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人形師と、チャリティイベント。

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人形師と、チャリティイベント。
人形師と、チャリティイベント。 人形師と、チャリティイベント。

リアクション



3.誰かに喜んでもらうということ。


 他の人に喜んでもらう、というのも楽しいことだとミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は思う。
 なので、自分にできることを探してチャリティに参加した。
 チャリティイベントがあることを知ったのが開催日に近く、準備する時間が無かったため用意できたものは少なく、着れなくなった服などの不用品ばかりになってしまった。
 ――でも、それだけじゃ申し訳ないもんね。
 お詫びというわけではないけれど、マドレーヌを焼いてみた。
 使っていた物を引き取って行ってくれる人や、時間を割いて見て行ってくれた人に渡そうと思って。
「見て行ってね、いろいろあるよ!」
 呼びかけて、足を止めてくれた人に品物の説明をしたりして。
「これ、マドレーヌ。焼いたんだ、よかったら食べてね!」
 小袋に入れてラッピングしたマドレーヌを手渡し、にっこり笑顔。それにつられて笑ってくれる人も少なくはない。
「あ、クロエさん!」
 前方から友人が歩いてくるのを見て、手を振った。ミルディアに気付いたらしいクロエが手を振り、駆け寄ってくる。
「ミルディアおねぇちゃん!」
「クロエさん久し振り! お客様?」
「ううん、わたし、チャリティのおてつだい!」
「そっか、偉いね!」
「おねぇちゃんはだしもの?」
「そうだよ。服とか、ぬいぐるみとか……あ、リボンがあるよ。クロエさん、結ってあげよっか」
 ピンク色の可愛らしいリボンを手に尋ねてみたが、クロエはふるふる、首を横に振った。
「わたしより、それをほしがるこがいるかもしれないから、いいの」
「そう? じゃあ、その予想がもしも外れて残っちゃったら、クロエさん、もらってね」
「いいの?」
「いいよ! クロエさんが喜んでくれるなら、リボンだってその方が嬉しいもん。
 ……あ。これ、あげる。あたしお手製マドレーヌ♪」
 手渡すと、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
 ――うんうん、こうやって喜んでもらえると、本当やる気出ちゃうよね!
「よーし! 頑張っていこうっ!」
 やる気が出たので、そのまま口にしたところ。
「わたしもがんばる!」
 クロエもやる気を口にして。
 なんだかおかしくて、二人でくすくす笑ってから、またねと手を振った。


*...***...*


 クロス・クロノス(くろす・くろのす)がチャリティに貢献できそうなこと。
 考えた結果、お菓子を作って売る、ということに落ち着いた。
 あらかじめ作っておけて、保存などといった衛生面でのことも考慮した結果、作るものは焼き菓子二種に決定。クッキーとマドレーヌだ。
 ある程度の数を焼いて、小分けしてラッピングしたら準備は万端。
 チャリティの会場である養護施設まで出向いて、のんびりとお菓子を売っていた。
「このお菓子なんていうの?」
「これですか? マドレーヌですよ。甘さ控えめなので、甘いものが苦手な方でも食べられます」
「甘い方がいいよ」
「ではこちらのクッキーはいかがでしょうか?」
「ならそれ、ひとつくださいっ」
 質問されて、答えて、売って、笑ってもらえて。
 たまにはこういうのも良いなあ、と穏やかな気持ちになっていたら。
「クロエちゃん?」
 予想外の人に会えた。
「クロスおねぇちゃん! こんにちは」
 傍に駆け寄ってきたクロエの頭を撫でて、「こんにちは」と挨拶を返す。
「クロエちゃんもチャリティに参加してらしたんですね」
「おてつだいさんなの」
「それはそれは。では、私の隣で売り子さんをしていきませんか? 私、一人なんです」
「する!」
 ちょこんと隣に座ったクロエと共に、いらっしゃいませと声をかける。
 本当は、店の前を通って行く人たちと同じく、イベントを見て回りたいところだけど。
 ――ここを離れるわけにもいきませんしね。
 なので、お話するだけに留めよう。
「今日はお一人で来たんですか? リンスさんの姿が見えませんが」
「リンスはきょう、いそがしいんだって」
「お人形作り?」
「ううん。ひとにあってくるっていってたわ。それがおわったら、ごうりゅうするって」
「なるほど」
 それにしても、自分から人に会いに行くなんて珍しい。
 ……と、思ってしまうのも失礼かもしれないけれど。それじゃまるで引きこもりだ。
 ――いえ、引きこもり、でしたか?
 自問自答に苦笑したら、クロエにきょとんとした顔をされた。なんでもないですよ、と誤魔化し半分にクッキーとマドレーヌを差し出す。
「? うりものよ?」
「差し上げます」
「そんな、」
「イベント中にお腹が空いてしまったら、素直に楽しめなくなっちゃいますよ?」
「う……それもそうね。ありがとうクロスおねぇちゃん!」
「いえいえ。あ、でもお菓子を主食にしちゃ駄目ですからね。ちゃんとご飯も食べてください。あくまでこれは、お腹が空いた時用のおやつです」
「はいっ」
「良いお返事」
 頭を撫でていたら、お客様のご来店。
「いらっしゃいませ、どうぞ」
「ゆっくりみていってね!」
 クロエと二人で接客をしたこの時間は、思いのほか楽しかった。


