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危険な香りを退け、汚部屋住人を救出しろ!

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危険な香りを退け、汚部屋住人を救出しろ!

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第二章 掃除人対ごみ

 城内。

 ごみ山に道を作る先頭隊として突入した高崎 朋美(たかさき・ともみ)高崎 トメ(たかさき・とめ)はササカの証言から完全装備をしている。
 白衣のつなぎにゴム長、ゴム手袋、頭には工事現場でよく使われているヘルメットに懐中電灯を取り付けている。
「……どこを見渡しても」
 朋美の先を行く身軽なトメは周囲を見渡しながら少し呆れた。どの部屋に行っても風景が変わらない。
「……おばあちゃん、ボクこんな人と間違っても結婚しないと思う」
 ストック用のごみ袋を詰めたリュックを背負う朋美は周囲を見回しながら言った。その間も火ばさみを使ってしっかりとごみを分別している。道を作る事が目的なので細かなごみは後続に任せている。
「あら、ひよっこが何言ってるの。人生なんて何がどうなるか判らないものよ。思わぬ所から最悪の事態は転がって来るのだから」
 トメは陽気に笑いながら言った。長生きだけあって言葉には重みを感じる。
「……はいはい」
 朋美は適当に返事をした。確かに人生は分からない。イコン乗りを目指していたのに今は修理屋さんなのだから。
「ほら、花嫁修業!」
 トメはパンと手を叩いて大きな声で言った。
「大丈夫。世の為人の為に頑張るよ。というか匂いのせいかな、何か目まいが」
 トメに答えるもほんの少し残った匂いのせいかふらりと目まいを感じ、急いでマスクを装着した。
「むっ、怪しい気配」
 気配を感じたトメは『轟雷閃』を放った。
 その後、相手を確認しに行ったトメは『氷術』で魔法ごみを処理している朋美を手招きした。
「……ゴキブリ」
 やって来た朋美は火ばさみで普通ごみに放り込んだ。
「……予定の道筋は出来たから一度ごみを外に出しに行きましょう」
「了解」
 トメの言葉で朋美は両手いっぱいになったごみと一緒に外へ。
 この後、城内外を行ったり来たりして通路を確保していく。城だけあってなかなか大変だった。出し切れないごみ袋は邪魔にならないように端に寄せている。二人の目的はごみ出しではなく道を作る事である。オルナ処理の物と区別が出来るように袋は色違いなので問題は無い。

 古城入り口。

「うわぁ、思い切ってナパーム弾で燃やしちゃった方が早いわよ。これは」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は凄まじい部屋の様子にドン引き。
「……大火災ね。負傷者が続出よ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は冷静にセレンフィリティにツッコミを入れる。救出や各部屋担当達が行った後だというのにごみは変わらず存在し続けている。
「こんな大規模の掃除は滅多にないですよ」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)はそう言い、近くのごみ袋を拾った。普通とは違う規模の掃除と屋敷が綺麗になっていく様を考え楽しそうである。
「これほどの人手がいるとはごみいう奴は凄い強敵かもしれない」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は戦場と化した内部にぼそりと呟く。
「最凶の人災」
 セレンフィリティの言葉がブリジットの呟きと重なる。
「……当機ブリジットの自爆を承認しますか?」
 くるりと隣にいる夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)に承認を求め出した。
「いや、必要無い。こんなもの気合いを入れりゃすぐだ」
 当然、甚五郎が承認するはずがない。
「……」
 自爆を断られたブリジットは口をつぐみ自分の存在に悩んでいる。
「まず、オルナが放置したと思われるごみを全て外に出すのだ」
 そう言い、羽純は近くの満杯になったごみ袋を手に取った。
 その瞬間、底が破れて中身が落下。それを拾おうとすると床に脱ぎ捨てられた服に滑り、倒れるのを防ごうと近くのごみ袋を掴むも破け中身が魔法ごみだったのか小さな火がめらり。奇跡的な連鎖反応。
「……とりあえず」
 セレアナがすばやく『氷術』を使い、火を消した。
「……助かったのだ」
 羽純はセレアナに礼を言った。
「羽純は外で指揮しろ。下手をしたら大火災になりかねんからな」
 これ以上、何かあっては大変なので指揮を命じた。
「……引き受けた」
 羽純は甚五郎の言う通りにした。
「各部屋は他の者に任せてわしらはそれ以外の場所のごみ回収と放置されたごみの分別を行うとするか」
 甚五郎はこれから行う事を簡単に説明した。
「薬品で凍結が出来る物に関しては凍結していくわね。保温ボックスに入れてイルミンスールに任せるわ。餅は餅屋というから」
 セレアナは薬品についての処理方法を話した。
「ごみはとりあえず分別までにして選別は本人に任せる」
 と甚五郎。集めて分別までは出来るが、必要不必要かは本人でなければ分からない。
「先にオルナが放置したごみ袋を回収した方が良かろう」
 と羽純の提案。何よりも危険なのはオルナが考え無しに適当にごみを入れたごみ袋が危ない。

