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わたげうさぎの島にて

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【12・謎は解かれるのを待っている】

 間宮の家で、地図の謎解明は相変わらず難航していた。
 これまでの話し合いで明らかになったことを、根回しで情報収集した祠堂 朱音(しどう・あかね)だったが。集め終わってなお、それがどういう結論に結びつくのかがいまいちハッキリしなかった。
「お待たせしました」
 パートナーのシルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)が民家に戻ってきたが、あまり表情は優れない。
「近くの人に聞き込みしてきましたけど……あまり大した情報はありませんでした。間宮林蔵さんが、とにかく熱心に地図作りに励んでいたという話があるくらいです」
「こっちもダメみたいだわ」
 家捜しして資料を探っていた須藤 香住(すどう・かすみ)も残念そうに首を振る。
「この《ルート分岐条件・能力の鍵・地図》っていうメモが重要だっていうのは、間違いないみたいなんだけど。そこから先に進めないのよ……あ、ジェラール。これお願い」
 そして力仕事を任されているジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)は、
「え、香住なんだ? ああ……ほら、その箱こっちによこせよ。で、どこへ運べばいいんだ?」
 指示されるまま部屋の端に片しておいた。
 しかしどうにも結論が出てこないようなので。あとは、集まった皆と知恵を合わせて考えるしかないと。
「あの」
 朱音はまずはディテクトエビルで外を警戒中の御凪 真人(みなぎ・まこと)に話を聞いてみることにした。
「さっきから外みてるばかりだけど。謎解きあきらめちゃったとか?」
「……『諦める』ですか、それは俺の一番嫌いな言葉ですね」
「よかった。なにかわかったことがある?」
「いえ、それはありません。ただ、例のフラワシ使いにとって、この地図の秘密を知られる事は相当不都合が有るという事ですけど。これは裏を返せば、フラワシ使いは地図を見てなんらかの秘密を見抜いたということになります」
「ということはー。しっかり考えれば地図の謎はとけるってことだよね♪」
 真人はこくりと深く頷く。
 地図を眺め悩んでいる海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)も話に加わってきて。
「しかし謎といっても、タシガンが描かれていないだけのようですからねぇ。タシガン……浮遊島のこと、確か、吸血鬼がいっぱいいる島でしたな。タシガン領主のウゲン・タシガンさんも吸血鬼だったはずですし」
「ねぇ。もしかして、ウゲンが持っている能力の鍵が、この地図にあるとか考えられないかな……あ、ジェラール。これもういいからよけておいて」
 香住も可能性を示してみれば、
「そう言えば、花音特戦隊の方々がダーツを取りに行く予定だった別荘の持ち主の貴族さんも吸血鬼でしたなぁ……ウゲンの力になにか気づいた可能性もあるのでは?」
 海豹仮面も意見を出していく。
「それで、地図からどういう能力が導き出せるんでしょうか」
 シルフィーナの一言で、また沈黙が戻る。
 そのとき、外でわたげうさぎたちが騒ぎだした。
「かわいらしいですが、今は少しどいて下さいませんか?」
 誰かが、適者生存と野生の蹂躙で追い払っているらしい。どうやらまた、新しい訪問者が現れたようだ。
 一同はしばらく入口のほうを見つめていると、刹姫・ナイトリバー(さき・ないとりばー)マザー・グース(まざー・ぐーす)黒井 暦(くろい・こよみ)。そして魔鎧として刹姫が纏っている夜川 雪(よるかわ・せつ)の四人が入ってきた。ちなみにさっきうさぎを追い払ったのはグースである。
「こんにちは、失礼します」
「やっと着きましたわね。かなり時間がかかってしまいました」
「これはなにか、悪意のあるものに邪魔されていたのかもしれんのう」
「トレジャーセンスを頼りにしてたら、あちこち迷ってたみたいだね」
 四人は挨拶もそこそこに、
「さて。それじゃあはじめましょう、グー姉さま」
「ええ。その地図、少々見せて頂けないでしょうか?」
 刹姫とグースが謎解きにとりかかり、暦は外に見張りに出た。そして雪は魔鎧状態のまま、襲撃者に備えて目を光らせておく。
 地図をためつすがめつし、みんなが意見を出し合ったノートにも目を通し。
 数十分近くはそのまま沈黙が保たれたが、
「グー姉さま、どう?」
「そうですね。地図と実際のパラミタの相違点は、タシガンが無いというところだけのようです。なにかの記号が隠されているということはなさそうです」
「へー、そうなんだ」
「けれどみなさんがそうであるように、そこにどういった秘密があるのかがわかりませんね。誰かしらの能力に繋がる鍵という線が濃いようですけど……」
「ふんふん、なるほどね」
 適当な相槌をうつだけの刹姫を、グースはジト目で見つめ。
「サキちゃん。本当にわかっていますか?」
「え? う、うん。もちろん」
「でしたら何か考えを言ってみてください」
「え!? そ、そっかわかったよ。えーとね……えーと……そう! つまり、タシガンが無いっていうことは。吸血鬼という種族と、彼らの居場所は、何者かによって捏造されたものだったのよ」
「……? どういうことです?」
「つまりね」
 刹姫は、ノートの空きページに書きこんでいく。

