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決戦、紳撰組!

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決戦、紳撰組!

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 討ち入り前夜。
 紳撰組の屯所で宛がわれた居室にて、七番隊組長セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は同じ部屋で、背中合わせに布団に入っていた。
 討ち入り前の、僅かな休息だ。
 二人とも紳撰組の羽織を纏っているとはいえ、その姿は実に妖艶である。
 セレンフィリティは、メタリックブルーのトライアングルビキニのみを着用し、その上に隊服を掛けていた。セレアナもまた、銀の色をしたホルターネックタイプのメタリックレオタードを着用しているだけである。
 討ち入りは、命を亡くす可能性がある。
 その為か、いつもよりも激しく享楽的な情事を交わした二人は、そそぐ月明かりに見守られながら、どちらとも無く眠っている様子だった。
 パートナーが安眠していることを疑わず、セレンフィリティはセレアナのかけるシーツへと潜り込む。
「無事生き残ったら、今度はのんびりと過ごしたいわね……」
 褥の中でひっそりと呟いた彼女のその声を、寝たふりをしていたセレアナはしかと聴いていた。思わずセレンフィリティを抱き寄せる。
「セレアナ――! 起きて……」
「セレン……黙って」
 そう口にしながら、唇をふさいだ彼女は、腕に込める力を強めながら、月を見上げる。
「月が見ているの」
「そ、そんなわけがないじゃない!」
「見られている気がするの。誰にも貴方の姿を見せたくはないの」
 赤面したセレンフィリティは、シーツで己の顔を隠す。
「私だけに見せて」
 セレアナが優しい笑み混じりの息を吐く。
 こうして二人は、月だけが見守る最中、討ち入り前夜、優しい口づけをしたのだった。


 その夜、東條 葵(とうじょう・あおい)は、池田屋から出てきた朱辺虎衆の一人を追いかけていた。
 『隠れ身』で姿を隠した彼は、池田屋から出てきた朱辺虎衆の者を追っている。
 ――逃げるにしろ報告に向かうにしろ、向かうはきっと首領の所。
 彼の直感が、そう告げていた。
「雑魚はカガチに任せて、追い立てて追い立てて」
 唇を舐めながら、彼はそんな事を呟く。
 それはそれで、パートナーの東條 カガチ(とうじょう・かがち)を信頼してのことだろう。
「『お家』に付いたらその場所をひっそり連絡しようか」
 後を追っていった葵は、ある邸宅の前で足を止めた。
 そこは――暁津藩家老宅の一人、継井河之助の邸宅だったからだ。


「明日紳撰組の討ち入りがあるんじゃろうか」
 朱辺虎衆首領がそう言うと、朱雀が頷いた。
「場所は?」
「此処――池田屋です」
 朱雀の言葉に、朱辺虎衆の面々がざわついた。
 ただ首領黒龍こと三道 六黒(みどう・むくろ)白虎こと白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)、そして南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)だけが落ち着いている。
「見つかるのは時間の問題じゃったか」
 首領がそう告げると、黒龍が腕を組んだ。
「逃避するのも一理ある」
「なに情けないことを言ってるんだよ」
 白虎が呆れたように笑ってみせる。
 二人のそんなやりとりを見てから、首領は腕を組んで、朱雀に向き直った。
「真っ向から勝負に出る。用意を頼む」
 そう告げて立ち上がった彼を、思わず光一郎達は追いかけた。
 襖を二度開けて、人気のない場所へと至った首領に、光一郎が訊ねる。
「どうして逃げないんだ?」
「人には、死ぬ場を選ぶ権利がある。そうは思いやーせんか」
「死ぬ気か? 今から逃げれば――」
「皆をおいては逃げられやーせん、それに……いや」
 なにかを言いかけて黙った首領に対し、光一郎は眉を顰めた。
「手にかかりたい相手が居るって顔だな」
 そう口にした瞬間、息を飲む暇もなく、首領の持つ刀が光一郎の首へと当てられていた。
 助けに入ることすら躊躇われる殺伐とした空気に、オットーが目を剥く。
「余計な口は慎むべきやか」
「……何から逃げているんだ?」
「逃げてなどいやーせん。ただ、俺にゃ守らなければならんことがある」
「それは、その守るべきものは――愛よりも大切なのか?」
「首領が、愛という幻想――うつつを抜かす組織が、何を守れる」
「自分の気持ちを守れないことは確かだな」
 臆することなく告げた光一郎から、刀を退け、朱辺虎衆の首領は嘆息した。
「愛する人、一人守れないで、何が世界を変える、だ」
 呟いた光一郎の肩を支えながら、オットーが首領を見守る。
「――……この組織は、そんな想いを抱いた皆の手で成り立っている。それは過去への思慕だ、あの時、あのようにさえならなければという懺悔、後悔。無論後にならなければ、後悔などできやーせんが」
「首領にも、後悔があるのか?」
「それを絶ちきろうと、俺は――死んだことにした」
 彼らのやりとりは、ただ木の枝で羽を休めていた鳥だけが聴いていた。


