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内緒のお茶会

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内緒のお茶会

リアクション

 
 
 
■ 話の花が開く場所 ■
 
 
 
 お茶会のテーブルでは、あちらでもこちらでも話の花が咲いていた。
 おいしいお茶とお菓子、地球人のいない気安さ、普段はあまり喋る機会のない人々との出会い。
 自然と会話が増える中、あまりはかばかしく喋っていないカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)イル・レグラリス(いる・れぐらりす)を見比べ、カリーチェ・サイフィード(かりーちぇ・さいふぃーど)はよしっと気合いをいれた。
 今回のお茶会にカリーチェが2人を誘ったのは、カデシュがイルと仲良くしたがっているのを知っているから。うまくいくかどうか心配だけれど、カリーチェはがんばってその橋渡しをしてみるつもりだった。
「ね、イル。このマドレーヌ食べてみて」
 カリーチェが差し出したマドレーヌをイルはもぐもぐと食べた。
「どう?」
 期待をこめて見つめられ、一体なんだろうと思いながらもイルは答えた。
「まぁ美味しいんじゃない?」
 実際、マドレーヌは風味豊かに焼き上がっていてお茶にとてもよく合う。もう1つ、とついまた手に取ったイルにカリーチェの笑顔が向けられた。
「そのマドレーヌ、カデシュさんが作ったんだよ」
「ふ、ふーん……」
 途端にイルは視線を泳がせ、他の参加者の作った菓子を指さす。
「でもあっちの方がもっと美味しいかもね」
「うん、あれも美味しそうだよねー」
 イルの憎まれ口は気にせず、カリーチェは色々な果物が細かく刻んで入っているフルーツゼリーをイルの為に取ってやった。
「でもマドレーヌも美味しいって言ってくれて嬉しいなっ。これね、あたしもちょっと手伝ったんだ。ほら、ちょっと焦げてるでしょ? 」
 カリーチェはマドレーヌの隅っこを指さして恥ずかしそうに笑った。
「カリーチェは上手だったですよ」
 カデシュはカリーチェを褒めた。カリーチェが急にお茶会に行こうと言い出したのも、こうしてマドレーヌを介して会話させようとしているのも、仲が良いとは言い難いカデシュとイルの間を取り持とうとしてくれているのだろう。その心遣いが身にしみる。
「ほんと? えへへ……」
 そう言って笑うカリーチェを眺めながら、イルはマドレーヌをまた囓った。
「甘いもの好きな梓がここにいたら喜んだだろうね」
「アズサがいたら、お菓子があっという間になくなっちゃうわね、きっと」
 パートナーの佐伯 梓(さえき・あずさ)は今頃、イルミンスールでレポートを作成していることだろう。手作りの菓子がこんなにあるのを見たら大喜びしただろうけれど、今日は内緒のお茶会。ばれてしまうといけないので土産も無しだ。
「ほんとあいつ子供っぽいよ。二十歳超えてるなんて吃驚」
「でもアズサはイルより年上だからお兄ちゃんよね」
「そういう感覚は無いかも」
「じゃあ、あたしは? あたしイルにお姉ちゃんって呼ばれたいな。ねえねえ、ちょっと言ってみて!」
 目をきらきらさせて言うカリーチェにイルは戸惑った。なんとなく恥ずかしいけれど……。
「うう、うん……カリーチェお、お姉ちゃん……」
「イル、なんて可愛いの……っ」
 思い切って言ってみたイルにカリーチェは飛びついて、その頭をぐりぐりと撫でた。
「良いですねぇ、僕もお兄ちゃんと呼んで欲しいです」
 カデシュがそう言ってみると、イルはふっと鼻で笑った。
「冗談でしょ」
 すまし顔でフルーツミックスジュースを飲むイルに、カデシュは心の中で毒づく。
(このクソガキ……)
 どす黒い声でイルに言ってやりたくなるのを、カデシュはぐっと堪えて深呼吸。
(落ち着け、落ち着くんだ、僕……)
 小刻みに震える手で、カデシュは氷をいれたぬるめのコーヒーを口に運ぶ。
 そんな2人のやり取りさえカリーチェには微笑ましく映るらしい。
「あーほんとに楽しいわ。今度イナテミスにも遊びに来て欲しいなぁ」
 似たもの同士の2人を、カリーチェはにこにこと嬉しそうな顔で眺めるのだった。
 
 
 
