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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

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   参

  第一回戦
○第六試合
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)(蒼空学園)VS.エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)(蒼空学園)

 トライブは手にした竹刀をひょいひょいとお手玉のように左右の手に持ち替えながら、相手を見た。
 エヴァルトは拳、肘、膝、脚を覆うサポーターの確認をしている。
「まいったなあ、まさかあんたとやりあう羽目になるとはね」
「先程の試合を見ていなかったのか? パートナー同士が戦うこともある」
「おいおい、俺たち、お友達だろお?」
 エヴァルトはじろりとトライブを見た。
「友のためなら俺は手段を選ばん。だが、今は別だ。……無手勝流、エヴァルト・マルトリッツ……推して参る!」
 試合開始の合図と共に、エヴァルトは地面を蹴った。
「うわっ、まじで!?」
 軽口を叩きながらも、トライブは早々【轟雷閃】を放った。先手必勝。エヴァルトの戦法は承知している。――二人は戦友なのだ。
 エヴァルトは身体のあちこちが焦げたが、構わずトライブに殴りかかった。避ける彼の腕を取り、がっちりホールドすると、勢いのまま背中から落とした。
「これぞ試合用の奥義……龍の顎・試式ッ!!」
「いってぇ……! っとにまじでやりやがった!」
 辛うじて受身を取ったが本当に背中が痛い。
 立ち上がるやエヴァルトが正拳を突いてくる。咄嗟に竹刀で払おうとし、エヴァルトの腕に跳ね返ったそれが、彼の額に当たった。
「一本! それまで!」
「くっ……不覚……俺の鍛え方もまだまだ、ということか」
 がっくりと膝を折るエヴァルトに、トライブは背中を擦りながら言った。
「たまたまだよ、たまたま。久しぶりに冷や汗が出たぜ、いや本当」
 本当に危なかった、とトライブは思った。


○第七試合
 ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)(シャンバラ教導団)VS.リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)(波羅蜜多実業高等学校)

 片手槍と盾を持ったジガンと対峙して、リリィはおやと思った。控え室で見た時には、目つきが悪いし、どことなく鬱屈した雰囲気で、自分よりよほど波羅蜜多向きに思えたのだ。
 だが、今試合場にいるジガンは、鉄仮面をかぶり表情こそ見えぬが動きに気品があり、いかにもナイトらしい。
 してみると、控え室でのあの態度は、試合前の緊張ゆえということか。
 リリィは納得した。シャンバラ教導団の生徒であっても、誰もが戦闘を得意としているわけではないのだ。
「お手柔らかにお願いします」
 にっこり挨拶すると、ジガンも頭を下げた。鉄仮面の下では、きっと微笑んでいるか、凛々しく頷いていることだろう。
 試合開始の合図と共に、双方、じりじりと間合いを取った。
 リリィは手錫杖を握り締めた。これは普通の錫杖より短い上に、競技のために強度を下げてある。ただし、遊環(ゆかん)はちゃんとついていて、揺らすとしゃくしゃくと音を立てた。
 リリィはジガンに殴りかかった。ブゥンとしなる手錫杖を左の盾でかわし、ジガンは片手槍でリリィの肩を突いた。リリィは吹っ飛んだ。リリィが立ち上がるより早く、ジガンは盾を彼女へと投げつける。
「――!!」
 それを避けられたのは、ほとんど偶然のようなものだった。続けて迫ってくるジガンの腹部へ向け、リリィは片膝をついたまま手錫杖を思い切り突いた。
 その体勢で反撃されるとは思わなかったのだろう、ジガンはモロに腹へと食らった。一瞬、息が止まる。その隙を逃さず、リリィは【バニッシュ】を放った。
 ジガンは身体を二つに折って、倒れた。

 ミシェルの肩を借りて試合場を出たジガンは、すぐに彼女から離れた。「大丈夫です。今戦った彼女に伝えてください。いい勝負でした。戦場で会う時があれば、よろしくお願いしますと」
 ミシェルも次の試合が見たいので、すぐに戻っていった。
 ジガンは仮面を外し、ふうと息をついた。本気で戦ったわけではない。その証拠にスキルは使わなかった。猫をかぶったつもりだったが、ついうっかり、倒れたリリィへ追い討ちをかけるよう、盾を投げつけてしまった。あれはナイトらしくなかったかもしれない。
「まあ、いい暇つぶしになったか」
 プリーストが戦闘に出てくるなど、まずあることではない。その意味でも、いい体験だった。が、
「実戦不足は否めないな」
 リリィが聞けば憤慨しそうなことを、ジガンは呟いた。


○第八試合
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)(葦原明倫館)VS.ドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)(葦原明倫館)

「負けちゃった……」
 へへへと力ない笑みを浮かべる鳳明の肩を、天津 麻羅(あまつ・まら)はがっしと掴んだ。
「良い試合であったぞ。わしが保証する!」
「ありがとうございます」
「勝ち名乗りを上げてやれなかったのは、ちと心残りじゃが……」
 しかし、麻羅とパートナーの水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は審判である。知人の判定をするわけにいかないから、鳳明がここで負けたのは、その意味ではよかった。
「敗者復活戦はないのかの?」
「審判長がそんなこと言ってどうするのよ」
 緋雨は呆れた。
「おお、そうであった。わしには今一つ、大事な役目があった」
 麻羅は試合場を睨み付けた。
「あの男が、ただ見ているということはないじゃろうからな……」

 試合場には、既に唯斗とドライアが立っていた。
 陰陽科は他の科と比べてもなぜか地味だ。優勝して最強を目指そう、と勝手に考えていたのに、出場するとなるや、唯斗は陰陽科の代表に祭り上げられてしまった。観客席では、仲間が声の限りに応援してくれているが、その上――ハイナに目をやると、彼女がにんまり微笑むのが見えた。
 気のせいだろうか。総奉行は何か企んでいるように思える。「優勝したら」か、それとも「負けたら」かは分からない。どっちが自分にとって得なんだろうか。
 一方のドライアはドラゴニュートだ。夢はパラミタ最強の称号を得ること――だが、師匠が良くない。ドライアが惚れ込んでパートナーになった相手であるが、あまりの評判の悪さに、彼も困ることがある。この試合には、黙って出場している。相談でもしようものなら、鼻で嗤われるに決まっている。だが勝てば別だ。優勝して、堂々と話したい。
「葦原明倫館陰陽科、紫月唯斗、参る」
 開始の声と共に名乗り、唯斗はふっと姿を消した。予備動作の全くない動きに、ドライアは一瞬、彼を見失った。
「どこ行った!?」
 次の瞬間、ドライアの後方から唯斗の拳が叩きつけられた。百八十センチを超える身体が地面にもんどりうった。
「やりやがったな!」
 顔から地面に突っ込んだにも関わらず、ドライアはすぐさま起き上がり、槍を突いた。その身体ごとの攻撃に、唯斗は避ける間もなかった。
「俺の突き破る牙、まばたきすら赦さねェぜ!」
 続いて、
「これで終いだ!」
 振り上げた槍が、唯斗の横面を殴った。槍が大破すると同時に、唯斗も吹っ飛んだ。

 担架に乗せられた唯斗は、観客席の脇を通る際、仲間から呪いの言葉を聞かされた。
 陰陽科はしばらくの間、ハイナの下僕になるらしく、唯斗がその筆頭であるらしい。いっそ一ヶ月ぐらい入院したいと唯斗は願った。
 ちなみに審判のプラチナムは唯斗のパートナーであるが、一切の同情を見せなかった。