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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第4章 あなたの死期は・・・いつ? Story1

「ここが封神台の中?まるでイルミンスールの森の中にいるみたいだわ」
 セレアナは注意深く辺りを見回し、鬱蒼と覆い茂る木々を睨むように眺める。
「外の状況から考えると、十天君がここにいるのは間違いないはずだけど・・・」
「―・・・・・・ぁっ」
「セレン、どうしたの?」
 苦しげに呻き地面に膝をついてしまったパートナーの元に駆け寄る。
「大丈夫よ、まだ動けるから・・・うぅっ」
「あの黒い炎のせいね・・・」
 セレンフィリティの腕を引っ張って立たせてやる。
 平気そうに見えるセレアナの方も、徐々にソリッド・フレイムの病原体の毒に蝕まれているのだが、パートナーに心配をかけないように、いつもの冷静な態度を保っている。
「あぁっ、くぅっ!」
「このまま進むのは難しそうね、少し休んでから・・・。セレン・・・?どこへ行くの!?」
 またもや苦しみ出したかと思うと、セレンフィリティはセレアナから離れ、草むらの方へ駆けていく。
 その苦痛は病原体の毒のせいだけでなく、自分の死期の幻に襲われ、逃げ回っている。
「私に触れないで・・・。痛い、引っ張らないで!ひっ、あぁああああ!!!」
 散々弄ばれたあげく、自分を奪い合うように手足を捕まれ、もぎ取られてしまった痛みに悲鳴を上げる。
「それは私のよ、返してっ!足が・・・足が動かない・・・・・・どうして・・・。―・・・っ!?」
 千切った手を咥えて、ニヤつく気色の悪い者を殺してやろうとするが、膝の先にあったものすらない。
 セレンフィリティが動けないことをいいことに、不気味な影たちは、彼女の身体に触れる。
 これは本当の死なの・・・。
 いや・・・違う。
 私はセレアナと・・・十天君を追っていたはず。
 追った先で倒れてしまい、嫌な悪夢でも見ているの?
 いいえ、それも違うわ・・・眠っているわけでもない。
 ―・・・・・・私は。
「ふざけんな!」
 そう叫ぶと失ったはずの手足の感覚が戻り、草むらから立ち上がる。
 本当に手足を奪われたのではなく、紛い物の死期の幻のせいで、奪い取られたのだと思い込んでいただけだ。
「今のあたしはあの時に死んだも同然なんだ!今更二度三度と死んでも同じことよ!!」
 何度心を殺されても、それでもまだ生きている。
 自分の得物を拾い上げると、喚き散らしながら敵を探す。
 その頃、セレアナは・・・。
「人様の家に住み着く害虫め、死になさいっ!」
 害虫駆除用のスプレーを巨大な黒い物体に向って噴射する。
 シュゥウウウッ。
 しかし、その害虫は怯むことなくセレアナに迫る。
 ブビィイイイン・・・。
 不気味な羽音を立てて飛び、彼女にズシンとのしかかる。
「いっ、いや・・・ゴキ・・・・・・ゴキ・・・ブリが。私の上に・・・!!きゃぁああぁああーーーっ」
 陵辱されたあげく黒い粒々の卵を植えつけられてしまう。
 みるみるうちに腹が膨れ、蠢く様子に顔面を蒼白させ、その後何が起こるのかも想像したくないと、恐ろしさのあまり目を瞑る。
「(これは悪い夢よ・・・。そう、ただの悪夢なのよ!目が覚めれば、こいつはどこにもいなくて、お腹にも異常がないはずよ・・・!)」
 そう心の中で言うとビリリ・・・と腹が裂け始め、そこから生まれた最悪な生き物と目が合い、彼女の思考は完全にフリーズしてしまった。
 腹を食い破られた痛みというよりも、世界で一番最低な生物が、そこから生まれたという屈辱に、自分の一生はなんだったのか・・・こんなものを生むために今まで生きてきたのか、という精神的ダメージで心をボロボロに砕かれる。
 自分は死んでしまったのだと思いながら、ゆらりと立ち上がり、まるで屍のように、どこを見ているのか分からない目で、ふらふらと歩き始めたかと思うと・・・。
「私は・・・こんなものを生むために生まれたんじゃないわ・・・、世界中のゴキブリども・・・この私が排除しやるっ」
 バーサーク状態となり、叫びながら暴れ回る。