 お茶を楽しむ人もいれば、そこここで立ち話をしている人、庭に出て行く人など皆思い思いにお茶会を楽しんでいる。
 面倒そうに足を運ぶユズキ・ゼレフ(ゆずき・ぜれふ)を連れた姫神 夜桜(ひめかみ・よざくら)は、会場の一角にあるテーブルについた。
「ほらほらユズ君、そんな顔しない。たまにはのんびりしようよ。ユズ君だって教会の仕事で疲れてるでしょ?」
「確かに昨日は深夜まで懺悔してた奴居たな。ま、疲れてはいないけどな」
「飲み物はいかがですか?」
 2人が座ったのに気づいたエレンディラが、飲み物のワゴンを引いてくる。
「僕は紅茶にしようかな。ユズ君はコーヒーで良かったよね」
「あー、プラックコーヒーな」
「はいはい。ユズ君は甘いの嫌いだしね」
 信乃はユズキの前にはコーヒーを、自分は紅茶を置いてもらった。鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)の分は……と考えかけて、今日は留守番していることを思い出す。
「ひー君が居ないっていうのも久しぶりだね」
「なんだ夜桜、そんなにひーに連れ回されてんのか? 大変だな、愉快犯は」
「愉快犯って……そうだけどさ」
 そう言って苦笑しかけた夜桜は、テーブルの横を通りかかった顔に見覚えがあることに気が付いた。
「あれ? もしかして……ああやっぱり、この間、公園で手品見てくれてた人だよね?」
 声を掛けられた犬塚 信乃(いぬづか・しの)は一瞬きょとんとした後思い出す。
「ああ確か公園の……久しぶりですねー」
「こんにちは、偶然だね」
 言葉を交わす2人の様子に、アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)が尋ねる。
「あ? 何だよ、信乃の知り合いか?」
「公園にいた手品師さんですよ。ヨシロウと散歩してたら会ったんです的な」
 アルフに説明した信乃の言葉を、夜桜は訂正する。
「どうせなら手品師ではなく奇術師って呼んで欲しいな」
「手品師でも奇術師でもどっちでもよくね?」
 アルフにとってはどちらも似たようなものなのだけれど、夜桜にとっては違う。
「どっちでも一緒じゃないよ。奇術師って呼ばれるのが重要なの」
「じゅ、重要なのか……?」
「そう。僕にとってはね。あ、ごめん。そっちだけ立たせたままで。良かったら君たちも一緒にお茶しない? どうせだし」
 夜桜はテーブルの向かい側の席を指して勧めた。
「あ、いいんですか? じゃあお言葉に甘えて。俺は犬塚信乃戌孝。一応武士です」
 信乃はそれを受けて夜桜と同じテーブルにつくと、簡単に自己紹介をする。
「そういえばあの時自己紹介できなかったよね? 僕は姫神夜桜。神出鬼没の奇術師です。って言ってもまだ修行中だけどね」
 ひらりと返した夜桜の手の中に、ポンと小さな花が現れる。
「即興だとこのくらいしか出来ないんだよね」
「おお……! すっげー。即興でそれが出てくるって……どうなってんだ?」
 夜桜の鮮やかな手つきにアルフは心底感心する。
「タネは内緒だけど、その花はあげる。って言ってもドライフラワーなんだけどね。お近づきの印ってことで。2人ともよろしく」
「くれるの? ……サンキュ。俺はアルフ。アルフ・グラディオスだ。宜しく頼むぜ」
「アル君は手品出来る系?」
「信乃……俺があんなこと出来るわけねーだろ。出来るのは火術とかだぞ」
 アルフと信乃が話しているうちに、夜桜はそっとユズキをつついて自己紹介を促した。
「……ユズキ・ゼレフ」
 ユズキは名前だけ名乗ると、即興で手品なんかするなよと夜桜に向かってため息をついた。
「挨拶代わりだよ。あ、2人なにか飲みなよ。せっかくのお茶会なんだしね」
「ん、どうも。そうさせてもらうぜ」
 アルフは給仕をしている人にキャラメル・カプチーノを頼むと、照れたように付け足す。
「……甘いの好きなんだよ、悪いか畜生め。信乃はどーせ日本茶だろ」
 言われた信乃は当然ですと胸を張った。
「日本茶は日本人の心ですよ!」
「そーかい」
 アルフは信乃を軽く受け流した。そんな掛け合いを面白そうに眺め、夜桜は2人に尋ねる。
「ここにいるってことは2人も誰かのパートナー? 僕たちは鏡氷雨っていう面白い小さい子のパートナーなんだ。ひー君、見てて飽きないんだよね。いきなり突拍子もないことしてくれるし」
「確かに突拍子もないな。あと、利用しやすそうなアホだ」
 ユズキもそれに同意して、氷雨が聞いたらあんまりだと抗議しそうなことをさらりと言った。
「突拍子……何か、桜に似てるな。俺らは飛鳥 桜(あすか・さくら)って剣術ヒーロー馬鹿のパートナーだ。すっげー元気な奴でよ。人の話あんま聞かねえんだわ。そうそう、実際にGoing my wayだの言ってんの。意味わかんねー」
 まあその分意思とか信念は強いけどな、とアルフは付け加えた。
「へぇ……って飛鳥桜さん? どこかで聞いたことある気が……」
 考えていた夜桜は、そうだと思い当たる。
「あ、ひー君のお友達だ」
「友だち……ああ! 思い出した。鏡氷雨って聞いたことあると思ったら桜のダチか」
 こんな偶然もあるものだと感心しているアルフに、夜桜はやっぱりと大きく頷き。
「じゃあ、君が飛鳥さんの所のリア充ヴァルキリー君? 凄い偶然だね。ところでリア充ってなに?」
「……っっ! げほっ……ぐほ……げほげほげほ……」
 夜桜の質問に不意を突かれたアルフは、カプチーノが気管に入って咳き込んだ。
「お、俺は……ごほっ……リア充じゃ……」
「え? でもひー君が『飛鳥さんのところにリア充のヴァルキリーがいるんだって! 今度爆発させないと』って言ってたんだ。って何? リア充って何かいけないことなの?」
 意味を知らない夜桜が首を傾げているのを示して、ユズキはアルフににやりとした笑みを向ける。
「ほらリア充、説明してやれよ。そこの天然愉快犯にな。リア充の説明はリア充にしかできないよな」
 ざまぁ、と小声で言ってユズキはアルフを面白そうに眺めた。
「ユズキてめー……完全に面白がってるよな? つか信乃! 本の中じゃ嫁いるから、お前もリア充だろーが!」
 旗色悪しと察したアルフは信乃を巻き込もうと話を振る。だが信乃は、は? と怪訝そうに目を見張った。
「何言ってんすか? 江戸時代の小説にリア充なんて言葉ありませんけど」
「……俺の味方、誰もいねえ……畜生……」
 アルフは涙目でばたりと机に突っ伏した。それをユズキがくくっと笑う。
「このくらいで凹むなよ。お前ヘタレだな」
「うける……とりま撮っときますか……」
 信乃は携帯電話を取り出すと、弄られ凹みアルフを何枚も写メに収めた。
 
