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わたげうさぎの島にて

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わたげうさぎの島にて

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【5・RPGで仲間が増えた瞬間は、誰もがちょっと笑顔になる】

 間宮の家の騒ぎが一時おさまりそうになったところへ、近づく影があった。
 魔鎧状態のブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)と、そのパートナーのジル・ドナヒュー(じる・どなひゅー)
「あそこに例の地図があるんだね。さて……それじゃあ貰いに行こうか」
「待って。ウゲンはどう言ってるの? ここはタシガシ領なんだから彼の判断が重要なはずよ」
 ふたりは森のなかに潜んだまま、密かに話をしている。
 ブルタとしては、問題の地図はパラミタの権力者にとって都合が悪いものだったのだと予想しており。もしかしたらウゲンが裏で糸を引いている可能性もあると踏んでいた。
 花音達がその重要性に気が付かないうちに、どうにか手に入れるべくわざわざこうして足を運んできた(もっとも、精神感応で指示を受けながら、ブルタと足を運んだのはジルだが)わけなのだが。
「人が少ないようなら、ニセモノとすりかえるのが一番ベターだと思っていたけど。やっぱり人が大勢いるようだね。となると……」
「となると? どうするのよ」
「ウゲンに連絡しよう。部隊を動かしてもらえば、簡単にことは運ぶだろうから」
「そうよね。じゃあさっそく」
 ジルは専用の携帯電話をとりだし、さっそく連絡をとっていく。
 ブルタが話せるよう、ちゃんと彼の顔部分に近づけ。やがて相手が出た。
「もしもし。ブルタ・バルチャだよ。ウゲンに繋いでくれるかな」
 しばしの沈黙ののち、目的のタシガン領主が通話口に出てきたようで。ブルタもわずかに声を上擦らせて。
「ああ、どうも……え? ええ。例の島に来ていて。それで、救助隊という名目で部隊を派兵して貰おうと思って。パラミタ固有の財産としてタシガシ美術館に展示するよう提案すれば、花音達も納得するだろうと……はい、はい、はい?」
 わずかにブルタの声がまたひとつ高ぶった。
 清聴していたジルも、わずかに目を見開かせる。
「それは驚きもしますよ。まさか『もうすでに、兵はこの島に来ている』なんて……そういうことなら、はい。失礼します」
 向こうが切ったようなので、ジルも電源ボタンを押して通話を終了させる。
「まさかとっくに手を打ってたとは、さすがのボクも思わなかったよ」
「さすがなのはウゲンのほうだった……ということよね。で? あたしたちはこれからどうするの? その先行してる兵と落ち合うとか?」
「うーん。でも通話口のウゲンの口調は、なんだか事態がどう転んでもいいような感じだったんだよね。先行兵が何人で、どんな奴らかも教えてくれなかったし」
「まあ、ウゲンはそういう性格だもん。しかたないわよ」
 そのまましばらく、どうするか話し合ったものの。
 タシガン領主が既に手を打っているのなら、わざわざ積極的になることもないかという結論に至り、手を引くことにしたのだった。

