインは肩を竦めた。端正な顔立ちの彼女がそんな仕草をすると、やけに様になる。周囲の目が注がれるのにサンドラは気づいた。アレックスのことだけでも頭が痛いのに、美人は色々大変らしい。
こうなれば偶然でも何でもアレックスには頑張って欲しいものだが、それとは別に、サンドラは他の人の勝利をこっそり願っていた。
アレックスの巨大な竹刀に対して、クリストファーはレイピアのような細身の竹刀だった。よくこんな物があったな、とちょっと感心したが、どうやらハイナの指示でどんな武器にも対応できるようにしてあるらしい。
「そこの人! 恨みはないけど、いくっスよ!」
試合開始の合図と共に、アレックスが竹刀を振りかぶった。
「そうはいかない」
ピシリとクリストファーの剣がアレックスの足元を打った。「これで一本」
「何の!」
クリストファーの腰に向け、横薙ぎにしようとした時、アレックスの視界を薔薇が覆った。
「え!?」
「薔薇より俺の顔が見たいだろ?」
アレックスがクリストファーの顔を見るより早く、彼は脳天に叩きつけられた剣の衝撃で気を失った。
「……馬鹿兄貴」
銀とミシェルによって担架で運ばれていくアレックスを睨み、サンドラは言った。
「……やっぱり私も参加すればよかったかしらね」
今からでも飛び入り参加しようかしら、と満更冗談でもなさそうに、リカインは呟いた。
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