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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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13.エピローグ〜桜の木の下で〜
 
 ……数日が過ぎた。
 桜は花を開き、今を盛りと咲きほこっている。
 
 4月――。
 
 あれほどアツく燃えた受験戦争は、既に収束の時を迎えている。
 受験生達の結果は、どのようなものであったのだろうか?
 
 ■
 
 キヨシの結果は惨憺たるものであった。
 大学のではない、プライベートのことだ。
 
 先ず、歩から「友達宣言」を受けている。
 その上、下宿の全員から「ロリコン疑惑」を持たれていた。
「確かに会場に行く時、菫ちゃんを頼ったっけ?」
 ぼんやりと思い浮かべる。
 ヒポグリフに同乗した時の、彼女の顔。
 あの時の、悪魔のような笑みを、キヨシは未だに忘れない。
『志方ないわね。
 あたしが送ってあげる。
 ほら、乗ってしっかり掴まるのよ』
 だが、つかまる所がなく結果的に抱きしめる様な形にはなった。
 それを証拠に、菫は風潮して回ったのだ。
「女の子って、わからないよなぁ……」
 だが、彼が一番こたえたのは、マレーナからの憐みの視線だ……。
(よし! こうなったら。
 空大に受かって、絶対下宿を出てってやる!)
 まともな彼女を作りまくってやるんだ! そう思う。

 そして、合格発表日当日――キヨシは、合格した。
 
「う、さ、桜が……」
「咲いたね? おめでとう! キヨシさん」
 誰かが言った。
(え?)
 聞覚えのある声で、キヨシは振り返る。
「あれ? 朱美さん」
 キヨシはそーいえば、と思う。
 朱美の名前はなかった、受験生なのに。
「違うんだ、キヨシさん」
 朱美は困惑した様子で、伊達メガネをかける。
「う、え……ええっ!?
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)!?」
 キヨシはポケットを探った。
 バラバラと秋葉原四十八星華のブロマイドが落ちる。
「うん、ごめんね?
 今まで隠していて」
「で、ででで、でも。
 ど、どどど、どうして?」
「だって、定期入れの中に入っていたでしょ?
 詩穂のシークレットレア」
「定期入れ……って、ああっ!?」
 最初の出会い。
 抜き打ちの持ち物検査が脳裏を駆け巡る。
 真っ白な灰になったキヨシに、詩穂はニッコリと笑いかける。
「『本気で空京大学に受かりたい!』
 そんな人たちが集まると伺って、
 同じ受験生を演じながら、影ながら皆さんの応援をさせて頂きました。
【くうだい案内嬢】として、
 皆さんの夢を叶える手助けをするために。
 同じキャンパスで皆さんを学べる日を詩穂は夢に夢見て」
「し、詩穂ちゃん……」
「合格祝いにブロマイドにサインしてあげる☆」
「最後まで、『白星』なんだね」
「ようこそ、『くうだい☆』へ!」
「やっぱり、『白星』だし……」
 呆けたキヨシは、呆けたままサイン入りブロマイドを受け取った。
 
 抜き打ち検査と、
 部屋破壊の日々がよみがえる。
 
(「空大アイドル」って、変わり者だったのか……)

 この瞬間、キヨシの中で、何かが壊れて行った――。
 
 ■

 キヨシを皮切りに、下宿には吉報が次々ともたらされる。

 空大を受けたものは、ほぼ全員合格。
 信長の祝辞を受けて、入学式に向けて空京へ上京して行った。

「ここを出ても、
 おぬしらは、わしの下宿生達なのだ!
 ゆめゆめ空大制覇の野望を忘れるでないぞ!」
「は、オーナー様」

 そうして、下宿生達は1人、また1人と巣立って行く。
 だが、信長の意向で、部屋はそのまま残された。
「空大生」として受験生達を導く、その日の為に。

 ■
 
 ただ、1人。
 椿薫だけは、合格者欄に名前が無かった。
 代わりに、「助手」の欄に名前がある。
「へ? どういうことでござる」
「そういうことでござるよ」
 ほっほっほ、と近づくのは、「のぞき学」の教授だ。
「『のぞき学』に学歴は必要ないさ。
 君には、有り余る熱意がある。
 立派な学者だ! 私の片腕になって欲しい」
「き、きょきょ、教授殿!」