 ふたりが去った二分ほど後。
 入れ替わるように、今度は朝霧 垂(あさぎり・しづり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)がやってきた。
 垂は、イナンナの加護と殺気看破と超感覚という三段構えのスキルを常時発動させながら、ここへ向かってきたのだが。
「なんじゃこりゃ(笑)」
 到着してみれば、周りがわたげうさぎに囲まれており。圧倒されながらも、微笑ましい気になる。そのうえつぶらな瞳で近寄ってこられては、攻撃して追っ払うのも気が引けるというもの。
 なのでひとまず垂は、ヒプノシスで眠らせておくことにした。
 SP残量に気を使いつつ、次々と寝かしつけていく垂だったが。
 ふと。
 群れの中に、何か言いたげにうるうると瞳を潤ませているうさぎがいるのが見えた。
「なんだ。おまえ、どうかしたのか」
 しかし相手はキュゥキュゥと鳴くばかりで意思疎通ができない。
 そこで垂は、頭の上に乗せて居るペット『垂ぱんだうさぎ』(という名のわたげうさぎ)に会話をさせてみた。すると……!
 キュゥキュゥ鳴くうさぎが二匹になっただけだった。
 まあ冷静に考えれば、うさぎ同士で会話が成立してもそれを理解はできないわけで。
 そうこうしているうちにそのうさぎも寝入ってしまい。結局なにが言いたかったのかわからぬままで、自己嫌悪に陥りかけたが、
「その子『じぶんたちはなにもわるくない』って言ってたみたいですぅ。ねぇ、ヘリシャ」
「そうですぅ。私はビーストマスターですから、わかりますよぉ」
 声をかけてきたのはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)たち四人。
 そのなかの、ヘリシャと呼ばれた精霊少女はあっさりわたげうさぎを一匹抱えて。
「わぁ……ちっちゃくて、ふあふあですぅ。あぁ、寝顔もかわいいけど、私のわたげうさぎとおしゃべりしてくれないかなぁ」
 こちょこちょとくすぐり、自分のペットを近づけている。
「ちょ、ちょっと。不用意に触ると危ないんじゃないか?」
 垂はあまりに無警戒すぎるヘリシャに注意するが、今のところ彼女に異変はない。
「だいじょうぶですよぉ、たぶん。これからちゃんと調べますしぃ」
 抱きながら、獣医の心得を使って診察してみれば。
 本人が言ったようになにか病気にかかっている風でもなく、すやすやと寝息を立てるだけのようだった。
 ね? と微笑むヘリシャに、垂もわたげうさぎに危険はないのだろうかと納得しかける。
 でも、なにか見落としをしているような……そんな不安もかすかに残り続けた。
「ねぇ、垂! うさぎのことはもういいから、はやくあの民家に入ろうよ」
 最終的には、花音特戦隊に入るという目的に夢中のライゼに押し切られ。
 これ以上の追究はできずに終わった。
 家に入り、花音たちと対面するなりライゼは叫ぶ。
「総隊長ー! 突撃隊長ー! 料理主任! 手伝いに来たよー!!」
 いちおう解説すると。総隊長が花音、突撃隊長がバーゲン的な意味でエメネア、そしてほぼラーメンしかレパートリーがない料理主任がリフルである。
 言われたほうは、なんとなく誰が誰のことか察して軽く会釈をする。
 どうやらさきほどの襲撃のあと、このさきの対策を講じているらしかった。
「こんにちはぁ。花音特戦隊のみなさん〜。私たちも宝探しに協力するですぅ」
「さっそくだけど、この家を色々探させて貰っちゃうよ!」
「申し訳ありませんけど、お許しくださいませね」
「じゃあ、はじめるですぅ」
 メイベルたちは、挨拶もそこそこに家捜しをはじめていく。
 もちろんまず間宮と川口の両名の冥福を祈ってから、めぼしいところの捜索に当たり始めた。
「家捜しはいいですけど……この家、そんなに物ないですよ」
 とはいえ、花音が言うようにさして部屋の数はなかった。
 遺体の安置されている寝室と、
 椅子とテーブルオンリーのリビング、
 氷漬けになったフラワシがぶちこまれたキッチンの冷蔵庫には驚いたが、
 あとはトイレのみで終了。物が少なすぎてなんだか心配になってしまうほどだった。
 セシリアは見取り図を作ってはみたものの、五分足らずで書き上げることができていた。
「あらあら。でも考えてみれば、間宮林蔵というかたはあまりデスクワーク主体のヒトではありませんものね」
「きっとこの家も、ほとんど使ってなかったんですぅ」
 フィリッパとヘリシャは早々に切り上げ、花音たちの対策会議に混じっている。
 話題はいまのところ、一体どうやって間宮たちを死に至らしめたのかであるようだった。フラワシの能力であるという花音の主張が強いようだが、具体的な方法までは届いていないようで。
 そこで捜索を終了したメイベルは、根本的なことを告げることにする。
「あの。そもそも、この島にやってきた理由はまず『ブライド・オブ・ダーツ』を探しにきたはずです。間宮林蔵さんたちの死は確かに悲しいですが、『花音特戦隊』の本来の目的を忘れてはいけません」
「死因も気になるけどさ、目的があってここに来たんだろ? なら先ずはそれを入手する事が先決じゃないか?」
 垂もそれに続いて進言してきて。いまさらのようにダーツのことを思い出す花音たち。
 もっとも忘れていたわけでなく、襲撃されたり地図にかかりきりだったりで、そちらに気を回す余裕を失っていたのだ。
「もし、死因が伝染病なら、俺達がこの島に入った時点でかかってる可能性が高く、今さら対応しても遅いだろうし、敵の攻撃だとしたら一か所に止まり続けていると色々と準備をされかねないからな」
「たしかに。相手は確実に、こちらを狙う策をたててきているようですね。さっきのフラワシで終わりとは到底思えませんし」
 花音が考えるふうになったのをみて、畳み掛けるように続ける垂。
「それに、相手がどう動くか分かれば相手の目的も分かるかもしれないしな。その地図が目的なのか、強化光条兵器の防衛・あるいは奪還目的なのか……」
 どうするかを思い悩む花音たちだったが。結局、垂やメイベルに押し切られる格好になりながら。地図の解明は残った人にまかせ外へと出ることになって。
「「「え?」」」
 そこで、ラーメンの屋台を目撃した。

