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リアクション
【10・思いは時折すれ違う】
花音たちはひとまず難を逃れたものの。
エメネアはまだ熱にうなされていて、リフルも見つかっていない。事態はまだ悪いほうに傾いたままだ。
天蓋つきベッドに寝かされたエメネアは、現在朔夜と冬月が診ており。
朔夜は医学と魔女術、冬月は化学を駆使してなんとか解毒剤を作れないかと試している。
心配そうに見つめながら、花音はぽつりとつぶやく。
「さっきの攻防で……やっとカラクリがわかりました」
「? なんの、ですか」
ふぅふぅと息切れしながら、椅子にもたれているロザリンド。
やはり全身パワードスーツ装備であれだけ暴れれば、スタミナがすぐ切れたらしい。
「あの青白いフラワシ、いつもわたげうさぎがいるところに出現していました。おそらく、あれはダニを強力な毒虫に変える能力を持っているんです」
「な、なるほど。やっぱり、花音さんは狙われているんですよ。なんとしてもブライド・オブ・ダーツを手に入れさせない、つもりなんでしょうね」
聞きながら花音は思う。それならなおのこと、ブライド・オブ・ダーツは手に入れなければいけないと。
けれど。仲間を危険に晒してなお、続ける価値のある事なのだろうかという思いもある。
エメネアは素直に、そんなの気にしないで頑張ればいいと言ってくれるだろうけれど。
リフルは、どうなのだろうかと。花音は不安に囚われはじめていた。
彼女は、ただのきまぐれで自分に付き合っているだけなのではないだろうか。
聞いてみたくても、そのリフルはここにいない。それが、不安をまた拡大させていた。
そして。
肝心のリフルはというと。
「あの、大丈夫ですか? しっかりしてください!」
「うう……あれ、私……?」
なぜかビリヤード台の上で寝そべっていた。
ぼんやりとする記憶を辿っていくより前に、目の前の人物が知人であることに軽く驚いた。そこにいたのは藤井 つばめ(ふじい・つばめ)。
彼女は友人であるリフルの手伝いのため、ここまでやってきたのだが。まさかこんな形で遭遇するとはつばめとしても予想外だったようで、同様に驚きを顔に出している。
「びっくりしましたよ。この部屋を漁っ……じゃなく。調べていたら、急に天井から落ちてくるんですから」
言われてリフルはやっと記憶がハッキリしてきた。
停電になって誰かからの襲撃を受けたとき、よろめいて近くの壁に手をついたらそのままくるりと壁が回転してそのまま吸い込まれてしまい。闇の中で転がるうちに意識を失ってしまったのだ。
「あの壁は地下にある部屋への隠し扉だったのね……まったく、どこのニンジャ屋敷よ」
台から降りて改めて部屋を見回してみると。
ここは遊戯ルームらしく、ビリヤード台のほかにダーツボード、スロットマシンなどが置いてあった。なぜ地下に隠しているのかは、想像したくないのでやめておく。
「やっぱり、ここにあるのは普通のダーツみたいだよ」
「そう簡単に見つかりはしないわよね」
ダーツボードの近くに平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)と久遠乃 リーナ(くおんの・りーな)がいた。どうやら目的は同じらしい。
(せっかくだし、私も少し調べていこうかな……花音もダーツを見つけて欲しいだろうし。それにもしかしたら……花音たち、私のことなんてほっといてダーツ探しに勤しんでいるかも)
なんて思いがリフルの頭をよぎった。
そうなるとここからすぐに戻るのはどうにも躊躇われ、
「この地下、ほかに部屋はないの?」
「あるみたいですけど。道が入り組んでいて、全部はまだ確認していないんです」
つばめに言われてリフルは近くの扉を開けてみると。
岩の壁に覆われた道が四方八方に伸びていた。どうやら、自然にできた洞窟を改造して部屋をこしらえたらしい。ところどころ松明の灯りがあるにはあるが、それでも薄暗い不気味さがあった。
しかしリフルはダーツを手に入れるため、先に足を進めることにする。
つばめと、部屋を調べ終わったらしいレオとリーナもなんとなくその後に続く。
「そういえば今更だけど、ブライド・オブ・ダーツってどんな形で、どれほどの威力なんだ?」
「……えっと。形は普通のダーツと同じで、色は金色。威力に関しては私も知らないわ。花音も聞かされてないみたいだったし」
「ふーん。でもきっとすごいんだよね! 私も使ってみたいかも」