 正規の時間軸の世界で林蔵が地図を作る→
 タイムスリップ出来る何者かがそれを過去に持っていく→
 その何者かが吸血鬼とタシガンを過去に作り出す→
 その時に地図を置き忘れ、何らかの経緯でナラカへ→
 『改変された』時間軸上のこの世界に至る。

「と……そういうことだったのね。この世界には因果に関わる力を持つ人間がいる。そうでしょう?」
 うんうん、とひとり納得する刹姫。
 ほかの皆の脳裏には、車型のタイムマシンが出てくる映画がよぎっていた。
 刹姫の妄想にどうリアクションしたものかと困るグースだったが、
「あの」
 朱音が手を挙げ、ナゾ究明をもとにした考えを述べてきた。
「タイムスリップとかは正直信じられないけど……あのメモの、ルート分岐がなんとかっていうのと、繋がらないかな?」
「朱音。まさか本当になにかの力で、世界の改竄が起きたと言うつもりですか?」
 シルフィーナは眉唾なようすだったが。
 隣の香住は表情を強張らせて、なんだか本気にしはじめているようで。
「ジェラール。ちょっと、ナラカに関する資料とって」
「え? ああ、それならこの本だけだけど」
「ええと……たしかこのあたりに……あ、あったわ! みて、ここの項目! 《ナラカの地は特殊な磁場に覆われており、いかなる能力によっても影響を受けない》という記述がされてる」
 気づけばいつのまにか、全員が刹姫の妄想を元に可能性を導きはじめていた。
 グースもさすがにただの妄想と切り捨てるわけにいかなくなったようで、話に加わる。
「すみません、もう一度まとめさせてください。つまりこういうことでしょうか? 時間を移動する能力か、もしくは過去を改竄する能力によって、本来の世界では存在しないはずのタシガンが創造された。その後、能力の影響を受けぬままずっとナラカに残っていた本来の世界の地図が発見され、今こうしてここにある、と」
「そんな。いくらなんでも、話が飛躍しすぎなんじゃ」
 雪は冷静に否定的意見を述べるが、
「でも。タシガン領主のウゲンさんなら、そんなとんでもない能力を隠していても不思議じゃないんじゃないかなぁ?」
 海豹仮面はそれを否定する姿勢のようだった。
「……フラワシ使いが、そのことに気がついたとしたら。自分が創られた存在だと示すこの地図の存在を認められずに、地図に関わった人間を殺しているということでしょうか」
 真人も、信じたうえでの推理を立ち上げている。
 もちろんいまの話に証拠は無い。
 けれど、この地図がタシガンの存在しないパラレルワールドのものだと仮定すれば。地図が正真正銘の本物であることの謎は解消される。
「おいサキ! 姉上もユキも、外を見るのじゃ!」
 突然、見張りに立っていた暦が声をあげた。
 なにごとかと刹姫をはじめ、話し合っていた全員がつられて入口のほうへ駆け寄ると。
 さっきまで集まっていたわたげうさぎたちが、なにやら落ち着かない様子でぴくぴくと耳をしきりに動かしていた。かと思うと一斉に走っていってしまった。方角的には、例の別荘のほうへと。
 どうして急に、ここから去っていってしまったのか? なにをするために、走っていったのか?
 また新しい疑問が生まれた。
「ん? 誰じゃ! そこにいるのは!」
 暦は、気配を察して雷術を茂みに放つと。
「わああ!」
 パワードスーツで完全防備状態の真口 悠希(まぐち・ゆき)が転げ出てきた。
「なんじゃ。うさぎたちを追い払ったのは、おぬしか?」
「え? いいえ。ボクはただしびれ粉でしびさせようと思っていたんですけど……かける前にどこか行っちゃったんです」
 温厚で優しそうな印象から、どうやら本当になにも知らないようだと警戒をとく暦。
「あ、あの。ここにリフルさまがいると伺ってきたのですが。リフルさま達は大丈夫なのでしょうか?」