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リアクション
全員が病院に駆け込んだのを見届けると、真人はくるりと振り返った。
背後にはまだ大量のスポーンがおり、彼が開いた光の道は既に黒に塗りつぶされようとしている。
「何やってるのよ、早く病院に入らないと!」
真人が付いて行かないのを見て、手を取ろうとするセルファに彼は首を振る。
「敵を掻き分け、前へ前進すればそれだけ背後ががら空きになります。ならその場に止まって背後へ迫ろうとするスポーンを駆逐する役は必要でしょう。それに魔力を多く消耗した俺はここから先では足手まいになると思いますからね」
彼はセルファや周囲の契約者が不吉な言葉にぎょっとする前に、
「死にはしませんよ」
契約者たちに笑うと、正面を見据えた。敵は多いが──味方がいないなら、思う存分攻撃できるというものだ。
「行きますよ!」
真人は呪文の詠唱を開始し、天から無数の雷を降らせていく。その目の前に、セルファの背中が現れた。
「しょうがないわね。付き合ってあげるわよ」
「ありがとう」
「死なないし、死なせはしないわよ。背中に大切なものがある時の私はちょっと凄いわよ!」
「それって俺の事ですか?」
「べ、別に真人だけじゃなくて先に行った人達の事も含めてよ!そ、そりゃ恋人なんだし、た、大切なのは当然……よ」
照れて小さく言った彼女は、前を見据えれば真剣な顔になる。片手槍の黎明槍デイブレイクを構え、雷を纏わせ、或いは光を纏わせ、素早くスポーンたちを貫いていく。
その十分ほど後の事、ようやく6人を始めとした契約者たちは病院の入口を潜り抜け、ロビーに辿り着く。
清潔でシンプル──そして一般的な日本の総合病院よりも広いロビーには、携帯電話通話可能な場所や待ち合わせのソファの他、エスカレーターも用意され、見るからに大病院と言った趣だった。
普段はさぞ多くの病人を治療し、多くの医師が勤務しているのだろう。
泉 椿(いずみ・つばき)は入るなり周囲をぐるりと見渡しその設備に感心しながらも、
「あっちもこっちもスポーンだらけかよ」
受付には今や人影はなく、代わりにスポーンが陣取っていた。総合案内所のカウンターの上を我が物顔に歩いていたスポーンが、椿を威嚇するように頭をもたげると、喉元に電卓らしきテンキーの凸凹が見える。
しゃっと吐き出すように飛び出した舌を、彼女は瀬蓮たちを庇うために飛び出した。
巻きついた舌は椿を石に変えるはずだったが、鍛え上げ完成された肉体は少々のそれを受け付けない。
(アイリスがインテグラルになるってか? だけど生憎、ケンカ以外で仲間を倒す趣味はねえんだよ。 アイリスは死なせねえぜ! 絆なめんな!)
腕を力いっぱい捻って舌を引きちぎると、振りかぶった反動で拳を叩き込む。彼女の放つ龍の闘気に怯んだスポーンの横っ面ごと、あえなく吹き飛んで壁ぶち当たり、霧散した。
椿は一瞬瀬蓮に視線を送ると、
「がんばれよ瀬蓮。おまえの声なら、きっとアイリスに届くぜ!」
それから元パラ実のよしみで、王 大鋸(わん・だーじゅ)にも声を送る。
「王も頼むぞ。アイリスを守ってくれ!」
合体すればするほど、強くなるなら。あたしはどうやらここで踏ん張らなきゃいけないみたいだ、と。彼女はここを自分の場所と決めた。
「何かあったら連絡くれよな!」
彼女は一度銃型HCを軽く叩いて示すと、再びスポーンに向き直って、左右の拳を振るい続ける。
「……涼司くん、私もここに残ります」
火村 加夜(ひむら・かや)は婚約者である山葉 涼司(やまは・りょうじ)に、言葉をかけた。
「え? 一緒に行くんじゃないのか?」
「そうしたいですけど、病院内のスポーンを引き受ける人間が必要ですから」
肩に乗っていたムーン・キャットSが跳ねて一回転したかと思うと、彼女の手の中で剣となる。加夜の青い髪の間から、白猫の耳がいつの間にか突き出ていた。白い尻尾も生えている。
それで山葉は、彼女が本気であることを知った。
加夜の“超感覚”で鋭敏になった白猫の耳が、危険の接近を伝える。彼女は送り出すように言った。
「涼司くんたちならアイリスさんを救えるって信じてます」
「……気を付けろよ」
「はい」
彼女は笑顔で答えると、スポーンに向き合った。
スポーンにはギフトが効果的だと言う。だが、他に何か弱点などないのか──。
スポーンの行動を頭で読み、そして感覚で避けながら、彼女はウェンディゴ、サンダーバード、フェニックスを立て続けに召喚して手数を増やしつつ、彼女本人も“天の炎”、“ブリザード”、“稲妻の札”を打ち出していく。
彼女自身はギフトを持たない。せめてどの属性が効果的なのか判れば……。
──しばらく戦って分かったが、スポーンはその取りこんだものと同じような動き、そして性質を持っていた。
弱点なら、紙を取りこんだものには炎を、機械を取りこんだものには雷を。相手の攻撃もそれを反映しているかのようだ。
(性質を取りこんでいるの……?)
“神の審判”を放ちながら、彼女はそんな疑問を抱く。
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