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リアクション
「うわわわわわ、何だかイッパイ人が座ってるんだよ……緊張するよぉ〜〜〜〜」
「だ、大丈夫だって。そう堅くなるなよ七海、なんかそういうの移るから、な?」
時間は本番まであと15分
ショーステージ脇の控えスペースにて、出番を控えた序盤の司会担当
鍵谷 七海(かぎや・ななみ)とシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の二人が挙動不審に陥っていた
初大舞台の七海が緊張してるのは判るのだが【ディーヴァ(歌姫)】として場数を踏んでるシリウスまでもがそうなのは
数日前のさる御方への失言で強制的に着る事になってしまったその衣装のせいだとも言える
彼女の中では冒険に近い私物の【リリカル魔法少女コスチューム】を軽く数歩先に越えるそれは
素の彼女に無い【ファニーな可愛い路線】ですっかり固められてしまっている
そんな彼女に、笑い声をかみ殺しながらリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が声をかける
「なんだかその赤面の様子もあわせて、可愛らしいですわよシリウス
その【つけまつげ】の歌でも歌いそうな格好……案外新しい路線として売ってもいいと思いますわ?」
「くっそ、他人事だと思ってよ!慣れない格好ってのが一番緊張するんだよ
しかもこの観客数……うっかり噛んだりヘタうったらと思うとさぁ〜」
「大丈夫ですよ、お二人とも基本応援だけじゃないですか……」
背後から聞こえる暗い声にシリウス達3人が振り返ってみれば
そこには完全にオーラが淀んでいるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の姿があった
「た、たしかリカインさんは中盤の担当でしたっけ?観客席の子ども達と絡みのある」
「ええ、歌劇団だから芝居の対応力があるだろうって事で頼まれてね……」
リーブラの言葉を受け、とつとつと語り始めるリカイン
よく聞くとその声に微妙に怒りの色が感じられるのは気のせいか?
「でもライブ的とはいえ、お芝居だって段取りが必要だからどう進めるか話し合いたかったのよ……
なのにあの連中、わざと姿を眩まして〜!!」
「お、落ち着いてください、セットの壁が壊れるこわれる!」
体を支える為に彼女が手を触れていた壁がメキッと音を立て始めたので、あわてて七海が止めに入る
ショー中盤に大概ある【お遊び】というのがある
ヒーローや喋りが達者な悪役や司会が絡み、会場の子ども達や時折親を巻き込みながら話でつなぎ
時にゲームやクイズなど遊ぶパートなのだが
ずっと動きっぱなしの演者の休憩あ衣装換えだけでなく、舞台に集中させる子どもを休ませる意味合いもある
ライブで言うMCとほぼ同等で、そこに観客の生の反応が差し挟まれるので
芝居の様に段取りをしっかり組む者もいるのだが
逆にライブだからぶっつけの方が緊張感があって楽しめる……と、むしろノープランで挑む者もいる
見たところリカインは前者、共に同じパート担当の二人
禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)とフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)は後者だったという事か
この理由で、この数日間ずっと行方を眩ませていたのなら両者の邂逅は本番まで絶望的と言わざるをえない
その未開の境地へぶっつけ本番で挑む事を想像すると、未経験の七海は恐怖せざるを得ず、思わず身を震わせた
「いいわ、こうなったら意地を見せてやる!司会のお姉さんの一人として立ちはだかる悪はぶちのめす!」
間違った決意で奮起するリカイン
そんな三者三様の司会陣の様子を見て、キャスト陣も緊張を和ませる
特に後半からの出番の面々にとっては、出番までの長い時間は人によっては地獄の待ち時間なので
木本 和輝(きもと・ともき)とギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)の二人にとっては、そんなドタバタは救いであった
……もっとも、当のリカイン達にとってはいい迷惑なのに違いないのではあるが
「何にせよ、出番前に会場を温めてくれるのはありがたいよ
子ども達の反応が薄かったら、俺達が出て行っても何も盛り上がらないもんなぁ」
「全くだぜ和輝、悪っつてもちゃんと応援して盛り上がるようにしないといけないってのが難しくてな
派手に暴れるのはいいんだが、本気でビビられたらそれこそルファンに大目玉だぜ」
「……どのみち俺達の出番までに子どもが乗ってくれる事を祈るのみだよ
っていうか、俺達の方も約一名ずっと行方不明なんだが……さて、どうしようか?ギャドル」
「鍛冶 頓知(かじ・とんち)の事か?さっきあっちで着替えてるのを見かけたが……止めておいた方がいいぜ
アレこそ本番まで温めておいた方が向こうにもお前らにも有効だと思うがな」
二人の会話を聞いて同じ悪役側の山下 孝虎(やました・たかとら)がやってくる
苦笑の表情はその件の人物とであった先程の光景を思い出しての事なのだろうか?
「まぁ結果は間もなく否応無しに出るんだからそんなにビクビクするなよお二人さんよ
結局舞台も戦いも同じ……喰うか喰われるか何だから、来たものを堂々と迎え撃てばいいんだ
今のうちからそれだと出番までに疲れっちまうぞ」
刃先を特殊魔法でコーティングしたグレートソードを肩に担いで豪気に笑うクラス・騎士(ナイト)
そんな彼が外見に反して一番年下なのはここだけの話である
そんな各々がそれぞれの思惑で控えているそれぞれの控え室
そこに序盤登場の司会役小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が開演時間を告げに奔走するのだった
「みんな準備はいい?まもなく5分前!時間通りに始めるって!みんなはりきっていこーっ!!」
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「まもなく3ふんまえだお!やくしゃさんとしかいのみんなは、おーけーだって」
「はいよ、こっちもスタンバイOKだ。リーシャ、マイクのバッテリーチェックした?」
「5分前に新品と交換済みよ、樹。最後まで大丈夫!」
『照明、各装置の電源確認しました。特効、およびプロジェクターも正常に動作してます』
各所の様子を確認しに行っていた林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が報告と共にオペレーター席に戻ってくる
林田 樹(はやしだ・いつき)とリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)が音響の最終確認をすると同時に
照明と特効〜特殊効果〜担当ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)の通信報告が入る
「OK、あとは舞監のキューでスタートだ。巽、うちの看板は大丈夫か?」
「問題ない、すでにルカルカとともに舞台袖でスタンバイしてるそうだ」
それぞれの状況を確認したコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が風森 巽(かぜもり・たつみ)に質問をする
全ての確認が終了し、満を持して巽がインカムのマイクを口元に近づけ、スタートの合図を全員に送る
「それではいよいよスタートだ!不安や緊張もあるだろうけどここまできたら全員心から楽しむように!
お楽しみはこれからだ!それでは……音楽からスタート!!」
用意した盛大な音楽と共に、ステージの照明が本番仕様に切り替わる
いよいよ蒼空学園と百合園とが手を組んでの盛大なイベント
満を持してのヒーローショー【蒼空ヒーロー大戦】の幕開けであった
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