 薫の未来は明るいようだ。
 
 ■
 
 アーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)は、合格発表の直後に夜露死苦荘を訪れた。
「あの、ミネッティ・パーウェイスは、ここでお世話になっているでしょうか?」
 丁重に下宿生に尋ねてみる。
 
 そうして呼び出されたミネッティは、モヒカン桜の下で詰め寄られた。
「ここにいるって聞いて。
 飛んできたのよ? どれだけ心配したことか!」
「ごめんなさい、ごめんなさい! アーミア」
 ミネッティはビビリながらも、幾度も頭を下げる。
「でもね、どうしても受けたかったんだ! 空大」
「空大受けた!?
 何を勝手な……。
 それで受かったの?」
「うん!」
 ミネッティは胸を張る。
「当然でしょ!」
「ヴァイシャリーを離れるって事よ? 本気なの?」
 アーミアは大きく息を吐く。
 だが、ミネッティの決心は固い。
「じゃあ、あたしも行くわよ。 パートナーでしょ?」
「本当? アーミア! 大好き!」
「飛びつく相手が違うでしょ?」
 アーミアは管理人室を指さす。
「御礼言ってこなきゃね?」

「マレーナさんのおかげで無事合格できました。
 本当にありがとうございます!」
「たまに遊びにいらして下さると嬉しいわ」
 2人を眩しそうに眺めて、
 管理人室のマレーナは、ミネッティの合格心から喜ぶのであった。
「私は、いつまでもここにおりますでしょうから」
 
 ■
 
 では、合格者以外の者達はどうなったのであろう?
 
 ■
 
 手伝いの者達は、そのまま残った。
 受験しなかった受験生達は、信長の下、さらなる受験地獄へと導かれる。
 その中に、今年からはレッサードラゴン達の姿も加わったようだ。
 多くは下宿生達に退治された後、はにわ茸に説得されたものであった。
 カナンのグレータードラゴンが、空大に通ってる捏造写真を信じ込んで。
 
「グェ、クウダイ……」
「オーナー命令ハ、絶対ナンダナ……」
 根が真面目な彼等は、「干し首講座」の優秀な生徒達だ。
 しかして、彼等が信奉しているのは、ゲブーである。
「『クウダイ』は『食ウダイ』……ナンダナ。
『食ウダイ』最高ッ!」
 ということらしい。
 そうして、日々ロザリンド・セリナの手料理に舌鼓を打つのであった。
「まぁ、グルメですね!
 腕によりをかけなくては!!」
 ロザリンドはドラゴン達の舌にかなう「高級食材捜し」に奮戦する。
 
 夜露死苦荘の食費は異様に高くなっていき、徐々に経営を圧迫しつつあるようだ……。

 ■
 
 そして、ドージェの墓前。
 
 今は葉桜となった木陰で、マレーナは1人跪いていた。
「キヨシさんですが、ドージェ様」
 マレーナはふふっと笑う。
 キヨシからの手紙を、マレーナはポケットから取り出した。
「空大に入りましたの。
 何でもトラウマから、『アイドル研究会』とやらはあきらめてしまったとか。
 『手形』の件で、下宿にも戻ってこれないそうですわ」
 手紙に視線を落とす。
「それから、『女の人は、怖い。もうこりごりだ!』ですって!
 ……て、私の事も?」
 手紙をしまう。
「殿方って、面白いですわね。
 そうは思いません事?」
 
 風が駆け抜けた。
 荒野の砂塵が、この葉を揺らす。
 
「もう、あなたは1人で大丈夫ですわね?
 そして、私も……」
 
 手の平を見た。
 この手をつなぐのは、誰になるのだろうかと。
 
「それでは、ごきげんよう。ドージェ様」

 裾を払って、立つ。
 下宿に向けて、歩き始めるのであった。
 
 新たな下宿生達を、迎え入れる為に――。
 
 完了

担当マスターより

▼担当マスター

大里 佳呆

▼マスターコメント

 公開が遅くなり、大変申し訳ございません。
 マレ僕・最終回をお届致します。
 
 今回受験され、空大に合格された該当者様には、後日、空大用の転校アイテムを発送させて頂きます。

 最後まで下宿を盛りたてて頂き、ありがとうございました。またのお越しをお待ち申し上げております。
 シリーズ総ておきましてご協力頂きました栗田様と運営様に、深く感謝を致しつつ。
 
 それでは、失礼致します