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正体不明の魔術師との対決準備?

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正体不明の魔術師との対決準備?

リアクション

 恭也と会った後、木枯達はのんびりと遺跡内部を歩き回っていた。
「こういう場所を歩くときは、昔の人もここを歩いて生活をしていたんだ、って考えながら歩くのが楽しいんだよねぇ」
 木枯は周囲をゆっくりと眺めながら歩いていた。まるで遺跡探歩。
「ここ取り壊されるんですよね」
 稲穂も長い年月を生き抜いた遺跡中に漂う古の空気を吸い込みながらしみじみとしていた。
「そうだねぇ。でもそれが世界だよ。止まる事なく流れ続け、新たに作られては壊わされ、忘れられていく。この遺跡もきっとそうなる。だから私は見ておきたいんだよね、全部は無理でも……」
 旅人でもある木枯は無情に流れる時というものをよく知っていた。今日出会ったものが明日必ずしも存在しているとは限らないし、世界が存在し時が流れている限り始まりはあり終わりはある。どんなものでも。だからこそ木枯は見るもの全てを自分の記憶や心に残しておきたいと思っている。
「この遺跡が無くなっても訪れた私や木枯さんの心にはしっかりと残りますからこの遺跡が取り壊されたとしてもいつでも出会えます」
 稲穂もまた木枯と同じ気持ちで遺跡をゆっくりと見回した。自分達の心に残り続ける限りこの遺跡は取り壊されても存在し続けると。
「そうだねぇ。ん、何かいる?」
「……みたいですね」
 のんびり歩き回っていた木枯達は急に表情を引き締めた。『野生の勘』で曲がり角から何かがいる気配を感じたのだ。
 身構える木枯達。しかし、気配はこちらに向かって来る様子が無い。
 そのため木枯達は十分に注意をしながら“何か”を確認した。

「猫だねぇ。苦しんでいるみたい」
「……木枯さん、リボンしてますよ。迷い込んだ猫なのかもしれません」
 木枯と稲穂が見たのは苦しみながら凶暴に暴れ回っている猫だった。
「普通の様子じゃないからここの魔法の影響を受けたみたいだねぇ」
 『獣医の心得』を持つ木枯はすぐに今の自分達ではどうにも出来ないと悟るも放っておけないため猫を気絶させ苦しむのを休ませた。
「……木枯さん、この子を元に戻す事は出来るでしょうか?」
 稲穂は気絶した猫の頭を撫でながら木枯に訊ねた。動物好きとしては猫の命を奪うような事はしたくない。
「そうだねぇ。どうしたらいいかは分からないけど、遺跡を調査している人がいるらしいからその人達が何か情報を見つけてくれるはずだよ」
 木枯は稲穂に答えた。猫を安全な場所に寝かせてから歩き始めた。
 それからすぐに猫を戻す方法があるという情報を得てほっとしていた。

 遺跡内部。

「魔法凍結装置の設置を完了させてから次の事をしましょう」
「わたしもそのナントカという装置、設置するの手伝うよ!」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)とパートナーのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は装置設置のために遺跡に来ていた。正体不明の魔術師について皆と吟味検討した所だが、まずは仕事を終えてからだ。
「これが装置ですね」
 舞花は装置を手に取り、『記憶術』でもう一度依頼を受けた際に説明された設置方法を振り返り確認。
「舞花ちゃんが設置している間、周囲を警戒しておくね。何か凶暴化した動物がいるみたいだから」
 『イナンナの加護』で周囲の警戒を始めたノーンの手首には悪の力を察知するまじかるぶれすれっとがチャラリと音を立てていた。
「ありがとうございます。しかし、この装置が起動した際、大変かもしれませんね。おそらく私達も魔法が使えなくなってしまいますから」
 『博識』を持つ舞花は装置起動の際の厄介事を容易く想像していた。
「うーん、それは困るね。でも何とかなるよ。だって強い人がたくさんいるんだから」
 能天気なノーンは少し困った顔をするもすぐに明るい顔になる。これまでにも大変な事件に巻き込まれるも何とかなったのだから次だって大丈夫だと。
「そうですね」
 ノーンの言葉にうなずいた後、舞花は改めて装置の設置に取り掛かる。

