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リアクション
第1章「集う『悪』達」
滅びを迎えた村、イズルート――
その一角で遠くの砂塵を見つめていたラウディの後方から現れた人物がいた。
「これはこれは……亡者の徘徊する光景、実に壮観ですね」
「……村の生き残りじゃないな。何者だ? お前」
「失礼。私は両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)。あちらにいらっしゃる三道 六黒(みどう・むくろ)と共にアバドンに従う者です」
ラウディが振り返った先には悪路の他にもう一人の大柄な男が立っていた。独特な気迫を持ったその男、六黒は先ほどまでラウディが見つめていた砂塵へと顔を向けている。
「あの女の手駒か。奴から監視の命令でも受けたか?」
「これは異な事を。私共は偶然貴方の姿を見受けたまで。これから戦いが始まるというのであれば、是非ご協力致しましょう」
怪しげな笑みを浮かべる悪路に当然ながら疑念を抱くラウディ。そこに別方向から声がかかった。
「ほぅ、アバドンの手の者か。中々に興味深いのぅ」
声のした方から気配を感じさせずに一人の少女が姿を現す。
ラウディはまだ13歳と幼い少年だが、その少女はラウディと比較しても更に一回り幼く小柄な容姿をしていた。
だが、その目が放つ殺気はその外見からは想像もつかない程であった。
「辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)か。お前といい、こいつらといい、シャンバラの奴らは変わり者ばかりか?」
「随分な言い草じゃな。そやつらは知らぬが、わらわは依頼さえあれば仕事をするまで。たとえそれがどんな相手からの依頼であろうともな」
「フン、それでわざわざボクの所に売り込みに来るんだ。やっぱりお前達は変わり者だよ。……まぁ、ボクの邪魔さえしなけりゃどうだっていいさ。せいぜいあの女のご機嫌を取れるように頑張る事だね」
ラウディの言葉ににやりと笑みを浮かべる刹那。ここに集う者は共に似た色を持ちながらも、根本の所で決して混ざり合う事は無かった。
「な〜るほどなるほど。イェガーの勘も馬鹿に出来ないねぇ。面白そうな話をしてるじゃないの」
ラウディ達の下に新たなる色が現れた。その者達が放つ色は赤黒く、例えるなら全てを焼き尽くす地獄の業火と言った所か。
「おっと。お前達は何者だ、って? そりゃもっともだ。俺は火天 アグニ(かてん・あぐに)。あんたらにわかり易く説明するなら、こっちのイェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)共々『悪』ってとこかねぇ」
軽薄な態度と表情で名乗るアグニ。胡散臭さで言えば先ほどの悪路以上だ。アグニはそれを自覚しているのかいないのか、なおも言葉を続ける。
「大方向こうに見える奴らと一戦おっ始めようって言うんだろ? だったら俺達も混ぜてくれよ」
「お前らも変わり者の仲間か? 余計な味方は敵よりも邪魔になる。遊びなら他所でやるんだね」
「おやおや、クールな小僧っ子だねぇ。ま、別に味方と思わなくてもいいさ。ただせっかく戦り合う以上は楽しみたいんでね。そこを弱っちいアンデッドなんて無粋なもんに邪魔されたく無い訳よ。分かる?」
「フ……弱い、か」
微笑を浮かべたラウディが懐から札のようなものを取り出す。そして何かをつぶやくと、それを空中へと放り投げた。
空に舞った札は紫色の光を纏い、四方へと散って行く。そのうちの一枚がすぐ近くに立っているアンデッドのそばへと舞い降りた。
「これでも――弱いと言えるかい?」
ラウディが指を鳴らす。それに反応したアンデッドが大きく振りかぶり、拳を家の壁へと打ちつけた。
壁への一撃は大きくめり込み、ただの村人には到底開ける事が出来ないような穴か空く。それを見たアグニが口笛を鳴らし、ラウディへと賞賛を送った。
「わぉ、中々やるじゃないの」
「この力、マジックアイテムでしょうか。大変素晴らしいですが……恐らく、札を破壊されると元へと戻ってしまうのでは?」
冷静に観察していた悪路が問題点を指摘する。だが、ラウディは笑みを崩す事無くそれに答えた。