 なぜそんなものが森の中にあるのかは、渋井 誠治(しぶい・せいじ)が持ってきたからに他ならない。
 じつはすこし前から彼は個人的に色々動いていたのである。
 誠治はいちど森の一角へ屋台を隠し、
「よし、次だ」
 ホームセンターで買ってきたマスクとメガネと手袋を装着し、気持ち的に伝染病対策をしたところで。その場所からかなり離れたところまで移動し、用意してきたリンゴやニンジンの欠片をばらまいておく。
 これで準備は万端とばかりに、間宮の家へと直行する誠治。
「わたげうさぎのみんな! そこはあぶない! こっちへ来るんだ!」
 到着と同時に、警告スキルと特技の演説を披露し、うさぎたちに呼びかけた。
 もちろん言葉が通じないのは承知のうえで、きちんと餌の残りもまだ持ってきてある。それにつられたのか一羽二羽三羽と、こちらに向かってくる。
 運動は得意な誠治だが、足の速さでうさぎには勝てないため誘導が成功したところで一気にさっきの餌場所へと走る。
 マスクしながら木をかきわけて走るのは物凄く息苦しいが、そこは我慢しながら急いだ。
 そのおかげで十数羽ちかくこっちにおびき寄せることができた。
「さあ。仕上げをさせてもらうか!」
 連中がばら撒いた餌に喰らいついたところで、誠治は星輝銃を構え。弾幕援護を使って、わたげうさぎたちの前に煙幕を張った。これでしばらくは足止めができる。
 作戦が成ったところで、すぐさまその場を離れ、屋台へと逆戻りし。

 そして今、家の前に辿り着いたというわけだった。
 いいタイミングで花音たちが出てきてくれたので、誠治は明るめに声を張り。
「いらっしゃい! ちょっと待ってくれよ、いま準備するから」
 早々に麺をゆで、材料を切り始めた。
 対する花音はなんのジョークかと困惑状態。
「ダーツを探す前に腹ごしらえだ。腹が減っては何とやらって言うだろ?」
 誠治が言うとおり、たしかに時刻は昼間をとうに過ぎていた。
「あの。せっかくですけど、あたしたちは今それどころじゃあ――」
「……ありがたくいただきます」
「リフルすでに屋台に着席済み!?」
 正しくはリフルだけではなく。メイベルたちもちょうどいいとばかりに、隣にビニールシートを広げ。ピクニックバスケットを開けてサンドイッチを披露しはじめている。
「いやいやいや。さっきまで緊迫して事件解決に乗り出そうとしてたのに、十メートルも歩かないうちにお食事モードってどういうことですか!?」
「わぁ、おいしそう。いただきまぁす」
「ブルータスエメネア、おまえもか!」
 花音の注意もどこふく風で、わきあいあいとサンドイッチをほおばるエメネア。
 垂とライゼだけはちゃんと警戒をしてくれているようだったが、それにしても。
「だいたいリフルサン。前半までの、あのリーダー的な振る舞いはどこへ? ここへきてボケとツッコミ交代させる気!?」
「…………」
「都合のいいときだけ無言キャラを復活させないで!」
「……待ってよ、花音。私だってふざけてるわけじゃないわよ」
「え?」
「考えてもみて。いままで私達は、ずっとあの家に篭っていたのよ? 自分で思っている以上に、精神的に疲れてるわ。これから先なにが起きるかわからないし……体調は万全にしておいたほうがいいわ」
「あの。もっともらしい説明ですけど、お箸片手にうずうずしているのを見ると、ただの言い訳にしか聞こえないです」
「……………」
「だから都合が悪くなると黙るのやめて!」
 深々と溜め息をつく花音だったが、誠治がラーメンを仕上げてリフルが心底嬉しそうに食べるさまを見ていたら自然に笑みがこぼれ。
「しょうがないですね。たしかにあたしも、ここからは本腰入れなきゃいけないでしょうし。すこしだけ休息につとめましょうか」