 怒り狂い、叫びながら暴れまわるセレンフィリティと、セレアナの存在に気づかないほど、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は目の前のドルイドを、どう仕留めようか策を練っている。
「(あの魔女では透乃ちゃんたちに、そう簡単に致命傷を与えられないでしょうけど・・・。魔法でなく、ロッドで殴りかかってくるかもしれないですからね)」
「早く私を倒さないと、お友達をいじめちゃうわよ〜?」
 崩落する空を放ちながらケタケタと笑い、仲間のコンジュラーの傍へ走る。
「まずは私に向って撃ってみたはどうですか?」
「フンッ、お望み通りにしてやるわっ」
「どうぞ、好きなだけ撃ちなさい!」
 ダメージがないわけではないが、痛みを知らぬ我が躯により痛覚が鈍っているおかげで、光線の痛みをほぼ感じなくなっている。
 ドルイドの片足を掴み、ギリリ・・・と爪を突き立てる。
「よくも私のキレイな足を・・・っ」
 その傷口からペトリファイをくらい、徐々に足が石化し始めていく。
「小娘・・・タダじゃ済まさないわよ」
 紛い物の死期から逃れ、目を覚ましたコンジュラーの方にロッドを向け、命の息吹で瀕死の仲間を救い、地面に倒れ込む。
「―・・・大人しく死期を見ていれば、本物の苦しみ遭わずに済んだでしょうね」
 ドルイドの動きを封じたと思ったら、今度はコンジュラーが立ち上がってしまった。
「さてと・・・傷のお返しをしてあげなきゃね?」
 焔のフラワシを陽子でなく、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)に襲いかからせる。
「ん・・・・・・・・・あぁっ」
「リジェネレーションで、ちょーっとずつ傷が治るとはいえ、どこまで持ち堪えられるかしらぁ?」
「(早く正気に戻って、透乃ちゃん・・・)」
 まだ死期の幻に捕らわれたままの透乃の方へ振り返り、いつもの彼女に戻るまで恋人の盾となる。
 ドルイドが石を肉にの術を使い、石化を解除しようとしているのを見て、殺しておけばよかったと少し後悔し睨みつけた。



 恋人がずぐ傍にいるにも関わらず、死期の幻のせいでその姿も見えない様子で、透乃は陽子の名前を呼び続ける。
「ど・・・どこにいるの、陽子ちゃーん・・・。お腹減ったよー、食べさせて〜っ」
 やっとテーブルにたどりついても、歯肉が膨張してしまったせいで、ご飯すら1人で食べるのも難しい・・・。
「うわ、箸がっ。―・・・イッた!」
 ぽろっと手から落ちた箸を拾うと、畳に膝をついたとたん、ミシミシと足が痛む。
「ありゃ、何か踏んじゃったかな?」
 立ち上がろうとするとベキッと何かが折れた音が響く。
 足を退けてみるが、そこには畳しかなく、いったい何を踏んでしまったのだろう・・・と思っていると、急に立てなくなりぐらりと揺れ、尻餅をついてしまう。
「あわわっ!?」
 何かを踏んだわけでなく、透乃の足の骨が折れた音だった。
 白血病の影響でボッキリと折れてしまったようだ。
 どんどん病に蝕まれてい彼女は食事もまともにとれず、起き上がることすら出来なくなる。
 それでも恋人が家に帰ってくる気配もない・・・。
 このまま独りきりで死んでしまうのか。
 戦いの中ですらなく、だんだんと不自由な体になっていき、誰にも看取られず病死するだろうか。
「こんな惨めな最後イヤだよ・・・。血を流すなら戦いで流したい。もっともっと戦いたいのにっ」
 動かない足をずるずると引き摺り、外へ出ようとする。
「―・・・どんな死期の幻影だろうと、私はまだ・・・生きてるし。生きてるからこそ・・・私は戦いたい!」
 それが血溜まりの道でも、ボロボロに傷ついても、本当の死がくる時まで戦い続けてやる。
 私の傍にはやっちゃんや芽美ちゃん、それに・・・。
「いつも一緒だよ」
 とっても大切な恋人で、永遠を誓った陽子ちゃんも・・・。
「はい、お目覚めの時間ですよ。・・・透乃ちゃん」
「うん、おはよう」
 そう言うと差し出された手を握り、立ち上がる元気をもらう。
「ん・・・」
 小さく声を上げ、ゆっくりと目を開くと、目の前には踏み荒らされた草花がある。
 どうやら正気に戻ったらしく、地面から立ち上がると、陽子が自分を守る盾となっている。
「あいつ・・・陽子ちゃんをっ」
 火傷を負わせた仕返しをしてやると、コンジュラーに殴りかかる。
 金剛力で頭部を潰そうとする透乃から、ぱっと離れる。
「あぁ〜残念、避けられちゃったか」
「よかった・・・正気に戻ったんですね」
「うん、陽子ちゃんが守ってくれたし、傷もないよ。それと・・・」
「はい?」
「ありがとう、私を幻影の中から助けてくれて・・・」
「―・・・えっ?」
 聞き取れなかったという様子で、陽子は首を傾げた。
「なーんでもないっ」
 私だけのヒミツにしちゃおうかな、と微笑むと敵の方へ視線を戻した。