レオたちと話すうちに、やがて通路が行き止まりになって鉄の扉が見えてきた。
かなりものものしい入口にわずかに期待をしながら、扉を開いてみれば。
そこは薄明るい電球に照らされ、武器がズラリと置かれていた。
といっても、武器庫のようなものでなく観賞用に作られた趣味の部屋のようで。
スリングも、ラスターハンドガンも、セフィロトボウも、手裏剣も、最古の銃も、どれもこれもすべてがガラスケースに入れられている。
「弓とか銃とか、投擲武器とかばかりね。ここの主人の趣味なのかしら」
なんにせよ、それらしい雰囲気の場所なので、つばめもレオ達もさっそく捜索を始め。リフルもひとつひとつ調べてみる。積み重ねてあるケースは、軽く二百はありそうなのでそれなりに骨が折れそうだった。
最初のうちは全員やる気だったものの、十分ほどで腕が痛くなり始め。
「うーん。やっぱり強力なアイテムなら、他のものと一緒くたにはしてないかな」
「かもしれないけど。もうすこし調べてみようよ」
レオたちの隣で、リフルはまた迷っていた。
一度花音たちのところへ戻り、皆と一緒に調べたほうがいいのではと。
部屋の端に、梯子がのびているのには気がついていた。おそらくあれも秘密の通路のひとつなのだろう。地下部屋ごとに通路が設けられているらしい。
「……どこに繋がっているかだけでも、みてこよう」
ちょっと言い訳めいた独り言と共に、リフルは梯子をかけあがることにした。
別荘の裏手にある勝手口より四谷 大助(しや・だいすけ)、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)、白麻 戌子(しろま・いぬこ)たちは中に潜入していた。
入ってすぐ、通路が左右に伸びており。ところどころにネームプレートのついた扉がはまっている。どうやら使用人たちの部屋が並んでいるらしい。
「闇雲に探したって見つからないわよね……大助、どうしようかしら?」
グリムは大助へと問いかけたが、答えるより前に戌子のほうが力強く声を張り上げ。
「最強の光条兵器ともなれば、それ相応の場所に保管されているはずだろう。慎重に、警備が厳重そうな所を回っていこう」
そのままずんずんと左の通路をつきすすみはじめた戌子に、グリムは慌てて後に続く。
「グリム、それにワンコ。ブライドオブシリーズが気になるのは解るけど、気は抜くなよ」
しんがりの大助は肉体の完成と武医同術で、防御を万全にしたうえで歩を進める。
しばらくは使用人部屋がつづくばかり。三人は一度そのなかのひとつを覗いてみたが、ベッドと洋服箪笥があるくらいで、人の気配はない。
ところどころ幾重にも通路が分かれているところもあったが、戌子はどれだけ自信があるのかというくらいに、迷いなく道を選びながら突き進んでいき。やがて終点に達した。
「ん。おそらくここなのだよ。ダーツはこの中に間違いない!」
「ちょ、ちょっとワンコさん? 少し落ち着きなさいよ、そんなに簡単に見つかるわけないでしょ?」
自信満々の戌子に、さすがに止めに入るグリム。
なぜかと言えば突き当たりにあったその部屋は……
『侵入禁止』
頑丈な鉄の扉に、わざわざそう記載してあったのだから。
大助としても、これにはどうコメントをすべきか言葉に詰まってしまった。
ストレートにとっても逆をついても、なにかしらの厄介がありそうに思えてならない。
「なーに不安そうな顔をしているんだい二人とも。いいからこの戌先生に任せたまえー。こういったところにこそ、宝はあるものなのだよ!」
戌子は自分の推理に疑いを持たぬまま、扉を開けようとするが。動かない。
鍵がかかっているわけではなく、単純に扉の重量のせいらしい。
「ワンコのヤツ、今日は妙に張り切ってるな……何かあったのか?」
大助とグリムも仕方なく手伝うことにして、ようやく少しづつ開き始めた。
「ヘンな病原体を隔離しているとかじゃないといいけど」
一体なにが待ち受けているのか、大助はわずかに身構える。
「感染症を操るフラワシ。もしかしたら、別荘の住人にも被害が出てるかもな。いや、もしかしたら別荘の人間が……?」
今のところ使用人に会っていないところをみると、別荘の人達も被害に遭った可能性が高いかもしれないと大助は予想するが。まだ結論は出さずに黙っておいた。
やがて扉は人が通れるほどになり、三人は中へと足を踏み入れた。
鬼が出るか蛇が出るか。
そうした思惑のなか、その部屋に存在していたのは。
たったひとりでぼんやりと椅子に座る、割烹着を着た白髪の老婆だった。
(使用人……か?)