「そのくらいの方が楽しいだろう? あいつらが倒れるのが先か、札を全部見つけるのが先か……。そう、これはゲームさ」
「なるほど、ゲームですか。ならば私達は鍵を手にしようとする者達の前に立ちはだかる……。ふふ、中々の余興となりそうです」
悪路が広げた扇を口元にかざし、微笑む。その考えはパートナーである六黒も同様だったらしく、いくつかの札が飛んでいった神殿へと視線を移していた。
「最期を迎えんとする者がすがるは神の慈悲、か……。立ちはだかり、神無き世を見せるには相応しき所よ」
「……と、いう訳です。私達は神殿にてあちらの方々が訪れるのを待つとしましょう。では、また後ほど……」
六黒と悪路が神殿へと歩き去る。『悪』は『悪』を引き寄せるのか。彼らが去ったとほぼ時を同じくして現れた男がいた。
「へっ、同業の気配がすると思って来てみれば、お祭り騒ぎの予感がするじゃねぇか」
その男、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は札を放った主であるラウディへと視線を向ける。その横にいた刹那が竜造との面識を思い出す。
「どこかで見た顔じゃと思っておったが……おぬし、森で賊に手を貸しておった者じゃな」
「ほぅ……あのおっさんもいやがるみてぇだし、てめぇといい、随分縁のある奴が揃ってやがるもんだな」
ツァンダ南東にある小さな村、シンク。その近くにある森で起きたならず者達による馬車の襲撃事件で、刹那と竜造は共にならず者に手を貸して他の契約者達と敵対した事があった。
そして竜造の言う『おっさん』とは、先ほど神殿へと向かった三道 六黒の事である。二人はある洞窟で出会い、そこで刃を交えた事のある因縁の二人だった。
「てめぇらとも殺り合いてぇ所だが、そいつは後のお楽しみだ。派手な花火が上がるみてぇだし、俺もこのしけた死霊祭に華を添えてやるよ」
竜造の殺気は戦える者全てに向けられる。だが、イェガーはその殺気を受け止める事はしなかった。
「残念だが、貴様では私の求める戦いは得られないな。その気迫、他の者に向けてもらおうか」
「求める戦いだと? 殺し合うだけの戦いに何を求めてやがる」
「ただ強き者と戦うだけでは私の魂は燃えんよ。私が求めるのは何かを背負い、死に恐怖しながらも決して退かずに悪へと立ち向かう強き心。その心を持つ真に強き者との命の燃やし合い――そういった戦いだ」
「悪へと立ち向かう強き心、か。……そいつぁ随分な『正義様』だな」
「そうだ。故に私は『悪』として立つ。正義と相対する舞台に上がる為に」
「……へっ、なるほどな。俺は殺し合いさえ楽しめりゃ相手が正義だろうが悪だろうが構わねぇが……いいぜ、せっかくの舞台だ。俺も悪党としてあいつらを迎え撃ってやろうじゃねぇか」
遠くの砂塵を見つめながら笑みを浮かべる竜造。それを受け、イェガーはこの場には役者が揃っていると判断し、場所を移す事に決めた。
「では、私もどこかの札の前で待ち構えるとしよう。歩み来る者達の炎が正義である事、それに期待したいものだな」
そう言って六黒達が向かった方とは別へと歩いて行く。それを視線で見送りながら、竜造はラウディへと話しかけた。
「おい。てめぇが操ってるアンデッド、一匹よこせ」
「そんな義理は無い……と言いたいけど、先にあれを説明して欲しいね」
ラウディが言う『あれ』とは、アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の事だった。彼女は同じくらいの年頃のアンデッドにしがみ付き、何度も『トモちゃん』と呼びかけている。
「トモちゃん、こんな所に来てたんだね。やっと会えて嬉しい! これからはずっと一緒だよ。いっぱいいっぱいお話しようね!」
「あぁ、あいつか。まぁ細かい事は気にすんな。あいつの病気みてぇなもんだ」
「病気か何か知らないけど、ボクの邪魔はしないで欲しいね」
「ま、せっかくだからあいつを使わせて貰うとするか。……安心しな。ちゃんと役立ててやるさ。『正義様』を迎える為になぁ」
再度不敵な笑みを浮かべる竜造。遠くに見える砂塵は、徐々にこの村に近づこうとしていた――
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