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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

リアクション

3.ドラゴン襲来〜準備〜
 
 マレーナが夜露死苦荘に戻ってきた時、下宿は準備の最中だった。
 ドラゴン襲撃に備えて、下宿に住む一般学生達や地球人達は外へ避難する。
「こちらですよ! あたしが先導します!」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が玄関先で、声を張り上げる。
 
 マレーナは足下を見る。
 受験票が落ちている。空大・工学部のものだ。
「後田キヨシ」の名があった。
「これは……キヨシさんの……」

「危ない! マレーナ!!」
 茅野 菫(ちの・すみれ)が駆け寄る。
 菫さん、とマレーナがいつものように声を駆ける。
「頼みごとですわ。聞いて下さる?」
 スッと、受験票を渡す。
「これを、試験会場にいるはずのキヨシさんに、私に行って下さらないかしら?」
 外に目を向けた。
 幸い、レッサードラゴンの集団からは、まだ距離がある。
「いまのうちに、さ、早く」
「う、うん、マレーナも、無事で!」
 とこれは本心から。
 菫は一目散に、空京大学を目指す。
「さ、私は下宿の方々の安全をお守りしないと」
 マレーナはエプロンの紐を結び直すと、ぱたぱたとたたきを上がって行く。
 
 ■
 
 ドラゴン達の姿は、見る見るうちに大きくなっていく。
「何をそんなに、怒っているのかな?」
 歩の目に、ドラゴン達は、何かに対して怒りを抱いているようにも見える。
「さ、皆さん、後少しですよ!」
 歩は一行を励ましつつ、荒野を駆けてゆく。
 
 その途中に、白煙が見えた。
(何?)
 歩は近くのコンビニ「蛾痛」に隠れるよう指示してから、そっと近づく。
 
 そこには、キヨシが倒れていた。
 近くに、司とリル。
 大破しているのはリルの小型飛空艇で、遠くに司の壊れた格安の自動車が見える。
 
 ボ、ボボボボオッッ!
 
 火炎放射の、火の粉。
「れ、レッサードラゴン!?」
 いつの間に追いつかれたのか?
 先鋒の一匹が、近づいている。
 まだ距離は有るとはいえ、すでに火炎放射は射程のようだ
「皆さん、とにかく岩陰に!」
 歩は4人をたたき起して、近くの岩陰まで走らせる。
 
「キヨシさん、受験は?」
「あ、うん……受験票忘れちゃって……その、取りに行く途中なんだ……」
 そこでキヨシはハッとする。
 歩に。
「そーだ! 夜露死苦荘は大丈夫なのかい?」
 ドラゴンを指さす。
 ドラゴンはキヨシ達の姿を求めて、右往左往している。
 臭いを探ろうとか、知恵が回らない所を見ると、そう賢くはないらしい。
 歩は胸に手当てて。
「うん、わからない……受験票、あたしがとってきてあげるね?
 キヨシさんはそこで待ってて!」
「チョット待って! わからないって……じゃ、マレーナさんは?
 ちゃんと逃げられたの?」
 歩の目に、うっすらと涙が浮かぶ。
(やっぱり、キヨシさん。
 あたしより、マレーナさんなんだね?)
 
 そこから先は、自分でも何を話しているのか分からなくなった。
 ただとても意地悪な顔つきになっていることだけは分かる。
 
「マレーナさん、ね? キヨシさん。
 夜露死苦荘の中にいましたよ」
 え? と驚くキヨシ。
 歩はギュッと拳を握りしめる。
「キヨシさんは契約してない一般人なんですよ?
 助けに行っても、むしろ自分が危なくなっちゃいます。
 それなら空大に行った方がきっとマレーナさんだって喜びますよ」
 一気に告げてから、上目遣いでキヨシの反応を確かめた。

 キヨシはフラフラと岩陰から出て行こうとしている。
「夜露死苦荘、こっちだっけ?」
 蒼白な顔で指を指す。
 レッサードラゴンの咆哮。
 自分の負けだな、と歩は嘆息した。
 
「一緒に行きますよ」
 歩は晴れやかな笑顔で、魔法少女コスチュームの裾を払った。
 だって、と顔を覗き込む。
「そこまで想っていらっしゃるのですから。
 戦う力なんて無くても、きっと力になれることなんて、
 沢山あるはずですし……」
「え?」
 歩の反応に戸惑うキヨシ。
 その手を両手で包んで。
「ちゃんとマレーナさんのこと守ってあげてくださいね? キヨシさん」
「あ、歩さん!」
 ドキンッ!
 胸の鼓動が高鳴る。
 そして、この瞬間にキヨシは激しく確信した。
 こ、こんな!
 ボクの事を、そこまで思ってくれるなんて!!
(こ、この子こそ!
 僕の運命の「彼女」に違いない!!)
 