*...***...*



 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は子供が好きだ。
 そして、こういったイベントごとも好きで、何より誰かを楽しませたいと強く思う。
 なので、慈善団体側として参加したのはある意味では必然で。
 ――こういう機会だからこそ、『人を笑顔にできる魔法使い』というのがいいね。
 そういった考えに基づき、ハロウィンの時に着た魔法使いの衣装に袖を通した。
 涼介の指す魔法は、料理である。
 子供が多いだろうと踏んで、簡単に出来るチョコチップ入りのカップケーキを作った。狙いがあるので、できるだけシンプルなものだ。
 それを持って参加して、「さあいらっしゃい」声を張り上げる。
 ケーキは出来たて、足を止めた子供たちに漏れなく差し出しにっこり笑う。
「これから魔法をかけてあげる」
「魔法?」
「そうだよ。人を笑顔にさせられる、素敵な魔法だ」
 きょとんとした顔の子供たち。
 片手にチョコペン、片手にホイップクリームを持った涼介は、
「プイッホ・コチョ・ドーモラア!」
 呪文を唱えた。ある言葉を逆から読んだ言葉である。
「魔法の言葉で出来上がり〜♪」
 実際には、魔法でもなんでもないけれど。
 鮮やかな手際と、不思議な呪文でそれらしく。
 魔法使いのお兄さんが呪文を唱えたら、あら不思議。
 そういった結果を作り出す。それができれば充分魔法だ。
「わあ……!」
「美味しそうっ」
「さあどうぞ、召し上がれ!」
 呪文はちょっと、知り合いに見られたら隠れたくなる程度に恥ずかしかったけど。
 だけど、ケーキを食べた子たちがにこにこ笑顔だからまあいいか。


「兄さまがお茶目なことをしていますわ……」
 涼介の行動を傍で見ていたエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)はそう思った。
 普段は真面目な涼介がそこまでしているのだ。魔法少女たるエイボンが本気を出さなくてどうするか。
「さあ、『魔道少女マギカ☆エイボン』のクッキングショーが始まりますわよ」
 なので、そう声を掛けた。涼介のケーキを食べていた子たちが一斉にエイボンを見る。
「そこの貴方。好きな動物はございますか?」
「あたし? ……えっと、猫がすきです」
「では、猫のクッキーを作りましょう」
 そう宣言すると、次々と「わたし犬がすき!」「鳥がすき!」とリクエストの声が上がった。全て覚えて、エイボンは頷く。
 リクエストに応じたら、『虹色スイーツ≧∀≦』と『みらくるレシピ』、特技『調理』といった自分の持てる技を全て使い、エイボンはクッキーを焼き上げた。
「すごーい……」
 感嘆の声や、嬉しそうな笑顔が温かい。
「兄さまのケーキもありますし、お持ち帰りを希望される方は仰ってくださいね」
 食べきれなくても悲しいだろうと配慮して、小分けできる袋などラッピング用品も持ってきてあった。
 包んでほしいという申し出もあり、その準備は無駄にはならなかったし。
 ――何より、
「喜んでもらえるのが嬉しいな」
「兄さま」
「ん? そう思っていたんじゃないか?」
「ええ。わたくしたちも、楽しませていただいておりますし」
「少し恥ずかしいけどな。リンス君に見られたらどうしよう」
「リンス様にもケーキを作って差し上げればよろしいかと」
「彼に魔法を唱えるの? ……反応を想像するだけで、私、なんだか悲しくなったよ」
 そんな返事にくすくす笑いながら。
「うさぎさんつくって!」
 という子供の声に、「はい!」と元気に返事をした。