 そうやって話していた時、道作りをしていた朋美達が戻って来た。
「朋美」
 セレンフィリティが一番に声をかけた。
「すごいよ。ごみ袋、全部使い切ったよ。持ち帰れなくて置いているから回収を頼んでもいいかな。もう軽い目まいが続いてて。マスクはしたんだけど」
 両手には持てるだけのごみ袋を持っていた。
「匂いの効果ね。少し待って」
 セレアナが『清浄化』で目まいを癒した。
「楽になったよ。ありがとう」
「そうそう、ゴキブリも大量にいるみたいだから気を付けるのよ」
 朋美は礼を言い、トメは思い出した事を伝えてからごみ袋の補給をしに行った。まだまだ終わらない。通路という通路がごみだらけなのだ。
「えぇ!?」
 ホリイの顔色が恐怖に変わった。
「心配するな。殺虫剤がある」
 甚五郎は心配無用とスプレー缶を取り出し、ホリイに手渡した。
「……」
 ホリイは何とも言えない顔で殺虫剤を見つめていた。

「やっぱり、ナパーム弾」
「……自爆を」
 セレンフィリティとブリジットが同時に発言。

「事件になるわ」
「さっさと近くのごみを持ち出すぞ」
 当然、セレアナと甚五郎にばっさりと切られた。
「ごみ袋というぬるい事はいってられないから種類別にコンテナを用意するぞ。こんな人間の生活環境でない場所はさっさと整理整頓だ」
 甚五郎が速やかにコンテナを用意してからごみ処理を開始した。

「……あたし達も完全防備をして行こう」
「そうね。セレンが匂いにやられて暴走しない前にね」
 セレンフィリティとセレアナもごみ処理に出発。教導団の工兵用作業服を着用し、ガスマスクも着用。当然殺虫剤も装備。
「むぅ」
 セレンフィリティは言い返す言葉を無くし、先を歩くセレアナを睨んだ。
 二人は担当者がいる各部屋には行かず、廊下に転がるごみ袋の回収や薬品の回収と外での分別を担当した。時々、訳の分からない木工工作が転がっていたり、その場合はのこぎりで切って小さくして処分に回した。

 それぞれが侵入した後。

「我々葛城探検隊は町で有名なごみ屋敷入り口前に立った。果たしてこの中にいかなる脅威が我々を待つのか」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は両手を腰に当てながら意気揚々と声高く言う。
「……地図を確認せずに行くのは危険だよ」
 横に立つコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が冷静なツッコミを入れる。
 地図を確認していない唯一の二人である。コルセアが確認しようとした所を止められたのだ。二人共全身パワードスーツで包んでいるので状態異常の心配は無いが。
「地図を見たら探検の面白味が減るでありますよ」
 吹雪が当然と言わんばかりに即答した。
「……面白味より生きて帰る方がいいと思うんだけど」
 入り口からでもどれだけの広さがあるのか分かる。万が一が無いとは言い切れないのに。
「潜入!!」
 これ以上コルセアのツッコミの相手をしたくない吹雪は城に入った。
「……吹雪」
 息を吐いてからコルセアもついて行った。
 わくわくドキドキ危険いっぱいの探検が始まった。

「これとこれを。ほんのちょとだけでも綺麗になっていくのは嬉しいですね」
 廊下に転がるごみを外に出しながらホリイは楽しそうにしていたが、その表情が瞬時に変わった。
「む。これは」
 目の前にいるのは鈍く光る黒い物体。カサカサと動く汚い部屋によくいる存在。
「ひゃ」
 ホリイが逃げるよりも速くその物体、ゴキブリは空を飛んだ。
「ふぎゃぁぁ」
 錯乱したホリイは甚五郎に渡された殺虫剤二本を加減無しに振りまいた。
 ゴキブリが床で事切れても噴射し続けていた。落ち着いたのは殺虫剤が空になった時だった。
「……はぁ」
 ホリイは大きく肩で息を吐いていた。