当然の疑問がわきあがるが、同時に目をひくものがあった。
部屋自体は、さっきまでの使用人の部屋とそう大差ない。なぜかダンベルが数多く床に転がっているが。それ以上に重要なのは、
老婆が掌でもてあそんでいる黄金色に輝くダーツであった。
「ほら、やっぱりあったのだよ! きっとブライド・オブ・ダーツに間違いない!」
たしかに普通のダーツとは違い神々しい印象がある。
大助もグリムも冗談のような展開に、呆然としてしまった。
「客かの。侵入禁止という文字が読めなかったらしいの」
老婆は口を開かせ、腰を軽くたたきながら立ち上がる。
上品な口調だったが、どこか隙がない佇まいのように大助は感じた。
「ボクらは、ブライド・オブ・ダーツという武器を探してここまで来たのだよ。さあ、それをはやく渡――「待て、ワンコ」
いきなり飛び掛っていきそうな戌子を制し、大助は丁寧に問いかける。
「ここの住人の方なんですね?」
「そうじゃ。私はこれでも使用人の長での。もっともここにいる使用人は、私と私の孫しかもうおらぬがの」
「……なにかあったんですか? まさか感染症かなにかで亡くなったとか」
「うんにゃ。あるじ様から遠ざけるため私が全員、解雇したんじゃ」
内容から察するに、そのあるじ様とやらがなにかを引き起こしたらしいとはわかる。
しかしどうやら詳しく話を聞かせてくれそうにないほど、徐々に相手の目が険しくなるのが伝わってきた。
「できればあるじ様からもうなにも奪わんでくれるかの。聞けぬなら、叩きだすまでじゃからの」
老婆はダーツを右手のなかに握り込んだ。
かと思うと、またたきをする間に三人のふところに飛び込んできた。
「心配せんでも。すぐに終わらせてやるでの」
驚きに目をむいた頃には、グリムが老婆の左拳を胸元にうけ、後ろに吹き飛ばされていた。
グリムのクラスはモンク。相手がお婆さんだからという油断があったとしても、こうもあっさり攻撃を受けたことに大助たちはわずかに動揺する。
「な、なんて婆さんなのだよ! それならこっちも……!」
戌子は魔銃カルネイジを放つべく銃口を向け、
「やっぱりそう簡単にはいかないよな……来い、『碧日』!」
大助も同化昆虫:碧日蟲により筋力を増加させた。が、
「遅いの」
すでに、老婆はブライド・オブ・ダーツを振りぬいていた。
大助に見えたのは光だった。
まばゆい閃光と、突風に身体をもてあそばれる感覚。
何秒か後に背中が激しい痛みを訴え、それでようやく自分が壁に叩きつけられているのを察した。
「ほっほっほ。私はこうみえても剣の花嫁なんでの。このダーツをこうして扱うことができるのじゃ。だからこそ、あるじ様にこの武器の守りを任されておるのでの」
もちろん武器の性能差もあった。
しかし、目の前にいる老婆もただものではない相手だったと。大助はようやく理解し。
「……くそ。オレたちの、負けだ」
敗北を認めるが。
「まだ、まだ……!」
戌子は諦めきれないようで、床を這いずりながらもダーツに手を伸ばそうとしている。
(これがあれば、もっと強くなれる。大助の役にたてるのだよ……!)
「よせ、ワンコ! そこまでしなくていい! いいから倒れてろ!」
「ダメ、なのだよ……ブライド・オブ・ダーツは、ボクが手に入れるのだ。戦士として、なによりキミの相棒として、新たな力を手に入れることは大きな喜びなのだよ」
ボロボロの状態でなおも近づいてくる戌子に。
老婆はわずかに悲しげな表情になって、
「若いものは元気でいいの。たしかに、そろそろ誰かにこいつを託してもよい頃合かもしれぬが……残念ながら、お前さんには渡せぬの」
戌子はその声を聞いたあと、頭に衝撃が走り。
目の前が真っ暗になった。
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