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リアクション
九
昼近くになると、人々の足は自然、食事が取れる場所へ向かい始めた。
桜葉 忍(さくらば・しのぶ)とパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)、更に度会 鈴鹿(わたらい・すずか)と織部 イル(おりべ・いる)の四人は、その大勢の人に混じって当麻の母・朱鷺 ヒナタの勤める一膳飯屋に向かっていた。
「まったく、あんな子供を襲うなんて、一体何を考えているんだ!」
「同感じゃ」
忍の独り言に、イルが相槌を打つ。
「早いところ何とかして、守ってやらなきゃ……」
怒りで気が逸り、忍は一人ズンズン歩いていく。鈴鹿もイルも少しずつ置いていかれている。やれやれとばかりに信長が声をかけた。
「忍よ、そんなに警戒しなくても我らに奴等も襲っては来ぬ。少し肩の力を抜け」
忍の足がぴたりと止まった。
「俺……そんなにピリピリしているか?」
「静電気のようじゃ」
「おまえの言うとおりかもな。少し……いや、結構頭に来てたもんで」
忍はその場で二〜三度、深呼吸をした。その間に鈴鹿とイルが追いついてきた。
「信長、何で当麻が襲われたと思う?」
それに対する信長の答えは、簡単明瞭だった。
「知らん!」
「あっさり言うなよ」
忍は顔をしかめた。
「そんなことは、当麻の母親に訊けば分かる。ここで、あれこれ推察しておっても、詮無きことよ」
「まあ……それもそうだけど」
「信長さんのおっしゃるとおりですね。でも、桜葉さんのおっしゃることも分かります。事情が分かれば、当麻くんを守ることも出来るでしょうから、早く参りましょう」
と言いつつ、鈴鹿とイルの歩みは普通の人間の半分ほどで、苛立った信長は、自分がイルを、鈴鹿を忍に担がせて走り出したのだった。
「はいよ、一人前、お待ちどお!」
目の前に置かれた盆を見て、ブルーズ・アッシュワースは泣きそうになった。
「……天音、いくら我でももう無理だ」
「もうちょっとだよ、ブルーズ」
「既に五人前……おぷっ」
「そろそろ動きがあると思うんだ。何も食べずにここにいるわけいかないからからね」
スピカは黒崎 天音の膝の上で、すやすや眠っている。背中を撫でながら、天音はにっこり笑った。
「大丈夫。ブルーズならいける!」
神様、早くしてください、とブルーズは祈った。
同じ店内で、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が食事を取っていた。彼は地球人だが、同時にアンデッドでもある。従って、活動のために食事を取る必要もなければ、飢えて死ぬようなこともない。が、味覚だけはしっかりあるので、時折、人と同じように食事をするのが趣味だった。
「うーむ……六十点」
正直、この飯屋の味はイマイチだった。ご飯とわかめの味噌汁、大根のお新香、それにメバルのジャガイモ蒸し。メニューも味も所謂料理店というより、家庭の味、それも塩気が強い。労働者が多いからだろう。だから文句は出ない。
しかし、味わうことを「趣味」としているエッツェルには、少々合わない店だった。
まあこれも、一つの経験だ、とエッツェルは思った。
「ああ、そこの姉さん」
ヒナタを呼び止めたのは、武芸者だった。若いが相当な修羅場をくぐっているのだろう、かなり目つきが悪い。傍らにいる女は元遊女だろうか。派手な着物を身に纏い、身を持ち崩した女特有の怠惰で艶美な雰囲気がある。しかしどちらも美形で、並んでいると一対の絵のようだ。
ヒナタは女に奇異の目を向けることもなく、丸顔に笑みを浮かべて返事した。
「酒は出るのか?」
「昼間ですからね、一杯だけなら」
「俺とこいつに一杯ずつくれ。いいな、八重桜」
「あい、田中の旦那」
八重桜――実は武神 雅(たけがみ・みやび)――がしな垂れかかったまま返事した。頼む、と田中の旦那こと武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は言った。
ヒナタが奥へ引っ込むとほぼ同時に、忍、信長、鈴鹿、イルが店に入ってきた。
「混んでおるな」
と信長。
「当麻の母親はどこだ?」
忍は店内を見回した。当麻の話では、とっても美人! ということだったが……。
「昼時ですからね……。私たちは、外で待ったほうがいいかもしれませんね」
込み合った店内を見て、鈴鹿は提案した。三人が同意して外へ出ると、入れ違いに銀髪の少女が入っていく。その後ろに、侍たちを従えて。
「――信長殿」
イルが呼びかけるより早く、信長は身体を入れ替え、一人の侍の肩を掴んだ。
「待て」
その時、酒を持ったヒナタが奥から出てきた。
「ターゲットを確認。ターゲットを強制保護します」
ヒルデガルド・ブリュンヒルデは感情のない声で、言った。
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