 その時、
「むっ、危険な気配」
 ノーンは迫り来る危険を察知し、素早く『トリップ・ザ・ワールド』で特殊なフィールドを形成し、自分と舞花を現れた怪物の攻撃から守る。
 その間に舞花は装置の設置を終わらせる。
「設置完了です。装置を壊される訳にはいきません。片付けます」
 ノーンの集中力が解ける前に設置を終わらせた舞花は怪物の攻撃を『未来予測』で避けると同時に『真空波』で片付けた。
 この後も次々と装置の設置を済ませていく舞花達。ノーンの『幸運のおまじない』のおかげで怪物に遭遇する率は減ったものの遭遇する時は遭遇し、その時はノーンの『魔除けのルーン』での防御などで何とか作業を続けた。途中、様々な情報が入って来た。

 装置設置開始からしばらく。
「装置の設置の作業をしているんですね」
 設置に勤しむ舞花達の近くを通りかかった稲穂が声をかけて来た。
「そうです」
「完璧だよ! 二人は何してるの?」
 舞花とノーンはそれぞれ今の状況を報告した。
「双子を捜しているところだよ」
 木枯は自分達の状況を伝えた。
「……どこにいるか知りませんか? 歩き回っているのですが、広くてなかなか会えないんです」
 稲穂が双子の行方を訊ねた。薫達や陽一と一緒なのは連絡で知っているが、どこにいるかまでは知らないのだ。
「……いえ、見かけませんでした」
 舞花は軽く頭を左右に振って答えた。
「ヒスミちゃん達、元気かな? お仕事頑張ってるかな?」
 ノーンはふと双子の事が気に掛かった。前回の事件を知っているのであれから元気なのか気になっているようだ。

 その時、離れた所で作業をしている団体さんを発見。
「……あっ、ねぇ、あれヒスミちゃん達だよ!」
 ノーンが指をさしながらみんなに教えた。ノーンの『トランスシンパシー』が発揮されたのだ。双子に会いたいと思う者がノーンの他にも数人いたため効果が強められたのだ。
「……がっちりと周りを固められてるねぇ」
「あの様子からまた何かしでかしたのでしょうね」
 木枯と稲穂は双子の元気の無い様子からまた悪さをしたのだろうと予想し、笑んでいた。
「ヒスミちゃん!」
 ノーンは元気に手を振りながら双子の元に駆け寄った。ちなみに前回の事件の事もあってかヒスミの方に声をかけていた。
「あっ、お前は」
 名前を呼ばれたヒスミはすぐに気付き、元気の無い顔でノーンを迎えた。
「何か元気ないね。どうしたの?」
 ノーンは元気の無い双子の様子に小首を傾げながら訊ねた。
「ん〜、だってなぁ、キスミ」
「全然、お宝探しできねぇし」
 双子は不満たっぷりの顔でノーンに答えた。
「先に仕事を終わらせてしまえば何も言われないと思いますよ?」
 稲穂が会話に参加し、正論を口にする。
「……むぅ」
 稲穂の言葉に何も言い返せない双子は言葉を詰まらせてしまった。
「ほらほら、元気出して!」
 ノーンはそう言って『激励』で双子を元気付ける。
「……何か少しだけ元気が出たような」
「でも現実は変わらねぇ」
 双子は少し元気になるも周囲の厳しい監視の目を見るなりがっくりと肩を落としてしまう。
「私も手伝うから頑張ろうよ」
 木枯は救いの手を差し伸べた。これにより木枯達は双子の装置設置のお手伝いに加わるが、ノーン達は自分達の仕事が残っているためここでお別れとなった。

 舞花達と別れてすぐ。
「双子ちゃん、この子を紹介するのだ」
 薫は双子を少しだけでも元気付けようと連れて来たもふもふ生物ちーを紹介した。
「何だ、このもふもふ生物」
 全長約19cmの丸くて短い耳に二足歩行の小さな生物に興味を持つヒスミ。
「我たちでもよく分からない子なのだ」
 と薫。
「蹴り入れられたんだけど」
 キスミは興味津々の目でちーを見ていたが、痛くない蹴りを入れられた。
「双子ちゃんと同じで悪戯っ子なのだ。害は無いと思うから気にしないで」
 薫はにこにこしながら言った。
「木枯さん、可愛いつぶらな黒い目をしていますよ」
 稲穂は屈みちーの頭を撫でる。ちーは鼻らしき物が見当たらないのにクンクンと匂いを嗅ぐ仕草をする。
「可愛いね」
 木枯も稲穂と一緒になってちーの頭を撫でて楽しんでいた。
 そうして和む事が出来たのは少しの間だけ。
 すぐに装置設置という仕事に戻る事となった。
 当然、双子はすぐにつまらなさそうな顔をして渋々仕事を続けた。