 そこへ朱い御守り袋を手に、八神 誠一(やがみ・せいいち)がやってきたのだった。





 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が、扶桑守護職である松風堅守の護衛の為、縁側で涼んでいた。夜の風は、けれど未だ熱気を帯びている。
 ――イナンナの加護で周囲を警戒し、斥候二名は屋敷の周囲の警戒につかせる。
 その案を実行中のリュウライザーは、与えられた扇子を興味深げに弄りながら嘆息していた。
 そこへ龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)がやってきた。
 二人は顔を見合わせ、軽く談笑する。
 その様子に気付いて松風堅守が姿を現した。
「今宵も暑いですな」
 その言葉に一礼してから、灯が率直に切り出した。
「堅守殿にお願いしたい事があります。紳撰組と扶桑見廻組が得た反幕府勢力に協力している契約者の情報を頂きたいのです」
 不意な問いに、徳利とお猪口を持参して現れた堅守は微笑して見せた。
「八咫烏の皆様程、存じているわけではありませんよ」
 灯には麦茶を差し出し、堅守は肩をすくめた。
「ただし扶桑守護職として――朱辺虎衆に与する契約者は見過ごせません。そして彼ら彼女ら相手では、我々では力不足であることは重々承知しております」
「心当たりで良いのです。何かご存じ在りませんか」
「知らぬと言えば、嘘になる。――だが、私はこれでも将軍家にお仕えする者。幕府を守る為に、必要な悪を取り締まることは、ひいては害をなす」
「ですが、悪しきことは悪です。此処で口を閉ざす方が、幕府へ害をなすのではありませんか」
「無論、その様な心づもりはありません。将軍家のお庭番であるあなた方に対して。――そうだ、小耳に挟んだ話しですが……暁津藩を当たられてはどうか」
「将軍家に忠義を尽くしている暁津をですか?」
「勤王党を抱える彼らは一枚岩ではない。倒幕に荷担する者とておるでしょう」
 その言葉に灯は踵を返した。リュウライザーはそれを見送りながら腕を組む。
「――ご不満なご様子ですな」
 堅守の言葉で、彼は振り返った。
「暁津が信用できないとなれば、将軍家に敬意を払う誰もが不審に思える」
 ――故に貴方も。
 そうは口せず、リュウライザーが視線を向けると、堅守は喉で笑った。
「貴方の主は目先の『悪』にだけ囚われる嫌いがある。政とは、狐と狸の化かし合いのようなものです」
 それは決して嫌味ではなく、この先のマホロバを背負っていく者に対しての、堅守の忠告だった。
「人の姿をした狐狸や魑魅魍魎が、この都を跋扈している。貴方も、守るべき主が誰なのか、しかと心得た方が良い」