「きーよーしー!」
 遠くから、空飛ぶ箒シーニュが近づいてくる。
 オルベール・ルシフェリアだ。手を振って。
「あれ? ベルさん」
 キヨシは妖艶な悪魔に、デレデレになる。
「どうしたんですか? 受験は?」
「ベルは受験関係ないもの!」
 岩陰に飛び込んで、キヨシの手を引く。
「受験票忘れたんだって?
 ドジねぇ……走っていても間に合わないわよ」
 うん、と歩達を見る。
「ほら、箒に乗って!」
 ベルは箒を指さした。
「これはシーニュっていう魔法の箒なの。
 4人まで搭乗可能なものだから、余裕で行けるわよ!」
「パパなら、あたしが介抱するよっ!」
 リルが、未だ伸びている司に膝枕をする。
「じゃ、決まりね?」

 こうして、キヨシは歩と共に、オルベールの箒で夜露死苦荘に向かうのであった。
(僕は、今度こそマレーナさんを助けて。
 「白馬の王子様」になって!
 そして、堂々と歩さんに交際を申し込むんだ!)
 温かなまなざしを歩に目を向けつつ……。
 
 
 ……が。
 悟った瞬間に振られたことに、キヨシはまだ気づいてはいない……。
 
 ■
 
 そして、彼らが夜露死苦荘に向かった瞬間、ドラゴン軍団の進路は、完全に下宿へと定まった。
 
 ■
 
「不味いね!
 こっちに来ちゃうよね!」
 ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)は増改築総監督として、本日の工事の点検に当たっていた。
 成果を信長に報告した後、屋根から空を眺めていた時、レッサードラゴン達の動きが目に入ったのだ。
「でも、ドラゴンが巣をつくると、
 その家は繁盛するんだっけ?」
 いつか聞いた「言い伝え」。
 だが、その多くは彼の場合「間違って」記憶されていることが多い。
「それは『燕』であろう」
 という信長の突っ込みは耳に入らなかったようで。
 ラピスはいつもの行動力で、屋根にサッと建築道具を運び込んだ。
「さぁ! ドラゴンさん、いらっしゃい!
 ここが君達の住処だよー!」
 
 トンテンカン。
 
 急ごしらえの「巣」を作る。
 土木建築に、最近覚えたパラ実式工法をフル活用!
 だが、周囲を覆った「段ボール」には、塗装用スプレーを使って迷彩塗装が施されている。
「あれれ? 見えなくなっちゃったよ?」
 ラピスは頭をかいたが、ま、いっか、と開き直った。
「気配で探してもらうのも手だよね?」
 
 親子連れのドラゴン達が怒ったのは、言うまでもない。
 
 ■
 
 同じく。
 るるのパートナーである立川 ミケ(たちかわ・みけ)は、別の勘違いをしていた。
「なーっ、なななな…っ!
(翻訳:あたしのコタツと看板ペットの座を奪いに来たのね?
    いい度胸だわ!!)」
 管理人室のコタツからでてきた。
 フゥッと、窓の外に向けて威嚇する。
「なーなーなーっ!
(翻訳:やっと奪った、看板ペットの座なのよ?
    あいつらに漁夫の利なんかくれてやらないんだから)」
 輝く瞳――「アリスびーむ」で威嚇する。
「なー、なななーっ!
(翻訳:このコタツは、選ばれし夜露死苦荘のペットだけのものなのよ!
    ドラゴン達ったら、首を刈りとって剥製にして壁飾りにするか、
    ステーキにして食べてやりたいくらいだわ!
    失礼しちゃう!!)」
 そうして、ドラゴン達を煽るだけ煽った後、満足そうにコタツの中に戻って行くのであった。
 
 ■
 
 ドラゴン達は、入りたくとも見えない「意地悪な巣」と、不意打ちの「アリスびーむ」に、怒り狂って下宿を強襲し始める。