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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   肆

  第一回戦
○第九試合
 師王 アスカ(しおう・あすか)(イルミンスール魔法学校)VS.氷室 カイ(ひむろ・かい)(蒼空学園)

 恐らくこの大会に最も相応しくない人物が、師王アスカだろう。彼女はコンジュラーだが、それだけでなく、夢はパラミタ一の画家になること。つまり芸術家だ。彼女が参加すると宣言した時、パートナーたちは唖然としたものだ。
 その一人、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)は妖艶な美女だった。観客席の彼女に、人々は釘付けになった。彼女になら蹴られてもいい、騙されてもいい、いや殺されたっていいと男たちは口々に言ったが、実際オルベールの正体が悪魔だと知ったら、同じことを言えたろうか?
 通常ならオルベールこそが出場しそうなものだが、彼女は仕事でもないのに戦うのは嫌だった。ぶっちゃけ、面倒くさい。
「アスカー! 頑張れ〜! お姉ちゃん応援しちゃうわよ〜」
 自分の姉を自認するオルベールの応援に、アスカは苦笑した。妖艶な美女も、台無しだ。
 相手の氷室カイは、オルベールの「そこの敵ー! 負けろー!」という声にも微動だにしない。彼女の美貌にも、心動かされない様子だ。凄いなぁとアスカは感心する。
 カイの武器は竹刀。アスカは弓矢を持っていた。その点も、御前試合に少々相応しくない。
 プラチナムが試合開始を告げる前に、アスカはちょっと待って、と止めた。そして【鬼神力】を使用する。身長が十センチ以上伸び、頭に羽型の四本の角が生える。観客席がどよめいたが、カイは僅かに眉を寄せるだけだった。肝が据わっている。
 プラチナムもあまり動揺していない。試合開始と同時に、アスカは素早く距離を取って、矢を二本番えた。
「先手必勝〜! 貫け、【サイドワインダー】!!」
 同時に二本の矢が放たれる。
 が、そこにカイはいなかった。【ヒロイックアサルト】で速度を上げ、すぐ目の前にいた。アスカは慌てて次の矢を番え、放った。カイの竹刀がそれを弾き返す。続けて番える間もなく、アスカの脳天にカイの竹刀が振り下ろされた。
「アスカ負けちゃった……」
 オルベールは呆然と呟いた。そして、
「そこのちょっと見た目のいい男! 次はベルが相手になるわ!」
と、試合場に降りようとするオルベールを、アスカが必死になって止める一幕があった。


○第十試合
 棗 絃弥(なつめ・げんや)(葦原明倫館)VS.七刀 切(しちとう・きり)(葦原明倫館)

 切が欠伸を漏らした。
「余裕だな、寝惚け頭」
 絃弥は苦笑する。適当にからかってやるつもりが、切の寝惚け眼は全ての言葉をスルーしてしまう。
「いやあ、ワイも頑張るよ。“覇者”なんてカッコイイもんねぇ」
 切の顔から、少しずつ緩みが取れていく。これは早い内に決着をつけた方がいいと絃弥は踏んだ。プラチナムに「開始してくれ」と合図し、彼も手を軍配を振り下ろした。
 絃弥が二刀を振るうより速く、切の【面打ち】が発動。絃弥の頭部を打った。
「先手必勝ってねぇ!」
 だが、
「必殺!」
という絃弥の声に切ははっと身構えた。だがそれは【チェインスマイト】だった。二刀が続け様に繰り出されただけだったが、何か特別な技が来ると思った切は、逆にそれを避けられなかった。
「――技とかあったら、いいのにな」
 絃弥は自分に戦闘の才がないことを知っていた。だが、二流なら二流で、勝つための術があるはずだった。その答えの一つが話術であり、フェイントだった。
 しかし切は、その攻撃で完全に目を覚ました。
 絃弥が切の足元を狙ったのを見定め、その二刀を蹴り上げると、すかさず胴へ竹刀を叩き込んだ。
 パシィン! と小気味よい音が響いた。
「……あ〜やられちまったなぁ、残念」
 絃弥は折れた二本の竹刀を見ながら苦笑した。
「ははっ、自分も強かったけど、まぁ今回はワイの勝ちってことで」
「そうだな。――俺に勝ったんだからちゃんと最後まで勝ち進めよ!」
 二人はがっちりと手を握った。


○第十一試合
 四谷 大助(しや・だいすけ)(蒼空学園)VS.土雲 葉莉(つちくも・はり)(葦原明倫館)

「お見事でございます」
 控え室へ戻る途中、観客席から声をかけられて、絃弥は戸惑った。
 それはふんわりとした雰囲気の少女だった。誰であるかは知っていた。同じ明倫館の樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)だ。だが、自分とは住む世界が違う――そう思っていた。だから声をかけられ、驚いたのだ。
「――負けたけどな」
「いいえ。お見事な戦いでした。白姫、感服致しました」
 お世辞ではないらしい。白姫の表情はいたく真剣だ。
「……ありがとうよ、お姫さん」
 それにしても、日傘の下、虎やら犬やら鳥やら、まるで御伽噺だな、やっぱり住む世界が違うんだと絃弥は思った。

 白姫のパートナー、葉莉は獣人だ。ご主人様を守るため、いつでもどこでも参ります、という少女だが、今一つ役立っていないのが現状だ。最近ニンジャになったばかりだが、自分でもその力がどの程度のものか分かっていない。ご主人様の護衛たるもの、自分の力量ぐらいは知っておくべきだと言われ、参加した。
 一方の大助はグラップラーだ。素手で戦うが、手甲だけは装備している。パラミタに来てからどの程度強くなったか確かめるため――という点では、葉莉と目的は同じだが、この小さな獣人がクナイを構えているのを見て、大助は困った。優しすぎるのは、彼の欠点だ。
 何と言おうか――健気に見えるのだ。
 これをやっつけたら、オレ、悪人だよなあ、と大助は迷った。
 だが葉莉は、試合開始と同時に「あたし、頑張ります!」と突っ込んできた。大助は咄嗟にクナイを払い、彼女の胸を突いた。
「あっ!」
「あ、ご、御免!」
「負けませんよ!」
 葉莉派【鬼眼】で大助を睨んだ。大助は動けなくなった。そこをすかさず、【ブラインドナイブズ】で下から――葉莉の体格上、下からしか攻撃できないわけだが――クナイで殴りつける。
「うっ!」
 大助は呻き、言った。「加減はいらないみたいだね。……全力でいくよ!」
 その瞬間、大助は【鬼神力】を発動。髪がパキパキと音を立てながら逆立ち、まるで鬼のような姿になる。拳も一回り以上太くなり、それを葉莉の身体へ叩き込んだ。
 僅か百二十センチしかない身体はぽーんと吹っ飛び、白姫の膝に落ちた。
「まあ大変!」
 葉莉は、ご主人様が手当てをしている間、ずっと目を回したままだった。
「……やりすぎたかな?」
 大助は困ったように頭をかきながら、ぺこりと礼をした。