 
 和やかなお茶会の会場で、ルークは出来るだけ女性を避けて男性に話しかけるように動いていた。
 一緒に来た夏野司は女の子たちと楽しそうにお喋りをしている。
(あーあ、司みたいに女の子と気軽に話せたらなぁ……)
 羨ましくはあるが、話したいという気持ちよりも女性恐怖症の方が強い。近くにいるだけで緊張して硬直してしまうことが分かっているから、女性と話すことは諦め、自分の好きな対戦ロボットアクションゲームの布教にいそしんでいた。
「人型ロボット?」
 聞き返した柊 北斗(ひいらぎ・ほくと)にルークは熱く語る。
「ああ。それを操って通信対戦するのがメインのゲームなんだ。ある程度パーツを組み替えられて、好きな武器デザインに出来るんだぜ。ゲームセンターにあるから、お金はかかるんだけど是非一度、試してみて欲しいな」
「そうだな。機会があったら」
「よろしくっ」
 そのうち対戦できるようになるといいなと言って、ルークはまた別の布教相手を探しに行った。
「あ、あの人も……じょ、女性……苦手なんですね」
 ルークの後ろ姿を見送って、よいこの絵本 『ももたろう』(よいこのえほん・ももたろう)が言う。北斗もまた、ルークと同じく女性に話しかけられると固まってしまうのだ。そしてそう言うももたろうはと言えば、人見知りがひどくて男女問わず知らない人が苦手だ。知らない人ばかりでなく、北斗さえも見た目の怖さでついつい距離を取ってしまうほどなのだ。
「他にもいるもんだな。気持ちは分かる」
「で、で、でも、イランダのことは、平気……なんですよね?」
 北斗のことが怖いのを我慢して、ももたろうは北斗に話を振った。
 パートナーのイランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)が北斗のことを好きなことを、ももたろうはうすうす察していた。
 ももたろうはイランダが子供の頃に誕生日プレゼントとして買って貰った絵本が本体だ。イランダも彼女の祖父にも大事に呼んでもらっていたから、2人に対しては感謝と恩を感じている。できればイランダには幸せになって欲しい。
「イランダか……」
 北斗は口ごもった。
 といっても、北斗自身はイランダが寄せている想いに気づいていない。これまでは保護者が子供を猫かわいがりするようにイランダ第一で可愛がってきたのだけれど……。
 最近、ひょんなことでイランダの実年齢を知ってしまい、複雑な気持ちになっているところだ。
 これまで子供だ子供だと思ってそう接してきた相手。実年齢を知ったからといって、はいそうですかとそちらの年齢にあわせた態度など取れない。かといって、今まで通り、というのもまた難しい。
「どう扱うべきなんだろうな」
 逆に北斗に聞かれ、ももたろうは当惑した。
「そ、それは……」
 イランダには幸せになってもらいたいと思っているけれど、だからといって自分がイランダの気持ちを北斗に伝えるわけにもいかない。イランダに想われていると知ったら北斗はますます悩むだろうし、大体それを伝えるのは自分ではなくイランダ自身であるべきなのだろうし。
 助けを求めるようにももたろうは姫月 輝夜(きづき・かぐや)に目をやったが、輝夜は話そっちのけで菓子に夢中になっている。輝夜が興味あるのは自分とももたろうとイランダだけで、今回のお茶会もももたろうが誘ったからしぶしぶやってきた、という程度のもの。人と話すことにも興味がないから、ひたすら食べている。
 その輝夜が取りやすいように菓子の皿を動かしてやりながら、ももたろうは悩む北斗をこっそりと眺めた。
 北斗の見た目はここから見ていてもももたろうがどきどきしてしまうほどに怖い。
 無口でとっつきが悪いところもあるけれど、子供や動物には優しいし、料理も上手い。
 イランダとお似合いなのかそうでないのか。
「ふぁ〜ぁ……」
 あくびをしてテーブルに突っ伏して輝夜はのんびりと昼寝をはじめたけれど、ももたろうは右に左に首を傾げながら、懸命にイランダにとっての良い道、良い方向を考え続けるのだった。
 
 
 
 苺のミルフィーユを食べながら、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は宙に視線を泳がせた。
「アヤ、今頃どうしているんでしょうね……」
 今日のお茶会のことをどう秘密にしようかと思っていたけれど、朝気づいてみれば神和 綺人(かんなぎ・あやと)は置き手紙を残していなくなっていた。
『3人へ。
今日は僕1人で修行してくるね。無茶はしないし、鬼灯とミィちゃんも一緒だから大丈夫。晩ご飯には戻ってくるよ。
                                    綺人より』

 お陰で苦労せずにお茶会に出掛けてくることが出来たのだけれど、どこで修行をしているのかとクリスは気になる様子で綺人のことを考えている。
 そのクリスにユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)はこんな機会でなければなかなか尋ねられないことを聞いてみた。
「……ずっと言おうと思っていたのだが……クリス、綺人を無理矢理女装させて何が楽しいんだ?」
「何が楽しいと聞かれましても……」
 この感覚を説明するのは難しい。クリスはしばらく考えたが、
「ただ『楽しい』んです」
 としか言いようがない。
「挙げ句の果てにはメイド服姿の綺人を襲うし……俺には理解できないのだが」
 そう言ってユーリは沈痛に首を振った。
「でもこれが私のアヤに対する愛情表現の1つなんです! ……まあ、襲った後、ちょっと気まずくなりましたけど……」
 それだけは少しやりすぎだったかも知れないと、クリスは小さく肩をすくめて笑った。
 悪びれないクリスの様子に、ユーリは首を傾げる。
(……クリスってこんな娘だったろうか?)
 出会った当初はもう少し大人しかった気がするが……、とユーリはクリスを見直した。
 儚げな外見に反して、クリスは力もあり好戦的なところもある。けれど綺人に対しての危険な思想や行動は、少々度を超しているようにユーリには感じる。
(……もしや、綺人に対する欲求不満が妙な形で表れているのだろうか……?)
 だとすれば根は厄介だとユーリはクリスを窺い見た。
「クリスはずるいです。いつも1人で楽しんでいるなんて」
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)の方はむくれた様子でクリスに抗議する。
「わたくしはたったの2回、それも浴衣だったので、本人の拒絶反応がなくて、つまらなかったのですよ」
 綺人は女装がというよりは、露出の高い服装が苦手なのだ。だから瀬織が女物の浴衣を着せた時は平気な顔で袖を通していた。その方が手間がはぶけるのだけれど、面白みという点では劣ってしまう。
 最近になってからは、綺人は男の娘化を恐れるようになったようで、着物でも女物を嫌がるようになってきている。普段はしない恰好を時々させるのが面白いのだからと、瀬織には綺人を男の娘化する気はさらさらない。
「そういえば、瀬織は生でアヤのメイド服姿を見たことないんでしたっけ。知人に色んな衣装を持っている人がいるんです。今度一緒にその人のお屋敷に行きましょう!」
「ぜひ行きたいです。今度はわたくしもメイド服の綺人や猫耳ゴスロリの綺人を見てみたいです」
 瀬織はすぐに乗り気になった。
「ユーリさんも行きますか?」
 それまであっけにとられて2人の話に押されていたユーリは、急にクリスに話を振られてもすぐには反応が返せない。
「……行く、とは……」
「綺人を女装させにですよ」
 あっけらかんとクリスは答え、綺人に何を着せようか、何が似合うだろうかと楽しげに瀬織と相談するのだった。